「いー加減にしなさい!!」
複数の結婚式場を舞台に、追いかけっこをする美神とタマモと横島。彼らを前に、唐巣神父は自力での事態収拾を不可能と判断。至急援軍を要請した。
精神的に疲れ果てた様子の唐巣神父に、愚痴まじりの報告を受けた――チクられたとも言う――美知恵は、さっそく現場に急行。娘と横島、タマモを一喝して捕まえるや、スタッフルームの一室を借りて、即座に説教を開始したのだ。
「でも、ママ。こいつらが…」
「お黙りなさい!例え事情がどうあれ、他人さまの一生に一度の晴れの舞台を邪魔するとは、何事ですか!!」
己が幼な子を胸に抱き、説教をカマしているのは美神美智恵。言わずと知れた美神令子の母親である。
……どーでもいいが、絶対に幼児の教育に悪そうな気がするのは私だけだろうか?この人、多分次女の教育でも、何か失敗するように思えてならない。
閑話休題――それはさておき――
美神は「わたし、悪くないもん」とばかりに、若干スネた表情でちょこちょこと反論しては怒鳴られている。実際、彼女の表層的な思考では『ここに呼びつけるようなマネをしたアイツらが悪い!』となっている。そして世間でも常識はともかく、美神令子的には今までの人生、それでOKだった。
まぁ、我に帰った今なら、邪魔してしまった式場の人々に謝罪と、場合によっては賠償。何より口封じをしなければならないと解ってはいたが。
だが、それを察した母親はそれで良しとするわけがなく。
若干認識のズレた母子の会話は、平行線をたどりつつあった……
「今のうちにコッソリ逃げない?」
そうなってくると、タマモがそんな事を言い出すのも無理は無い。
実際、横島もタマモも、こういう場合口答えすると説教が長引くというのを学習済みなので、目立っていなかったという事もある。
「う〜ん…」
しかし横島は、ここで逃げると後が怖い。というのを知っている。後で何をされるか、という恐怖よりも、目の前の見えている脅威を受けたほうがマシ。
身をもって学んだその教訓ゆえに、あえて折檻を受けるという選択をいつもなら即座に選んでいただろう。
だが今はそもそも、美神から逃亡中の身の上。どうせ追いかけられるのは一緒。なら逃げた方がいいのか?
「いや、隊長にまで追っかけられるのはマズいだろ」
「え〜?……そうね。それならついでに説明しときますか…」
ニヤリと笑うタマモ。それを見た横島は、やはり早まったのだろーかと思わずにはいられなかった。
そしてタマモがニヤリとしたまま語りだす。
「ね〜?そもそも、なんで美神さんはここに来たわけ?」
「アンタらがあんな葉書よこすからでしょーがっ!」
反射的に返す美神。しかし、それではタマモの思う壺なわけで。
「ふ〜〜ん。それって、こんな葉書だったからしら?」
ポン。
タマモが手の平に葉っぱを乗せると、それは煙を立てて一枚の葉書へと変化する。
そこに書かれた内容は、と言いますと。
私たち、結婚します 美神 令子
忠夫
「そう。それよ………って違うでしょーー!!」
「あらあらあらあら、それで急いでここへ来たんだったのね?令子。そうならそうと言ってくれないと…」
「違うって言ってるでしょーー!!」
思わずノリツッコミをカマした美神だったが、そこに母親に追い討ちのボケをくらってしまう。が、即座にオーソドックスなツッコミで話を一旦ストップさせる。
このあたり、さすがに横島のツッコミ担当である。
しかし、最後のトリが残っていたわけで。
「俺と結婚…!?そーだったんスね美神さん!俺ならいつでも返事はOK〜!!ってハブッ!?」
「どー考えてもタマモのイタズラでしょーが!それにアンタも張本人でしょう!!」
「ちょっ…待っ…だって、美か…」
「このっこのっこのっこのっ!私が…私がどれだけ…!!」
最後のオチを持って行くことを横島に流れる関西人の血が強要したらしい。いつものように、それまでの展開を無視した妄想からの即座のダイブ。
それに迎撃ツッコミを入れる美神。だがいつもとは違ってこちらは一発のツッコミでは治まらない。なにせ、ここ数日の間ずっとシバきに行っちゃあ逃げられ、シバきに行っちゃあ逃げられと、気持ちを空回りさせられていたのだ。並大抵のシバきでは満足できない。
極限の空腹状態の人間が食料にありついたように。砂漠でようやくオアシスにたどり着いたキャラバンのように。美神は一心に横島をシバき続けた。
「と、いうわけで、いつまでも自覚しないんでね?見てるこっちとしても、イライラするじゃない?決着がついた後、動き出されても困るし」
「なるほどね。それで今、ハッキリさせようというわけね」
「そういう事。美神さんのタダオへの気持ち。母親のあなたも解ってるでしょ?」
