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BACK TO THE PAST!

何気ない・・・『修行』


投稿者名:核砂糖
投稿日時:05/ 1/ 6

かすかに霧が漂う森の中。
地面には朽木が転がり、それを覆うようにびっしりとコケやシダが生い茂り、天から降り注ぐ柔らかな木漏れ日が霧に乱反射して幻想的な光の筋を幾本も作り出している。
空気はとても澄み、ヒヤッとしていて、(少し変な言い回しだが)とても吸いやすかった。

まさに森。神秘的な森であった。



そんな森の、少し開けたところに、誰かやや小柄な人物が油断なくあたりを警戒している。
スレンダーな体つき、端麗な顔つきから判断すると女性のようだ。

服装は動きやすさのみを重視しているのか白い肌が露出しているへそだしスタイルで、とってもセクシーである。
しかし腰に下げた大振りの刀がなんともミスマッチだ。

手はその刀に添えられていて、いつでも抜き放てるように構えられていた。


突然、その剣士は刀を抜き放ち、「そこっ!!」と叫び声をあげると、何もいない場所に向かって斬撃を繰り出す。

一振りで十回斬り付けるという妖刀は存分にその威力を発揮し、狙った場所の地面を吹き飛ばして軽い爆発のようなものを作り上げる。

しばらくしてその爆煙が晴れ、地面のクレーターがあらわになった。
そしてそのすぐ脇に書かれた文字がいやでも目に入る。



『ば〜〜〜か。ここじゃないよ〜〜〜ん』



「ぐ・・・」
あまりの光景に、剣士の顔がゆがみ、刀を握る力が緩む。

しかし、これも敵の作戦だ。

ここで気を抜いてしまったが最後、次の瞬間にはその隙を突いた必殺の攻撃が襲い掛かるだろう。

そして自分は僅かながら気を抜いてしまった。

「くっ」
慌てて振り返ると、そこには黒の全身スーツにバイザーの敵の姿がもう目の前にまで迫っていた。
しかしかろうじて迎撃の時間はある。剣士は刀を握りなおし、迎撃に出ようと最小限の動きで振りかぶる。が、



―――――まて、なんでこいつにはほとんど霊力が感じられない?

そういえば、敵の得意技は・・・幻術!

剣士はすんでのところでまたもや後ろを振り向くと、そこにはまたもやバイザーの男が霊波砲を打ち出さんとしていた。こいつから感じられるプレッシャーが、剣士の本能に『こいつがホンモノでっせ?』と訴えかけている。

奇襲が失敗した『ホンモノ』の敵は慌てて霊波砲をキャンセルし、力を霊気の盾に専念する。
だが、こっちの攻撃予備動作が終了している以上、剣士の方に部があった。


「もらったぁ!」

そして刀が振り下ろされる・・・



・・・前に先ほどの幻であるはずの敵に、剣士は頭をひっぱたかれた。


べしっ

「きゃん!」


そして気が付けば、『ホンモノ』の敵が剣士の喉元に霊波刀を突きつけていた。

「ゲームセット」
『ホンモノ』君はにやりと笑って言った。


「な、何で幻が・・・」

剣士(ってぶっちゃけシロのことなんだけど)は涙目で幻の方を振り向く。

敵(はい横島です)の幻は、さもおかしそうに「わはははは」と笑い、どこからか取り出した扇でシロの頭をぺちぺちたたき、

「残念やったな〜お嬢さん」
と言ってから煙になって消えた。
消える瞬間に一瞬だけ、江戸時代からタイムスリップして来たような、道化師(SDサイズ)が見えたような気がした。

そして地面にはコロコロと『式』の文珠が転がる。


「なるほど・・・・自分の手の内が知られていることを逆手に取り、幻と見せかけ文珠で作った霊力がほとんど無いように調節した式神を囮のように使う。
そして相手が幻であると誤解して、自分本体に気が付き、そこへ攻撃に移ろうとするが、それこそが本当の囮で、先ほどの式神が油断した相手に攻撃。さらに怯んだ所へ本体による本命の攻撃・・・」

