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横島の長い人生

プロローグ 横島の一番長い日・その1


投稿者名:銀
投稿日時:05/ 2/ 6

「俺は…何故ここにいるのだろう?というか本当にここにいていいのか?」

誰にともなくつぶやき自問自答を繰返す。そして周りを見回し自分の姿を見下ろし、今日何十回目になるかわからないため息をつく。

周りの風景は変わらず教会の待合室で、自分の姿は白のタキシード。決して変わることはない。

男の名は横島忠夫、もうまもなく結婚式をあげる花婿である。そして花嫁の名は美神令子と言った…



話は一月ほど前にさかのぼる。

おキヌの誕生日パーティ(本当に生まれた日はわからなかったので生き返った日)を開くことになり、いつもの面子が集まり派手などんちゃん騒ぎが始まる。

途中からアルコールも入り最終的には床に死屍累々が横たわる状態となった(未成年含む)

そんな中最後まで残ったのは酒に強い美神と、酔いつぶれそうになる度に美神に強制的に覚醒させられつき合わされている横島だった。

「ほらぁ、あんたももっと飲みなさいよぉ」

珍しく酔ってるのか、妙に上機嫌で横島に酒を勧める。

「今更未青年がどうとか言うつもりは無いけど…そろそろ限界っす…」

こっちは青い顔で口元を押さえてる。

「だらしないわね、そんなんじゃ一流のGSにはなれないわよ」

「関係あるんすか?それ?…それにしてもおキヌちゃん本当に楽しそうでしたね、初めての誕生日パーティーよっぽど嬉しかったんだろうな」

皆からのプレゼントに囲まれ、幸せそうな顔で寝ているおキヌを見ながら横島がつぶやく。

「そうね…それにしてもあんた、随分と気張ったのをプレゼントしたじゃない。あれ安くはないんでしょう?安月給の分際で」

先ほど横島からプレゼントされたイヤリングを嬉しそうにつけていたおキヌを思い出す。

「そう思うのなら時給あげてくださいよ…しかしいいなぁおキヌちゃん。あんなにプレゼント貰えて」

「何?あんたプレゼント欲しいの?」

「そういう訳じゃないですけど、俺美神さんからまともなプレゼント貰ったことないから一度くらいは何か欲しいなぁって。ちなみに俺の誕生日来月っす」

「ふ〜ん、そんな事思っていたんだ。まぁ最近はあんたもそこそこは役に立ってるし…そうね、誕生日プレゼントってわけでじゃないけど一つだけ願い事言ってごらんなさい。聞いてあげるわよ」

