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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter1.MAGICIAN 『造魔>>赫石』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 2/ 7




「じゃあ、お前はそっちの洋室を使ってくれ。」

「ああ。わかった。」


玄関から左手を指し、横島は刻真に呼びかける。

ここは現在、横島が住んでいる2LDKのマンションの一室。

最近、ようやく働きに見合った収入を得始めた横島は、前のアパートから住まいを移していた。

以前にも述べたが、最近では横島も単独で仕事に出ることが多い。

それは同時に、横島個人が霊たちからの恨みを買う可能性も含んでいた。

美神のように自宅を吹っ飛ばされようが、横島にとってはどうということもない。

哀しいかな、野宿には慣れている。

だが、問題は隣に住んでいる小鳩一家を巻き込んでしまう危険性があったことだ。

そこで、横島は元々霊的不良物件で住人の少なかったこのマンションに引っ越したのだ。

ここなら、襲撃されたとしても被害は少なくて済む。

ちなみに給料が上がった理由について、横島がいくら聞いても美神は教えてくれなかったという。


「オイラはどうするヒホ?」

「そうだなぁ…俺と一緒でいいだろ。こっちの方が広いし。」


横島が使っている和室は、八畳敷きだ。

小柄なノースくらい、余裕で受け入れられるスペースがある。


「風呂とトイレは玄関の横で…。」


間取りを二人に説明しつつ、横島は数時間前のことを思い出していた。



          ◆◇◆



壁一面のモニターに、いくつもの映像が並べて映し出されている。

その前で、腕組みをして唸っている女性が一人。


「どう、ヒャクメ? 奴は見つかった?」


その後ろから、美神が声をかける。

頭に取り付けた器具を外しながら、ヒャクメはふるふると力なく首を振る。


「ダメなのねー。アシュタロスのときみたいに異空間に隠れてるのか、全然…。」

「そう。まあ、期待はしてなかったから。」


くるっと美神は踵を返して、円卓の方に向かう。

後ろのほうで、ヒャクメが涙を流してイジケているが、とりあえずは無視だ。


「さて、後は刻真君の処遇だけど…。」


美神が戻ってきたのを見計らって、美知恵が切り出す。

刻真はといえば、さきほどから黙り込んだままで、一言も話そうとしない。

美知恵はちらりと、視線を娘に向ける。


「令子。あなたのところで預かってくれない?」

「ちょっと、ママ…!!」


反論しかけた美神だが、「…彼から目を離さないでね。」と囁かれてしまっては頷くしかない。


「…そうね。シロにタマモに横島君。もう三匹もペットいるし、今更一匹増えたところで構わないもの。」

『誰がペットだ!?』


三匹…もとい三人の声が重なる。

いつもの掛け合いの風景に、おキヌが苦笑を浮かべている。


「でも、事務所に泊めるわけにはいかないから、横島君が連れて帰ってね。」

「えぇ〜? 俺がッスか〜?」


美神の提案に、あからさまに嫌そうな横島。

だが、美神は冷静に切り返す。


「あんたねぇ…見ず知らずの雄と、うら若き乙女たちを一つ屋根の下に放り込む気?」

「よし! 俺の家に来い!」


いきなり手の平を返したように、力強く請け負う横島。

だが、当の刻真は曖昧な笑みを浮かべ。


「折角だけど…これ以上、アンタ達を巻き込むわけにはいかない。元々、すぐに出て行くつもりだったし…。」


行くあてはないけれど、と少し冗談めかして言う。

それから、少し意地の悪い微笑を浮かべ。


「それに…アンタみたいなタイプは、男を泊めるなんて死んでも嫌だろう?」

「お前…初対面の人間にそれは失礼じゃないか!?」


刻真の揶揄に反論する横島だったが、その場の皆が「当たってる。」と心の中で同意する。

美神が「人を見る目はあるのねー。」とか感心していた。


「じゃあ、俺はもう…。」

「待ちなさいよ。」


刻真が出て行こうと立ち上がったとき、美神が呼び止める。


「巻き込まれるも何も、もう相手にしっかり目をつけられてるのよ、こっちは。」

「それは…すまない。でも、俺が出て行けば、もう…。」

「それだけじゃないわ。こっちは従業員に手を出された。つまり喧嘩を売られたのよ。」


刻真の反論を許さず、さらに言葉を続ける美神。

その目には、どこか楽しんでさえいるような輝きが見て取れた。


「向こうが喧嘩を売ってきたのに、買わない手はないわ。」

「…普段、ケチ臭いくせに、こんなところで気前よさを発揮しなくても…ブッ!?」


