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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter1.MAGICIAN 『少年>>予兆』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 1/16

ひらり、ひらりと。

それは儚げに、されど何処かを目指して飛んでいく。

金色の羽を、羽ばたかせ。


眠り続ける少年の枕元から飛び立ち。

正義を重んじる男と、その師である女性の横をすり抜けて。

いくつもの瞳持つ乙女が振り返る視線を受けながら。


ひらり、ひらりと。


とある女学院にて、授業に集中している心優しき少女の傍らを抜け。

いつものようにじゃれ合うように言い争う、狼と狐の少女を脇目にして。


それは飛んでいく。


闇の血を引く少年と、虎の魂継ぐ者の頭上を通り過ぎ。

廃寺で、己を鍛え上げる男を見下ろしながら。


それは少し速度を上げて飛んでいく。


東京タワーの周囲を巡り、その頂に残る蛍の少女の気配を感じながら。


やがてそれは。

その金色の蝶は。

すいっと、街のざわめきに飛び込んでいく。






          ◆◇◆





半年ほど前、三界を揺るがした事件があった。

魔王の一人であるアシュタロスの造反。

世界のシステムそのものを書き換えようとした彼の目論見は、わずか一年足らずで終結した。

世界最高のGS、美神令子を中心とした人々の手によって。

多大な犠牲を払いながらも、アシュタロスは真の死を迎えて滅び去り、世界は守られた。

だがそこに住む、多くの人は知らない。

その犠牲の中に、一組の男女の哀しい別離があったことを。

男の名は、横島忠夫といった─。



          ◆◇◆



「おっはようございまーすっ!」


今朝もいつもと同じバンダナ、ジーンズ姿の横島忠夫が、無駄に元気な挨拶とともに出勤する。

もちろん、学校はサボリである。

だが、そこにいた雇用主にして師匠の姿を見て、横島は首を傾げる。


「あれ? どこか行くんですか、美神さん?」

「うん、まーねー。」


横島にそう返して、美神令子はバッグを手に取る。

最近、露出の低い服を好むようになったとはいえ、珍しくパンツスタイルのスーツを着ている。

それでも、その魅力は削がれることなく、むしろさらに磨きがかかったようにも思う。


「ママからの呼び出しよ。アンタもね。」

「俺もッスか?」

「詳しいことは向こうで聞くことになってるけど…アンタ、今日仕事入ってたわよね?」


最近では横島も、一人で仕事をする回数が増えてきていた。

このままだと、独立も早いものかもしれない、と美神は内心で焦っていたり。


「一件だけですけど…。それが終わったら俺も行きますよ。」

「ええ、頼むわね。おキヌちゃんたちにはもう連絡したから。」


それじゃ、と言って美神はさっさとガレージへ向かう。

彼女の乗ったコブラを窓から見送りながら、一人残った横島は思わずにやけていた。

『頼むわね。』

つまり、結構頼りにされてるのだ。俺が。

今も変わっちゃいないと思うが、馬鹿で、スケベで、情けない自分がだ。

何となく、自分は強くなったんだと嬉しく思った。


「…やべッ! 早いとこ仕事、片付けないと!」


いくつかのアイテムと依頼内容を確認してから、つと天井を仰ぎ見る。


「留守は頼むぞ、人工幽霊壱号。」

『はい。お気をつけて。』


事務所《そのもの》に後を任せて、横島は待ち合わせ場所へと向かう。

最近、中古で買いおろしたバイクに跨る。

エンジンをかけようとしたその時。



ひらり。



金色の何かがハンドルに舞い降りる。

ついと見れば、そこにはゆっくりと羽根を上下させている蝶がいた。


「…?」


横島は首を傾げる。

蝶、と言えば真っ先に浮かぶのはパピリオだが…この蝶は違う感じがした。

もっと根本から、何か自分とは違う《モノ》という気がして。

じっと見つめていると、やがて蝶はまた、ひらり、と何処かへと飛んでいった。

しばらくそちらを眺めていた横島だったが、バイクに跨り直すとエンジンをかける。

唸りをその場に残し、バイクは街へと飛び出した。












遠ざかる排気音を聞きながら、ひっそりと静まり返る事務所内。

その中を、金色の蝶が飛び回る。

不思議なことに、人工幽霊壱号の感覚は何の反応も返さない。

ひらり、ひらりと。

頼りなげに室内を彷徨う蝶。

応接室や屋根裏、客室から執務室まで。

どこから入ったものか、蝶はまるで意に介さず飛び続ける。

やがて、執務室の窓へ向けて飛んでゆき─。

ふっ、と。

溶けるように消えていった。




それは、予兆。

遥かな深遠から送られた、警告だったのかもしれない─。


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