面白い時間だった。
足元で騒ぎを続けている皆を、満足げに眺めながらロキは思った。
ほんの気紛れのつもりだったが、予想以上に楽しめた。
残り時間もあとわずかだが、これなら最後まで引っ張ってくれるだろう。
「さあ、どんな結末になるのかな?」
◆
その結末の行方を握る少年は。
「今日ってさ…俺の誕生日だよなぁ…? なんで、こんなことに…。」
壇上で拗ねていた。
グシュン、グシュンといかにも湿っぽくすすり泣く様は、哀れとしか言いようが無い。
簀巻きにされて転がされた状態では尚のことである。
「なにをメソメソしてんのよ、アンタは。」
そう声をかけたのは、横島を縛るロープの端を握る女性。
呆れたような笑みを浮かべながら、美神は横島の隣に座る。
まだオークションは続いているのだが、司会者が座り込んでも会場の誰も気にしていない。
皆、興奮していてどうでもいいのだろう。そんな些細なことは。
横島は湿り気を残した眼差しで、美神をちらりと見る。
「いいじゃないスか、メソメソするぐらい…。どーせ、俺は情けないですよ…。」
「卑屈ねー。」
眉をひそめる美神に「はいはい、卑屈で結構ですよー」とか言って、また愚痴りはじめる横島。
その頭がぺしっ、と叩かれる。
叩いたのはもちろん、美神。
「…何するんスか。」
「アンタがそうやって卑屈だから、私がこうやってオークションを開いてあげたんでしょーが。」
「はあ? …余計にヘコみましたけど。」
「じゃあ、周り見てみなさいよ。」
言われて素直に見渡せば、あちらこちらから上がる声。
一様に、自分が落札すると気合のこもった眼をしている。
「みんな、必死じゃない。」
「モノ扱いじゃないッスか…。」
「─それでも、アンタを必要としてる。求めてる。」
美神の声の雰囲気が変わった。
どこか浩然とした表情をして、皆を見つめている。
「自分の大切なものを差し出してまで、アンタの傍にいようとしてる。」
あの子だって、そうだったでしょ…?
それは消え入りそうなほど小さな呟きだったが、確かに横島には聞こえた。
横島も皆を見つめる。
相変わらず、そこでは馬鹿騒ぎが続いていたが、横島の眼には違うように映った。
そこにいる人達の目は真剣で、それが自分に向けられていると知って。
「この競売はそれを目に見える形にしただけよ。」
「そう…ですか。」
美神の言葉にも、どこか上の空で横島は返事を返す。
「……ま、それでも私は渡さない、というか、その…。」
「え? 何です?」
「なッ、何でもないわよッ!!」
真っ赤になりながら顔をそらす美神。
まるでわかってない表情の横島を、苦々しく睨む。
どうしてあの呟きが聞こえて、この呟きが聞こえないのよ!?
心の中で毒づく。
自分としては、幾分素直に言葉が吐き出せたのだが…。
「…少しずつ、か。」
「だから、何なんです?」
「何でもないってば。つまり…『今日はここまで』ってことよ。」
そう言って、美神の指が何かを弾く。
それは床に落ち、横になった横島の足元へと転がる。
コロコロと、その二つの小さな玉が横島の足へと触れた瞬間。
『 射 』 『 出 』
玉─文珠の中に文字が浮かび、燐光を放って弾けた。
「へ─ッ!?」
途端。
圧倒的な加速とそれに比例する重力が、横島の体を襲った。
飛ぶ。
そう気付いたときにはもう、自分の体は窓へと向かって『射ち出されて』いた。
「のおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ─ッ!?」
「ああっ、横島君がーッ!!」
白々しい美神の叫びを聞きながら横島、テイク・オフ。
ぐんぐんと、窓ガラスが近づいてくる。
引き伸ばされた意識が、周囲の動きを緩慢なものとして捉える。
流れる景色の片隅で、異変に気付いた皆が飛び出していたが、もう遅い。
今、横島は割れたガラスを纏い輝きながら、夜空へと解き放たれた─。
「よ、横島さぁぁぁんッ!?」
「先生ェ〜ッ!?」
「横島くーんッ!!」
きらりと輝く星となった横島を、呆然と見送る一同。
そこに、人工幽霊壱号の抑揚を欠いた、それでも呆れているとわかる人口音声が流れた。
《先ほど、横島さんの敷地外への逃亡が認められ、横島さん─…失格です。》
これでもかと言うほどの、気まずい沈黙が流れる。
そこにただ一人、陽気な声で美神がのたまう。
「あら、鬼が失格なの? ってことはぁー…勝者無しで、この勝負はお流れ?」
そッ…。
『そんなああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』
総勢27名の絶叫が、事務所を震わせた。
一方、横島は。
アスファルトを削って血糊を地面に引き伸ばしながら、見事な胴体着陸を決めていた。
自らの血溜まりの中で、ぴくぴくと四肢を痙攣させているところから、一応生きている。
「あ…あの女ぁ〜…ッ!!」
◆
事務所はすでに静寂に包まれていた。
皆どこか疲れたような表情で、それでも楽しそうに笑いながら帰っていった。
帰り際、横島に対してロキが「…強く生きてくれ。」などと言っていた。
彼女は窓に映る夜景を見て、ほうっと息を吐く。
まだ決着をつけたくない。
違う、つけられない。
自分の意地っ張りぶりに泣けてくる。
それでも、少しずつ。
少しずつでも素直になっていくから。
いつか、ちゃんと向き合えるようになるまで。
「…それまでは、いいわよね…?」
もういないはずのあの子が「しょうがない人…。」と笑った気がして。
思わず彼女も、くすっと笑ってしまう。
やがておもむろに天井を振り仰ぐ。
「人工幽霊壱号。今の部分はちゃんと削除しとくのよ?」
《了解しました、美神オーナー。》
そろそろ休むという主の言葉に返しながら、ふと人工幽霊壱号のうちに人間臭い言葉が浮かぶ。
《美神オーナー。頑張ってください。》
主はぴたりと足を止め、やがて不敵な笑顔を浮かべる。
「─もちろんよ。」
祭りは終わり、つわものどもが夢の後─。
長かったです…。
最初に書き始めたとき、まさかこんなに長くなるとは思ってませんでした。
せいぜいこの、五分の一くらいだろうとか考えてました。
このラストは、結構早く思いついたんですけどね。
美神の独白。
第一話の、一番最初の呟きと繋がってます。
覚えてる方、少ないでしょうが。
これだけは書きたかったんですよ。ええ。
散々、話をこねくり回しといて、結局進歩ないやん!な感じで。
とりあえず、ゆっくりと進んでいきましょうってことでまとめてみました。
次はあの未完の長編『アルカナ大作戦!!』を始めようと思っとります!
タイトル!! 変えるかもしんないです。
人物設定!! キャラ能力をちょっといじくるかもしんないです。
物語構成!! さらに絡み合わせていくため組み替えようと思ってます。
というわけで、新たにリニューアルしての投稿となります。
大筋は変わってませんが、さらに読み応えのあるものにしたいです。
では、またお会いしましょう! (詠夢)
そんな終わりかたって(泣)
何のために今まで引っ張ってきたんですか〜 (ミネルヴァ)
ここの二次創作小説投稿広場内でも自分の中ではTOPクラスの内容かと。
というかもっともこの投稿広場で期待していた作品でした。
完結お疲れ様でした。
あ〜、面白かったw
P.S. 久々の北欧の邪神ロキ様のご出演でしたねw
途中から姿が見えず心配してました。 (スレイヤー)
まさに、予想の裏の裏の更に斜め上の端をやられた気分で、非常にいいです!(斜め上の端がミソ)
まぁ、確かに、多少?強引な気もしますが・・・
『この場合、横島を範囲外にやったのは美神なんだから、失格になるのかな?』とか、
『あれだけセリをしていて、残り時間が・・・』などいう疑問は・・・
まぁ、邪神ロキ様が、過程を十二分に堪能したし、勝負無しと言う事で、今後も楽しめそうだから、目を瞑ったという事で、気にしない事にしましょう♪
面白いんだし、こう言うドンチャン騒ぎをしまくり、引っ張るだけ引っ張って、結果が出ない事こそ(その為に、横島君がひどい目に遭うのも)、 ある意味、(ギャグバージョンの)GSらしいお話という事で・・・
非常に面白かったです♪
『アルカナ大作戦!!』も楽しみにしています♪ (とろもろ)
最後の最後で美神らしい、意地っ張りの中で想いを吐露してくれたので、私としては大団円かな、と思います。
この話自体が非日常のお祭りなわけで、こうしてノーカウントとなることで、「お祭りはまだ終わらない」てな感じですね。
完結までお疲れ様でした。『アルカナ大作戦!!』も某所のころより読んでますので今後とも楽しみにしています。 (R/Y)
あの邪神ロキでさえ同情する横島って・・・・(汗)
次回作の『アルカナ大作戦!!』、とっても楽しみにしています。
ではでは〜〜〜♪ (法師陰陽師)
横島射出・・・・哀れだね〜〜横島w
素直になりたくても素直になりきれない美神がかわいいッス!!
