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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter1.MAGICIAN 『叫号>>醒覚』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 2/ 1



「ヒャクメ様! 彼は?」

「まだ眠っているのねー。」


壁の穴から戻ってきた西条に、ヒャクメはベッドを指差す。

そこには、例の少年が何も知らず、ただ静かな表情で眠っている。


「そうですか…とりあえず、連れて行かないと。」

「この場合は仕方ないですねー。」


本気で渡す気などないが、ことは人命に関わる。

西条はほんの少し、落胆したような溜息をついた。

もし、少年が起きていたのなら、そのまま逃亡してもらおうと思っていた。

そうすれば、奴は氷室さんを放して、少年を追うだろうに。

だが、少年は眠り続けたままだ。

西条は、少年を抱え上げながら、わずかに目を細めてその寝顔を見つめる。


「君は、一体…。」






          ◆◇◆







彼は、未だ混沌の中にいた。

もはや彼の意識も、周囲に渦巻く混沌に呑み込まれようとしていた。

徐々に意識が輪郭を失い、溶けだしていく。


悲鳴…?

ダ…レ…?


不意に耳に届いた悲鳴に一瞬反応するが、すぐにその疑問も、果て無き混沌に溶けていく。

彼の自我がついに、混沌の中に沈んでしまう瞬間。




《やめろぉぉぉぉーッ!!!》




ふいに、そんな叫びが木霊する。

彼は閉じかけた瞳をわずかに開いた。


《あの時誓った!!》


ナ…ニヲ…何、を…?


《もう何も失わない!!》


そう…そうだ…失いたくないんだ…。


《今度こそ》


ああ、そうだとも…今度こそ…





『守ってみせる!!』





          ◆◇◆





「やめろぉぉぉぉーッ!!!」


横島の叫びが木霊する。

だが、その腕は届かない。

美神の神通鞭も、タマモの疾走も、届かない。

間に合わない。

シロの胸に槍が吸い込まれると思われた刹那。





光が奔った。





タマモの横をすり抜け、美神の神通鞭を追い越し、横島の顔の横を一直線に。

一発の銃声とともに。

閃光は槍を砕き、そのまま直進して地下施設の壁に穴を穿つ。


「な…何が…ッ!?」


そちらを振り返ったエリゴールの、それが最後の言葉だった。

それを放った者の顔を見ることもなく、彼の頭部は続く光芒に貫かれた。

ゆっくりと後方に倒れながら、塵と化して消えていくエリゴール。

美神たちが愕然として、その光のもと、医務室の方向を見る。



少年が立っていた。

西条を押しのけるようにして、その手に黒い銃を構えて。

抱えた意志の如く、真っ直ぐに─。






          ◆◇◆





某国某所。

黄色を基調としたローブ、いや法衣をまとった男が、ふと何かに気付いたように顔をあげる。

やけに天井の高い広大な回廊を歩いていた男は、しばらくそのまま動かない。

ふいに、通路の物陰から涼やかな声が流れる。


「いかがなさいましたか?」


男は、姿なきその声に答えるでもなく、ただ満足そうな笑みを浮かべる。


「やはり、貴方もここに…。」

「何か?」

「…いいえ、何でもありません。」


男は柔和な声で答え、小さく首を振ると、またコツコツと歩き出す。

その顔からは笑みが消え、代わりに敢然とした輝きを宿す瞳があった。

その口から小さな呟きが漏れる。


「…止まるわけにはいかない。止めるわけにはいかない。例え、貴方が幾度阻もうとも…。」


その呟きは、男の決意。

だが、その決意は誰の耳にも止まることなく消えていく。

そう遠くない場所で、鐘の音が響いていた。






          ◆◇◆






鳥居の上で、金色の蝶が羽を休めていた。

下では、ふたたび少年が倒れこみ、美神らがそれに駆け寄っていく。

その騒ぎを、蝶は静かに見つめている。

その行く末を案じるように。

その行く末を見守るように。

少年がふたたび部屋の中に運び込まれていく。

そこまでを見届けてから。

ひら、と。

蝶はまた、どこかに向けて飛び去った。


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