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もしもねがいがかなうなら

一章 洋館と珍道中と (7)


投稿者名:さらすぱ
投稿日時:05/ 1/ 2




 ・・・・・ジコハッセイ キケンデス ショインハ タダチニ ヒナンシテクダサイ

・・・・・・クリカエシマス キケンデス ショインハ タダチニ ヒナンシテクダサイ


 幾度と無く照明の点滅と避難指示のアナンスが繰り返す中を横島たちは走っていた。
こんな事になったのも“とある馬鹿”が横島たちへの攻撃を命令して自分もその命令に巻き込まれて攻撃を受けると言うマヌケ以外何者でもない奴のせいなのだが。
 とにかくこのまま走っていてもしょうがないので隣で走る“とある馬鹿”に聞いてみた。

「おい、勘九郎。あのデカ物に出した命令、撤回できねーのかよ」

「無理よ!あんたも見たでしょ、あの馬鹿っぷり。あいつはまだまだ未完成なのよ。予定では完成までに後半年はかかるはずだったの。それを動かさざる得なくしたあんたが悪いのよ、横島。あたしは悪くないわ!」

 勘九郎の“俺ジャイアン”的な発言に横島はムカムカしたがここで勘九郎とドツキ合いをしていては後ろから正確に自分たちを追尾してくる究極の魔体33分の一モデル“まーくんGX”に追い着かれてしまうのでグッと我慢した。
横島たちは非友好的なまま走り続けていたが、彼らの後ろで「ひぇ〜!」と言う悲鳴が聞こえてきた。横島たちが振り返ると背を壁にもたれ掛けガタガタ震える美紗に今にも襲い掛かろうとする“まーくんGX”の姿があった。横島は舌打ちしつつも美紗たちに向かって走り出した・・・・・。


 美紗は壁に寄り掛かり全身をガタガタ震わせて「はぁわ、わ、わ、わ・・・・」と声にならない悲鳴を上げている。一応美紗も横島たちと逃げ出したのだ。駆けっこや運動はわりと得意な美紗ではあるが歴戦の戦いで鍛え上げられた横島たちの走りにジリジリと差をつけられてしまう。元気に見えても陰念との戦いでバテていたのだろうか?足をつまずかせて「ひぁ〜」と言う悲鳴とともに倒れてしまった。そこに“まーくんGX”が到着したという訳だ。

 “まーくんGX”は美紗に覆い被さるようにして「グェ、ハッ、ハッ、ハッ・・・・」と笑った。
まるで熊の様な“まーくんGX”を見て美紗は自分はこのまま食べられてしまうのかと思い命乞いのため言うだけ言ってみた。

「ひぇ〜、食べるのですか?わたしを食べるのですか! わたしなんか食べても美味しくないですよ〜。肉は無いですし筋ばっかりだし味もよろしくないので明日のお通じはピーゴロゴロですよ〜。そんな事より横島さんなんてどうですか? 筋肉モリモリ、お肉もトロトロ、お味もジュウシー誰にでもお勧めできる至高の一品ですよ〜。えっ、たりない? なら勘九郎さんもお付けしますよ。味でこそ横島さんに引けを取りますが外はカリカリ、中はフンワリ、勘九郎さんの中にぎっしり詰まった旨味がより横島さんの味を引き立たせてくれることうけあいです。 あ、もちろん勘九郎さん単品でもとっても美味しーんですけどね〜」

 涙目で横島たちの美味しさを熱く語る美紗。しかし“まーくんGX”は“お前の方が美味いんじゃー”と言うように「ぐぉー!!」と唸り声(うなりごえ)を上げて美紗に襲い掛かった。「ひぇ〜!」と情けない悲鳴を上げる美紗。


「この、美紗ちゃんから離れろ!ロリコン魔体!!」

 ボコッ!!

 横島の作り出したサイキックソーサーがうなりを上げて“まーくんGX”に襲いかかった。サイキックソーサーは真っ直ぐに”まーくんGX”に向かって行き彼の肩の肉をごっそりともぎ取って行った。

「グォーー!!」

 “まーくんGX”は、悲鳴を上げてその巨体から想像できないくらいの素早い動きで美紗から距離をとる。
後ろから駆け寄ってきた横島の手が美紗の襟首をつかみ、さらに後ろから駆け寄ってきた勘九郎に美沙をひょいと投げた。
勘九郎は横島から投げられた美紗をキャッチして素早く“まーくんGX”の射程圏外へ移動した。

「グォ!グォー!!」

「なっ、馬鹿な!」

 “まーくんGX”が雄叫びを上げるとえぐられた肉がモリモリと盛り上がって元の形になる。そして”どうだ、見たか?“と言うように「グッ、ホ、ホ、ホ」と笑った。
横島は「けっ」と悪態をついて右手を“栄光の手”状態にする。そして“まーくんGX”に向かって“光の影”を走らせた。
神速で“まーくんGXに向かう帯広の”光の影”。“まーくんGX”は”何だ、これは?”と言うように「グォ?」と言う声を上げる。そして”光の影”は“まーくんGX”を一重二重(ひとえふたえ)に取り囲む。 「グォ? グォ?」
 そして・・・・・・