次回作の『アルカナ大作戦!!』、期待しています。 (天皿)
最後の印象がボケてしまった感じが否めません。
ただ、美神令子のらしさの表現というか、彼女らしさの描写は最高です! (純米酒)
私のいまだ拙い作品に最後まで付き合ってくださり、感謝の言葉もありません!
ミネルヴァ 様:
引っ張ってきたのは、このためです。
ミネルヴァさまの意見のように、読者の皆さんの叫びを聞きたかったがためです!(をい
画面の前で叫んだ方も多いでしょう。かく言う私も叫びました(ぇ
…まあ、楽しかったからよしとしといて下さい。
HAL 様:
>横島が「自分が素直になるまで」待っていてくれる保証はどこにもないぞ。
美神はきっとその辺を深く考えてません(笑
んでもって、横島を待たせ続けると。
まあ、気長に待ってやってて欲しいですが。愛想尽かすほうが早そう…(汗
スレイヤー 様:
労いのお言葉、有難うございます。
>ここの二次創作小説投稿広場内でも自分の中ではTOPクラスの内容かと。
>というかもっともこの投稿広場で期待していた作品でした。
いえいえ、そんな事は!
ただのギャグ話に、ここまで仰っていただけて感謝感激アメフラシ(?)でございます!
どこまでもただひたすらに、GSキャラのキャラ性を追いかけた結果ですので。
ただ、最後まで楽しんでいただけたようで、それが何よりです。
……一つ上げるなら、ロキの役どころがあまり活きなかったな〜と…。
とろもろ 様:
実はこの最後のオチですが、オークションを始めた頃に浮かんだ疑問が発端でした。
「あれ? 落札せずに時間切れなら、横島の勝ちじゃないか?」
…完全に失念してましたね。
『結末はドロー』としか考えてませんでしたから。
で、どうやってルールに則って尚且つ、ドローに持ち込めるかと考えました。
「そうだ! 敷地内が範囲なら、その外に出たら失格だ! 横島を失格させよう!」
わずか2秒で結論が出ました(笑
……行き当たりばったりにも、程があります。
まあ、結果が『らしく』なったのでいいかな、と。
次回作の『アルカナ大作戦!!』も楽しみにしててくださいw
R/Y 様:
>「お祭りはまだ終わらない」てな感じですね。
そうですね。
美神が素直にならない限り、このお祭りは局面を変えないでしょうね。
『らしさ』もいいですが、そろそろ素直になって欲しいものです。
アルカナの方は、結構いろいろ手直ししての投稿ですので、前と比べてみても面白いかもしれません。
コメント、有難うございますw
法師陰陽師 様:
ちゃんと原作の美神のキャラが出ていたようで、ほっとしてます。
横島も、わりと幸せ者かもしれませんが…伝わりにくい愛情ですよね(苦笑
『アルカナ大作戦!!』については、なるべくお待たせしないようにするつもりです。
がんばって投稿します!
天皿 様:
>横島射出・・・・哀れだね〜〜横島w
彼は星となったのです(笑
美神の意地っ張りなとこはもはや魅力だと思うのです。
あそこまでいくともう…。
次回作、期待に応えられるように頑張ります!!
純米酒 様:
>オチとしては最高なんですが、いかんせん鬼ごっこの最中の暴走が強烈過ぎたので、
>最後の印象がボケてしまった感じが否めません。
まったくもって、その通りだと思います!
