椎名作品二次創作小説投稿広場


横島の長い人生

そしていつもの日々へ


投稿者名:銀
投稿日時:05/ 2/21

横島と美神の結婚式から一ヶ月がすぎようとしていた。

「ただいま〜〜〜」
「おかえりなさい美神さん」
『おかえりなさいオーナー』
久しぶりに帰って来た美神を、おキヌと人工幽霊が出迎える。
あの壮絶な結婚式の後日本全国どころか世界中、さらには神界、魔界を又にかけた追いかけっこ兼新婚旅行を終えてようやく帰ってきたのである。
実に一ヶ月ぶりの帰宅となった。
「う〜〜〜ん、外国もいいけどやっぱり家が一番ねぇ」
椅子に座り大きく伸びをして、いかにも日本人的な事を口にする。
「おキヌちゃん、今晩は和食にしてね」
「ええ、わかってますよ」
美神なら必ずそう言うだろうと思い、腕によりをかけて朝から準備しているおキヌだった。
「留守中変わった事は無かった?」
「ええ、特には。不思議なくらい静かな日々でしたよ」
当然である。トラブルの元凶である二人がいなかったのだから。
「そう…ところでシロとタマモは?」
「それが…」
苦笑いをしながら上を見上げる。
「今日美神さんが帰ってくると知ったら拗ねちゃって…」
いまだに二人の結婚には思うところがあるのだろう。
結婚式の事を考えれば当然だろうが。
「ふ〜ん、残念ねぇせっかく美味しいお土産買ってきたのに」
と、屋根裏に聞こえるように大きな声で言う。
ガタ!
上で何かが動く。
「お土産ですか?」
「そ、世界各国さまざまな名産品をね。とっても美味しいのに残念だわぁ。特にお肉関係を中心に買って来て上げたのに」
ガタガタ!
反応が大きくなる。
「それから国内のお土産として、栃尾市名物ジャンボ油揚げも買ってきてあげたのに」
ガタガタガタ!
さらに反応が大きくなる。
「でも誰も食べないんじゃ捨てるしかないのかしら…勿体無いわね」
ガタガタガタガタガタ!
一番大きい反応がしたかと思うと静かになった。
そしてゆっくりと、屋根裏から人が降りてくる気配がする。
そ〜っと二人がドアから顔を出す。
「お、お帰りでござる…美神殿…」
「お、お帰り…」
「ただいま」
二人に向かって多少意地の悪い、しかし優しい笑顔で答える美神。
「それでお土産はどこでござる?肉は?」
「油揚げは?」
二人がきょろきょろと周りを見回すが、それらしいものは無い。
「あの〜横島さんはどうしたんです?」
そして、さっきから気になっていた事をおキヌが尋ねる。
「ああ、もう少しで来るわよ」
二つの質問に同時に答える。
そしてその言葉と同時に、ズシン、ズシンと地響きがしてくる。
徐々に近づいてきたそれは、部屋の前で一度止まる。
ギ〜〜と音を立てて、ゆっくり扉が開き巨大な影が入ってくる。
それは両手は言うに及ばず、背中や足にまで挟んでお土産物を運んできた横島だった。
荷物を横島が運んでいると言うより、荷物に横島がくっついているといった感じである。
「つ、疲れた〜〜」
入ると同時に倒れこむ。
「お帰りでござる先生!…で、お肉〜」
「お帰り横島…で、油揚げは」
早速お土産を漁る二人。
「だらしないわね、それぐらいで」
結婚しても相変わらずな態度の美神。
「大丈夫ですか?横島さん?」
心配してくれるのはおキヌだけであった。
「ったく、何もこんなにお土産買わなくてもいいだろうに…」
嫌がらせではないかと思う程の量であった。
ちなみにお土産の中で一番多いのはエミへのお土産で、世界各国の恋愛成就のお守りなどである。
無論、失恋したエミへの暖か〜い思いやりであった。
「はい、横島さんもどうぞ」
お茶を横島にも出すオキヌ。
「サンキュ、おキヌちゃん。いやぁやっぱり日本はいいねぇ、おキヌちゃん今晩は和食が食べたいなぁ」
