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BACK TO THE PAST!

楽園の夏


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 1/26


「・・・夏だ」

「夏でござるな〜」

「・・・暑いな」

「暑いでござるな〜」





・・・・。



時がたつのは速いもので、いつの間にか季節は待つ真っ盛り。

もうだいぶ霊力が回復してきたハズの横島は、解ってはいてもついなるべくその事を考えないようにする毎日である・・・・・。
「(今大体八割方回復・・・・やはり全快を待ってから去った方がいいな。うん)」
解ってはいても・・・ついそう考えてしまう・・・。




そんなある日の事である。かぁ〜〜〜〜〜〜っ!!と容赦なく巨大なエネルギー送りつけてくる夏の太陽に、半ば溶かされたかのように畳にへばりつく二人の姿があった。別にへばりついて居るからと言って数秒後に「どこんじょぉぉぉおお!!」などと叫びつつ復活するわけでもない。(うわっネタ細か!)

しかも珍しく、横島は黒スーツを脱ぎ捨て、ジーパンにTシャツ一枚という格好だった。
魔神といえども、獄炎に耐えられても、暑いものは暑いらしい。
魔神と呼ばれるようになってからは片時も外さなかったバイザーまで床に転がっている。


愛は猛暑ごときに敗北したのだ。嗚呼、ルシオラが泣いている。


ちなみにその傍らのシロは、やはりTシャツと、昔からお決まりの裾を裂いたジーンズだ。





その日の暑さを象徴するかのごとく、今朝畑から取ってきたスイカの皮と、カキ氷の器(推定)が近くに転がっている。



みぃ〜んみんみんみんみんなのってるかぁ〜〜〜い!?

つくつくぼーしつくつく・・・・ぐばっぁ!!←(『ツクツク暴死』を表現したかったらしい)

家の外からは、思わず『殺虫』したくなるような蟲のシャウトが、絶え間なくなだれ込んできた。




「先生・・・このままでは茹だるでござる・・・どこか涼しい所へ行きましょう」
シロが、はっはと息をしつつ、舌を出しながら言った。
汗でぴったりとくっ付いた髪や衣類が色っぽい。

暑い・・・か・・・・水がほしいな・・・・・そういえば水と言ったら何だ?・・・・・魚だよな・・・んで魚といえば・・・・



「・・・・なら釣りでも行くか?」

同じく耐え切れなくなった横島は、ふとそう提案した。












ここは横島たちが住んでいる居空間にある海。
湖では無い。紛れもない海であった。
ヨーロッパの魔王と呼ばれた男が、どっかから気に入った海域を切り取ってきたものである。

「カオスのやろー・・・限りある資源を荒しまくってるな」
しかし、そのおかげで今自分達は釣と言う行為をする事ができるのだから、一応はかの人の破天荒ぶりに感謝しておいた。


「うし、釣るぞ」

「ハイでござる!」
横島といっしょに何かをすると言う事が、無条件に楽しい彼女は嬉しそうにそう言ってニコニコ。そして家から持ってきた生肉のこま切り入りのバケツをよっこらしょとその場に置く。

「餌はこの肉を使って・・・あれ、でも針も糸も釣竿がないでござるよ?」

「釣竿なんか俺達には必要ないのさ。いいか・・・?よく見てろよ」
横島は少し面白そうにそう言い、ハンドオブグローリーを展開する。
「シロ、お前はこの技の事を形が変えられる剣の用に思っているだろうが少し違う・・・。この技はイメージ次第で自在に形を変えられる・・・なんと言うか『触手』みたいなものだ。だから固定概念なんか持たなければこんなこともできる」

横島はハンドオブグローリーに念を送った。すると・・・
「おお、何て器用な・・・」
驚くシロの前で、ハンドオブグローリーは市販されているような釣竿の形へと変形していった。しかもリールまでついている。並大抵の集中力ではこんなことは出来ない。

「どうだ、また一つ横島流の奥義が増えただろう?ハンドオブグローリー、それすなわち霊波の触手なり。やり様では精密な機器をもかたどれるであろ〜・・・なんてな」
横島は、一旦竿の形を崩し、たこの足のようにうねうねさせて見せた。
「そうでござるな。・・・・・・しかし、触手でござるか」
シロが少しばかり眉を寄せる。
「う〜ん。言いたい事は解る・・・。でもこれが一番しっくり来る表現なんだよね・・・」
「・・・・でもやっぱり少しばかりえっちいでござるなぁ・・・」
「・・・・シロ、こーゆープレイが好きなのか?」
「い、いや・・・そういうわけでは・・・」




・・・・・・。



びゅるるるる!