この作品はキャラのアクが強すぎて、ネタが追いつかなかったって感じでした。
彼らに伸び伸びとやらせていると、もう…(泣
調子に乗って悪乗りしてると、こうなるという教訓ですね(違
私は美神が好きなものでw
以前はシロが好きと書きましたが、シロも好きです。
おキヌちゃんも、タマモも、小竜姫も、ワルキューレも、もちろん横島も、アシュタロスだって。
ようは、みんな好きと(笑
だからこそ、私の作品では『らしさ』を大切にしていきたいのです。
>ただ、美神令子のらしさの表現というか、彼女らしさの描写は最高です!
こう言っていただける様にw
では、皆様!
また次回作でお会いしましょう!! (詠夢)
実は今回ここに感想を書き込んだのには訳がありまして、自分もこの椎名作品二次創作小説投稿広場に作品を書いて下ります。その作品の中ではなくコメントの方に調子に乗って”お菓子の部屋を作ってその後薄い壁にヒロインを飛び込ませ実はそこにトリモチが敷いてあってヒロインをバタバタさせたい”と書いたのですがそれってここのパクリですよね?”お菓子の部屋”は”冥子ちゃんのお菓子の家”だしとりもちバタナタはゴキブリほいほいの話だし。自分はここの話を読み返すまで気が付きませんでした。最初から読み返していて気が付きました。人様の話を自分で考えたネタだと勘違いしてしまいました。
すいません! すいません!すいません!
当たり前ですが自分の話ではこのネタを使うことはありません。本当に申し訳ございませんでした。 (さらすぱ)
感想くださって、有難うございますv
ネタについては別にお気になさらずともよろしいと思います。
ここでは多くの作家様が作品をお書きになられてますし、ネタがかぶることもあるでしょう。
また、それらの作品からインスピレーションを受けることもあるでしょう。
私の作品では、お菓子の家とゴキブリほいほいは違うお話として扱ってますし、さらすば様の話では、どうも繋げて使っているようですよね?
でしたら、別に使われても構いません。
それが「面白い」と思われたのなら、気兼ねなく書かれてください。
「パクリになるから」と、どうしても気になられるならよろしいですが。
あからさまなパクリはともかく、こういうネタの使いまわしは楽しければ良いのではないでしょうか。
作品よければ全てよし、なのです!(言いすぎ?)
コルベット 様:
感動してもらえたっっぅ!!(喜 (詠夢)
原作のドタバタコメディ路線を生かしていて、とても楽しく読ませていただきました。
美神令子が〆担当というのも、GSらしくて良かったと思います。
欲を言えば、GS原作で横島ラブ要素がはっきりと見える令子とおきぬを、もう少し、目立たせてくれたらな〜と言うのはありますが(笑)
でも、GS二次創作界の流行と原作の雰囲気を、上手く融合させた作品だと感じました。
では、進行中の作品、ならびに次回作に期待してます。 (KOOL)
「漢」「敬礼」「簀巻き」など私のツボにハマるものばかりで素敵でした。
鬼道がとてもおいしい「漢」のポジションでグッドです!!
二次創作としての真髄をここに見た気がします。
アンタ最高や!! (ちくわぶ)
随分前のコメントにあった、有耶無耶になってドローって感じに落ち着きましたね
美神が妙に可愛らしいのも個人的にツボですな〜
しかし横島よ、例え縛られていても自分の手のひらに文珠出せるんだから「転移」とかで逃げれなかったのか?w (時雨)
なんと言うか、もともと彼女は命令できる立場ですから、そもそもメリットがありませんしね。ルール説明時に文句を言わなかったところから、この結末を考えていたのですね。美神さんらしい…
まったく気づきませんでした。泣いてましたから、結婚でも要求するのかなあ?何すんだろう?えっ、せり!?横島の勝ったときの皆への要求権を奪い取る気かと…全然的外れな考え方をしていたので、本当に秀逸でした。
今回のギャグの中で、一番は、小竜姫の峰打ちですからに対する真剣って両刃ですよねでした。
冷静だった?ベスパちゃんだけが美神さんの思惑?に気づいたのかな?微妙におキヌ、シロタマも…
ここからは、ifですが、例えば、阻止されましたが、ヒャクメ並みのもの凄い対価がきたら、つられないですよね?また、いきなり、横島君の身柄をもらえるのかと、キーやんサッちゃんたちが来て、競売に参加したらどうする積りでしょうかね?まあ、渡さないでしょうが…
後、斉天大聖様かロキにからかってほしかったです。彼らにはバッチシ見えていたでしょうから… (凡士)