ひらり、ひらりと。
それは儚げに、されど何処かを目指して飛んでいく。
金色の羽を、羽ばたかせ。
眠り続ける少年の枕元から飛び立ち。
正義を重んじる男と、その師である女性の横をすり抜けて。
いくつもの瞳持つ乙女が振り返る視線を受けながら。
ひらり、ひらりと。
とある女学院にて、授業に集中している心優しき少女の傍らを抜け。
いつものようにじゃれ合うように言い争う、狼と狐の少女を脇目にして。
それは飛んでいく。
闇の血を引く少年と、虎の魂継ぐ者の頭上を通り過ぎ。
廃寺で、己を鍛え上げる男を見下ろしながら。
それは少し速度を上げて飛んでいく。
東京タワーの周囲を巡り、その頂に残る蛍の少女の気配を感じながら。
やがてそれは。
その金色の蝶は。
すいっと、街のざわめきに飛び込んでいく。
◆◇◆
半年ほど前、三界を揺るがした事件があった。
魔王の一人であるアシュタロスの造反。
世界のシステムそのものを書き換えようとした彼の目論見は、わずか一年足らずで終結した。
世界最高のGS、美神令子を中心とした人々の手によって。
多大な犠牲を払いながらも、アシュタロスは真の死を迎えて滅び去り、世界は守られた。
だがそこに住む、多くの人は知らない。
その犠牲の中に、一組の男女の哀しい別離があったことを。
男の名は、横島忠夫といった─。
◆◇◆
「おっはようございまーすっ!」
今朝もいつもと同じバンダナ、ジーンズ姿の横島忠夫が、無駄に元気な挨拶とともに出勤する。
もちろん、学校はサボリである。
だが、そこにいた雇用主にして師匠の姿を見て、横島は首を傾げる。
「あれ? どこか行くんですか、美神さん?」
「うん、まーねー。」
横島にそう返して、美神令子はバッグを手に取る。
最近、露出の低い服を好むようになったとはいえ、珍しくパンツスタイルのスーツを着ている。
それでも、その魅力は削がれることなく、むしろさらに磨きがかかったようにも思う。
「ママからの呼び出しよ。アンタもね。」
「俺もッスか?」
「詳しいことは向こうで聞くことになってるけど…アンタ、今日仕事入ってたわよね?」
最近では横島も、一人で仕事をする回数が増えてきていた。
このままだと、独立も早いものかもしれない、と美神は内心で焦っていたり。
「一件だけですけど…。それが終わったら俺も行きますよ。」
「ええ、頼むわね。おキヌちゃんたちにはもう連絡したから。」
それじゃ、と言って美神はさっさとガレージへ向かう。
彼女の乗ったコブラを窓から見送りながら、一人残った横島は思わずにやけていた。
『頼むわね。』
つまり、結構頼りにされてるのだ。俺が。
今も変わっちゃいないと思うが、馬鹿で、スケベで、情けない自分がだ。
何となく、自分は強くなったんだと嬉しく思った。
「…やべッ! 早いとこ仕事、片付けないと!」
いくつかのアイテムと依頼内容を確認してから、つと天井を仰ぎ見る。
「留守は頼むぞ、人工幽霊壱号。」
『はい。お気をつけて。』
事務所《そのもの》に後を任せて、横島は待ち合わせ場所へと向かう。
最近、中古で買いおろしたバイクに跨る。
エンジンをかけようとしたその時。
ひらり。
金色の何かがハンドルに舞い降りる。
ついと見れば、そこにはゆっくりと羽根を上下させている蝶がいた。
「…?」
横島は首を傾げる。
蝶、と言えば真っ先に浮かぶのはパピリオだが…この蝶は違う感じがした。
もっと根本から、何か自分とは違う《モノ》という気がして。
じっと見つめていると、やがて蝶はまた、ひらり、と何処かへと飛んでいった。
しばらくそちらを眺めていた横島だったが、バイクに跨り直すとエンジンをかける。
唸りをその場に残し、バイクは街へと飛び出した。
遠ざかる排気音を聞きながら、ひっそりと静まり返る事務所内。
その中を、金色の蝶が飛び回る。
不思議なことに、人工幽霊壱号の感覚は何の反応も返さない。
ひらり、ひらりと。
頼りなげに室内を彷徨う蝶。
応接室や屋根裏、客室から執務室まで。
どこから入ったものか、蝶はまるで意に介さず飛び続ける。
やがて、執務室の窓へ向けて飛んでゆき─。
ふっ、と。
溶けるように消えていった。
それは、予兆。
遥かな深遠から送られた、警告だったのかもしれない─。
…というわけで、任された美神令子よ(怒
ったく、こんなことして、後で叩かれても知らないわよ!
さてと。
任されたからにはちゃんとやるけど(報酬も一応貰えたし)…。
って、ほとんど何も始まってないじゃない!!
何をやれってのよ!!
え〜と…、前回とあわせてのプロローグってとこかしら?
ちゃんと草案ぐらいは用意しときなさいよ、まったく…!!
とりあえず、今回は私がやったけど、他のキャラでもやってみたいってことらしいわ。
誰かリクエストがあるなら、なるべく偏らないように応えるとも言ってたわね。
行き当たりばったりで、無計画な作者が書く話だけど、まあ、楽しんでいってちょうだい。
それじゃ、またねv (詠夢)
今はまだ様子を見させてもらいます。 (ミネルヴァ)
1人で除霊を任されているとは、横島、かなり認められているようで・・・
でも、ルシオラの事はどうなっているのかな?
気になりますね。
でも、興味が湧く状態です♪ (とろもろ)
じっくり見ていかれてくださいv
それで、なにか気になる点が出てきましたなら、遠慮なく突っ込んでください。
作者は冷や汗流しながら、お待ちしています(笑)
とろもろ 様:
金色の蝶は、物語のキーのひとつですね。
横島の仕事に関しては、原作でもあったように大分任されてきてます。
原作よりちょっと増えたってくらいでしょうか。
ルシオラの件については、今はシークレットということでw (詠夢)