突如、横島のハンドオブグローリーは十本の指に分かれ、それぞれが独立してうねり始めた!!!
「ふはははははは!!」
うねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね・・・。
「きゃぁああああああ!!!」





ぱーーーーん





大空に小気味のいい音が響き渡った・・・。





青い空。焼け付く太陽。
炎天下・・・シロと横島はおとなしく釣り糸を垂らしていた。

ただし横島の頬にはくっきりとした紅葉が張り付いていたが・・・。


そのせいか彼は少し拗ねているようだった。


――――全く・・・このお人は・・・。

そんな彼を見るシロはクスリと苦笑した。


どんな時でも自分らしさを見失わない・・・。それがどんな内容であっても見上げた根性だ。
思わず身の危険を感じ頬をはたいてしまったが、さきほどの行動だとて、本気でやった訳では無いはずだ。


凄い。と心のそこから思う。

愛するものに先立たれ、世界中から孤立してもなお、しっかりと前を向くためにどれほど苦労したか、父を失ったシロにも良く解った。


しかし彼女は、それと同時にその強さに隠された危うさというものを感じ取っていた。

悲しみを乗り越えた、と言っても体の傷とは違い心の傷が完全に癒える事はありえないのだ。
体の傷に対し、心の傷というものは、覆い隠す事は出来ても塞がる事は無いのだ。
たとえ一見、回復しているかのように見えても心の傷は決して癒えはしない。

そして被せられたフタの下で、永久に人を苦しみつづける。


そして横島は、半ば意地で心に傷にフタをしているように見えた。
そのおかげで今はしっかりと自分の足で立っている。しかしこのままではいつか、ちょっとした事で心の闇に押しつぶされ崩れ落ちる日が来るだろう。


――――その時は・・・・自分が彼を支えてやれればいいな・・・。
彼女はそう思った。

しかし今のままではそれは不可能に近い。
なぜなら横島は極端に他人を避けるからだ。いや、むしろ恐れている。

怖いのだろう・・・他人の事が。


なので、ここまで親密な中になったシロにさえ、彼は本当の自分を見せず、先ほどのように昔の自分をトレースしていた。

また、ここに居る期間じゅう、彼は何をするにも(昔の横島からでは想像も出来ないが夜のアレであってもだ!)自分から誘ってきてくれた事は無い。

周りを不安がらせないがために自分を殺しつづける彼を見るのは・・・彼を案ずる者にとっては胸をえぐられるほど苦しいものだった。


――――まずは・・・どうにかして信用してもらわないといかんでござるなぁ。

シロは何故か釣りの定番『長靴』を釣り上げて呆然としている横島を見て、小さく溜め息をついた。






ああ、水平線の近くでネッシーとタマちゃん(アザラシ)が仲良く遊んでいるのが見える。





「・・・・・にしても、釣れないな」
しばらくして、突然横島がそう呟いたのを機に、ぼーっと肉類を使ったデザート類への挑戦について考えていたシロは現実に戻ってきた。

「この海・・・ほんとに生き物居るのか?」
横島は『リール付きロッドで、肉塊を刺した針を遠くに飛ばしながら』言う。そう言えば今日のヒットは先ほどの長靴の中に偶然入っていた平家ガニ君だけだ。
「いや、居るには居るみたいでござるよ?先ほどから何度か魚が跳ねるのをみたでござる」
シロは『人間における一口台ぐらいの大きさ』の肉片を針に刺しながら返した。(ちなみに針の大きさは人差し指の先ほど)





「何がいけないんだろーな?」
「さぁ・・・?」





・・・・・・・・・彼らは釣りというモノをナメていた。



しかし・・・


くくくくっ!!

「おおっ!!掛かった!」
突然横島の竿が大きく動いた。
「先生!落ち着いて引くでござる!」
「わかってる!・・・重い、大物だ!」
横島はぐるぐるとリールを巻き取った。
そのやり方は、釣りキチ三平が見れば、すぐさまロッドを奪い取り「釣りをナメるな!!」と絶叫しながら叩き折るほど大雑把なものであったが、元が横島のハンドオブグローリーであるがゆえ糸が切れる事も針が外れる事もない。

「よし、もうちょい・・・・ふぃっしゃぁ!!」



まるで神話に出てくる海の怪物のごとく豪快に水を割り、しぶきを上げ、満面の笑顔の彼らの前に現れたのは・・・糸を括り付けられた大きな岩だった。

――――は?

