椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

何気ない・・・『ちょい番外編』


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 1/15










ぽかぽかとした昼下がり。






今、目の前にマリアがいる。







何時ものように未来人っぽいスーツを着こなし、何時ものように無表情・・・だが何となく平和そうな顔をして、横島の家の縁側で正座なんぞしながら、手にしたパンくずなんぞをばら撒きながら、集まってくる鳥たちをじぃーっと眺めている。

「・・・」
んで年のわりに(もう29歳です)結構好奇心旺盛な横島は、彼女の近くで寝たフリをしながら、興味深げに『マリア様を見ている』わけだ。

ちなみにドクターカオスは少し離れたところで座布団枕にひっくり返って爆睡している。
シロにいたっては彼ら(マリアカオス)たちがやってくる直前に「鍛錬してくるでござる」と言ってものすごいスピードで走り去っていった。
おそらくこの間の修行で、前に横島とやり合って勝てたのは本当に運が良かったのと、手を抜かれていた為だという事を改めて感じたせいだろう。

しかし・・・シロが出て行った瞬間にマリアたちがやって来たということに、何やらただならぬ気配を感じてしまう横島だった。

(まさか・・・シロの留守を狙ってる?いや、そんな馬鹿な・・・)

背中にすこぅしばかりひや汗をたらし、いやな想像をもやもやさせる横島であった。
そんな事無い・・・そんな事無い。と心の中で否定する横島だがが、彼の悪い予感は良くあたる。



っていうか実際当たってるんだけど。




話を戻そう・・・。


マリアの手の食パン(この世界にはまだパンは無いので自分で持ってきたのだろう)が、また少しちぎりとられ、ぱっと地面に降りまかれると、それに呼応するように鳥たちがピィピィわめきながらついばんでいった。

ほほえましい状況ではあったが、餌をまいている女性は相変わらずの無表情。
あまり楽しそうに見えない。

楽しんでいると言うよりは、ただ眺めて見ている。まさに




『マリア様が見ている』状態。




(・・・・いや、ちがうな)
横島はその状況に何か引っかかりを感じ、マリアに感づかれないように頭をぽりぽりバンダナを巻いた左手で掻きながら考え込む。
確かに彼女は無表情だった。微笑んでいるわけでもない。笑ってもいない。しかし、その無表情からは、何か・・・慈愛のようなモノが滲み出ている。

(そうか・・・そういうことか)
彼女は・・・まだうまく表情を浮かべる事ができていないのだ。
ずっと昔にドクターカオスが言っていたが、マリアは『微笑む機能』は付いていても、それを使うタイミングは解らないそうだ。

しかし、横島・・・また彼の回りにいる人々と接していくうちに彼女のAIは急速な成長を遂げ、ごくまれに笑みなどを浮かべる事もある。

彼女は、ちょっとずつ成長しているのだ。



そしてここでも・・・



マリアの目がやや半目気味になり、頬の筋肉(いや実際は違うけど)がヒクっと動く。



別に頬が引きつっているわけでは無い。

彼女なりに自然と笑おうとしているのだ。(可哀想な事にはたから見るとちょっと怖い)



おっ・・・笑おうとしてる・・・。

寝たふり中の横島は、さりげなく寝返りを打ちながらもっと彼女の顔が見える位置に移動した。


そして彼女がもう一まきパンくずをまこうとした時に、急に小鳥が彼女の手のひらにちょんと飛び乗り、ついばみ始めた。
すると他の小鳥も「てめー、一人だけ抜け駆けしやがって!」とばかりに彼女の体に手といわず肩といわず飛びつき始めた。


突然の事に、マリアの思考回路が混乱し、一瞬彼女はフリーズする。
普通の人間なら目を丸くしてぱちくりさせている事だろう。



しかし・・・その硬直が解けると・・・






――――クス・・・




ふわぁっとした笑みを浮かべた。









(・・・・・か、可憐だ。)
それを見た横島が思わずそう思うほどであった。









しばらくして、小鳥の中に不死鳥や小型の飛竜の一種やガルーダなどが混じり始めて乱闘が始まる頃、横島はふとイタズラを思いついた。


ゆっくりと起き上がると、マリアに気づかれないように背後に回りこむ。
マリアは飛竜の炎に不死鳥が焼き殺され、復活し、背後からせまるガルーダの右ストレートにカウンターを入れる様子を眺めながらさっきからずっとニコニコしていた。
なんか良くわからないらしい。(そりゃそうだ)

横島はそろりそろりとマリアの肩へと手を伸ばし、唇のはしをぐいっと引き伸ばして笑う。

そして・・・



「よ、マリア」

トントン、とその肩を叩いた。

突然の事に驚いたマリアはパッと振り返ろうとしたが、その頬に横島の指先が突き刺さる。
マリアは、ガキ又はバカップルが良くやるアレにまんまとひっかったのだ。




・・・・。



――――コレハ一体・・・?


