混沌を落ちていく。
今がいつなのか。自分がどこにいるのか。
それさえも、もうわからない。
全てが溶け合う混沌の中、彼は唯一つの想いのみで存在を続けていた。
個の存在さえも限りなく希薄になるその世界で、彼がただひとつ寄る辺とする想い。
それは祈りにも似た、決意。
今度こそ。
今度こそ守り抜く。
彼を包む混沌が、歓喜にかはたまた畏怖にか、身震いするかのごとく揺らいだ─。
◆◇◆
東京地下にある、霊的災害対策本部。
本来なら有事にのみ運用されるその施設は、先の事件以降、オカルトGメンが管理していた。
ゆえに、Gメンであるその男がそこにいること自体は、異常でもなんでもない。
異常なのは、彼の雰囲気と挙動である。
手に愛用の銃を構え、慎重にあたりを窺いながら、廊下を音もなく疾駆していく。
自分の得意な獲物は長剣なのだが、屋内戦ならこちらのほうがいい。
本当なら、都内にあるオフィスで仕事を片付けて、これから帰るところだったのに。
油断なく視線を飛ばしながら、彼は心の中でそうこぼす。
久しぶりにゆっくり出来ると思ったのに。
この腰まで届く髪だって、時間がかかるから、もう何日もまともに手入れしてないのに。
風呂上りに、ばあやのキヨが淹れてくれる紅茶を楽しめると思ったのに。
そんな疲れた思考に沈みかけて、彼はふるふると頭を振った。
最近愚痴っぽくなってきているな、と何やら情けない気持ちになる。
だが、今は目の前の事態に対処しなければならない。
すぐに思考を切り替え、誰もいないことを確認してから、彼は再び移動を開始した。
ふと、妙だと感じる。
オフィスから帰る間際、この施設の重要区画に侵入者発見という警報を受けた。
その時は、一体どこの組織のどんな集団が侵入したんだと驚いた。
だが、いざ突入しても施設内に人気はなく、管理室でサーモチェックしてみれば相手は一人。
どんな罠があるのかと、警戒しながら進んできたが、今までにそんな気配はなかった。
油断しているのか、それともその事自体が何らかの罠か…。
あれこれ考えているうちに、目的の場所へと辿り着く。
オペレーティングルームよりさらに奥の区画であるこの部屋には、この施設のメインシステムがある。
霊的な流れを集中させ、首都繁栄のための呪をかける─そのための術式が。
目下の不景気を見るだに機能してないように思われるが、実際はちゃんと機能している。
そうでなければ、あっという間に国の財政は崩壊、国家は霧散している。
溜まりに溜まった無能な仕事のツケを、これだけの不況で持ちこたえているのだから大したものだ。
とにもかくにも、ここでの銃撃戦なんてものは避けたい。
知っててここに侵入したのなら、敵はなかなかにしたたかである。
扉のロックを外してから壁に背を預け、彼は二度ほど深呼吸をする。
「…迷っていても仕方ないか。」
南無っ、と彼は覚悟を決め、素早く室内へと滑り込む。
室内はぼんやりとした明かりに照らされていた。
壁やら床やら、果ては天井や様々な呪具にまで描かれた方陣から、淡い燐光が立ち昇っているのだ。
静かに響く機械音の中を、彼はゆっくりと進んでいく。
辺りを見回していたその目が、一点で止まる。
一際大きな方陣の中央に、その『少年』はいた。
そう、まだ少年であった。
年の頃は十代後半。身長は170cm前後だろうか。
女性のようにやや細身ではあるが、痩せぎすというわけでもない体格。
黒髪の前髪部分以外をカチューシャで後ろ側へと留め、獅子の鬣のようにしている。
ところどころ擦り切れた服の下から、うっすらと血が滲んでいた。
とりあえず危険はないと判断し、銃をしまって少年の容態を調べる。
体の裂傷に深いものは無く、出血もほぼ止まっていた。
胸が上下し、呼吸音が静かに聞こえているから、命に別状は無いと判断する。
恐らくは、力尽きて気を失ったのだろう。
すると、今度は次の疑念が湧いてくる。
この少年はどうして、ここに倒れているのだろう。
まさか、侵入者がすでに倒れていたとは思ってもいなかった。
この様子から、少年がすでに消耗した状態でここへ逃げ込んだものと予想される。
逃げ込んだ? 何から?