・・・・・“光の影”が“まーくんGX”を包み込む半透明の光の球体となった。

『凝固』 横島が呟くと光の球体はガラス質の硬化した物に変わる。

 光の球体に閉じ込められた“まーくんGX”は“オリはいやじゃー!!”と言いたげに「ギャー!ギャー!」とわめき”こんなとこ閉じ込めやがって出せー!!”と言いたげに光の球体をガシ!ガシ!と叩く。 ピシ!ピシ!と、ひびが入り、やがてパリン!という音とともに光の球体が砕け散った。
 横島は光の球体が砕けるタイミングに合わせて“まーくんGX”に向かって文珠を投げる。そして文珠の文字は・・・・・

――――――『闇』――――――

「グォーーーー!!」 視界を奪われた“まーくんGX”が手当たり次第に暴れだす。無論そんな攻撃が横島に当たるわけが無く攻撃は全て空を切る

「はぁーー!!」

横島は霊力を集中して大剣クラスの霊波刀を出現させる。そして一歩踏み出し“まーくんGX”に斬りかかった。

 ザン! ザシュ!

 横島の振るう大剣クラスの霊波刀が“まーくんGX”の右腕を切り飛ばし返す刀で左足を切り飛ばした。

「グォーー!!」

 “まーくんGX”は悲鳴を上げながら尻餅をついた。しかしまだ闘志を失ってないのか左手を弱々しく上げて「グォ!」と言う気合とともに指先の爪が横島に向かって飛び出した。
 横島とその後方にいた勘九郎は自分たちに向かってくる爪を軽々とかわした。

「終わりだな・・・・」

 横島が霊波刀を構えまさに一刀両断にしようと歩みを進めたその時

「待ちなさい、横島! 小娘がやられたわ!!」

 横島が振り返ると勘九郎に抱き抱えられシャツの腹部を血で真っ赤に染めた美紗がいた。横島は「ちっ」と舌打ちして

「ずらかるぞ! 勘九郎!!」

 と、言うと美紗を抱えた勘九郎とともに急いでこの場を後にした。


・・・・・・数分後。文珠の効果も消え去り斬られた右手と左足をくっつけた“まーくんGX”が再び横島たちを狩るために“のっしのっし”と歩き出した・・・・・。




背中を横島に支えてもらいながら美紗は通路の床に座り込んでいた。前に回りこんだ勘九郎が患部の様子を見ている。

「まずいわ、横島。傷は内臓には達してないけど裂けている部分が大きくて出血が止まらないわ。このままだと長くは持たないわね」

 勘九郎の話を聞いて美紗は自分はもうダメなのかと思いついつい弱気な言葉が出てくる。

「あー、わたし、ついにお父さんのところに行くんですね・・・・。考えてみてもわたしの人生あまりいいこと無かったような・・・。この前食べ損なった駅ビルのチョコレートサンデーもう一回食べたかったなー・・・・」

 美紗がそう言うのと同時に彼女を淡い光が包み込む。すると美紗の傷が見る見る塞がっていく。横島が背後から『治』の文珠を発動させたのだ。傷が完全に塞がると淡い光も消えていった。

美紗は顔を真っ青にしながらすっかり塞がった傷口を見つめ、手をプルプロと痙攣させて傍らのバックから手鏡を取り出して自分の額の様子を手で何度も何度も確認した。

「あ〜、良かった。額に変な文字が浮かんで無くって・・・」

美紗は安堵のため息を漏らす。

 ・・・・もし額に文字が浮かんでいたら一大事である。一応不死身になるが代わりに不死身にしてくれた人の奴隷として生きていかなくてはいけないのだ。しかもその不死身にしてくれる人はやたら長生きだったような・・・。
でもその不死身にしてくれる人が格好よくて優しくて常に自分の味方の美少年だったらなってもいいかも・・・・・。
しかし額に変な文字が浮かぶのだから何かで隠さないと格好が悪い。そう、例えば鉢巻とかバンダナとか・・・・

・・・・・・・バンダナ!?

 驚いて背後を仰ぎ見る美紗。 「へ?」とマヌケな顔をして答える横島。その額には間違いなくバンダナが巻いてある。

 間違いない!!

・・・・・確かに横島さんの生命力には人知を超えた異常な物を感じていたのだが、まさかこう言うカラクリだったとは・・・・。
と、言うことは横島さんのご主人様はやっぱり悪者に捕まっているのだろうか?
そうか、そう言う事か! ついにわたしは横島さんの旅の目的を理解した!!・・・・・。

 美紗はくるりと横島の方を振り向いて彼の手を取り涙声で語った。

「横島さん。・・・グズッ・・・一緒にご主人様を取り返しましょうね・・・・グズッ・・・・」

「あ、あー・・・・。 勘九郎、美紗ちゃんいったいどうしちまったんだ?」

「さーね。なんか拾い食いでもしたんじゃないの?」



 美紗が向こうの世界から帰ってくるのを待って作戦会議が開かれた。最初は美紗からの質問から始まった。

「あの〜、“まーくん”なんですけどあれはいったい何なんでしょう?なんか究極の魔体って言っていた様な気がするんですけど。何か横島さんと勘九郎さんは詳しそうですよね」

