椎名作品二次創作小説投稿広場


悲しみの代価

願いの履行(弐)


投稿者名:朱音
投稿日時:05/ 1/28

今回の事は老師様の口ぞえもあり、人界での活動を円滑に進めるためかつて妙神山で修行した中でも実力のある人物を選んで助力を願った。
ただし、一番確実に頼れる人物。
弟弟子に属する人物は、確か忙しいと言っていたのを思い出した。
確かに彼はまだ学生で本分は勉強、そして合間にGSとして活動している。
今や一週間に一回来る程度になってしまったが、修行にも来てくれている。
小竜姫にとって実質的には弟弟子では有るが、気分的には兄弟子と感じている彼の手を煩わせるの

には少々抵抗があった。
故に自分とほぼ対等に渡りあった美神に白羽の矢を立てたのだが・・・。

少し、否。

多少、否。

可也、心配になってきてしまった。

が、ここで以外な人物が自分達に声を掛けてきたのだ。

「やあ、こんな所で一体どうしたのだ?小竜姫。それに・・・美神令子さん、でしたね?」

その言葉に振り向いて目にしたのは、口元だけに笑みを浮かべて此方へとやってくる横島さんだった。
心持ち気が楽になったのを感じた。


※ 


あからさまという程では無かったものの、小竜姫のピリピリしていた雰囲気が幾分か柔らかさを取り戻したのを感じた。

やはりと言うべきか、対照的に美神の機嫌は少々低下したようだ。
諦めていた事とは言え対照的な感情をあてられて居心地が悪い。

「横島さん!奇遇ですね。私は老師様の口ぞえで偶には見て来いと、そう言えばお二人はお知り合いで?」

「一度だけ、依頼で会った事があるんだ」

そう、たった一度だけ会っている。

残念な事に雪之丞の第一試合は呆気なく終わった様だ、対する陰念はシロと当たっていた。

試合開始の号令と同時に先に動いたのはシロ。
生まれながらの脚力で一気に間合いを詰める。
対する陰念は最初の一瞬を魔装術に費やした。故にシロの初撃は阻まれた。

そのまま一度間合いをあけたままにするかと思ったのだが、意外にもシロは陰念へと突っ込んでいったのだ。
見た目にはシロは霊的保護・武装はしていない・・・・様に見えるだろう。だがソレは違う。
彼女は自身の最大の武器に大半の霊力を注いでいた。

陰念とシロが交差した瞬間、陰念の魔装術が右半身解除された。否、させられた。

「上手い」

思わず関心の声を横島が上げる。

その声に気付き、美神と小竜姫が会場のシロを凝視する。

「あっ!」

先に気付いたのは美神だった。
「あの仔、牙から霊波を・・・」

そう、彼女は何時ぞや横島に言われた言葉を実行していた。
即ち己が武器を強化する事。

無論、牙だけでなく爪にも収束している。
その為シロは素足だ。
足の爪から収束された霊気は狼の姿と同様に、地面に食い込み安定感をもたらしてくれる。

例え人身に身を変えようと自分が狼である事は確かな事であり、又それは自分にとって最大の武器であるのだ。
己の脚力を駆使し、獲物を己が牙で引きちぎる。
ソレは慣れ親しんだ行動であり、最も自分が自然に行える戦闘方法だ。
おかげで霊波の移動はすんなりと進み、手に集中した時よりも鋭利なソレは霊波刀というより霊波牙と言ったとこであろう。
一点集中された霊波は破壊力を増す。

「霊気の塊すら引きちぎるか。見事だな」
「そうですね。焦らずに攻撃すれば勝てます」

事実経験の差を天性の身体能力で圧倒。
ブチ切れた陰念は暴走し魔装術にのまれてしまった為、雪之丞の手により沈黙させられた。
試合が終わり周りを見る余裕が出来たシロが此方を見る。
とたん、何が嬉しいのか万遍の笑みで此方に手を振る。

「良くやったわシロ!」

気付いた美神もシロを褒めた。

「横島殿〜!!!」

が彼女の口からは美神の名では無く、横島の名が出た。

「・・・なぜだ?」
「さぁ?」

無論の事、美神の元に戻って来たシロはぶん殴られた。
神通棍で。

それ以上傍に居てもシロのタンコブが増えるだけのようだったので、横島は美神達から離れた場所へと移ることにした。

「小竜姫。我々はあちらの試合を見に行くことにするので、これで失礼するよ」
「あっ・・・そうですか」

少し肩が落ちた気がしたので、会場内には居ると言ってみたら途端に笑顔になった。
横島には謎が深まるばかりで、近くで隠れているツバキの遠慮がちな笑い声がするばかりだ。