「へ?」

「だから、願い事を聞いてあげるって言ってんの。まぁ、叶えられる範囲だけどね」

「ま、マジっすか?」

「そ、マジ。ただこんな事そう何度もあると思わないほうがいいわよ。それこそ一生に一回かもしれないんだからようく考えてから言うのね」

「え、えっと…それなら時給上げてください!」

「却下」

即答だった。

「却下って…じゃあ一晩俺のものに」

「認めん」

「下着を…」

フォークを喉元に突きつけられつつ

「死ぬ?」

他にも様々な要求を言ったが、美神は全てを一言で切り捨てていった。

「うう…結局のところ願いなんて聞く気無いじゃないですか」

半泣きで訴える横島。

「そんな事無いわよ〜。さ、言ってごらんなさい」

相変わらずニコニコとしながら言う。

「まるっきり信憑性が無いっすよ…え〜と、では俺と結婚を」

「いいわよ」

「それならば裸エプロンで………ってはい?今何と?」

どうせ『身の程を知れ』といった言葉が出てくるだろうなぁと思っていた横島だったが

「いいわよって言ったのよ」

「えっと…すんません、ちょっと耳がおかしいみたいで…それとも酔ってるのかな?今美神さんが何か俺の、『結婚して』にOKと言っている様に思えて…」

しきりに耳をいじくったり頭を振ってる横島を、美神はいたずらっぽい笑顔で見ていた。

「さて、皆酔いつぶれちゃったしそろそろお開きね。横島クンはシロとタマモを部屋に連れて行って。私はおキヌちゃんを連れてくから」

「あ、あの美神さん?」

「かおりちゃん達もおキヌちゃんの部屋で休ませましょうか…さすがにこんな状態で家に帰すわけにはいかないし」

「もしも〜し!?」

「他の連中はそのままでもいいわね。じゃ私も休むわ、お休み横島クン」

あくびを一つして美神はそのまま部屋を出て行った。

しばらくその場に呆然としていた横島だったが

「…ああそうか!美神さんも酔ってるんだな。うん、そうに違いない!いや〜びっくりしたな〜、まさかあんな言うなんてな〜。ま、悪い気はしなかったけどね」


これが一月前のことである。翌日の美神はいつもと何ら変わりなく、やっぱりあれは酔っていたか、いつもの自分の妄想だなと納得していた。

それが今日の朝、18の誕生日の日にいきなりたたき起こされたかと思うと、教会に拉致され服を着せられ現在に至るのである。

「俺、本当に今から美神さんと結婚するのか?さっきから何百回と頬をつねってるが夢じゃ無さそうだし…しかし何故だ?あの美神さんが俺と結婚?理解できん…」

頭を抱えうんうん唸っていた時、ドアが開き一人の男が入ってくる。

「よう、何唸ってんだ。ちっとも嬉しそうじゃないな」

そう口の端をゆがめるような意地の悪い笑顔で話しかけてくるのは横島の親友(悪友)であり、戦友ともいえる伊達雪之丞だ。

「まぁ結婚は人生の墓場とも言うからな。優雅な独身生活もなくなったことだしこれからは束縛された人生をゆっくり楽しむことだな」

「おまえ…祝福しにきたんじゃないのか?」

「勿論祝いに来たさ。こうやってなけなしの金もつつんだんだろうが」

そういって出した袋は香典袋だった。

「待てコラ。その袋はなんだ」

「いやそこのコンビニで買おう思ったんだがこっちしかなくてな。まぁこういったものに大事なのは気持ちだから問題ないだろ?」

「その気持ちを疑うと言ってるんだ!」

「まぁまぁ二人とも…それにしても横島さん、おめでとうございます。急なことだからびっくりしましたよ」

「まったくですのー。まさか横島サンがこんなに早く結婚するとは」

同じく友人のピートやタイガーもやってくる。

「ま、この袋でも同じことだろ?あの美神令子との結婚だ。死を覚悟していなければ出来やしない。いや死と同意義と言ってもいいくらいじゃないか」

その言葉に何か反論したいのだが出来ない。ピートもタイガーも苦笑いするのみである。

「で、でも本当に元気ありませんね。マリッジブルーってやつですか?」

「いや確かにブルーではあるが…根本的なところで理由が違うんだな、これが…」

「まぁ急に決まったようですしね。三日前出先で聞いたときには耳を疑いましたよ」

「わっしなんか聞いたのは二日前ですけん、今日間に合うかどうか微妙でしたのー」

「俺もだ、丁度香港で仕事してたからな。急いでとんぼ返りしてきてやったんだからありがたく思えよ」

「そ、そうか、すまなっかたな。何分急に決まった事だから…(今朝知った俺が一番最後かよ…)」

本当のことを言えず適当に誤魔化すしかなかった。

「ところでだ、どうしても聞いときたいんだが…いったいどうやって美神の旦那を口説き落としたんだ?」

「そういうのはあまり聞かないほうが…」

この中では一番常識人のピートが一応たしなめる。が、その顔は好奇心を隠しきれてない。

「あの美神令子をだぞ?興味ないのか?…それに弓からも是非聞き出してこいとも言われてるしな」

後半の方はやや疲れ気味だ。すでにこの二人にも上下関係は決まっているらしい。

「そ、そんな事言える訳ないじゃないか、アハハハハ(俺のほうが聞きたいわい!)」

やはり本心は言えず、乾いた笑いを出すだけだった。

そんな横島の苦悩など露知らず、三人は二人の馴れ初めについて話しはじめる。

「少なくとも弱みを握ったとかじゃないよな…素直に脅迫に従うようなタマじゃないし、第一その前に口封じされるな。催眠術とか洗脳の類か?」

「厄珍から妙なアイテムでも手に入れて、それがうまくいったんじゃないですかのー」

「まさか…横島さん何か高額な保険金でもかけられたのではないですか!?いけません!はやく逃げてください、下手をすると数日中に不慮の事故死とかに!」

「お前ら、本当に祝う気は無さそうだな…」

友情を噛み締める横島だった。


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