横島たちの参戦により、形勢は一気に逆転した。
「ブフーラ!!」
ノースの冷気が、一体のウコバクを氷像と化す。
どうもウコバクは冷気に弱いらしく、ほとんどが一撃で倒されている。
逆にノースは炎に弱いらしいが、今まさにノースめがけて放たれた火炎は、呪符によって散らされる。
「助かったヒホ〜…ありがとうヒホ!!」
「どういたしまして。」
感謝するノースに返礼しながら、美知恵は目の前のウコバクを叩き伏せる。
初対面で見事な連携を成せるのは、やはり美知恵の力量の高さか。
次から次へと沸いてきていたウコバクたちも、残るは三体ほど。
それも、すぐに屠られるだろう。
ウコバクは二人に任せ、美神、西条、横島はエリゴールを追い詰めていた。
「くっ…ハァ、ハァ…ッ!!」
「だいぶ息が上がってきたわね。さっきまでの余裕はどうしたの?」
「もう、勝ち目はないぞ。降伏したまえ。」
馬上で荒い息をしているエリゴールに、西条が呼びかける。
「ぐっ…舐めるな、人間がぁッ!!」
エリゴールは一声叫ぶと、大きく槍を振りかぶる。
だが、出来たのはそこまでだった。
右足が騎馬ごと斬りつけられて、馬が大きく嘶き、その血をしぶかせる。
「ぐおぉッ!?」
「いい加減に観念しやがれ、この野郎!」
背後から斬りつけた横島は、霊波刀の切っ先をエリゴールに突きつける。
もはや勝負は決まった。
「もう一度だけ言おう。降伏したまえ。」
西条がやや語気を強めて言う。
だが、エリゴールの言葉に含まれていたのは、苦い敗北感ではなかった。
「…フッ。あいにく、そういうわけにはいかないので…な!!」
「な…うわッ!?」
エリゴールの眼光が強さを増した瞬間、横島との間に鋭い電撃が奔る。
横島はたまらず弾かれ、その隙にエリゴールが騎馬を駆って逃走に入る。
いや、それは逃走ではない。
少年の方に向かって、一気に跳躍する。
「少年は連れて行く!! 我が主君の命を果たさせてもらうぞ!!」
「しまった…!!」
だが、エリゴールの腕が伸ばされる前に、その前方に人影が飛び出す。
「そうは…いかないのねー!!」
ヒャクメがその手に持った鞄を、ぐるんと遠心力を利用して、騎馬の横っ面に叩き付けた。
騎馬が、たまらず進行方向を変えたため、エリゴールの腕が空を切る。
「ちぃッ…!!」
「もう、役立たずとは呼ばせないのねー!!」
「でかしたッ!!」
「どーだ!」とばかりに、胸を張るヒャクメ。
エリゴールは、そのままベッドを通り過ぎると、その向こうの壁を突き破って外に出た。
「逃がすかッ!!」
だが、その直後。
「キャアアァァァァーッ!!」
「この声は…おキヌちゃん!?」
外から聞こえてきた悲鳴に、美神たちは後を追って飛び出す。
そこには、エリゴールに首を抱え込まれて、苦しそうにもがく見知った少女の姿があった。
「よ…横島…さ…ん…!」
「おキヌちゃん!! テメェ…おキヌちゃんを放せッ!!」
横島が駆け寄ろうとして足を踏み出すと、それを制するようにエリゴールの腕に力がこめられる。
おキヌの口から、苦しげな声が漏れた。
「動くな。この娘を死なせたくはあるまい。」
「う…!」
「……引き換えだ。少年を渡してもらおう。」
横島が足を止めたことに頷きながら、エリゴールが要求を述べる。
その声には、怪我からくる疲労以外のものが滲んでいる。
「…か弱い乙女を盾にするなんて…騎士道精神も堕ちたものね。」
「……私としてもこのような手段は不本意。されど、我が主君のためなら、それも已む無し。」
ぎりっと。
さらに力が込められ、おキヌの表情が苦しげに歪む。
「くぅ…ッ!」
「待って!! …ママ。」
振り返る美神に、美知恵はかすかに顎を引いて首肯する。
それは、要求をのむという意思表示であるとともに、隙を見て反撃するという意味でもあった。
美知恵の目配せを受けて、西条が室内へと戻っていく。
「…わかったわ。彼は渡す。だから、おキヌちゃんを放しなさい。」
「少年が先だ。」
刹那。
エリゴールの両脇にあった鳥居の陰から、二つの影がそれぞれに飛び出した。
一つは銀色の影。もう一つは金色の影。
「おキヌ殿を…放せェーッ!!」
銀の影は大きく跳躍すると、エリゴール目掛けて、その手に輝く霊波刀を振り下ろす。