「まぁね〜。それに令子の相手はふつーじゃ勤まらないしねぇ…横島君みたいなコってなかなか…」
「でも、あげないわよ?タダオは私とシロが貰うんだから」
「カンニンやー!」「まだよ!まだ終わってないわ!」とゆー背後からの叫びを無視して、これまでの事情を説明するタマモと冷静に話を聞く美知恵。
そんな状況を気にせず、いつの間にかグッスリと寝付いているあたり、ヒノメも美神家の女。きっと大物になるだろう。
そしてこれまでの話を完全に理解した美知恵が、令子に問い掛ける。
「令子!」
「なに!?いくらママでも今、私の邪魔をしたら……うふ…うふふふふふふ…」
エサを取り上げられそうになった野良犬の目というか、危ないクスリを取り上げられそうになった中毒者の目をして、興奮で荒い息をしながらそう言う娘に、流石にちょっと引いちゃいながらも頑張る美知恵さん。
「れ、令子!アナタ、横島君を要るの?要らないの!?」
「あん!?」
昔の血が一時的に騒いだか、ヤンキー風にメンチ切る娘相手にも、頑張る美知恵さん。
「いいから答えなさい!要るの!?要らないの!?要らないんなら、タマモちゃんとシロちゃんが取っちゃうわよ!」
「コイツは私の丁稚!!ハナっから、私のモンよ!!」
美神の丁稚発言。それはもはや自力では修正不可能となってしまった、誰に対してかも解らない、照れ隠しの理論武装。
昔は確かに横島は単なる丁稚で、そのままの意味だったんだけれども、いつの間にかそうなってしまった。
その隙目掛けて、切り込むタマモ。
「ふ〜ん?それじゃあ、丁稚としてのタダオはあげる。その代わり、男としてのタダオはこっちで貰うわよ?」
文句ないわね?とばかりに余裕の笑みで、タマモはそう宣言した。
普段やGSとして動いている時とは違い、こうした恋愛関係になると、特に横島が絡むと反射でしか動けなくなってしまう美神は、それに対抗する術は無かった。
意地だけで、「ええ、結構よ!持っていきなさい!」と叫んでしまっただろう。
そこに、美知恵がいなかったら。
「ぇ…」
「ダメよ!しっかりしなさい令子!!さっきも聞いたでしょう!?横島君を要るの?って!要るんだったら、ここで放しちゃダメよ!」
「ママ…」
「タマモちゃんと横島君がいなくなってから今まで。考える時間はあったでしょう?」
「ママ…」
「答えは、出てるんでしょう?だったら…素直になりなさい。令子…」
「ママッ!」
優しく諭す美知恵に、美神は叫んだ。不安だと。怖いと。今更ではあるが、拒絶されるのが怖い、と。そういう思いを込めて、ママと叫んだ。
彼女の頭にあるのは、タマモが言った一言。
「あなたはタダオを必要としてるけど、タダオは必ずしもあなたじゃなくてもいいのよ?」
その通りだ。横島クンの代わりなどいない。でも、自分もそうではなかったのか。横島にとって、美神令子は何者にも代えられない人物ではなかったのか。
自信が無い。実際、彼は一度ルシオラを、自分以外を選んでみせた。
今度もまた…自分以外を。タマモを、シロを選ぶのではないのか…
美神令子は、不安だった。
「…ふぅ…ま、いいでしょ。自覚はしたみたいだし。ここらで勘弁してあげる」
「へ?」
精神的にこれ以上なく追い詰められていたというのに、いきなり追及の手が緩んだ事で戸惑う美神。
そんな美神に、タマモは続けてこう言った。
「でも、一応白黒はつけるわよ?勝負してもらうわ、美神さん…」
「へぇ…勝負、勝負ね……いいわよ。面白そうじゃない」
「何を賭けるかは…解ってるでしょうね?」
「バカにしないで。アレは私のだって言ったでしょ?手放しゃしないわよ…」
「「ふふ…」」
「「うふふふふふ…」」
至近距離でにらみ合いつつ、含み笑いをする2人を横目で見ながら、美知恵はさきほどの怒鳴りあいで目を覚ました次女によ〜く言い聞かせた。「いい?あんな風になっちゃダメよ」、と…
その足元では、肝心の(ハズの)勝負の対象が床に赤い水溜りを作って、ピクリとも動いていなかったりするが…
いつも通り、誰もそんな事は気にもしなかった。
面白いっス!!続きが気になるっス!!勝負の内容とか・・
続きを楽しみに待ってます!! (義王)
へたすりゃあ殺させかねませんよ。
続きを楽しみにしています。 (ミネルヴァ)
でも、肝心のシロが出てこないのはなんでや〜!!
皆さんと同じく続きを楽しみにしてます。 (孔明)
ひどいw (zendaman)
好きだから、守る、そして、自分より強い相手と戦う。
強敵に縛られた、大事な人を、解放し、幸せにするために・・・
タマモ=横島
横島=ルシオラ??
みたいな感じで感情移入しています。 (にゃら)