彼はしばらく考え込んでいたが、やがて溜息をひとつ吐いて携帯電話を取り出す。
自分がこれ以上考えても埒が明かない。
まずは、自分のするべきことを、上司への報告をしなければいけない。
数回のコールの後、寝ぼけた上司の声が聞こえてきた。
彼は少しだけ苦笑して、顔を引き締め直してから切り出した。
「夜分遅くに申し訳ありません、西条です。実は…─。」
彼が電話をしている傍ら。
少年の胸元で、八面体の小さな赤いアミュレットが、燐光を受けてぼんやりと輝いていた。
はじめましての方、これからよろしく。
知ってらっしゃる方、変わらずよろしく。
この作品こそ、私の二次創作活動の原点。最初の一歩。
初めて書いたもの、いわゆる処女作です。
他サイトに投稿していましたが、事情により打ち切り。
それをさらに手直しに手直しを加え、ようやく満を持しての復活になります。
さて、タイトルの英文の意味ですが、『終わらない贖罪』という意味です。
主人公は、横島でも美神でもなく、私が書きましたオリキャラ。
この『少年』を中心に物語は展開していきます。
とはいえ、やはりGSキャラは大暴れします。もちろんです。GS美神ですから。
この作品は、ゲーム『真・女神転生』シリーズ、特にペルソナシリーズともクロスしています。
知ってらっしゃる方は思わずニヤリなキャラも出ますし、知らない方でももちろん楽しめるよう頑張ります。
それでは、長い話になりますが、どうぞ最後までお付き合いくださいますよう。 (詠夢)
特にキヨさんの淹れてくれた紅茶〜の行などは原作にも一度しか出ては居ないではあっても、きちんと処理できていて好感がもてます。
さて、この作品は女神転生『ペルソナ』とのクロスになるとのことですが、どの程度の智識が必要になる作品なのかが気になります。
>椎名高志作品以外の創作物の知識を著しく必要とする作品
は、こちらのサイトの投稿規制に引っかかるものですから、クロス作品の知識がないと面白みが伝わらないと言う創作物でしたらこちらへの投稿は遠慮したほうが良いと思います。 (黒川)
拝読し、またかなりの話数となっているので、当分の間は違いを楽しむ事となりますが、今後とも期待しています。頑張ってください。 (R/Y)
西条が見つけた少年が気になりますね。
メガテンとのクロスらしいですが・・・そうなると、少年はその関係なのですかね?
次話を楽しみに待っています♪ (とろもろ)
まだ最初なだけになんともいえませんが、なにやらきな臭い雰囲気!
続きを待っています。 (天皿)
黒川 様:
キヨさんは、あの一回で結構なインパクトがありますから…(笑
特に女神転生の知識は、必要ございません。
例えば、GSでの悪霊の代わりに、『アクマ』と呼ばれる敵が出てくるわけですが、その『アクマ』のオリジナルが女神転生に出てくる、という程度です。
小説の途中で、「この悪魔の絵がみたい」というときは、ネットで調べれば、割と簡単に出てくると思います。出てこなかったら、まあ、仕方ないですが。
そういう楽しみ方が出きるというだけです。文章でも造形が伝わるよう気をつけていますし。
また、女神転生キャラも出てきますが、もちろんそのキャラの人物背景の概略は書きますし、このお話に関係ない、活かせないという設定がある場合には削ります。
ですから、あくまで主観はGS世界で進んでいき、そのままで楽しめるように仕上げてます。
今後も、何かご意見ありましたら、またお願いします。
R/Y 様:
結構、随所を変更しているので、なかなかに楽しめると思います。
前身よりも、少しシリアス度が増した感じですね。
がんばります!!
とろもろ 様:
少年は、どちらかと言えばGSよりのオリジナルキャラですね。
というより、彼のせいでクロスしていく羽目になったんですよね〜…。
これからを楽しみにしててください。
天皿 様:
陰謀の匂いがぷんぷんしてますよ。特に第一章は。
章題の『MAGICIAN』はタロットで、始まり、出発、創造、創造と破壊の繰り返しを意味するそうで、一発目に相応しいカードです。
こんな風に、この作品では章ごとにカードを割り当て、その意味にそった内容になっていきます。
続きもご期待ください。 (詠夢)
女神転生のペルソナシリーズはあまり詳しくありませんが、登場する悪魔や妖怪など、GS美神に登場させても相性が良さそうなことは何となくわかります。 女神転生もGS美神も、神話や昔話に出てくる悪魔や妖怪を多用しているという点では同じですからね。 問題はペルソナの世界を知っておく必要があるかどうかですが、まだお話のほうも始まったばかり。 ペルソナを知らない人でも楽しめる作品になることを期待しています。 (ヴァージニア)
率直に言って、GSに限らず2次創作でオリキャラを主人公にした作品で面白いものに当たったことがありません。詠夢さんならその理由はご承知のことと思います。そこを敢えてオリキャラメインで書く、というところにチャレンジ精神を感じます。
とりあえず今回は保留で。今後の展開を楽しみに待たせていただきます。 (HAL)
ペルソナの知識も必要ないと思います。
こういうクロス作品の場合は、特に世界観や設定について、読み手に違和感を与えないよう気をつけています。
仰られている通り、まだ始まったばかりですので、私としても不安はつきません。
何かお気づきの場合は、遠慮なくご意見のほう、お願いします。
HAL 様:
お気づきの通り、改稿しての投稿です。
オリキャラメインの話における注意点といえば、独りよがりになってしまう可能性、でしょうか?
または、世界観設定や、GSキャラの性格の食い違いなども思い浮かびます。
その危険性は、確かに私の作品中にも含まれます。
クロス作品ですので、どちらに傾くかでもまた問題になるでしょう。
私がこれを書き始めた動機は、GS世界にさらに深みを持たせたいという欲求からです。
ですから、GS世界から激しく逸脱することのないように気をつけてはいます。
ただ、書いている最中は、作者にはえてして分からないものですので、もし、何かしら気付かれましたら、その際は遠慮なく仰ってください。
よろしくお願いいたします。 (詠夢)
ゲームをやったことのないものにとってはもはやオリジナル。
RPGの世界観をどう扱うのか、今後のからめ方次第だろう。 (みずいろ)