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横島の長い人生

プロローグ 横島の一番長い日・その4


投稿者名:銀
投稿日時:05/ 2/14

いよいよ式が始まろうとしている。
バージンロードで美神を待っている間、横島は混乱の極致だった。
(何か流されるまま、成り行きでここまで来てしまったが本当にいいのか?確かに美神さんが、あのねーちゃんが自分のものになるのは大歓迎だ。しかし、結婚となると…一生の問題だ。いいのか美神さんで?絶対苦労しそうだし…)
その他にも気になる点はたくさんあった。
目の前の唐巣の妙なまでに同情めいた視線も気になる。
ちらと見たが本来祝儀袋がつまれているところがほとんどが香典袋だったのが気になる。あからさまにカミソリ入りだったのもあった。
そして何よりきついのは背後参列者席からくるプレッシャーの凄まじさだ。
ただの霊圧とかではなく一言で言うならば瘴気が物理的圧迫感をもって襲ってくるのである。
何故かほとんどの者が武装しているのも気になる。ワルキューレなど抜き身の銃のトリガーに指さえかけている。目をあわすことも出来ない。
(い、息苦しい…)
ぬぐってもぬぐっても汗が出る。
「妙だ…願ったり叶ったりの展開のはずなのに、蜘蛛の巣にかかった蝶のような心境なのは何故だ?ひょっとして俺は人生最大の過ちを犯そうとしているのかもしれん…」
その後もぶつぶつと「でもこれで元が取れる…」とか「しかしトータルではマイナスになるかも…」といった事をぶつぶつと呟いていた。
と、その時正面扉が開き公彦に付き添われた美神が入ってきた。
並の人間なら一瞬でショック死しそうな視線が美神を貫くが、そよ風ほども効かずしずしずと歩み続ける。
そしてそんな美神に一瞬にして目を奪われる横島だった。美神のウェディングドレス姿を見るのはこれで二度目だが前回とは比べ物にならないほど綺麗だと思った。
先ほどまでの迷いや葛藤も忘れて美神を見続ける。長い間、それこそ千年の間この時を待っていたような、そんな気分になってくる。
「…そんなにじっと見ないで恥ずかしいから…」
うつむき加減で頬を赤らめながらぽつりと呟く美神。
付き合いの長い横島が一度も見たことの無い美神だった。
そして理性も忘れ野獣は解き放たれた。
「令子ぉ〜〜!!今夜と言わず今すぐ初夜を〜〜!!」
「ちったぁその暴走癖直さんかい!!」
カウンターの肘が見事にみぞおちに来まり、そのまま流れるような動きで裏拳を後頭部に叩き込む。
「よか…った……いつもの……み…かみさん…だ」
ちょっと満足げに崩れ落ちる横島。
「まったく…さ、先生。始めちゃってください」
「あ、ああ………汝横島忠夫は病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも、死が二人を分かつまで等しく愛することを誓うか?…って聞こえているかね?」
床に倒れひくひく痙攣している横島に神父は問いかけるが反応はない。
そんな横島を美神はムンズと掴み上げ無理やり立たせる。そして顎を掴み
「誓います」
と腹話術の人形のように答えさせる。
「美、美神君…さすがにそれは…」
「あら、先生はお気になさらず続けてくださいな…教会、大事なのでしょう?」
「…………汝美神令子は病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも、死が二人を分かつまで等しく愛することを誓うか?」
唐巣は涙を流しながら続けた。心の中で懺悔をしながら。
「…誓います」
「では指輪の交換を」
これも横島は動けないので美神が勝手にやってしまう。
「で、では誓いの口付けを」
胸倉をつかみ持ち上げ、意識の無い横島にそっと顔を近づけたその時
「も、もう我慢できません!!美神さん!あなたの横島さんに対する態度はあまりにも酷すぎます!このままでは横島さんが可哀想です!」
とうとう我慢しきれず小竜姫が抗議する。
それが引き金だったのだろう、他の女性達も一斉に抗議をはじめる。
「そ、そうでござる!こんな結婚は先生の為にはならんでござる!」
シロが同意する。
「美、美神さん、横島さんの気持ちも考えてあげてください!」
小鳩も一世一代の勇気を振り絞り美神に抗議する。後ろでは貧が応援をしている。
そして他の女性陣も『そうだそうだ』と言いはじめる。
「ふ〜ん、要するに皆横島クンが可哀想だからこの結婚に反対だと言うわけね?」
「あ、当たり前です!」
「私はてっきり他の理由があって邪魔したいのかと思っていたけど?でもこれはあくまで私達の問題であって周りにとやかく言われる筋合いは無いと思うんだけど?」
正論である。が、無論そんな事で引き下がるような者はいない。
「せ、拙者は先生の弟子でござる!心配するのは当然でござる!」
「わ、私だって友人として…」
「し、神族としてこういった非道を見過ごすわけには…」
その時横島がう〜んと唸り声をあげる
「横島クン?」
「横島さん?」
「横島?」
「先生?」
「ヨコシマ?」
「……………………は!?ここはいつ?今は誰?私はどこ?」
『お約束はいい!!』
突っ込みは全員がハモっていた。


