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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter1.MAGICIAN 『決意>>少年』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 1/16

混沌を落ちていく。

今がいつなのか。自分がどこにいるのか。

それさえも、もうわからない。

全てが溶け合う混沌の中、彼は唯一つの想いのみで存在を続けていた。

個の存在さえも限りなく希薄になるその世界で、彼がただひとつ寄る辺とする想い。

それは祈りにも似た、決意。

今度こそ。

今度こそ守り抜く。

彼を包む混沌が、歓喜にかはたまた畏怖にか、身震いするかのごとく揺らいだ─。







          ◆◇◆







東京地下にある、霊的災害対策本部。

本来なら有事にのみ運用されるその施設は、先の事件以降、オカルトGメンが管理していた。

ゆえに、Gメンであるその男がそこにいること自体は、異常でもなんでもない。

異常なのは、彼の雰囲気と挙動である。

手に愛用の銃を構え、慎重にあたりを窺いながら、廊下を音もなく疾駆していく。

自分の得意な獲物は長剣なのだが、屋内戦ならこちらのほうがいい。

本当なら、都内にあるオフィスで仕事を片付けて、これから帰るところだったのに。

油断なく視線を飛ばしながら、彼は心の中でそうこぼす。

久しぶりにゆっくり出来ると思ったのに。

この腰まで届く髪だって、時間がかかるから、もう何日もまともに手入れしてないのに。

風呂上りに、ばあやのキヨが淹れてくれる紅茶を楽しめると思ったのに。

そんな疲れた思考に沈みかけて、彼はふるふると頭を振った。

最近愚痴っぽくなってきているな、と何やら情けない気持ちになる。

だが、今は目の前の事態に対処しなければならない。

すぐに思考を切り替え、誰もいないことを確認してから、彼は再び移動を開始した。







ふと、妙だと感じる。

オフィスから帰る間際、この施設の重要区画に侵入者発見という警報を受けた。

その時は、一体どこの組織のどんな集団が侵入したんだと驚いた。

だが、いざ突入しても施設内に人気はなく、管理室でサーモチェックしてみれば相手は一人。

どんな罠があるのかと、警戒しながら進んできたが、今までにそんな気配はなかった。

油断しているのか、それともその事自体が何らかの罠か…。

あれこれ考えているうちに、目的の場所へと辿り着く。

オペレーティングルームよりさらに奥の区画であるこの部屋には、この施設のメインシステムがある。

霊的な流れを集中させ、首都繁栄のための呪をかける─そのための術式が。

目下の不景気を見るだに機能してないように思われるが、実際はちゃんと機能している。

そうでなければ、あっという間に国の財政は崩壊、国家は霧散している。

溜まりに溜まった無能な仕事のツケを、これだけの不況で持ちこたえているのだから大したものだ。

とにもかくにも、ここでの銃撃戦なんてものは避けたい。

知っててここに侵入したのなら、敵はなかなかにしたたかである。

扉のロックを外してから壁に背を預け、彼は二度ほど深呼吸をする。


「…迷っていても仕方ないか。」


南無っ、と彼は覚悟を決め、素早く室内へと滑り込む。






室内はぼんやりとした明かりに照らされていた。

壁やら床やら、果ては天井や様々な呪具にまで描かれた方陣から、淡い燐光が立ち昇っているのだ。

静かに響く機械音の中を、彼はゆっくりと進んでいく。

辺りを見回していたその目が、一点で止まる。





一際大きな方陣の中央に、その『少年』はいた。





そう、まだ少年であった。

年の頃は十代後半。身長は170cm前後だろうか。

女性のようにやや細身ではあるが、痩せぎすというわけでもない体格。

黒髪の前髪部分以外をカチューシャで後ろ側へと留め、獅子の鬣のようにしている。

ところどころ擦り切れた服の下から、うっすらと血が滲んでいた。

とりあえず危険はないと判断し、銃をしまって少年の容態を調べる。

体の裂傷に深いものは無く、出血もほぼ止まっていた。

胸が上下し、呼吸音が静かに聞こえているから、命に別状は無いと判断する。

恐らくは、力尽きて気を失ったのだろう。

すると、今度は次の疑念が湧いてくる。



この少年はどうして、ここに倒れているのだろう。



まさか、侵入者がすでに倒れていたとは思ってもいなかった。

この様子から、少年がすでに消耗した状態でここへ逃げ込んだものと予想される。



逃げ込んだ? 何から?



彼はしばらく考え込んでいたが、やがて溜息をひとつ吐いて携帯電話を取り出す。

自分がこれ以上考えても埒が明かない。

まずは、自分のするべきことを、上司への報告をしなければいけない。

数回のコールの後、寝ぼけた上司の声が聞こえてきた。

彼は少しだけ苦笑して、顔を引き締め直してから切り出した。


「夜分遅くに申し訳ありません、西条です。実は…─。」


彼が電話をしている傍ら。

少年の胸元で、八面体の小さな赤いアミュレットが、燐光を受けてぼんやりと輝いていた。


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