「はいはい、解ってますよ」
美神と同じ事を言う横島に苦笑するおキヌ。何だかんだ言っても似ている二人である。
「ほら、そんなところでへばってるんじゃないわよ。荷物邪魔だからはやく片付けちゃいなさい」
「人使いが荒いんだから…」
苦笑しながらも従う。
こんな状況ではあるが横島は今、結構幸せだった。
こういった扱いには慣れているし、結婚しても素直になれない美神の照れ隠しだということも解っている。
(旅行中はさりげない優しさなんかも見せてくれたし。後何と言っても夜は結構従順になるのがまた可愛い…ごべば!!?」
横島の顔面に事務用机(推定50キロ)が直撃する。
「何を口ばしっとるか!!」
机を投げつけた美神が、真っ赤な顔で叫ぶ。
「し、しまった…また口に出ていたか…」
「まったくあんたって奴は…いい事?あんたはたしかに私の夫にはなったけど、それ以前に雇い主と雇用人、師匠と弟子、そして主人と丁稚という関係にあるのを忘れないように!」
きっぱりと言い放つ。そして、
「後解ってると思うけど、夫婦別姓でいくからね」
当然のごとく付け加える。
「何か結婚してますます立場が低くなった気がするな…」
決して曲がってはいけない方向に曲がってしまった首を、自力で元の位置に戻しながら呟く。
相変わらずの不死身っぷりである。
「と、ところで気になっていたことがあるんですけど…」
おキヌが前から疑問に思っていたことを口にする。
「横島さんはどこに住むんです?」
「へ?」
キョトンとする横島。まるで考えていなかったようだ。
「あ〜そう言えばまったく考えてなかったな…結婚したからには一緒に住むべきだよな」
美神は現在、一連の事件により誰も部屋を貸してくれなくなったので、この事務所に住んでいた。
「やっぱり俺もここに住んだほうがいいんでしょうかね?」
「あのねぇ、ここには私だけじゃなくておキヌちゃんやシロタマまで住んでるのよ。そんな事できるわけないじゃない」
あきれた様に美神が言う。
「私は構いませんけど…」
「拙者も構わんでござる!」
「私も!」
むしろ望むところと言った感じだ。
気の早いシロなどは、『これで毎日先生と散歩にいける♪』と喜んでいる。
「私が構うのよ!」
どん!と美神が机を叩く。
シ〜ンとなった部屋の中を見渡し、しまったという顔をする美神。
「と、とにかくここに横島クンが住むことは認めません」
コホンと咳払いをし、多少顔を赤らめつつも毅然と言い威厳を保った…つもりだった。
「それにさすがにこの事務所に人の住むスペースを、これ以上作れないわよ」
「じゃあ、どうしろって言うんです?」
「ちゃんと考えてあるわよ。裏の土地を買い取ってそこに自宅を増築する事にしたの。すでに工事は始まってるわ」
「俺に一言も相談無く…」
「あんたはそんな事に頭は回らないでしょ。現に何も考えてなかったじゃない」
反論はできなかった。
「裏の工事はそうだったのでござるか」
「でもまだ工事中みたいだけど?」
窓から外を見ていたシロタマが尋ねる。
「それが予定より伸びたらしいのよね〜、完成まで後一ヶ月はかかるらしいわ」
「何でそんなにかかるんです?」
「色々と注文つけたから、時間がかかるんですって」
「注文?」
「ま、色々よ」
どうせ脱税の証拠が見つからないようにするための隠し場所、そんな所だろうと横島は思った。
そしてそれは当たっていた。
「じゃあそれまで俺は一体どこにいれば?」
「あるじゃない、いい場所が」
「まさか…」
「そ、そのまさかよ」


「新婚早々別居かよ…」
見慣れたボロアパートで、せんべい布団に包まりながら一人涙する横島だった。


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