 美紗が“まーくんGX”の事を質問すると勘九郎は待ってましたとばかりに胸を反らして説明した。

「ほっー、ほ、ほ、ほ・・・。良くぞ聞いてくれたわね、小娘。あれはあたしたちが作り上げた希望、あたしたちの福音の戦士なのよ〜!!」

 勘九郎がハイテンションで説明すると横島はつまらなそう顔をして反論した。

「けっ、何が福音の戦士だ。小笠原諸島沖に沈んでいる奴をただコピーしただけじゃねーか」

「ふっ、確かに言えるわね。海中に沈んだ奴の体から生きた細胞を取り出して培養して作ったのはあたしたちなの。あたしたちは神様を拾ったと喜んだわ。でも成長したやつは霊力の無いただの肉の塊だったわ。魂も霊力も無い、奴のガフの部屋には何も無かったのよ〜!!」

「あれ? でも“まーくん”は口から砲撃みたいなものを吐いていましたし肉体が欠けてもすぐ再生していましたよね。どちらも膨大な霊力を感じましたが?」

「霊力の無い奴は使い物にならない。そう考えた科学者たちは・・・・」

 そう言うと勘九郎は横島の前まで歩いていき小指を立てて言った。

「だから科学者たちは奴に『破片(かけら)』を使っちゃったのよ〜!!」

・・・・・・・・・・・・・・。

 見つめ合う横島と勘九郎、二人の間に沈黙が支配する。しかしその沈黙は長くは続かなかった。
我に返った横島が勘九郎の襟元をガッ!と掴んで彼の上体をブンブンと振りながら言った。

「てめー、勘九郎〜!! あれがどれだけ危険なものか判ってんのか。 使っちゃっただと! あれが人に使いこなせる物かよ。もし何かあったらどうする気だ!!」

 なおも勘九郎をブンブン振り回す横島。だんだん勘九郎の顔色が肌色から青へ、青から紫に変わっていき、そろそろ危ないかと思われたその時、勘九郎は横島の両手をガッ!と外して逆に横島の襟元を掴んでブンブンと振りながら言った。

「横島〜!! あんたやっぱり『破片(かけら)』の事知っていたのね〜!! どこまで知っているのか言いなさい! さあ、おねいさんは怒らないから知っていること全部言いなさいよ!!」

 だんだん顔色がヤバめになっていく横島を見ながら美紗は“面白い漫才だな〜”と思った。しかし自分の知らない事で盛り上がられても面白さが半減なので『破片(かけら)』について聞いてみた。

「あの〜、『破片(かけら)』とは何カケラ?」

「「なんでもないよ!!」わよ!!」

 あれだけ争っていた二人に同時につっこまれる美紗。

「ふぇ〜、何故かしかられた〜」

 美紗はしょげかえってしまった。



 三人はお互いが冷静になるのを待って再び作戦会議を開いた。一応『破片』については場が混乱して会議どころではなくなってしまうので触れないと言う暗黙の了解が成り立っていた。

「え〜と、それで“まーくん”に対して何か攻略方法をお持ちの方は手を上げてくださ〜い。 え、誰も手を上げませんね〜、と言うことはわたしの作戦で良いと言うことでしょうか?」

元気よく発言する美紗。横島は苦笑しながら美紗の発言の続きをうながした。

「で、どういう方法を使うつもりなんだい?」

「え〜とですね。“まーくん”に対してはあれを使おうと思うんですよ」

 美紗の指した指の先には通路が少しへこんだ所がありそこにガスボンベが10本位並んである。ガスボンベには『液体窒素』と書いてあった。

「ほおっ〜ほ、ほ、ほ、ほ〜、さすがダメ小娘ね。あのボンベを使うのはいいとしてどうやって奴のところに持っていくのよ。それにバルブをキコキコと回すのをじっと待ってくれると思うの?」

「あれ? 勘九郎さんはわたしの作戦には反対ですか? 反対と言うことは何か代案をお持ちなんですか?代案なき反対は無効ですよ〜。でも勘九郎さんのことだからきっと凄い代案をお持ちなんでしょうね〜。聞きたいな〜、わたしはものすごく聞きたいのであります」

「くっ、わかったわよ。あんたの作戦とやらを聞いてやるわ。ただくだらない作戦だったら承知しないわよ!」

「それはですね〜。 さっ、勘九郎さん。こちらへどうぞ」

 と言って勘九郎を横島から離れたところへ連れ出す美紗。そしてゴニョゴニョと話し出す。最初は馬鹿にして聞いていた勘九郎も熱心に美紗の話に耳を傾けている。
 一人取り残され嫌な予感のする横島は内緒話をする二人に声をかけた。

「おーい、そんな所で話し合ってないで俺も混ぜて話し合おうぜ・・・・・」

 横島が声をかけると二人は逆にバリケードを築くように横島に背中を向けてさらに熱心に話し出す。その姿がさらに横島の不安を煽る。

「また、俺がひどい目にあうのかよ・・・・・」

 正直もう付き合っていられない気分の横島は“幾度と無く味合わされて来たその屈辱の日々を終わらせるためにはちゃんと断らなきゃいけないんだ! 今度こそ俺はNOと言うぞ〜!!”と決めた。

横島が自分の運命を変えようと胸に強い意思を込めていると話し合いがうまくいったのかニコニコ顔の二人がやってきた。

二人の笑顔を見た横島は“間違いねー、あの顔だ”と思った。

「え〜、今から勘九郎さんと決めた作戦を発表します。 あ、一応言っておきますけど横島さんの反論は認められませんから。なぜってわたしと勘九郎さんは二人、横島さんは一人。多数決で決めた決まりは民主主義的には正しいので反対してはいけないと日本の刑法で決められているからなのです。これに逆らうととっても怖い目にあいます。つまり判りやすく言うと横島さんの反論はナッシングというわけであります」

