山の上と下 プロローグ 妖華、咲く。
「無念!!」彼は、満身創痍という言葉すら不十分な状態の体を背後の岩壁にあずけた。
傷ついた内蔵から逆流した血が口からあふれ、口の中に鉄臭い味が広がる。本性として、獲物の生き血をすすったことは何度もあるが、自分のものはうまいとは思えない。
霊力の消耗は限界を越え、不死身とも形容される回復力も機能しなくなっている。先ほどまで群がる敵をなぎ倒した霊波刀の輝きもほとんど失われている。
「人狼ふぜいが、わらわと戦うには百年、早いわ!」
目の前で敵があざ笑う。その姿は女性的で、自分に比べれば、遙かにひ弱に見える。しかし、その”力”は強大で、犬神の里でも屈指の実力を持つ自分を持ってしても打ち勝てなかった。
「それにしてもついてないものよ。百歳有余の年月を経て、ようやく花を咲かせたものを、お前のせいで、台無しじゃ。せっかく育てた眷属の多くを失い、わらわも、ずいぶん消耗させられてしもうたわ。」
自嘲めいた台詞を並べながら、ゆっくりと、こちらに近寄ってくる。手は、とどめを刺すために槍のような形に変形している。
‘終わりか。’目を閉じ、最後を待つ。
さっきまであった口惜しさはなくなっている。もともと修行の旅に出た以上は、このような最後は覚悟の上だ。
ただ、残してきた妻と娘には悪いことをしたとの思いは残る。
‥‥ 最後の瞬間が、なかなか来ない。
目を開くと、敵はこの上もなく邪悪で楽しげな笑みを浮かべていた。
「お前をわらわの眷属とすれば、帳尻を合わせることができるか。」
その言葉に、最後の力を振り絞って叫ぶ。
「殺せ!! 死んでも、我が身は他者の言いなりになどならない!」
「抵抗は無意味だ。」
敵は、その言葉が世の真理であるかのように冷たく言い放つ。
‥‥ 意識が戻る。
水のたまった窪みに横たえていた体を起すと、冷たい雫がしたたり落ちる。
こわばった筋肉をほぐすように少しずつ体を動かしながら、暗闇でも見える目で辺りをうかがう。
自分がいるのは、ほとんど光のない洞窟であることを確認する。しかし、なぜ、ここにいるのかはわからない。それどころか、自分というものの記憶がほとんどないことに愕然とする。
‘俺は何者だ?! ここで何を? これから何を?’
疑問に対する答えが頭の中から聞こえてくる。
「汝は、死津喪比女の忠実な下僕。汝の使命は、我が母上を封じたる結界を除くこと。命を賭して行え。」
「はっ!」
目の前に声の主がいるかのようの膝をつき、恭しく頭を下げる。声の通りに行動しなければならないという強い衝動に支配される。
しかし、その衝動を感じる理由は、心のどこを探してもなかった。
構成としては、冒頭にショッキングな場面を持ってこようと努力している点は評価できるのですが、ちょっとヒキが弱いように思えますね。
登場している人狼がGS本編のシロや主要人物とどのような関わりを持っているのか描かれていないので、読者としては今ひとつ感情移入できません。
もちろん、この人狼が主人公だとは思いませんので感情移入する必要は無いのかもしれませんが、衝撃は薄くなりますね。
例えばこの人狼がシロだったりしたら効果的だったかもしれません。物語の全容が見えていませんし、作劇場の都合をまったく無視した意見なのであくまで例えですが。 (はくはく)
結果的に予告編にもなっていないものにコメント(&評価)をいただきありがとうございます。どうも少し勿体を付け過ぎ空振りをしてしまった(かな?)と反省しております。
週末には、本編を上げる予定ですので、よろしくお願いします。 (よりみち)
その節はコメント欄を汚してしまい、大変失礼しました。 (はくはく)
とりあえず・・本編を待ちますね。 (不動)
不動様、コメントありがとうございます。本編を見ていただければ判るとおり、普通の意味でのシロの父親ではありません。若干、普通でない話ですが、よろしければおつきあい下さい。 (よりみち)