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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter1.MAGICIAN 『醒覚>>魔法陣』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 2/ 3



ゆるゆると目を開ける。

見えたのは、硬質な光沢をもつ半球状の天井だった。

ゆっくりと身を起こして、首を巡らす。

天井どころか、この部屋全体が半球状のドーム型をしてるようで、ドアは一つ。

ドームの上部には、おそらく硬化ガラスだろう窓がついている。

部屋の中央にあるベッドに腰掛け、ぼんやりとしていると、小さな電子音がしてドアが開いた。

ファイルバインダーを持った青年がこちらへと歩み寄ってくる。


「…起きたようだね。」


その表情からは、巧妙に隠しているのだろうが、どこか警戒の色が見えた。

おそらく、自分が武器を隠し持っている可能性を警戒しているのだろう。

そんなものは無駄だというのに。

分かったところでどうにかなるものでもないし、もとよりこの人に危害を加えるつもりもない。

青年はベッドの傍らに置かれていた椅子に腰掛け、ファイルを開く。


「早速で悪いが、事情を聞かせてもらうよ。僕は西条輝彦だ、よろしく。」


まずは自分が名乗り、相手の名前を聞き出す…定石どおり。

にこやかな挨拶の裏にある真意は、とりあえずこちらの警戒を解こうといったところ。

もっとも、彼らに対して警戒なんて、するはずもないのだが。


「……刻真。姓はない。…ただの、刻真だ。」



          ◆◇◆



「やはり、ダメみたいね。」


戻ってきた西条に、美知恵は特に落胆した様子もなく言う。

西条も、「ええ。」と頷き返す。


「自分の素性に関しては、完全に黙秘しています。それ以外の情報なら渡すと言っているんですが。」

「こちらに敵意がある可能性は?」

「…いえ、その線は薄いと思います。」


西条の言葉に、「そう…。」とだけ返し、美知恵は窓から下を眺める。

視線の先では、刻真と名乗った少年がベッドに横になって天井を見上げていた。

先ほどまではどこか苛立っているようにうろうろしていたが、それでも暴れだすということは無かった。


「…あなた達の意見はどう?」


美知恵が振り返った先では、美神たちがモニターに映し出されている少年を見ている。


「早く出してやるヒホ! これじゃあ、まるで犯罪者扱いヒホ!」


ノースが手を振り回して抗議する。

犯罪者も何も、刻真は不法侵入の現行犯なのだが。


「……拙者も、そう思うでござるよ。」


ちょっと遠慮がちに同意したのは、シロだ。

助けられた恩を感じての発言だろうが、相手の素性が知れない以上、強くも主張できないようだ。

美知恵は困ったように苦笑する。

そうしてあげたいのはやまやまだが、状況が状況だけに念のため、こういう扱いにならざるを得ない。

ちらりと横島を見る。


「…横島君、どう?」

「それが…やっぱダメみたいッス。」


言ってるそばから、横島の手の中の文珠が、軽い音を立てて割れる。

先ほどから、横島の『模』の文珠で裏付けをとろうとしているのだが、上手くいかない。


「アシュタロスの時みたいに、ジャミングみたいなのが効いてるみたいで…。」

「霊的干渉に強い耐性があるようね。さて、どうしたものかしら…。」


とりあえず敵意はないらしいが、もしもそれが演技だとしたら…。

思わず頭を抱える美知恵。


「…別にいいんじゃない?」


ふと、モニターを眺めていた美神が口を開く。


「このままじゃ結局、何も進まないしね。とりあえずは話を聞いてからでしょ。」

「…やっぱり、それしかないわね。西条君、彼をブリーフィングルームに通してちょうだい。」


美知恵の指示に、西条は頷いて部屋を出る。

ぞろぞろと皆が移動する際、美神の袖をタマモがくいくいと引っ張る。


