椎名作品二次創作小説投稿広場


あなたのために…

日常の始まり


投稿者名:徒桜 斑
投稿日時:04/12/28

 ここは、美神令子除霊事務所。
 その名のとおり、世界でも屈指のGSの『美神令子』の本拠地である。
 とは言え、ここの主である美神は、精霊石の買出しのためにここ2〜3日不在にしている。
 また、同居人兼従業員である犬塚シロは、

「横島君を連れて行けない以上、シロ、あんたが私についてきなさい」
「い、イヤでござるよ、美神殿…。拙者は、横島先生と居残りしたいでござる」
「ほぉ〜、いつから私に口答えできるほど偉くなったの?」
「うぅ…、じ、じゃあ、センセーも一緒に…」
「シロ、俺に留年しろとでも言うつもりか?」
「あぅ、あぅ…」
「もう諦めなさいよ、バカ犬」
「狼でござるっ!!そうだっ、それならこの女狐を連れて行けばいいでござろう?」
「イヤよ。私は、あんたや横島みたいに力仕事は得意じゃないの」
「そーいうこと。今回は、かなり質の良いモノが出品されるみたいだから、厄珍やエミごときに遅れを取るわけにはいかないのよっ!!」
「台詞だけ聞くと、何か物凄く悪い取引をしているみたいっスねぇ…」
「うわぁ〜んっ、拙者、そんな悪事に手を貸したくないでござるよーっ!!」

 と、そんな感じで半ば強制的に美神に連れて行かれた。
 そんな訳で、今この事務所にいるのは、学校から帰ってきた横島、おキヌ、留守番のタマモだけである。
 おキヌが、食後の後片付けをするために台所にいるので、横島とタマモはリビングでくつろいでいた。
 美神がいないせいか、完全に緊張感のない雰囲気になっているのが、人工幽霊1号に伝わってきた。 

『…今日も、平和ですねぇ』















「おキヌちゃんの様子がおかしい…」

 横島は、熱い日本茶をすすりながら小声で呟く。

「なによ、いきなり」

 テーブルに突っ伏したまま、タマモが答える。ついさっき食べたおキヌ特製いなり寿司の余韻が、まだ残っているようだ。

「…つーか、美神さんがいないからって、気を抜きすぎだぞ、タマモ」
「横島だけには、言われたくない。美神さんがいなくなった途端、毎日のようにご飯食べにきてるくせに…。しかも、おキヌちゃんにお昼のお弁当まで作ってもらってるんでしょ?」
「な、なぜ、それを?」
「妙に多い朝ごはんの品数を見れば、イヤでもその理由を聞きたくなるものよ」

(確かに豪勢な弁当やったもんなぁ…)

 横島が、そんな事を思っていると、その品数の多さを思い出したのか『うぷっ』とむせ返るタマモ。

「…まぁ、何にしても美神さんに、このことを言ったらどーなると思う?」

 タマモの悪戯心から出た一言に、横島はフリーズする。そのまま、ギシギシと首だけタマモに向けると、

「仕方なかったんやーっ!こんな機会じゃなけりゃ、気兼ねなくおキヌちゃんのご飯を食べることなんかできんやろーがっ。そもそも、お前とシロが来てから、お色気シーンなんか皆無になった上に、薄給のまま酷使されて…。このぐらいの役得があってもええやないかーっ!!」

 血涙を激しく流しながら、叫ぶ。

「…はぁ〜、おキヌちゃんも、これのどこが良いんだか?(こんな横島でも、GSなんだもんね〜。何か、信じらんない…)」

 と、タマモは横島に聞こえないように呆れ返りながら、自分専用の湯飲みに入ったお茶を飲んだ。

 タマモも、決して横島を見下しているわけではない。むしろ、彼女が認めている数少ない人間の一人なのである。しかし、普段の横島しか知らないため、横島を過小評価してしまていることは否めない。

「心配しなくても言わないわよ。私も、好物ばっかり食べさせてもらってるしね」
「頼むぞ、タマモ〜。こんなことが美神さんに知れた日には、何年ただ働きさせられることか…」
「本当、洒落にならないわよ、それ…」

 そう言って、横島とタマモは机の上にうな垂れる。二人とも、バレた場合の状況をシュミレートして気分が沈んでしまたのだ。事務所での食事は、基本的におキヌが作っているのだが、その食料費に関しては、美神が直接手渡していた。
 今回も同様に、事務所を出る時に美神は