いらん事を言った横島の顔面に、美神の裏拳がめり込む。

話の腰を折るから、こうなる。


「…ケチじゃなくて、使いどころをわきまえてるって言って欲しいわね。」

「……ふぁい。」


精霊石や破魔札の買い付けはともかく、自分の悪事の隠蔽はわきまえてると言えるのか。

そんな事が脳裏をよぎったが、それをさらに口に出すほど横島は命知らずではない。


「とにかく、アンタにもしっかり責任はとってもらうわよ?」

「……わかったよ。」


渋々といった感じだが、刻真は頷いた。

もう少し抗弁するかと思っていたのだが。


「やけに、あっさり受け入れたわね?」

「ああ。…アンタみたいなタイプは、自分の意見が通るまで絶対に離してくれないだろ?」

「な…ッ!?」


ようは我がまま。

暗にそう言われて、ぴきりとこめかみを引きつらせる美神。

その後ろで「人を見る目はあるんだなー。」とほざく横島の顔に、次の瞬間、美神の右拳が放たれた。


「なぜにッ?!」








          ◆◇◆








すでに日は沈み。

明かりのない部屋には、ただ薄闇が広がっている。

向かいの、横島とノースがいる部屋からは、すでに眠りに落ちた気配だけがある。

フローリングの床に座っていた刻真は、ゆっくりと窓辺に寄る。

まだまだ光を失わない夜景と、その上空に浮かぶ月。

静かにそれを見上げ─。








          ◆◇◆








同刻、都内某所。

とあるオフィスビルから、一人の少年が駆け出してくる。

その顔は綻んでおり、いかにも嬉しそうだ。

そのまま、道路脇に駐車していた車に乗り込む。


「よっしゃ! 休み取れたで!!」


彼は、助手席に座る少女に笑いかける。

忙しいスケジュールの合間をぬって、さきほど何とか休みをこぎつけた。


「元気にしとるかな〜、アイツは…。」


懐かしそうな声で呟く少年に、少女は同意の意を込めて頷き返す。

彼らは古い友人に会いに行く。

傍らの少女が、小さくはにかんだ。


「待っとれよ、横っち─。」




          ◆◇◆




「誰か!! 俺をここから出してくれ!!」


薄暗い地下に、その慟哭は空しく響く。

その願いを聞き届ける者がいないと分かっていても、叫ばずにはいられない。


「頼む…!! 俺を…出してくれッ…!!」


彼は力なく、壁を叩く。

彼は怯えていた。

悪魔である彼は、生まれてからこれまで怯えたことなど、一度としてなかった。

だが、間違いなく今、彼は恐怖していた。


「…なんなんだ、これは! 未来が…こんな未来はなかったはずだ!!」


突如として頭に浮かんだヴィジョン。

いや、それを浮かんだと言って良いものか。


「見えない…何も、何も未来が見えてこない!!」


そう、彼の力をもってしても、何も見えない。

今この時、自分の牢に何者かが近づいていることさえも。




          ◆◇◆




とりあえず、小竜姫にも報告しようと、ヒャクメは帰路を急いでいた。

妙神山の上空に差し掛かったとき、ふとその目に見知った人物が映る。


「あれ? 老師?」

「ん、おお、ヒャクメか。」


向こうもこちらに気付いて手を上げる。

金斗雲に乗り、煙管を咥えた姿は、物語で知る彼の人の姿そのもの。


「天界に戻られてたんじゃ…。」

「くだらん会議を長々と聞いときたくはない。それよりも、よい話があっての。」

「よい話?」


きょとんと聞き返すヒャクメに、老師は。

かの武神、斉天大聖は孫をもった老人のように柔和な微笑を浮かべた。


「おお。きっと、あやつらも喜ぶじゃろうて…。」






          ◆◇◆





しばらく、月明かりに照らされながら─。

ふと。

刻真は、自分の手が胸元のアミュレットに伸びていることに気付いて、苦笑を浮かべる。


「…成り行きでこんなことになってしまったけど…。」


そのままアミュレットを握りこむ。

ぎりっと、音がするほど強く。


「…もう、あんな想いはしたくない…!」


その脳裏に浮かぶのは、鮮烈な赤。

以前は愛おしささえ感じていたその色は、今では痛みを訴えてくる。


「…もう、俺は間違えない…二度と、同じ過ちは犯さない…。」


今の自分は、そのためだけにある。

悲痛な決意は、今の自分を肯定する唯一の証。


「…全てが終わる前に、奴を…。」





殺す。





冷ややかにして激しい呟きは、月明かりに溶けて消えていく。

胸の赫石は、ただ濡れたように煌めいていた。


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