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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『赫石>>船』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 2/ 9



遠く汽笛の音が聞こえる。

足元から伝わる、ゆらりゆらりとした波の揺れに合わせ、照明の灯りに出来る陰影が形を変える。

コツコツと床を蹴りながら、細長い廊下を渡ってその奥へと向かう。

やがて、一つの大きな扉が見えてくる。

恐らくは、大広間だろう。

この『船』が豪華客船だった頃は、そこで華やかな催しがなされていたのだろうが、今となっては昔のこと。

ゆっくりと手を伸ばし、扉を押し開く。

扉の向こうの室内は、どこかの王宮の大広間と見まがうほど広い。

天井にはシャンデリアが下がり、部屋の一角の段上で、誰かがグランドピアノを弾いている。

部屋の中央付近の階段からは、中二階へと向かえるらしいが、その階段下にカウンターがあった。

かつての社交界の場も、今ではバー・ラウンジとなってしまっているらしい。

そのカウンターに、一人の男が座っていた。

長い黒髪を、奇抜な金色のスーツの上に流した、長身の男。

そのすぐ後ろへと歩み寄ると、気配に気付いたか、男は顔を上げて振り返った。

短い顎ひげを蓄え、その双眸は黒いサングラスに覆われている。


「…アンタが、人捜しをやってくれる情報屋か?」

「まあ、そうだが…誰か捜して欲しいのか、坊主?」


男はシニカルな笑みを口の端に浮かべる。

低い声で、口調もまた皮肉の色が濃いが、それが妙に似合う男だった。

別にからかっているわけでもなく、これが男なりの歓迎の言葉なのだろう。

ともかく、歓迎してくれるのなら、名乗らねばなるまい。


「坊主じゃない…刻真だ。」






          ◆◇◆






バサバサという羽音ともに、周囲を無数の影が飛び回る。


「シロ、行くわよ!!」

「任せるでござる!!」


タイミングを見計らい、タマモが狐火を放つ。

一気に燃えあがった炎に、影たちの動きが鈍り、その合間を縫うように白い影が駆け抜けた。

後には、ぐらりとよろめいて落ちる影たち。

だが、致命傷には至らなかったのか、立ち上がる者もあった。

しかし。


「マハブフーラ!!」


声と同時に、大量の冷気が吹き荒れる。

それは、幾重もの氷柱を生み出しながら、一帯の床を影たちもろとも覆いつくす。

氷柱に閉じ込められた影たちは、もはや動くことはなかった。


「どんなもんだヒホ!!」

「って、危ないじゃない!! やるならやるって言いなさいよ!!」


抗議の声は天井付近からだ。

見上げれば、とっさに飛び上がったのだろうシロとタマモが、照明器具にぶら下っていた。


「拙者たちごと、凍らせる気でござるか!!」

「あ、ごめんヒホ♪」


てへっ、と言わんばかりに軽い口調で、ノースは謝る。


「二人とも、大丈夫?」

「あれ? 美神さんは平気だったの?」


シロとタマモが降り立ったとき、美神が何事もなかったように氷の上に立っていた。

まーね、とばつが悪そうに笑う美神の後ろで。


「…俺を盾にしといて、平気も何もねーよ…。」

「ああああ、横島さーん! ごめんなさーいっ!」


背中一面を氷漬けにされた横島が、恨みがましい目で呟いた。

おキヌも無事であるところからみて、ちゃっかり自分も隠れていたのだろう。


「と、とりあえず、これで終わりかしら?」


話題を変えるために、美神があたりを見渡す。

氷の中には、先ほどまで自分たちを苦しめていた、妖魔『コッパテング』の群れが見えた。

それらが氷柱内で塵になっていく様を見届け、美神がほっと息を吐いたとき。


「美神さん、後ろッ!!」


横島の叫びに、はっとして美神が振り向く。

なんだかとても不細工なシルエットが、物陰から飛び出してくる。

首のない、一見カバにも見える奇妙な姿の妖魔『カバンダ』が、その大きな口を開く。


「しまッ…!!」


油断して体勢の崩れた美神に、カバンダが踊りかかったその時。

美神の後ろから、漆黒の銃身が伸ばされ、それはぴたりとカバンダの額にポイントされる。

そして、銃声。

塵となって消えうせるカバンダを確認して、美神は安堵の溜息とともに振り返る。


「ありがと。助かったわ、刻真。」

「礼はいい。それより…。」


美神の礼にも素っ気無く返し、刻真は自分の足元を指差す。


「早いとこ、溶かしてくれないか?」


その足はしっかりと凍り付いていたりする。

ノースが放つ冷気とはまた違う、妙に寒い空気が流れた。


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