 美紗の正しいんだか正しくないんだか良くわからない説明を聞いた横島はまぶたから熱いものがこみ上げてくるのを感じていた。

「あれ? 横島さん、どうしちゃたんですか。急に泣き出しちゃったりして」

「ふっ、さすがね、横島。 まだ説明する前から感動してくれるとは・・・・ あんたは天才だわ」




「グルゥ、ルゥ、ルゥ、ルゥ」

薄暗い通路にのぶとい“まーくんGX”の声がこだまする。今の彼はとても不機嫌なのである。それと言うのも本来狩る立場の彼が狩られる立場の横島にもう少しで狩られそうになった事に起因する。彼の色が真っ黒なのでわかりづらいが彼のおでこにはきっかりと怒りマークが付いており、もし彼の様子をテレビカメラが捕らえたならば“メンチを切る熊”として彼の映像がお茶の間に配信されたことは想像に難くない。 と、そこへ

「小さくとも女は魔物じゃー! 俺はこんりんざい女を信用しねーぞー!!  でも!でも!綺麗なねーちゃんだったならおれは・・・・・」

と言う聞き覚えのある声が聞こえてきた。彼のいる場所の少し先にいつの間にか横島が現れ世にも珍妙な“地団駄ダンス”を踊っていた。 横島を見つけた“まーくんGX”は“ここであったが百年目だー”という感じで

「グォーーー!!」 と吼えた。 

 横島は「ひぇー!!」と言うなさけない悲鳴とともにピョンと1メートルほど跳び上がり、尻を突き出し両手も前に突き出して足だけでちょこちょこと歩き出した。先ほどの強敵と言う感じの横島ではなく羊のような横島に“まーくんGX”は“猫まっしぐら”という感じで飛びかかった。

 ぴょん!

“まーくんGX”の突きを横島が飛び跳ねてかわす。そしてまたちょこちょこと歩き出す。

「グォー!」 ぴょん! 「グォー!」 ぴょん! 「グォー!」 ぴょん!

「グォー、ホ、ホ、ホ、ホ・・・」

 横島の愉快な動きに“まーくんGX”は“猫じゃらしを与えられた猫”のような状態になり知らず知らずに横島に誘導されていくのだった・・・・。
 15分ぐらいたった頃だろうか“まーくんGX”が「グォー!」と襲いかかるとちょこちょこ歩いていた横島は“ぴょん!”と飛び跳ねずにくるりと振り向いて

「サイキック猫だまし!!」

「ギャ!!」

 “まーくんGX”は横島のサイキック猫だましをくらい目を両手で覆い座り込んでしまった。

「それ! 逃げろ!」

 横島は座り込んだ“まーくんGX”を尻目に一目散に通路の先に逃げ出した。
両目を覆って座り込んでいた“まーくんGX”も“このー! 騙しやがってー!!”という感じに「ぐぉー!!」と吼えて横島の後を追いかけた・・・・・。


横島を追いかけたその先は通路が真っ直ぐ続いておりその先が十字路に分かれていて、またそのちょっと先に横島と勘九郎と美紗が立っていた。
“まーくんGX”は“ここに居やがったか!今ギッタギタにしてやるぞー!!”という風に「グォー、グォーー!!」と吼えて横島たちに向かって突進した。しかしその突進も彼がちょっと進んだところで阻まれてしまった。彼の足元には床一面にびっしりと呪符が貼り付けてありその呪符の力で彼の突進を阻んだのであった。もちろん呪符ぐらいで彼の動きを完全にとめることは出来ないがノロノロと動く彼の姿を見るに効果は十分だった様だ。 「グォ?グォ?」

 通路の先にいる美紗が印を踏み呪を唱えて言った。

「業火豪放!!」

 ピシャー!! と札の先から出た雷光が“まーくんGX”に襲いかかった。バチバチバチ!!美紗の放った雷光に包まれる“まーくんGX”。
「グォーー!!」“まーくんGX”は悲鳴を上げる。効果はそれだけでない、バチバチとはじける雷光が通路の壁に立て掛けてあるボンベに貼り付けてあった破魔札に霊力が引火して爆発を起こす。

 ボン!! ボン!! ボン!!

 『液体窒素』のボンベが次々に爆発を起こし冷たい冷気をまとった爆風が“まーくんGX”を包み込み一瞬で凍りつかせた。
爆風が“まーくんGX”だけでなく横島たちにも向かっていく。勘九郎が右手を上げて霊波砲を放ち爆風の威力を弱めて横島がサイキックソーサーを薄く通路の幅いっぱいに張ることによって通路を一時的にTの字にする事で爆風の威力を左右に逃す。結果、カチコチに凍りついた“まーくんGX”だけが残った・・・・。


「オッ〜、ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホォッ〜 どうかしら?原案小娘、脚本このあたし事、鎌田勘九郎。そして喜劇役者究極の魔体“まーくんGX”による夢の共演は? しかし究極の魔体の名が泣くわね“まーくん”。あんたなんて究極の魔体なんてご大層な名前なんて必要ないわ、熊で十分よ。いい?明日から熊の“まーくん”と名乗りなさいよ」

 ぴし!

