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横島の長い人生

プロローグ 横島の一番長い日・その2


投稿者名:銀
投稿日時:05/ 2/ 8

「令子ちゃんおめでと〜〜〜〜〜凄く綺麗よ〜〜〜〜〜〜」

一方花嫁の控え室ではこの式の数少ない純粋な祝福者である親友(?)の六道冥子が、美神に満面の笑みで祝っていた。

「ありがと、冥子。でもあんまり興奮しないでよね、今日ばかりは暴走は勘弁してほしいから」

苦笑交じりに美神が答える。その姿は純白のウェディングドレス姿で冥子の言うとおり本当に美しかった。

以前仕事の関係で着た事もあったが、その時とは違い自らの意思で来たせいか妙に似合っている。

と、そこに新たな客がやってくる。

「令子〜祝いにやってきたワケ〜」

同じく親友(当人達は死んでも認めない)のエミがやってくる。

「エミ…あんた何しに来たのよ」

「祝いに来たに決まってるでしょう?それにしてもおたくが横島とね〜、いくら男にもてないからって手近な奴ですませるなんてよっぽどあせってたワケ?」

いかにも意地が悪そうに言うエミ。

しかしいつもならば舌戦が繰り広げられるのだろうがその気配はない。それどころか美神は同情の笑みさえうかべエミを見つめる。

「な、何よその顔は…」

「エミ…あんたピートにはっきりと断られたんだって?結婚の意志は無いって」

ぐさぁ!そんな擬音がエミの胸のあたりから響く。

「『あなたと僕とでは生きる時間が違いすぎます。あなたに相応しい相手が現れることを祈っています…』だって?たしかにアンタの事を思いやってる台詞に聞こえるけど、用は初めから相手にされてなかったって事よね〜」

ぐさ!ぐさ!

「エミ…今のあんたが何を言おうと所詮『負け犬の遠吠え』にしか感じられないのよね…」

ぐっさぁ〜〜〜〜〜!!

容赦なく止めを刺す。床に倒れヒクヒクと痙攣しているエミをサディスティックな笑みを浮かべながら、本当に嬉しそうに見下ろしていた。

「ありがとエミ。あんたのその姿が最高の結婚祝いよ♪」

「でも〜本当に何で〜横島君と結婚しようと思ったの〜?」

「う〜ん…ま、色々あったのよ」

照れくさそうに笑う。実際色々あったのだ。



ここ数ヶ月美神は悩んでいた。それは自分にとって横島とは何なのだろうかということだ。ただの仕事上の助手、そんな建前ではなく横島の事を彼女にしては珍しいまでに真剣に。

おかげでしばらく情緒不安定にもなっていて、八つ当たりがいつもの数倍になっていた。

それを空気を読めない張本人のバカ(横島)が気楽に『さてはあの日っすか〜?』と言っため、丁寧なまでにあばら骨と鎖骨を全部折られたものだ(翌日には復活していたが)

前世からの因縁や、アシュタロスとの戦いにおいての心の支えになってくれたこと。そしてルシオラの事も…そういった事を含め本当に考え抜いた。

そして一つの結論を出したのだ。

認めてしまったのである、自分は横島に好意を、そしてそれ以上の感情を持っていると。

無論それを認めるまではそれはそれは凄まじいまでの葛藤があり、その前にはやはり『認めたくないけど』『不本意だけど』等の言葉が入るが。

しかし認めたとはいってもそこは意地っ張りな美神である、自分から横島に告白など死んでもできない。おまけに落ち着いて見渡せばライバルが異様に多い。

自分が惚れてやった(←ここが重要)男なんだから当然だと言う気持ちもあるがうかうかしていられない。

しかし自分から告白なんてやはり出来ないし、どうにかして向こうから告白させるか思案していたときに、あのおキヌの誕生日の夜の出来事があった。

多少酔いもあり、勢いでOKしてしまったというのはあったがこのまま一気にこの問題にケリをつけようと思ってしまったのだ。

「人生一回くらい結婚しておくのも問題ないわよね。何かあれば離婚すればいいんだし。今時結婚、離婚くらい良くあることよね、うんそうよ」

と自分を納得させた。要するに開き直ったのである。そしてこうなった美神は強かった

ちなみにこの時点では横島の意思など完全無視である。

まずはいかに皆に悟られず準備をするかに細心の注意をはらった。ばれれば妨害や何らかのちょっかいをうけるのは目に見えているからだ。

まず最初にしたのは唐巣神父にあった借金(微々たる物)を買い取り、悪徳金融が可愛く見えるほどの利子で借金を膨らませる。そして教会を奪うと脅迫、極秘裏に結婚の準備をさせる。

そして事務所の面々だが、まずおキヌに『偶には里帰りしたら?早苗ちゃんたちにも会いたいでしょう?事務所のことは心配ないから、お義父さんやお義母さんに親孝行してらっしゃいな』とやさしく声をかける。

シロには『シロ、あんたも大分成長したわね。この事務所に来た頃に比べれば見違えるようだわ。その成長ぶりを長老や里の皆にも見せてあげたら?きっと大喜びするわよ』と帰省させる。