シロはう〜むとうなり、「流石は先生でござる」と続けて尻尾をパタパタ振った。

だが、

「ちっちっち・・・」
『ホンモノ』のはずの横島がキザったらしく指を振ったと思った瞬間、彼までもが煙に変わる。

そして地面には『式』『本物』と書かれた文殊がコロコロと転がった。

「そ、そんな・・・・じゃあ本物は・・・」

『ふっふっふ・・・ここだよシロ』

くぐもった声がどこからか聞こえて来ると思った矢先、ぼこっ!と彼女の足元の地面が盛り上がり、やがてそこから土まみれの横島が顔を出した。

「すごい!すごいでござるよ先生!!」

「ふっ、まーな」


確かにやっていることはとても凄かったが、何故であろうか?客観的に見るとなんてことも無い事に見えてしまうのは・・・。






「うっし、準備運動はこの辺にしてそろそろ色々教えてやろうか」
「はい先生!」

そう、彼ら二人は現在修行中である。

そもそもの始まりは、少し前の晩、横島が何となく言った「今度修行しよう」という言葉からだ。
本人はもっと後になってから始めるつもりだったのだが、シロによるおねだり(シロ六時中頼み込む、上目遣い、獣形態で足元にまとわり着くetc)により僅か二日後に決行されたのだった。


ちなみに今の二人の服装は、シロの方はかつて横島に霊波刀を習ったときに着ていた黒いアレ(説明できん・・・)。横島は動きやすさを重視するためにマントをはずしている。


「・・・とは言ったものの、俺って人に教えた事なんかほとんど無いからなぁ」
「そんな事いわずによろしくお願いするでござるよ〜」
横島はやはり気が進まないようだ。
別に面倒くさいからとかそういう理由ではなく、ただ教えることに自信が無いからである。

シロは横島から見ても優秀な戦士だ。そして一流の武神たちに鍛えてもらったその技術も力もとても高い。
それゆえ下手な指導でそれらを台無しにしてしまうような事は避けたかった。


「ま、とりあえず文珠の利用法をいくつか・・・から始めようか」
彼は、手に力を集中する。するとコロコロと文珠が湧き出すように手の中に現れた。

人間であった頃は一日に数個作るのがやっとであった文珠も、人の枠を超えた今の彼にかかれば出したいだけ出す事ができるようになっていた。
霊力が一割方しか回復していない今でも困らないほどの量なら普通に作り出せる。
(何故未だに霊力が回復していないのは、それほどまで徹底的にシロに叩きのめされたのと、魔族というのは霊力が皮を被ったような生き物なので一度それを大量に失ってしまうと回復に時間がかかるからである)


「さてシロ、お前はどうやってこれを使う?」
「え・・・それはやはり攻撃なら『爆』とか、あと自分の補助に『加』『速』とか・・・」
「はっはっは・・・やっぱりまだ甘いな。お前文珠使えるようになってまだあんまり経ってないだろ?」
「はぁ」
「文珠って言うのはだな、霊力と言うチカラの流れを100%コントロールする力だっていうのは知ってるな?
力の流れをコントロールするのが俗に言う『術』だ。霊力を炎なり衝撃波なりに変えて放つ・・・これが術。
そいで文珠はある意味究極の術。普通、術って言うモノは呪文や道具を使って霊力の流れを一方向にある程度コントロールし、利用する方法だ。これだと『使いたい力』への変換ごとに過程も違うし、効率も悪い。
だが、文珠は違う。これは術の過程をすっ飛ばしていきなり『使いたい力』へと変換する事ができるんだ。しかも変換率100%。
はっきり言って文珠が使える以上他の術は覚える必要は無い。

しかもこれは実際にはありえない方向に力を向かわせる事だってできる。よく見る術みたいな使い方もいいが、もっと常識離れした使い方をしないと宝の持ち腐れだぜ?」

ま、文珠は万能じゃない。限界はある・・・。と言い加え、彼は話を締めくくった。


「ふ〜〜む。勉強になるでござるよ」
彼の言葉を一言も聞き漏らすまいと真剣な顔をしていたシロは、サラサラと筆を走らせて手にした手帳になにやら書き込んだ。

横島が何だ?とその手帳の表紙に目をやると、『横島流霊的格闘術奥義書』とやたら気合の入った文字が書かれていた。
それを見た横島はやや苦笑し、説明を続ける。

「とりあえず幾つか見せてやろう」

幾つかの文珠の一つ中に『脱』の字が浮かび上がる。

「こいつは武装解除だ。例え敵がどんな武器、防具を装備していようとも一瞬で丸裸になる」
「丸裸でござるか?」
シロが手帳から顔を上げ、ふと師匠の目を見つめる。
「そう、丸裸だ。比喩じゃなく」
横島も弟子の目を見つめ返す。




