「本当ですよ〜、“まーくん”。もしここまで来られたら頭ナデナデしてあげますよ〜。あ、あと秘蔵の去年あまったみかん上げちゃいますよ〜」

 ぴし! ぴし!

「おい、おまえらあんまり刺激する様な事言うなよ。何かぴしぴし言ってるし・・・・・」

 恐る恐る言う横島。

「何言ってるのよ、横島。もう奴はカチンコチンじゃないの・・・・・へ、ぴしぴし?」

「そうですよ、横島さん。もう“まーくん”は動けないじゃないですか・・・・・え、ぴしぴし?」

 ぴし! ぴし! ぱりん!!

「グォーー! グォー! グォーーーーー!!」 “この、この野郎! 舐めやがって!舐めたまねしやがって!!”

 氷漬けになった“まーくんGX”が怒りのあまり彼を包んでいた氷を叩き割る。彼のおでこにもきっかりといくつもの怒りマークが付いており、いかに彼が怒っているかを物語っている。“まーくんGX”は「グォー!」と霊波を集中した。

「やば!やつは霊波を集中しだしたぞ! 勘九郎、美紗ちゃん、ずらかるぞ!!」

 だ、だ、だー、っと逃げ出す横島たち。横島たちが通路の曲がり角を曲がったすぐ後に「グォーー!!」という咆哮とともに霊撃砲が放たれ横島立ちのいた空間をなぎ払った。
“まーくんGX”は悔しげに「グォー!」と鳴くと今度こそ横島たちを狩るために駆け出した・・・・・。


 ばたん!

 横島たちは通路の行き止まりにあった鍵のかかったドアを強引に開けて中に入った。ドアの先は直径20メートル位のドーム状の空間になっていて床はなく断崖絶壁の様に空洞がはるか下まで続いている。下の方は薄暗くなっていて良くわからないがかなり深いことは見て取れる。その断崖絶壁の空洞の壁に申し訳程度の鉄の板が内壁を囲むように飛び出している。一応手すりが付いており作業用の通路なのだろうがとても安全基準を満たしているようには見えない。そこに横島たちが飛び込んだのだった。

「おい、勘九郎。さっさと進めよ。後ろがつかえているんだぜ!」

「無茶言うんじゃないわよ!こんなに狭いのにどうしろって言うのよ!!」

「はぁわ、わ、わ、わ・・・・。急いでください、勘九郎さん!でないと“まーくん”が・・・・」

 勘九郎を先頭に、美紗、横島と続く。一応反対側に見えるドアを目指しているのだが通路が狭いので思い通りに進めないでいた。彼らが一つ目の角を曲がった所で

ドカ!!

 ドアをぶち破って“まーくんGX”が入ってきた。彼は“ここに居やがったかー!待っていろよー!!”という感じで「グォー!!」と吼えて横島たちを目指そうとした。 

「「グォー!!・・・・・ グォ?」

 横島たちでも狭い通路なのに体積が三倍以上ある“まーくんGX”が通れるわけが無かった。

「ぷっ、アホよ。アホ熊だわ」

「“まーくん”。明日の朝食のハチミツ抜かないといけませんね〜」

「だからお前ら、あんまり挑発する事言うなよ・・・・」

 ・・・・・・・・・・・・ブチ!

「グォーーーーーー!!」

“まーくんGX”が口から霊撃砲を放つ。凄まじい威力を持った霊撃砲が横島たちに向かって行き勘九郎の手前で大爆発を起こした。大量の爆煙が上がりやがてそれが収まると横島たちの行き先の通路が無くなっており、通路の端で落下しようとする勘九郎を必死で引っ張り上げようとしている美紗がいた。

「グフォ」 馬鹿にした様に笑う“まーくんGX”。 それを見た横島は

「ちっ、舐めやがって熊がぁ!」 と激高した。

 しかし激高していても仕方が無い。横島も美紗を手伝おうと近付こうとしたところで霊波を集中し終えた“まーくんGX”が再び霊撃砲を撃ってきた。今度こそ真っ直ぐ横島たちに向かう霊撃砲。

――――――『盾』――――――  プラス、サイキックソーサー

 文珠の『盾』とサイキックソーサーのダブルの盾で霊撃砲を防ぐ横島。凄まじいエネルギーのために真っ赤になる横島の盾。しかし、横島の作り出した盾が持たなければ自分だけでなく勘九郎や美紗もやられてしまう。

死なせやしねー! 絶対死なせない!!

その思いが凄まじいエネルギーに押されそうになるのを歯を食いしばって必死に押しとどめる力となる。
背後に勘九郎と美紗を抱えると言う横島にとっては圧倒的ふりな条件で“まーくんGX”と一進一退の攻防を続けた。


 美紗は落下しようとする勘九郎を両手で必死に引っ張り上げようとしていた。しかし体格差は如何ともしようがなくズルズルと少しずつ引っ張られていった。

「腕をやられたわ、どうやらそこに上がることは無理みたいね。小娘、放しなさい。このままじゃ二人ともお陀仏だわ」

「何言っているんですか、勘九郎さん。わたしは大丈夫ですよ。頑張りましょう」

「馬鹿ね。魔装術があるから大丈夫なのよ。魔装術には飛行能力もあるの。だからその手を放しても大丈夫なの」

 そういって勘九郎はニッっと笑った。

・・・・・・勘九郎が言ったのはウソである。魔装術には多少の浮遊能力はあるがとても大空を飛び回るほどの飛行能力など無い。そして美紗は

「何言っているんですか!こんな高さから落ちて無事な人なんているわけ無いじゃないですか!! 勘九郎さん。そんなに死に急がないでください。生きていればきっと良い事がありますよ」