マリアの思考回路は軽いショートを起こした。





――――・・・・計算中。






――――・・・・計算中。







・・・・・・ぶしゅぅぅぅぅ〜〜〜


結局混乱したままオーバーヒート。




しかも・・・



「あああ〜〜〜!!!」
絶妙なタイミングでシロが帰ってきた。

「マリア殿!拙者の留守を狙うとは卑怯でござる!!」
そして何だかいい雰囲気作っちゃってる二人を見てすらりと刀を抜き放った。
台所の一件以来、すっかり上下関係がはっきりした妖刀は「よし来た姉御!一発ブチかましましょうや!!」とばかりにぎらぎら怪しく輝いた。


「・・・・は!」
マリアの内蔵コンピューターに緊急事態発生アラームが鳴り響き、彼女は正気を取り戻す。
そして斬られては堪らないと脚部ジェットバーニアによる脱出を試みた。


シュゴオォォォォ!!!

「あ、待て!!逃げるなど武士の名折れでござるよ!」
「マリア・アンドロイドです・武士・違います」

















しばらくして・・・


「くぉ・・・ああ、良く寝たわい」
日が少し傾きかけた頃、ドクターカオスが目を覚ました。

そして縁側のそばで、指を突き出したまま硬直している横島を発見した。
「何やっとんじゃ?
彼が当然の事ながら、そう疑問をぶつけてみると・・・

「・・・・・こ、今世紀最大の突き指をした。むちゃくちゃいてぇ・・・下手に動けん」
「は?」

マリアの失われた技術による装甲の硬さと、魔法科学の粋を集めた首部駆動モーターのパワーを舐めていたらしい・・・・。














「ドクターカオス・私の・設計に対して・意見・あります」

さらに時間は飛び、カオスたちが帰宅した時、唐突にマリアが口を開いた。
突然の事にカオスは驚く。なにせ今までマリアが自分のメンテナンスに口を出したことなど一度も無い。
「ふむ、聞こう」
彼は内心の動揺を微塵も見せず、さして興味も無さそうに見せかけてそう言った。

「私の・装甲の・事・です・装甲・硬いと・日常生活・不便
防御力・低下に・関しては・ショック吸収ラバー・の使用により・軽減できるはず・です」

「う〜む。確かにそうかもしれん。お前の装甲というか『肌』では物を掴む時に対象を傷つける事もしばしばある・・・。だがな、今の所日常生活において大改造を行なうほどの不便さは感じられんと思うがなぁ?」

マリアの訴えを聞いたドクターカオスは、違うか?あぁん?とばかりに意地の悪い笑みを浮かべて、横目でマリアを見た。

「・・・」
無表情のはずのマリアの顔が心なしか引きつったように変わり、彼女はたじたじとわずかながら後ずさる。

「それにショック吸収ラバーと言ってもやはり今の装甲の方が防御力は格段上だしのー。
しかもこの改造にはとんでもない費用がかかると来た。
どう考えてもお前の言う事は不利益と思うんだがそこん所どうじゃ?」
マリアには、何故か己の主のハズのこの老人が世界一の悪党に見えてきた。
ウィルスでも入ったか?

ともかく、何だか良くわからないうちに人(?)生最大の危機に立たされつつある彼女は必死に打開策を探すが、残念ながら『カオス式・人工魂憑きコンピューターMARIA・
ver582』を持ってしても、それを見つけることは出来なかった。

というかどうしてここまで自分が混乱しているかすらわからない。



しかしカオスは、最近多発するオーバーヒートをまたもや起こしかけるマリアの肩をバシバシ叩いてかかと笑った。

「言うな言うな!わかったわかった!!さて、早速改造の準備じゃ!」
彼はそう言うとあっという間にマリアの体を作業台へ固定し、ちぇんじ!マッドサイエンティストモード!!状態へ移行した。




いまだにワケノワカラン状態が続くマリアであったが、金属製のはずの胸の中に大きな安堵感を感じているように思えた。

――――改造が終わったら真っ先にあの人に見せよう。

そして突如浮かんできたその思いに、自分でも驚いた。


「よしと・・・ブレーカー落とすぞ?」
直後主の声が聞こえ、視界はブラックアウトした。







その日・・・・東京某所の地下研究所では一晩中、怪しい奇声とドリルっぽい音が絶えなかった。








けぇ〜〜〜っけっけっけ!!!