その速度は常人の比ではなく、剣の軌跡を残像として空間に焼きつける。
あまりの速さに対応できず、肩口を斬りつけられたエリゴールが苦鳴を漏らした。
その手の拘束が緩み、おキヌの体が支えを失くして落下する。
「ぬぅうっ!?」
「タマモ!! 頼むでござるよ!!」
「了解!」
銀の影に応え、金の影は低い姿勢で騎馬の下をすり抜けると、落ちてきたおキヌを受け止める。
そのまま駆け抜け、エリゴールから距離をとる。
「シロ!! タマモ!!」
銀色の影持つ人狼の少女、シロ。
金色の影持つ妖孤の少女、タマモ。
おキヌとともに本部を訪れた二人は、いち早く内部の異変に気付いていた。
そのため、おキヌを後方で待機させて、自分たちが先行していたのだが、それが失敗だった。
悲鳴を聞いて戻ってみれば、おキヌは人質にとられ、横島たちは手を出せなくなっていた。
そこで二人は、その状況からすぐに飛びださず、今まで機会を窺っていたのだ。
「自分たちのミスは、自分たちで責任を取らないとね。」
タマモが美神たちのもとへと戻ってくる。
シロはいまだ霊波刀を、エリゴールの肩口に喰い込ませ、そのまま押し切ろうとしていた。
「よくもおキヌ殿を…!!」
「ッ! いけない!! シロ、離れて!!」
美神が警告を発したとき、エリゴールの体から紫電が迸る。
バチィッ、という音とともにシロの体が弾かれ、エリゴールは自由を得る。
「この…小娘があぁぁぁーッ!!」
「ぐ…ふッ!?」
勢いよく振り回された槍の一撃に、シロの体が鳥居に叩き付けられる。
そのままエリゴールは大きく槍を振りかぶると、衝撃に立ち上がれないシロに向かって投擲した。
「シロッ!!」
美神が駆けながら神通鞭を振るう。
おキヌを美知恵に預けていたタマモが、それに気付いて駆け出そうとする。
だが、誰よりも早く飛び出した者がいた。
横島。
今にもシロを貫きそうな槍を睨みつけながら、横島は必死に手を伸ばす。
また失うのか…あの時みたいに…!?
嫌だっ!!
あの時誓った!!
もう何も失わない!!
今度こそ守って見せると!!
「やめろぉぉぉぉーッ!!!」
今回あとがきのヒャクメなのねー!
もうすぐ、最初の山場も終わりを迎えそうなのねー。
今回の副題にある『叫号』の意味はそのまま『叫ぶこと』。
横島さんの叫びで終わった今回だけど、シロちゃんがどうなるか心配なのねー。
…にしても、今回は私も活躍できて嬉しいのねー!!
こんな風に活躍したの、原作でアシュタロスを時空震で吹っ飛ばしたとき以来なのねー!
……え、何? そのせいで、おキヌちゃんがピンチになっただろ…?
あのまま何もしなければ、少年が連れ去られるだけだった…?
い、いいじゃないのねー! きっと、横島さんがなんとかしてくれるのねー…多分(汗 (詠夢)
これからも彼女の活躍?を期待したいです。
あとおキヌちゃんだと捕らわれのヒロインがしっくりきますね。
他のメンバーじゃ恐ろしいことしかなりそうもありませんしね。
自分はクロスしているものをくわしくは知りませんがとても面白かったです。 (夜叉姫)
なかなかやりますね。今後が楽しみです。 (ミネルヴァ)
こんなときでもないと、彼女は活躍できませんから(笑
何とか期待に応えれるよう頑張ってみます。
おキヌちゃんの採用は、自然と浮かんできました。
「やっぱり、どう考えてもここはおキヌちゃんしかないだろう、絶対!」という具合に。
他のキャラの可能性なんて皆無でしたね(笑
これからも面白いものが書けるよう努力します!
ミネルヴァ 様:
実は改稿前の作品中、彼女たちはこのシーンですでに不意打ちを喰らって倒れてました。
そこで、その雪辱戦といったところでしょうか(笑
納得できる形に変更できたところなので、気に入ってますv (詠夢)
それにしてもエリゴールは72柱に数えられる割にはたいしたことない奴ですね。
ヒャクメの攻撃を食らうなんて・・・。 (西山)
戦闘シーンは好きなので、色んな本を読んで表現や流れみたいなのを勉強してます。
もっとスピード感があったりするといいなぁ、などと思いつつ。
一応、アシュタロスと同じ72柱の一柱なんですけどねぇ、エリゴール…(苦笑
アシュタロスは『七つの大罪』にも数えられますから、格が違うということなんでしょうが…まあ、ピンキリと。 (詠夢)