「何言っているのよ。別にあたしは死に急いでなんて・・・・・・・」

 ぽたり    勘九郎の頬に水滴が落ちる。

 美紗は勘九郎の反論など聞こえないかの様に話を続けていた。

「・・・・・・・それで好きな人との子供が出来ても頭をなでで上げられないし、授業参観に行って元気に手を上げる子供の様子も見れないんですよ。
 それでそれで、お爺ちゃんになっても孫と会えないし、おこずかいとかあげられないし、デジャブーランドとかも一緒に行けないし、たまに会いに行っても会ってあげることも出来ないんですよ!!
 そんなのダメなんです!! だから死んじゃダメなんですよ!!」

 ぼたぼたと勘九郎の頬に水滴がかかる。最後の頃は勘九郎には美紗が何を言っているのか判らなかった。 勘九郎はただ上を見上げてじっと黙っていた・・・・・。


 横島と“まーくんGX”の勝負はとりあえず横島に軍配が上がったようだ。霊撃砲がだんだん先細りになりやがて完全にストップする。それと同時に横島も文珠の『盾』を消しサイキックソーサーも解く。
横島は「ふぅ」とため息をついて背後を振り返る、見ると美紗が通路の切れ目ぎりぎりにいて勘九郎を引っ張っているが今にも落ちそうな状態だった。

「美紗ちゃん!」

横島が慌てて駆け寄っていく。そして横島が美紗の体を支えようと手を伸ばしたとき・・・・・
・・・・・・背後の“まーくんGX”から急激な霊力の上昇を感じた。

“『盾』プラス サイキックソーサーじゃ間に合わねー!!”

 一瞬で判断した横島は背後に向かって文珠を投げつけた。

―――――『曲』――――――

横島に向かっていた霊撃砲が軌道を変え美紗の近くに当たる。

 ドカーン!!

大爆発が起こり爆煙を巻き起こす。その爆煙とともに吹き飛ぶ美紗と勘九郎。美紗はその状態でも勘九郎の手をしっかりと握っていた。目の前で吹き飛ぶ美紗はふわり浮き上がりその状態はまるでスローモーションのようだった。横島は必死に手を伸ばす。美紗も片手を伸ばし、お互いの指がもう少しで触れるというところで・・・・・・美紗は落下した。

“もう少しで助けることが出来たのに!!”

片手を伸ばしながら深淵に向かって落下し見る見る小さくなっていく美紗を見て横島はいつか見た光景とフラッシュバックしていた・・・・・。




・・・・・・・もうもうと上げる煙。傷ついた巨大な飛行戦艦が上げる煙で視界がはっきりしない。目の前には頭から触角を生やした少女が必死に戦艦の壊れた箇所を修理していた。目の前には自分たちのものと同じ型の飛行戦艦が浮かんでおりいつ砲撃があってもおかしくは無い。

「ポチ。そこにあるレンチ取ってくれる?」

「え、これっスか?」

彼女は両手を離し横島の方に歩み寄っていった。それがいけなかった。彼女が歩き出すと同時に敵戦艦からの砲撃があった。

 ギャーオースーーーーー!!

 敵戦艦の砲撃は自分たちの戦艦を掠める様にして撃ってきた。船外いた彼女は敵の砲撃の衝撃で摑(つか)まる物もないまま宙に放り出された。彼女は人類の敵、俺たちの敵、いつかは倒さなければならない敵。ここで彼女を見捨てればみすみす敵が一人減る。 


“俺は・・・・・・・・・・・・           「死なせない!!」”




 横島の中で何かがスパークする。彼の霊力が急上昇する。横島は手を深淵に向けて“光の影”を走らせる。グン!と凄まじいスピードで走る“光の影”。落下している美紗と勘九郎に巻きつくとそしてまたグン!と凄まじいスピードで引き上げていく。
横島が勘九郎と美紗を通路まで引き上げると右手を“栄光の手”状態から霊波刀状態にする。霊波刀から物凄い霊気が溢れてきて霊気の炎の剣状態になる。

「ここで待っていろ。 ・・・ラ」

「へ? 横島さん?」

横島の左手が淡い光に包まれる。そしてその光が収まると美紗の見たことのない二色の文珠の文珠があった。

「あれ? それも文珠ですか?」

しかし、横島は美紗の質問には答えずキッと“まーくんGX”を見つめた。彼は霊撃砲を打つために再び霊力を集中しだしていた。

――――――『飛翔』――――――

 横島が“まーくんGX”目がけて飛翔する。

「グォ!!」

“まーくんGX”は牽制のために両手を挙げて爪を飛ばすが、高速で飛翔する横島は飛来する爪をすべてかわした。
横島は“まーくんGX”の上空に到達する。文珠の『飛翔』の文字を消して霊波刀を構えたまま自由落下に任せて落ちていく。