美神と離れ暫くしてから、タマモの試合も始まった。

タマモは、適度に遊びながら相手をしていた。
なんとも可愛そうな表現ではあるが、それが一番しっくりと来るのだ。
相手はどうやら今回初めて試験なのだろう、しかもかなりの初心者である事が見て取れる。
拙い攻撃は正直すぎて直ぐに軌道を読まれ簡単にかわされてしまう。

五分ほど遊んだタマモは飽きたとばかりに狐火で相手を囲い、戦闘不能と判断されるまで対戦相手は焼かれた。
それでも死んでいないのが不思議だ。

そして次の二次予選一回目の予選者が呼ばれる。
それは勘九朗の名だったが、未だにその姿は見せていない。
よってその試合は相手の不戦勝が決定してしまった。

なぜか勘九朗だけが姿を見せていない。
メドーサは先ほどしてやったりという笑顔で小竜姫と対峙しているのを見た。

だか、もう少し興味を引く相手が会場の隅にいた。


「・・・ほう。まさか来ていたとはな」

小さく呟くと、二回戦の予定組みが発表された。





西条は、いやこの姿では西条とは解らないだろう。
以前のように特殊メイクを施しているので渡辺と呼んだほうが良いのかも知れないが、とにかく彼は今現在なぜかGS検定試験を実に来ている。
念のため言っておくが、スカウトではない。
いや心の隅では何人か引っ掛けて起きたい所だが、GS協会のお膝元でそんな事をしたら後々愚痴をこぼされてたまったものではない。
とは言っても目の前でGS試験を行われては、なんとなく評価をつけてしまうものだ。

「うーん。彼はいまいち・・・即戦力になりそうなのはー」

幾つか分かれている試合会場を物色。
今声を掛けずとも、いつかは掛けようという魂胆らしい。

「お久ぶりですね。渡辺さん」

背後から気配なく声を掛けられ、一瞬臨戦態勢に入ってしまう。
それだけ西条は驚かされた。

普段も気配は読むし、霊波にも敏感に察知できるようにしている。
職業柄習慣付いていたのに、相手は気配をさせずに近づき声を掛けてきた。

(もし現場ならアウトだね、僕は)

暢気に考えるものの目の前の人物には多少なり負い目があった。
出来うる限りの笑顔を貼り付けて、何事も無かったカの様に返事を返す。

「こんにちは。横島さん」

「ええ、こんにちは。こんな場所で会うなんて、スカウトか何かで?」

横島もさして気にもしていない様子で気軽に答える。

彼に関しては解らない事ばかり。

西条の上司が言うには、平々凡々な暮らしをしている一般家庭で育ったらしい。
らしいと付いてしまうのは今現在の彼を見れば分かる事、どう見ても平凡とは思えないのだ。
熟練の霊能力者にしか見えない。
つい数ヶ月前に始めてGS検定試験を受けたとは思えぬほどに、前歴もなく実に呆気なく彼はB級ライセンスを取得した。
普通ならば誰でもC級ライセンスからしか取得は出来ない。あの美神令子であっても、駆け出し時代は存在している。
それを彼は曲げた。
輝かしい前歴と後ろ盾を持った受験者をいとも容易く倒してしまったのだから。

後に入手した試験ビデオで確認しても、長くても一分しか競技場に立っていない。
理由は簡単だ、それ以上の時間対戦相手が立って居られなかっただけの事。

しかし、それは脅威だ。
脅威ならば引き込んでしまえばいい。
それが協会側が出した結論だった。

流石にA級ライセンスを初めての資格取得で与える訳にもいかなかったために、B級ライセンスから始まったのだが・・・彼の実力など未だ誰も見ていない。

底が計り知れない。

知らず西条の背筋に汗が伝う。
飛んでいる記憶。
ぎりぎりまで覚えているのは最後の会話のみ。
それがどうしようもなく不安感を募らせる。

「不思議ですね。あの後土地神は消えたというのに土地は疲弊しなかったのですよ」

そう、土地神ごと妖樹を葬ったのであれば、土地は疲弊し水は腐るもの。
なのにそうならなかった、現状を保ったままである。

「そうなる様に代わりを立てましたからね」

一体自分の記憶を消した間に何をしていたのか、覚えていない事が実に残念である。
人が擬似的にでも神を作ったのだらか。


会場ではタマモ対雪之丞の試合が始まる所だった。


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