シロと横島の思考は一致した。
しかし、その直後その謎を上回る重大な事に気が付いた。

「あ〜っ!餌のバケツがないでござる!!」
まだ半分以上肉塊が詰まっていたバケツが、忽然と姿を消していた。
一体何処に・・・と二人は消えたバケツを探す。するとここから数メートルほど離れた所の海の上に、問題のバケツを発見した。

バケツは12歳ぐらいに見える男の子に抱えられていた。
男の子は人魚だった。

「なんなんだ?」
謎が謎を呼び、訳もわからない横島、しかし人魚の少年が

――――ニヤリ・・・。

と某機関の指令ばりの笑みを浮かべた時全てを理解した。

先ほど釣り上がった大岩は陽動だったのだ。
すべてはあの少年がこちらのバケツを盗むために仕組んだワナだったのだ。

少年は、チャポンと水に沈みあっという間に見えなくなった。

その後、残された彼らは全てから興味を無くした。怒る気力もバケツと一緒に持っていかれた。
「もーどーでもいいや・・・」ドサリと地面に寝転ぶ。
「帰りましょう・・・そしてカオス殿にエアコンを買って来てもらう出ござる」

それが良く考えれば一番無難だった。






その頃・・・・・・ムンムンと熱気立ち込める真夏の密室空間のDrカオス研究所では、その主たる老人が巨大なコンピューターに向かい、常識を軽く逸脱したスピードでキーボードの上に指を走らせていた。

ずががががががががががががががががががっ・・・・がっ!

そして、目的の操作は終了に近づき、トドメのエンターキーを叩き込む。

「やれやれ、やっと繋がったわい。最近はハッキングも難しくなったのー」
カオスは手を止め一息をついた。空調を動かしていないので、ナチュラルな暑さの中に居るために汗だくだ。つーかつけろよ、クーラー。

ディスプレイには『横島に対する記録と今後の方針。および横島によるデタント崩壊への可能性(極秘)』というファイルが映し出されていた。

カオスの手の中のマウスがカチカチと音を出し、そのファイルが開いた。
「ふむ・・・大体の内容はやはり『横島忠夫はGS本部の重役を皆殺しにした。よって極悪人』『横島忠夫はほぼ全人類から一定の記憶を消去した。よって極悪人』『横島は度重なる神魔族の殺害の犯人。よって極悪人』・・・だな。だからと言って殺されはしても永久に魂を封印される罪になるものか。何としても横島の魂を何処かにやろうという意図が見え見えじゃ。しかも最後など自分が送った刺客を返り討ちにされただけじゃろうて・・・。
ん・・・何だこれは。ほぼ当て付けのような罪まで・・・」
カオスはぶつぶつと一人言を言いながらそれらを閲覧する。
これは数年前からの日課だった。

そして今日もその日課を終え、ハッキングがばれないうちにコンピューターを閉じようとしたが・・・、

「む・・・何かあるな」
操作していくうちに何と更なる隠しファイルを発見した。なんとも巧妙に隠されている。

「しかもIDとパスが必要なのか・・・どれ・・・」
カオスがだかだかとキーボードを操作すると、やがて隠しファイルは観念して口を開いた。
「ふっ、チョロイわ・・・。しかしここに通じるID、どれも神族過激派がつかうものだぞ?」
彼が怪しい香りを感じた次の瞬間、


がっ・・・がががが・・・・ピーーーー。


――――OKブラクラゲット。流石だな俺。



・・・ではない。

「なぬっ!ウィルスだと!!」
画面はブラックアウトし、周辺機器は沈黙した。追い討ちのようにモクモクと煙まで上がってきた。明日には粗大ゴミとして出さねばならないだろう。


「クソ・・・ただのコンピューターウイルスでは無いな。上級神族の呪いが上乗せされておる。今のわしではとてもじゃないが突破できん・・・」
カオスは、ついにはドロドロとした緑色の液体をドピュドピュ噴出し始めたキーボードに拳をたたきつけた。
だが、




「くくくく・・・・面白い!!このヨーロッパの魔王の実力をなめるなよ!!

まずは秋葉原でパソコンのフルチューンじゃ!!」




ジジイは一人燃えていた・・・。

比喩じゃなく。

ボォォォオオ!!
「ぐおおおっ!!??バカな、スピーカーから火が!!」







しかし突破すべきガードは厚く、いかに彼であっても突破するのに何ヶ月の時を要する事になるのだ。
そして突破が成功した時・・・彼は深く後悔する。

なぜもっと早くできなかったのだろうか?
と。


世界のどこかで、彼らの楽園を壊そうとしている者達がいる事に・・・まだ彼らは気づいていない。


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