「グォーーーー!!」

――――――『屈曲』――――――

“まーくんGX”は首を上空に向けて霊撃砲を撃つ。空気をバリバリと切り裂いて霊撃砲が横島を襲う。しかし文珠の『屈曲』の為に横島の手前で90度方向に曲がり、横島には当たらず逸れていく。 たん!と“まーくんGX”の肩に降り立つ横島。そして霊波刀を構えて“まーくんGX”の首の付け根を熱したナイフがバターを切るようにやすやすとVの字に切り裂いた。

「グォーーー!!」

 痛みのために悲鳴を上げる“まーくんGX”。横島は手を切れ目に突っ込み彼の中にあった『石』を取り出した。痛みのために悲鳴を上げ続ける“まーくんGX”を尻目に横島は文珠の文字を『飛翔』に変えて“まーくんGX”の元を飛び立ち、美紗の隣に降り立った。 “まーくんGX”はエネルギー源を奪われたためか体の調整が利かないようで手を虚空の物を掴むようにばたつかせた後、最後に

「グォーーーーー!!」と吼えると

 彼の体の中から炎があふれ出してきて全身を火ダルマに変えて落ちて行った・・・・・。


「奴の最後ね・・・・」

「ああー、奴も今思うと哀れな奴かも知らねーな。望みもしないのに作られて、望みもしないのに戦わされて、そして最後は火ダルマになって死んでいく。やりきれないぜ」

 そう言って勘九郎を見て薄く笑う横島。なんだか不思議な雰囲気が彼らを包み込む。と、そこへ

「あのうー、微妙な雰囲気を作っていらっしゃる所申し訳ないですけども“まーくん”て“火ダルマ”になって落ちていったんですよね?」

 いつに無く遠慮がちに尋ねる美紗。

「ん、それがどうしたんだい?」

「それがですね〜、わたし落ちていく時見たんですけども・・・・・・・」

「「ふむふむ」」

 勘九郎も横島と一緒に話を聞いた。

「落ちていく途中に壁に張り紙が貼ってあって
 
『       * 業務連絡 *                 

   このエリアの物は引火すると大爆発を起こして
  施設がこっぱみじんになりますので火気類の持込は
  絶対禁止とさせていただきます。

                     所長
                          』
 と書いてあったんです」

 だーっと滝のような涙を流す美紗。

「「な!なんだってーーー!!」」

 慌てふためく横島と勘九郎。

「勘九郎! 美紗ちゃん!俺に近寄れ!!」 そして横島は文珠を発動させる。

――――――『転位』――――――

 横島が姿を消した後施設は大爆発を起こした。


・・・・・・研究所が大爆発を起こした後その施設のあちこちから火の手が上がり、施設の周りは消防の人や近所のヤジ馬などでごった返ししていて横島たちはその人ごみに紛れてそそくさと逃げ出した・・・・・。




* 一章 エピローグ*

人ごみに紛れて逃げ出した横島たちの逃走も順風満々と言う訳には行かなかった。
“せっかく悪の組織と戦ったんですから自慢しましょうよ〜” と言う美紗に横島が涙を流しながらすがり付いて止めたりとか、“ちょっといり用なのよ〜”とか言ってゲイの専門店に入って行こうとする勘九郎を横島が殴り倒して止めたりとかホテルに着くまで横島の気の休まる間が無かった。

 ホテルに着いた一行はひとまずシャワーを浴びて汗を流してから横島の部屋に集まろうと言う事になり、それぞれの部屋に分散して行った。

「あれ? 皆さん早いですね〜」

 美紗がシャワーを浴び終えて横島の部屋へ行くと横島と勘九郎はもう既に部屋で寛(くつろ)いでいた。横島は窓辺に立ち夕日を浴びた町並みを飽きることなく眺めていた。その様子をイスに腰掛けジッと眺めている勘九郎。黄金色の夕日が二人を含めた部屋全体を染めて、まるで絵葉書の世界の様なその景色を美紗はため息交じりで眺めていた・・・・。
 美紗が気が付くともう日は既に落ちていて月の光が部屋を照らしていた。それでも二人はそのままの姿勢で動かなかった。
美紗は二人の為に即興で作った歌をプレゼントした。

「は〜ら、へった〜 な〜んか、くわせろ〜 
 おっなかと、せっなかが、くっつくぞ〜 」

 くるりと振り返る横島。彼は苦笑して言った。

「なんか食いに行くか〜」

 やった〜!!


「フゴ!フゴ、ホゴ、フゴ、ホゴ!!」 “小娘、いい加減にしなさいよ!あたしが3皿であんたが5皿。あんた小さいんだから遠慮しなさいよ!!”

「フゴ!ヘゴ、ホゴ、ホゴ、ヘゴ!!」 “何勘九郎さんは言ってるんですか!わたしが2皿で勘九郎さんは6皿。食べすぎなのは勘九郎さんですよ!!」

「わっ、お前ら汚いなー、食べかすがこっちまで飛ぶだろう」

横島は二人から離れて自分の分をちゃかり確保していた。

「でも美紗ちゃん、君は女の子なんだから食べる分をもうちょっと調整した方がいいんじゃないか?」

「そうかしら、食べすぎかしら? でも横島が言うなら食べる量を減らしてみようかしら・・・・」

 ?? 美紗に言ったはずなのに何故か勘九郎が答える。横島と美紗の頭の上には?マークが浮かんだ。


 美紗が部屋のベッドに腰掛けて寛いでいるとコンコンとノックして勘九郎が入ってきた。

「あれ、勘九郎さんどうしたんですか?」

「眠れなくてね。暇なんであんたとお話をしに来たの」

そう言うと勘九郎は美紗の隣に腰掛けた。

「昔話よ。昔話と言っても2年位前の話だけどね」

 そう言うと勘九郎は自分の身の上話を語った。話の内容は2年位前に死んでいた自分が魔王によって人類の敵側の人間として蘇(よみがえ)った事、その魔王が倒された後自分は魔界に行った事、魔界で自分より格下の相手に“擬似魔族”として馬鹿にされた事、魔界では自分の居場所がなくて人界で一旗上げようと今の組織に入った事などを話した。

