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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

走馬灯の終わり!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/12/29


なんでも走馬灯っていうのは、実際はほんのわずかな時間しか見てないとか。

目前の危険に対し、打開策をそれまでの経験から探すため、脳があらゆる記憶を引っ張り出すそうだ。

…じゃあ、今俺がこうやって回想に耽ってるのも、一種の走馬灯なのだろうか。

その割には、打開策が出てこないのだが。



          ◆



その男の顔には、いつにも増して怪しげな笑みが浮かんでいた。


「くくくっ…! あの机の娘さん…いいヒントをくれたね。」


言わずもがな、この業界でも悪名高き詐欺師…もとい商人、厄珍である。

彼は今、天啓を受けた。

その内容は、まさしく悪ではあったが。


「令子ちゃんの後ろに回るネタぐらい、いくらでも持ってるね…!」


蛇の道は蛇。同じ穴の狢。

幾度となく後ろ暗い取引を交わしたお得意様なのだ、美神令子という人物は。


「さあ、令子ちゃん!! あのネタやこのネタ、ばらされたくなかったら─!!」

「やめんかッ!!」


意気込んで叫ぶ厄珍の後頭部に、西条の怒声と愛剣の一撃が振り下ろされる。

柄で殴っているところから、まだ自制心はあるらしい。


「ブッ!? なにするかッ!?」

「やかましいッ!! 脅迫罪で現逮してやろうか!!」


現逮=現行犯逮捕。

しかし、法をつきつけられても厄珍は、鼻で笑い飛ばす。


「国家権力を恐れていては、厄珍堂店主は務まらないね!!」


見上げた商売人魂である。

その中身こそ、誇ることは出来ないが。


「人のこと気にするより、自分のこと気にするよろし。ま、ワタシのネタに勝てるならね。」


クククッ、とこれ以上ないほど人を小馬鹿にした笑いを見せる厄珍。

だが、西条は平然としているどころか、さらに勝ち誇ったような笑みさえ浮かべている。

そして堂々と言い放った。


「それなら問題ない。僕なら、それらを握りつぶせるからね!!」

「……アンタ、そんな事ばっかりしてると、いつか女で身を滅ぼすあるよ…?」


公私混同もここまでくると犯罪。

彼の師にして上司が、その後方でこめかみを押さえていた。



          ◆



別な場所では、もう一組の師弟が再会していた。


「せ…先生!!」

「おお、ピート君!! …もう、大丈夫なのか?」


唐巣神父の気遣いに、ピートは頷く。

その足元は、かなりおぼつかないものだったが。


「ええ。それより、先生…今の状況を聞きました。」

「うっ…そうなんだ。このままでは、私たちの教会再建の夢が…!!」


諦めの色さえ浮かべて、歯噛みする唐巣。

何とかしたいのはやまやまだが、実際問題彼らには金がない。

こんな勝負、持ち出された時点でアウトである。


「…いえ。皆さんがやっているように、僕が担保になります。」

「だ、だがピート君…。」

「それで足りなければ、実家の調度品を売れば…あれは父が集めたものですから。」


歴史的価値を鑑みれば、確かに一つ数十万、あるいは数千万の値がつくお宝もあるかもしれない。

さらに言うなら、城自体にも相応の値がつくはずだ。


「僕の家は、すでにあの教会なんです。だから気にしないでください。」

「…もう、充分だ。充分だよ、ピート…。」


ふっ、とどこか達観した笑みを浮かべる唐巣。


「そんな真似をして再建したところで、きっと神はお喜びになられないさ。」

「でも、先生…!」

「いいんだ。」


しばらくは、ぼろのままでもいい。

清貧、という有難い言葉だってあるじゃないか。

そう思うと、自然と心が軽くなった。


「先生…そうは言っても、家庭菜園の侵食はどうするつもりです?」


ぴしっ、と。

唐巣の動きが固まる。


「トマトとか芋とかの蔓が、教会の壁を突き破ったりしてるじゃないですか。いいんですか?」

「…い、いいんだ。」

「僕はわりと平気ですけど、冬になったら先生の体が危ないんじゃないですか?」

「………帰ったら彼らの駆除を行おう、ピート君。」


異常なまでの生命力を誇る野菜たちの姿を思い浮かべ、唐巣は力強く決意するのだった。



          ◆



ふらふらとボケ老人よろしく歩いているのは、やっぱりボケ老人。

もとい、ヨーロッパの魔王、ドクター・カオス。


「お〜、マリア! ここにおったの…か…?」


我が助手の姿を認めて喜んだのも一瞬のこと、その言葉は尻すぼみに消えていく。

原因は、そこに渦巻く何とも居心地の悪い空気。


「じゃあ、何? 机ごとき大して役に立たない、って言いたいの?」

「ノー、ミス・愛子。繰り返し・ミス・美神にとって・貴方の・有用性は・低いと・進言します。」


ぴりぴりと。

そんな肌を刺すようなオーラが、愛子とマリアの間に流れる。


「要は役に立たないって言ってるのと同じじゃない!! そう言うあなたはどうするつもりよ!?」

「…ドクター・カオス。」

「なッ、なんじゃ!?」


急に話を振られ、気後れしていたカオスの声は、多少上擦っていた。

が、それを気にした風もなく、マリアはあくまで、とことん冷静に案件を述べる。


「ミス・美神に・ドクター・カオスの・発明品を・数点・譲渡することを・提案します。」

「う、うむ。それはいいが…。」

「加えて・マリアの・貸し出しも・許可・願えますか?」

「む? ……ま、まあ、仕方あるまいが…週に三日くらいじゃぞ。」

「イエス。」


渋々許可するカオスに、心なしか満足げに頷くマリアだが、黙ってられないのは愛子だ。


「って、ちょっと!! それって私の二番煎じじゃない!!」

「ノー。総合能力の点から・マリアの方が・有用と・判断します。」


ごりっ、と。

愛子のプライドが、マリアの言葉によって触発─ようするに、キレた。


「何ですってぇ!! こっちは『悪霊吸い込んで異空間を地獄へ直結!』の破魔札いらずよ!!」


気付いて、愛子。それ、道具。


「ノー! 戦闘能力・運搬能力・情報処理演算能力・他・13項目から・マリアの方が・有用!!」


しかし、マリアもマリアで、どっこいどっこいである。

ぐぬぬっ、と睨み合う二人の傍で。


「……ワシの立場がないじゃないか…。」


いじけるカオスの背中は、老人特有の哀愁を背負って煤けていた。



          ◆



あちらでも。こちらでも。

それぞれの思惑が、それぞれにぶつかり、それぞれの局面を見せる。

それらの感情の高ぶりはやがて一つとなり、ただ一点へと集約。

壇上に立つ一人の女性へと、迸る。


『美神さぁぁぁん!!!』


そして、その女性は。




「あああっ… 私がこの場を支配してる…!! 皆の命運がこの手に… たまらないッ…!!」


ゾクゾクと、背中を駆け上がる快感に、身悶えていた。


「アカン…。本格的にダメだ、この人…。」


横島の呟きが、やけに空しく聞こえた。



           ◆



とまあ…ここまでが、ついさっきまでの回想。

残り時間も、もう幾らも残っていない。

結局、走馬灯から得られた、俺が採れる選択肢は一つだけ。

とりあえず………泣いとこう。


「このまま終わるのは、嫌じゃあああああぁぁッ!!」


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