キュインキュインキュイ〜〜〜〜〜ン!!ドリドリドリ!!!








数日後・・・・


横島はいつものごとく畑仕事に精を出していた。
日数に比例して霊力が回復してきた彼は、もはや農具など使わずにハンドオブグローリーの変化形を使用してえっちらおっちら種まきや収穫を行なっていた。
もちろんたまに侵入してくる泥棒魔法生物を追い出すのもサボれない。ちなみにこの間一日ほど目を離していた時があったのだが、その時は根こそぎやられた・・・。
その日以来、横島は彼らに対し、容赦というものを少しばかり捨てるようになった。


というわけで、横島が略奪の常習犯のシルフ君を地平線のかなたに弾き飛ばしていた時、向こうから何者かが接近してくるのに彼は気づいた。

「あれ?マリアじゃん。どうしたんだ?」
良くよく見ればそれはアンドロイドのマリアさんで、しかもカオスの姿が見られない。お一人のご様子だ。
マリアが一人でやってくるのは珍しかった。

そんな訳で、横島が意外な顔をしていると彼女は突然彼の手を取った。


・・・ん?


横島は突然の事に少々驚いたが、それ以外にも何物かの違和感を感じ、眉をひそめる。

しかしその謎が氷解する前に、新たなる謎が彼に襲い掛かり、前者は闇の底へと葬られてしまった。
マリアが、何を思ったのか彼の手を己の肩に乗せ、そして背を向けたのだ。









マリアさん、なにしとるですか?






全くもって理解不能な事態に遭遇した彼は無い頭を回転させ、事態を飲み込もうとした。

まさか・・・アレか?アレをもう一度やれというのか?

そしてわりとすぐに昨日の事件を思い出し、大体正しい想像をはじき出す。

でも、はっきり言ってあの時の突き指は痛かったんだよな・・・。できればしたくないんですけど・・・。でも悪かったのは俺だったしな〜。ここはやらなきゃいかんのか?

できればやりたくない。やりたくないところだが、もしやらなかった場合は、やってもらえるまで彼女は帰らないだろう・・・。
横島は何となくそんな気がした。


「よ、ようマリア」
横島はちょっとばかし引きつった顔でそう言い、指を突き出し、トントンと肩を叩いた。

すると当然の事ながらマリアは振り返り、横島は突き指の痛みを思い出して目をつぶった。

しかし、



ぷにゅ・・・



・・・アレ?







横島が想像していた事とは異なる事に遭遇して驚いていると、突然マリアはダッと駆け出してしまった。

そして途中二三回、びったん!と転びつつ、時空ゲートに繋がる井戸へと転げ込むように飛び込んでいってしまった。

その光景をしばし唖然としながら見ていた横島であったが、その内マリアに腕を捕まれた時の違和感が何であるかに気づいた。
彼女の肌が、まるで人間のようになっていたのだ。
適度な弾力を持ち、それどころか体温まで感じられた。


・・・確かにニュースだ。確かにニュースだが、これを伝えるためだけにここへ?


・・・・暇だったのかなぁ?


横島はボケた頭でそんなことを考えた・・・。





そんな彼はバカ?鈍感?
たぶん両方だろう。





やがて横島はマリアに中断された畑仕事を再開した。

が、




くいくい。



突然、何モノかに服のすそを引っ張られた。

振り返るとそこには
朝早くから狩に出ていたはずの「シロ?」が、なにやら目をうるうるさせていた。

・・・何故ここへ?
そういう疑問はとりあえず置いておいく。
きっとどこか遠い所でマリアの匂いをかぎつけて、狩からすっ飛んで帰ってきたのだろう。
何故だか彼女は自分とマリアが一緒にいるのが気に食わないらしいのだ。

「まさか・・・・お前にもアレをやれと?」
「う〜」こくこく。












同時刻・・・ついさっき徹夜の一仕事を終えた老人が、さっぱりした顔で茶をすすっていた。


「ふっ・・・・疲れておるのに何だか知らんが、いい気分じゃの〜」


娘に気になる男性が出来た時、全力で阻止しようとするタイプの父親と、むしろ後押しをするタイプの父親がいる。

どうやらこのジイさんは後者に当てはまりそうだ・・・。


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