タマモも食事のいなりを20%増量を条件にシロに付いていかせる。こうして事務所の中を空にさせることに成功した。

GS関係の者達は、GS協会並びに大手雇用者に手を回し、遠出で最低一週間はかかるような仕事をさせてその場で結婚の報告を聞く事になった。

無論こちらに戻ってくるにも2,3日はかかる。

小鳩やクラスメイトといった一般人(?)には普通に招待状を送ってあり、普通ならば最低一週間前には届いているはずであった。

郵便局で『偶然』事故がおこり大幅に配達が遅れるという『不幸な出来事』が無ければ。

神族、魔族関係はハヌマンに最新ゲームをメーカーから直接取り寄せ、発売日前に出来るように取り計らうと、マニア心をくすぐる持ちかけをして買収。

小竜姫やワルキューレ達をそれぞれ神界、魔界に戻させそこで結婚の事を知らされるようにした。やはり戻るのには数日かかる。

そして肝心の横島も三日ほど前から出張させ、昨晩の夜遅くに帰ってこさせた。

こういった数々の工作が見事うまくいき、出席者達が結婚の事を知った時にはほぼ手遅れの状態にしておいた。

こうして無事(?)本日の結婚式が開かれることとなったのである。



そんな苦労を思い出して「ふ…」と苦い笑いをする美神。

「令子ちゃん〜?」

「え?…ああ何でもないの、ちょっと考え事をね」

オホホホと笑って誤魔化す。

「えっと理由だったわね…要するにあいつが泣いて土下座して頼むからよ。あいつをこの先放っておいたら世の中の女性の為にならないしね。言わばボランティアってやつよ。私ってば容姿だけでなく心まで美しいから、世のため人のために尽くしちゃうのよね〜」

「ふ〜ん、そうなんだ〜」

こんな事で誤魔化されるのはおそらく冥子くらいだろう。

念のため対外用にプロポーズの場面を人口幽霊一号に横島が泣いて土下座して『結婚してください〜してくれないならば死にます〜〜!!』と絶叫している場面を作らせておいてはあるが。

その時控え室のドアがノックされる。入ってきたのは美神の母親である美智恵だ。その腕にはひのめも抱かれている。

「ママ…」

「まったくあなたって娘は思い立ったら一直線なんだから。周りの迷惑を考えなさい」

「ママにだけは言われたくないんだけど…」

両親の馴れ初めを思い出しながらつぶやく。

「私にも知らせないなんてホント親不孝な娘ね」

「えっと、その…ゴメン」

バツが悪そうに言う。

「でも…私を出し抜くにはまだ早かったようね」

ニヤリと笑う。

「え?」

「さ、恥ずかしがって無いで早く入って」

そう言ってドアの外で立っていた人物を中に入れる。その男は鉄仮面をつけていた。

「な…何でここに?」

思わず絶句する美神。

それは遠い異国にいるはずの美神の父親、公彦だった。彼が昨日今日知って日本に来れるはずは無い。

つまり美智恵は最初から知っていたことになる。

「令子…」

「………」

お互い見つめあう。本当は事情もわかり理解しあえてるはずだ。

だが、まだどこかわだかまりがあるのだろう。二人とも押し黙ってしまう。

「ほら、言う事あるんでしょう」

見かねた美智恵が公彦を肘でつつく。

「…私にはこんなことを言う資格はないかもしれない…だが、どうしても言わせて欲しい。おめでとう令子、君の幸せを心から祈っているよ」

「……………ありがと、オヤジ」

照れくさそうに顔をうつむかせながら言う。

そんな二人の様子を見てそっと目頭をおさえる美智恵。

「あ〜?」

そんな母親の様子を見て不思議そうな顔をしたひのめが母の顔を見上げる。

「ふふ、心配してくれてるのひのめ?大丈夫、悲しくて泣いてるわけじゃないのよ。人はね嬉しくても泣けてくるの。あなたも大きくなったら解るわ」

この子がお嫁に行くときも、きっと今のように泣いてしまうんだろうなと随分気の早い事を考えていた。

「これはいらぬ心配だとは思うがね。今の君がとても幸せなのはよく解るよ、暖かい気持ちが私の中にも流れ込んでくるから。相手の横島君、美智恵からも聞いていいるがいい男性なのだろう?」

「ええ、それは私が保証するわ。令子にはもったいないくらい」

「そんなにたいした奴じゃ無いわよ…そこそこなのは認めるけど」

両親に横島の事を褒められ内心は嬉しい美神だった。

「嬉しそうね…幸せになるのよ、令子」

「分かってるわよ、任せといてママ」

極上の笑顔で答える美神。

「何だかんだ言っても横島クンすでに実力だけなら超一流GSだから、これで彼の収入を合法的に私のものにできて、給金も一切なしですんで今まで以上にこき使えるかと思うと嬉しくって、嬉しくって…」

そしてその極上の笑顔は、花嫁にとても似つかわしくない笑みに変わっていった…

「ごめんなさい、あなた…やっぱり私の育て方が間違っていたみたい。こんな、こんな人格破綻者になってしまうなんて」

こちらも、先ほどまでとはまったく違う涙を流しながら公彦に謝る美智恵。

「君が謝る必要はないよ。こんな風になってしまったのは、半分は僕のせいなんだから」

優しく妻を慰める公彦。

「せめて、せめてひのめだけはこうならない様に頑張って育てるわ」

「ああ、わかっているとも。二人で頑張っていこう」

「ひのめ、親子三人支えあって生きて行きましょうね…」

「あーうー」

「…私は完全に除外かい」

心温まる家族の会話であった。


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