「何? どうしたの、タマモ?」

「美神さん、あのね……ううん、いいや。何でもない。」


曖昧に笑うタマモを訝しがりながら、美神はすっと部屋を出て行く。

その後を歩きながら、聞こえないくらい小さな声で、タマモがぽつりとこぼした。


「…なんでアイツから、あの匂いが…?」



          ◆◇◆



円卓についた美知恵は、向かいに座っている少年を見据える。


「刻真君…だったわね。聞きたい事は山ほどありますが、まず『アクマ』について聞かせてもらえますか?」


対して刻真は、逸らしていた視線をちらりと向ける。

その態度からは、美知恵らに壁を作っていることが、ありありと窺えた。

だが、話すつもりはあるらしく、少し考え込むようにして口を開く。


「…どこまで、知っている?」

「通常の魔族と異なり、魔界の住人でないこと。また、天使や精霊も含めた総称であること。」


「彼が教えてくれました」と美知恵が指し示したのは、シロやタマモと話しているノースだ。

刻真はそれを一瞥して、納得したように頷く。


「だけど、それ以外は全く分かっていません。どこから来たのか、また具体的にはどういう存在なのか…。」

「何か知っているのなら、教えて欲しい。」


美知恵、西条の口調こそ穏やかなものの、そこには有無を言わさぬ何かがあった。

これも一種の職業病なのだろう。

だが、それを受けても刻真の態度に変化は見られず、彼は変わらぬ調子で答えた。


「彼らは『召喚』された存在だ。」

「召喚? 一体誰が…。」


美知恵の言葉に、刻真が無言で指し示したのは…。


「わ、私!?」

「令子!? あなた…ッ!!」


今の今まで、無言で自体の成り行きを見ていた美神だ。


「み、美神さん…何て事をしとるんですか、アンタはーッ!!」

「アホかいッ!! そんなわけないでしょーがッ!!」


詰め寄る横島に、美神の突っ込みが飛ぶ。


「令子!! あなたはやって良い事と悪い事の区別もつかないの!?」

「ママまで…ッ!!」

「いやいや、隊長。それは今更ッスよ。この人は前からそんなもんの区別は…。」

「おのれは黙っとれ!!」


横島の顔面に、美神のフィニッシュブローがめり込んだところで、ドタバタ終了。

一方、それを静観していた刻真の指は、さらに別な人物を指す。


「お、俺!?」

「横島君、アンタが!? …って、横島君にそんな真似できるわけが…。」


それどころか、刻真の指は次々とその場にいた人物を指していき、最後に彼自身を指した。


「つまり、俺たち全員…いや、この世界全ての人が召喚者なんだ。」

「? よく、わからんのでござるが…。」


シロが、頭を抱えてぼやく。

美知恵や西条すら、当惑した表情を浮かべている。

だが、それを意に介した様子もなく、刻真は淡々と話し続ける。


「現在、ネット上にとあるウィルスプログラムが流れている。ほんの数バイトほどの画像データを載せたものだ。」


そういうと、彼は胸のアミュレットに手を伸ばし、それを二つに割った。

いや、最初から小物が入るようになっていたらしく、中から小さなメモリーディスクを取り出す。

西条はそれを受け取ると、すぐに自らのノートパソコンを起動させ、それを挿し込む。


「パソコンのモニターは言うまでもなく、テレビや携帯電話のディスプレイにまで、それは映し出されている。」


とりあえず、ディスク内をチェックしてから、西条はそのデータを部屋のモニターに送る。


「わずか20ミリ秒以下の映像…サブリミナル効果で潜在意識に焼き付けられた召喚魔法陣。」


壁一面を使った大画面に映し出されたのは、奇妙な魔法陣だった。

二重円の内側に六芒星。

星の頂点の内側には、神の名テトラグラマトンの綴りが六分割されて書かれている。

そして中央には、人の顔…仮面が描かれたそれ。


「デジタル・デビル・サモン・プログラム…DDSプログラム。それが、そのウィルスプログラムの名前─。」


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