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横島の長い人生

いつも過ぎる日々・その1


投稿者名:銀
投稿日時:05/ 2/23

寝室に誰かが入ってくる気配で目が覚める。
窓の外では鳥のさえずりも聞こえるような穏やかな朝だ。
「ほら朝よ、早く起きて」
薄目を開けると、カーテンを開ける自分の新妻の姿が見える。
「う〜ん…」
ベッドの中で窓から入る日差しに顔をしかめる。
「朝ごはんできてるわよ、早く起きなさいってば」
布団を引っぺがし無理にでも起こそうとした時、腕をつかまれベッドに引き倒される美神。
「や…駄目よ朝から」
しかし、言葉ほど態度は嫌がってない。
「いいだろう?令子〜」
甘えた声を出す横島。
「もう…この後仕事があるのに」
「んなものキャンセル、キャンセル…偶にはこんな日もいいだろ?」
「…本当に偶に?」
それには答えず、少し力をこめて抱きしめ胸に顔を埋める横島。
「あん、ダメよ…ご飯が冷めちゃう…」
「朝メシよりも令子のほうを先に食べたいんだよ…」
「もう………バカ」
そこから先は横島のなすがままだった。
結婚してよかった。心からそう思う横島だった。
こんなにも幸せな気分になれるなんて夢のようだった。
そう、まるで夢のような………夢の………………夢…………………………………

「ってやっぱり夢オチかい!」
見慣れたボロアパートの自分の部屋で、目覚めた早々自分の夢に突っ込む横島だった。


「さぁ営業休止も終わり!今日からまたバリバリ稼ぐわよ!」
美神が横島達を前に高らかに宣言する。
いよいよ結婚式以来休止していた除霊を再開する事になったのだ。
「バカな悪霊を叩きのめし、無知な依頼人をだまくらかし、無能な役人に税金を納めることなく、またボロ儲けの日々をはじめるのよ!」
「そういうギリギリどころか、完全アウトな発言は控えてほしいんですけど…」
冷や汗をかきながら一応突っ込むおキヌ。
「ところで令子、今日の仕事は…げぶ!」
拳が鼻にめり込む。
「公私の区別はつける!今は仕事中よ、上司を呼び捨てにしないように!」
「うう…わがりまじだ、びがびざん…」
めり込んだ鼻を押さえながらうめく横島。
「午前中にニ件、午後は四件!深夜にも一件あるから遊んでる暇はないの!さぁ皆!気合をいれて稼ぐわよ〜〜!!」
『お〜』
「声が小さい!」
『お〜〜〜〜!!』
かくしていつもの日々が美神除霊事務所に戻ってきた。


そして瞬く間に一週間がすぎた。


本日の仕事を終えて事務所に帰ってくる面々。
「ふう、疲れた疲れた。今日の除霊はきつかったなぁ」
「まったくでござる、それもタマモがあんなところでミスしなければ…」
「何よ、そもそもあんたがあの時…」
「あんた達、帰ってきてまでケンカしてるんじゃないの。先にお風呂は入っちゃいなさい」
『は〜〜い(でござる)』
「じゃあ俺はこれで帰りますね、お疲れ様でした〜」
「はい、お疲れさん」
「お疲れ様でした」
「お疲れでござる」
「お疲れ〜」