「やっぱりこうなったわね。予想通りといえば予想通りか…さ、あなた出ましょ」
それまで事態を静観していた美智恵だったがここにきてあきらめたようだ。
「どういうことだい?」
「もうまともな式の進行は無理って事。巻き添え食うのもバカらしいわ」
「わかった」
そういってとっとと娘を見捨てる両親。
その際近畿ら一般人(に近い)人たちの避難誘導をし被害を最小限に食い止めようとするところはさすがである。
「教会は…諦めてもらうしかないかしら?神父また髪の毛が後退しちゃうかしらね…」
「あの…横島さん達大丈夫でしょうか?」
おキヌが心配そうに質問する。
「そうね…ま、成る様に成るわよ。上手くいけばおキヌちゃんにもまたチャンスがめぐってくるかもしれないわよ」
「はい?」
「それにそのほうが横島君の為かもしれないし…」
と、実に娘に対して理解のある事を付け加える美智恵だった。


そしてその間も言い争いは続いている。
「そもそも私はこいつが泣いて頼むから仕方なく結婚してあげるんだから」
「へ?俺そんな事一言も…げぶ!」
周りから見えないように素晴らしいスピードとタイミングで、隣の横島のリバーを打つ美神。
「とにかくこれは私たちの問題であって皆には関係の無いことなのよ。ね〜横島クン?」
横島の腕をとりぎゅっと捕まえる。この時さりげなく胸をおしつけるのを忘れてはいない。
苦しみもがいていた横島だったがたちまち顔をにやけさせる。
そしてその光景がいっそう周りの敵意を煽る。
「ええい!とにかくこんな結婚を認めるわけにはいかない!さぁ横島を離せ!」
ワルキューレが銃を美神に向ける。
「ふ〜ん、実力行使にでるんだ…まぁこれも計算の内なんだけどね」
「何?」
ドレスの裾からスイッチを取り出しそれを押す。すると教会のあちこちから白煙が凄い勢いで立ち上ってくる。
「な、煙幕!?」
「しまった!目標を見失うぞ!逃すな!」
一気に式場は大混乱となった。
「この煙、霊波を帯びてるのね〜霊視が効かないのね〜」
「匂いもきつくて鼻もきかんでござる!」
「あ、美神が出口に向かったわ!」
「出入り口ふさげ!絶対逃がすな!」
煙の中皆の声がだけが響いている。
そしてそんな中もっとも執念を燃やしている男がいた。
「この煙幕は好都合だ、これならば誰がやったかわからないだろうし、もしもの時も事故だったといえる。今のうちに何としても横島君を亡き者に…」
愛刀ジャスティスを抜き放ち横島を探しているのは言わずと知れた西条だった。
さっきまでは隣に美智恵がいたため乱入できなかったがこのチャンスを逃す手はない。
「どこだ!横島君、隠れてないで出てきたまえ!」
煙幕の中必死に探していると横島の特徴的なシルエットが見えてきた。
「見つけたぞ横島君!さぁ後のことは僕に任せて君は安心してあの世…に?」
喉元に剣を突きつけたはいいが何か違和感を感じる。確かに横島なのだがどうも微妙に違うような。よく見ようと顔を近づけると
「こ、これは幻影?…な!?」
それは自爆した。