「なんか凄いですね。元々は人類の敵側だったんですか」

「そう言うあんたはどうなのよ?」

 美紗も自分の身の上話を話した。自分の父親はGSで降魔大戦の時付近の住人を守ろうとして悪霊たちに殺られてしまった事、その後親戚に預けられたけど親戚とはうまくいってない事、父親と同じような立派なGSになりたい事などを話した。

「ふ〜ん、結局あんたも、あたしも、横島もあの大戦の結果が影響しているのね〜」

「えっ、横島さんもですか?」

「あら、あなた知らないの?あの大戦に横島も参加していたのよ。しかも中心的な役割の一人だったの」

「あ!『横島忠夫 若干17歳 霊波刀使い 降魔大戦でスパイとして敵本部に潜入して有益な情報を持ち帰る』だっけ?でも横島さんと会った時どうして思い出さなかったんだろう?何度も“降魔大戦大全”を読み返していたのに・・・」

「ふっ、あの大戦の事を知りたければ横島にでも聞いて見たら? ま〜、あいつがあの時の事を話したがるとは思えないけどね」

 そう言うと勘九郎は「おやすみ、お嬢ちゃん」と言って部屋を出て行った。

「そう、横島さんが・・・・ぶつぶつ、これはマニアとして・・・・ぶつぶつ、なにか弱みを握って・・・・ぶつぶつ」



朝、まだ日が高く上がる前に横島たちはホテルを出て海岸通りを歩いていた。夏の朝のちょっとひんやりした空気と時折打ち寄せる波しぶきが気持ちいい。彼らがここを歩いているのも昨日のうちに勘九郎が陰念に迎えに来て貰うために連絡を入れておいたためだった。

「勘九郎さん。ほんとに組織を抜けて大丈夫なんですか? 昨日の話しだと追っ手がかかるとか・・・・ もし何かあったら・・・・グズ」

 美紗がベソをかきながら話すと勘九郎は美紗の涙を指で拭きながら言った。

「あたしたちは大丈夫よ〜。元々あたしたちは一つの所にじっとしていられる性分じゃないのよ。ほら何て言うの“風の向くまま気の向くまま”っていうのがあたしたちに向いているのよ。こら、そんな顔しているんじゃないわよ。いい?女はね最高にいい男に出会った時のためにいつでも最高の笑顔が出来る準備をしていなくちゃいけないのよ」

勘九郎はそう言うとお手本を見せるようににっこりと笑った。美紗も知らず知らずに笑顔になる。
そうこうしているうちに後ろから黄色いオープンカーが近づいてきて横島たちの少し先でキ、キ、キー!っと止まった。
勘九郎は横島の顔をチラッと見てから美紗に「じゃ、あたしは行くわね」と言って黄色いオープンカーに向かって走り出した。美紗は運転席に乗ったまま振り向きもしない陰念の事を気に掛けていた。

“わたしが酷い事しちゃったから怒っているのかなー”

 美紗は不安になる。勘九郎がオープンカーにたどり着いてドアを開けて乗り込みバタン!とドアを閉める。そしてオープンカーがキュル、ブン、ブーンと走り出す。走り出すと同時に運転席の陰念が前を見たまま右手を天に向かって上げて親指を突き出す。美紗の顔が笑顔に変わった。助手席の勘九郎も後ろを振り向いて「横島〜!お嬢ちゃん! 達者でね〜!」手を振りながら言った。美紗も元気に手を振り返す。そして彼らが見えなくなる。

「行っちゃいましたね〜」

「あ、あー・・・・」 

「なんて気持ちの良い人達なんでしょう〜。ねっ、横島さん!」

「あ、あー・・・・」

横島は心ここに在らずと言った感じだった。そんな横島に美紗は

「もう!何ですか、横島さん! わたしが『なんて気持ちの良い人達なんでしょう〜』と言ったら『いえ、そんな事ありません。彼らは途方もないものを盗んで行った。 それはあなたの心です!』って返してわたしが『えっ、へっ、へっ、へっ、盗まれちゃいました〜』と言うのが作法でしょう。いったいどうしちゃたんですか横島さん」

「いや、俺は今回の旅のあらましをずっと考えていたんだが・・・・」

 そう言って頭をボリボリとかいた後

「あいつらが邪魔しなければ今回は簡単だったんじゃねーかー! それを何だ!奴ら良い奴ぶりやがって! ムキー! あいつら今度会ったらギッタギタにしてやる!!」

横島は錯乱して霊波刀をブンブン振り回す。

「わ!危ないですよ、横島さん。落ち着いてくださいよ」

横島が落ち着いたのは地元のポリスに職務質問された時だった。


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