「・・・・次行こう」

あ、はぐらかした。






「これは完璧な隠匿術。これが効いている以上俺が何処にいようと何をしようと誰にもわからない」

キィン・・・

『同』『化』の二つの文珠が光を放ち、横島の姿が消えたようにシロには見える。

「おおっ」
自分の超感覚をフルに使ってもまったくその存在が捕らえられないと言うことに、彼女は感嘆の声を上げた。

この文珠の効果は、自分を取り囲む万物に同化させる事だ。それゆえ術者の体は『存在する事が当たり前』になる。
なので実際は今もシロに横島の姿は見えてはいるのだが、感知する事ができなくなる。

「・・・先生?何処でござるかぁ〜?そろそろ出てきてくだされ〜」
シロは前方に腕を突っ張り、『見えないように思い込まされている』横島を探して腕を動かす。もちろん至近距離にいた彼の体をぺたぺた触っているのだが、文珠効果でそれに気付けない。

「・・・・意地悪はやめてくだされ」
シロはだんだん不安げになり始め、横島を探る手をさらに激しく動かし始めた。

その腕の届く距離に探す物はあるのだがどうしてもその存在を感知できない。
ちなみにもし、この状態の横島が彼女を攻撃したとしても、彼女はそれに気付くことなく死ぬだろう。


――――・・・・そろそろ止めるか。


横島を探すシロが半泣きになったので、彼はからかうのはその辺にして術を解いた。







「ま、文珠編はこの辺にしておこう。他にも色々と有効な手段はあるけど自分で考え付いたほうがやっぱりためになるからな」
横島はその後二三例を見せてから文珠利用法講座を打ち切り、一段落をつけた。

「・・・・・酷い」
しかし、横島にとっては可愛い、そしてシロにとっては悪質極まりない手段でからかわれたシロは未だに上目遣いで横島をにらみ続けていた。

「・・・・いつまでもねちねち過去にとらわれ続ける弟子を取った覚えは無いぞ?」

「・・・・せんせーは拙者をおちょくったでござる」

「だから悪かったって・・・」

「・・・・せんせーは乙女の純情を踏みにじったでござる」

「あのな・・・」

「やっぱり先生は拙者の体だけが・・・・「ええい、鬱陶しい!!!それ以上言ったらもう教えてやらんぞ!!!」」

シロの発言をさえぎり、横島はやや赤くした顔で大声を上げた。

ぶーと頬を膨らます彼女なので、本気でそんな事を言っているのではないのだろうが、なんだかんだで純情な横島にその言葉はぶすりぶすりと突き刺さる。

「・・・なんで俺がこんな目に」
あんたが悪い。


それにしても高々これくらいの事で自分が腑抜けになるとは何事だろうか。
少し前までは言霊などこめていなくても十分に人を殺せそうな罵詈を浴びせされても気にも留めなかった自分がなんと言うざまだろう?



「うっわー何あの男?さいてー」
「ひゅーひゅー」


・・・・などと頭を悩ますより、いつの間にか集まってきた森の妖精さんたちギャラリーがとてつもなく気に食わなかった。

「・・・・シロ。そろそろ休憩にして昼飯でも食おう」
「え・・・すみませぬ。材料も何も持っていないでござる」


チャキ・・・


横島の手に、いつの間にかナイフとフォークが握られた。

ギャラリーたちの野次がぴたりと止まり、彼らはじりりと後ずさる。

「先生・・・いくらなんでもアレは・・・」
「ト○ロを食ったやつが言うな。なーに焼けば食えるさ」
ヤバすぎる展開に、無神経の塊のような女性ですら背中に冷や汗を浮かべたが、当の横島の暴走は止められそうに見えなかった・・・。

ちなみに暴走と言うか、ちょっぴり恥ずかしさを紛らわす目的もあったりする。


妖精たちのすがるような目線達がシロに集中する。

――――助けて助けて助けて!!

シロはふっと息を漏らすと沈んだ目線を投げ返す。

――――ごめん、無理。


「中国四千年の食文化をなめるなぁぁ!」
彼は、別に中国人でもないくせに、『車以外の走るものは何でも食う』という人類史有数の食文化を持つ国の威を借りてついに飛び掛った。



「ぎゃぁぁぁぁあああ!!!」

本気で命からがら逃げまくる妖精さんたちを見て、シロは己の無力さを呪った。





ちなみに結局は、妖精たちは自らの限界まで追い回されはしたが最悪の事態には陥らなかった。

横島も本気ではなかったらしい・・・たぶん。


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