ズゥン…
衝撃が結界を揺らす。
「よし!かかった!」
「どうしたの?」
「いや、絶対俺の命を直接狙ってくる奴が一人いるから、そいつ用に罠を…」
文珠で『影』『自』『爆』と作っておいた自分のダミーがうまくいったようだ。
「それにしてもよく私が煙幕を用意してるって解ったわね」
「はっはっは、美神さんの行動パターンなら全てわかりますよ。ついでに『幻』の文珠もいくつかまいておきました。美神さんのダミーっす」
「よくやったわ、これで外は混乱してるでしょうね。ふふ、あんたも成長したわねぇ」
「いやぁこれも美神さんのおかげっすよ」
ほとんど悪代官と悪徳商人の会話である
二人はその場を動かず、結界を作りうずくまっていたのだった。事前に打ち合わせたわけではないが実に息のあったコンビプレイである。
「で、どうするんです?」
「しばらくは様子見ね」
「そうっすか…」
「……………」
二人の間(だけに)沈黙が訪れる。
思えば今日は、こんな状況ではあるがゆっくり話すのは初めてだった。
「あのさ横島クン、今更…こんな事をこんな時に聞くのは何だけど…あんたこれで良かった?」
いつもとは違う、不安げな表情であった。
自信(過剰気味)に満ち溢れ、天上天下唯我独尊の権化のような美神だったが、今この場では恋する乙女だった。
そしてその顔を見てしまった横島は『この人のそばにいてあげなければならない…』そんな想いが胸の奥から湧き上がってくることに気づく。
そして先ほどまで悩んでいたことに一つの決断をする。
「前にも言ったかもしれませんけど…美神さんのそばにずっといられるバカなんて俺ぐらいっすよ。さっきは誓えなかったから今言いますけど…死が二人を分かつまで一緒いてあげます」
「…ありがとう」
そのままそっと目を閉じ顔を近づける。横島も目をつぶる。
そしてそのまま極自然な動作で二人は唇を合わせる。
この瞬間二人は夫婦となった。


「ところで美神さん、もし俺が嫌だって言ったらどうするつもりだったんですか?」
「言うことを聞くまで折檻する」
「…やっぱり」
無駄な抵抗をしなくてよかったとしみじみ思う横島だった。


「しかしこれからどうします?皆えらくエキサイトしてたみたいだし、どうしてでしょうね?」
ここまで自分に対する好意に鈍い男も珍しい。が、これは美神にすれば実に都合がいい。
自分が(極一部に)もてる事には一生気づかないようにせねばなるまいと美神は誓った。
「あんたが結婚するのが気に入らないんでしょう?」
事実ではあるが全てではない。
「…そんなに嫌われてたんか、俺…」
落ち込む横島。「ちょこぉっと、ちちしりふとももに触っただけなのに…」ぶつぶつ呟いている。
「さて、いつまでもここに居られないわね…そろそろ出るわ、準備はいい?」
「でもこんな状態じゃ俺達だって身動きできないんじゃ…」
「大丈夫よ計算によればそろそろだから…来た!」
美神が念をこめて結界を強化する。すると先ほどまでとは比べ物にならないほどの衝撃が襲ってくる。
「こ、これは?」
「冥子のプッツンよ、こんな状態になって冥子がプッツンしないわけが無いからね。これであの娘を招待した甲斐があるってものよ」
「美、美神さん…さてはあんたそのためだけに冥子ちゃん招待したっすね?」
「当たり前じゃない。さもなきゃあんな危険人物呼ぶわけ無いでしょ」
さっきの自分の決断が間違ってるのではないかと早速悩んでしまう横島だった。
「さて、これで外は完全にパニック状態。それに紛れて外に出るわ、そしたら車まで一気に走るわよ、いいわね?」
「あ、俺ちょっと腹痛がしてきたんで美神さんだけで…」
「今更何言ってんのよ!あんたはすでに魂まで私の物なんだからつべこべ言わずに付いてくりゃいいのよ!」
「そりゃ前世の話でしょうが!やっぱさっきの無し!俺は自由に生きるんだぁ!」
「問答無用!それに死が二人を分かつなんて甘いこと言ってるんじゃないわよ!前世も!現世も!来世も!永遠にあんたは私の物なんだからね!!」
ある意味これほど強烈な愛の告白も無いのだが、横島にしてみれば未来永劫奴隷だと言われているようなものだ。
「さぁ行くわよ!1.2の…3!」
横島の首根っこを掴み外に飛び出す美神。
「せ、せめて来世はルシオラの為に取って起きたいのに〜〜〜」
既に何もかもが手遅れであることに横島はようやく気づいたのであった。


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