帰り道で歩きながら今日の事を振り返る。
「今日もきつかったよな〜、相変わらず人使いは荒いし…休みの分取り戻そうと仕事詰め込みすぎだよ、まったく…さて、明日も早いし飯食って早めに寝るかな」
そこではたと歩みを止める。
「違う…何かが違う…結婚してもまったく変わっとらん…」
そう、まったくいつも道理の日々が続いているのであった。
こき使われ、除霊の合間にさりげなくスキンシップ(セクハラ)をしようとしてしばかれる。
疲れた体でボロアパートに帰り寝る。その繰り返しで…完全に今までどおりだった。
それならばと、仕事が終わった後食事にでも行かないかと誘ったら書類仕事がたまってると一蹴された。
「新婚なんだぞ俺達は!?行ってらっしゃいのキスとか、帰ってきたら『ご飯にする?お風呂にする?それともあ・た・し?』とかそういうラブラブな展開はどこいったんじゃ〜〜〜〜〜〜!!!」
しかしそこではたと我にかえる。
「あかん…たとえ一緒に暮らそうがそんな事するような人じゃねぇ…」
ガックリとうなだれる。
「ラブラブどころか帰ってきてから手すら握ってない…」
更に落ち込む。
「仕事と俺、どっちが大事なんだと聞いたら…間違いなく何の迷いも無く仕事と言うだろうなぁ…」
果てしなく落ち込んでいく。
「ホントに俺達結婚してるのかな…」
そして薄っぺらな財布の中に大事にしまってある写真を取り出す
そこには少し照れくさそうに、でも嬉しそうな顔をしてよりそっている自分と美神。
新婚旅行先で撮ったこの写真だけが、自分達が夫婦だという事を証明してくれている。
「はぁ〜〜〜〜…心が寒い…」
大きくため息をつく。が、そこで気を取り直したかのように
「仕方あるまい、心を暖めに行くか」
そう言いつつ向かうのはレンタルビデオ屋だった。
「久々だから新作でてるかな〜」
少しばかり軽くなった足取りで、店に入ろうとしたその時
「あら横島さん」
背後から声をかけられる。
見られてはいけない所を見られパニックになる横島(実際はギリギリセーフだが)。
「ち、違うんや〜これは男に生まれたからには避けられない生理現象で…………って小鳩ちゃん?」
「こんばんは横島さん。今お帰りですか?」
買い物袋を提げたお隣さんの小鳩がいた。
「ま、ま〜ね。小鳩ちゃんは買い物帰りかい?」
「はい、特売でしたので色々と」
そしてちょっとした世間話が続いた後、小鳩は意を決して質問をした。
「あの…ちょっとお聞きしたい事があるんですけど…」
「うん?何?」
「横島さん…引越しはなさらないんですか?」
「あ〜…まだしばらくはあのアパートにいると思うけど…」
「そうなんですか…良かった…」
ほっとした様子の小鳩。
「すぐに横島さん出て行っちゃうと思っていたから…まだ横島さんと隣同士でいられるんですね…嬉しいです」
「へ?」
「あ、な、何でもないんです…そ、そうだ横島さん晩ご飯はまだですか?」
「いや、まだだけど…」
「特売だったのでちょっと買いすぎちゃって…おかず余っちゃうと思いますので後でおすそ分けにいきますね」
「え?いいの?いつも悪いなぁ…」
「そんな事無いですよ。横島さんには私のほうがいつもお世話になってますから。それじゃ先に戻りますね」
ペコリと頭を下げて小走りで帰っていく。
その後姿を見ながら
「ううう、ええ子や、ええ子や…どこぞの薄情女に爪の垢でも飲ませたい…」
感涙にむせぶ横島。
「考えてみれば俺小鳩ちゃんとも結婚式してたんだよなぁ…あんな強欲女ではなく、もしあのまま小鳩ちゃんと結婚してたら…」

『あなた、もうすぐご飯できますからもう少し待っててくださいね』
『ごめん、もう待てないんだ』
『え?でもすぐ出来ますから…』
『やっぱり待てない…だから先に小鳩を食べたいんだ〜〜〜!』
『え、だ、駄目です。そんな、台所で………あ…』
『ぐふふふ、いただきま〜す』
『あん…お、美味しく食べてくださいね………』

「………は!?い、いかん…夢とまったく同じ展開だ…欲求不満かな…」
我にかえる横島。
「でも今よりは幸せかも…やっぱ早まったのかな…俺…」
今度はとぼとぼとした足取りで、それでもレンタルビデオ屋に入る横島だった。


「ふう…ようやく一区切りついたわね」
その頃、薄情強欲女は書類仕事との格闘をようやく終えていた。
「お疲れ様です、美神さん」
紅茶をだすおキヌ。
「ありがとおキヌちゃん…これでやっと休みの分のたまった書類仕事も終わったわ」
う〜んと背筋を伸ばしながらほっとした声をだす。
一ヶ月も仕事を休んだのである。やるべき事務仕事はいくらでもあった。
こればかりは気楽なバイトの横島には理解できない事だろう。
「美神さん頑張ってましたものね。でもこれで時間が作れますね」
紅茶を飲んでいた美神の動きがピタリと止まる。
「な、何のことかしら?…」
「うふふ」
質問には答えずに意味ありげな笑みをする。
「えっと…そ、そうだわ。私今から用事があったんだわ。すっかり忘れてたわよ…じゃ、じゃあ私今からちょっと出かけてくるから…」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
にこにこと笑いながら見送る。
「ば、晩ご飯はいらないから。それじゃあ」
そそくさと出て行った。
「まったく素直じゃないんだから」
そういうおキヌの顔はほんの少しだが以前より大人びて見えた。


「あいつの家、絶対ろくな調理器無いわよね………う〜ん、足りない材料は途中で買うしかないか」
事務所の台所で調理器具と材料を用意している美神。


「横島さん喜んでくれるといいんだけど…」
腕によりをかけて料理をすべく家路を急ぐ小鳩。



「やった〜新作ゲット〜〜〜!」
そしてこれから起こる事を知らず、小さな幸せに喜ぶ横島だった。


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