「いい、おキヌちゃん。この食費は、私が留守の間のおキヌちゃんとタマモの分だけだからね。横島君の食事なんて作らなくていいから。もし、しつこく催促してくるようなら、私に電話するように。どこにいても、すぐにシバキ上げて行ってやるからっ!!」
「あはは…、分かりました」
 
 そう言っていた現金の入った封筒を渡していたが、おキヌには分かっていた。渡された金額が、女性二人分にしては多すぎることを…。

(ホント、素直じゃないなぁ…)

 と、苦笑しながら、おキヌは美神たちを見送ったのだが、当然のことながら、横島とタマモはこの事実をまったく知らない。そのため、必要以上に用心深くなっているのだ。それもそのはず。二人が好き勝手にやってたことがバレたら、相手があの『美神令子』であるというだけで『最悪の場合、殺されても文句は言えない』と本気で思わせるには充分だった。
  

 そんなことを考えながら、机にあごをついて、顔を見合わせる。かなり近い距離でお互い見つめ合っているのだが、妙な雰囲気にはなっていない。

「で、おキヌちゃんのどこがおかしいのよ?」
「んー、美神さんがいなくなったぐらいから元気なかっただろ?話しかけても、イマイチかみ合ってない気がするしなぁ」
「そう?私は、そんなに気にならなかったけど…」
「ってことは、この事務所で何かあったわけじゃないんだな…」

 そう言って横島は、目を閉じる。

(タマモにイジメられたんやないとすると、やっぱり俺たちの食費のことで悩んどるんかなぁ?美神さんの隠し貯金に手をつけたとか…)

「どーでもいいけど…」
「んだよ?」
「また、声に出てるわよ」
「…悪ぃ」
「大体、なんで私がおキヌちゃんをいじめなきゃいけないのよ。理由がないじゃん」
「まぁ、そうなんだけど…」
「でも、確かに食事が豪華なのは気になるわね」
「そうだろ?美神さんが、いくらおキヌちゃんに渡してるとは言え、必要以上に現金を渡すとは考えられんしな」
「おキヌちゃんが、自腹を切ってる可能性は?」
「ないだろーなぁ。彼女が、必要以上のお金を持っているところを見たことがないし」

 横島とタマモが、そんな話で盛り上がっていると、台所からおキヌが戻ってきた。

「二人とも、なんて格好してるんですか?」

 腰に手を当てて困り顔をしているおキヌ。

「あっ、おキヌちゃん」
「も〜、横島さんがそんな格好してるから、タマモちゃんが真似するんですよ」
「そうそう、横島から悪い影響受けまくりなのよ」
「悪ぅございましたねぇ」
「はいはい、ケンカしないの」

 おキヌは、苦笑しながら椅子に座る。

「それで、何の話をしてたんですか?随分と賑やかでしたけど…」
「騒いでたのは、横島の方よ」

 クールに答えるタマモ。とは言え、その格好はだらしない事、この上ない状態ではあるが。

「いや、その、実はおキヌちゃんのことなんだけど…」
「私の?」
「うん」

 不思議そうな顔で聞き返すおキヌに対して、姿勢を正し、真剣な表情で話す横島。

「おキヌちゃんさ、何か、悩んでたりしない?もし、俺たちで良ければ相談に乗るけど」
「まぁ、横島は頼りないかもしれないけどね」
「ほっとけ」
「二人とも…」
「私は、何もしなくていいって言ったんだけどねぇ。横島が、納得しないのよ」
「お前だって、気になるって言ってたじゃねーか」
「…さぁ?」
「ったく、素直じゃねーな、お前は」
「べーっ、だ」

 タマモと横島のやり取りは、傍から見れば仲の良いカップルがいちゃついてるようにしか見えない。普段のおキヌなら、やきもちを焼いているところだが、今はそんな気持ちにならなかった。それどころか、嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気持ちで二人を見ていた。

(タマモちゃんはともかく、横島さんに気付かれちゃうなんてなぁ。多分、弓さんたちにも気づかれてないのに…)
 
 タマモは、一つ屋根の下暮らしていることもあり、いつか気付かれるだろうとおキヌは思っていた。
 ただ、横島は、朝と夜の短い時間しか会うことがないため、気付かれないはずだった。

(…違う。本当は横島さんに気付いて欲しかったのかもしれない…)

 横島が優しいのは知っている。むしろ、その本当の強さや優しさに気付いたのは、彼の周りにいる女性陣の中でも自分が一番最初である、という自負すらおキヌは持っていた。ただ、その気持ちが友達の言う、恋とか愛というものなのかは分からなかった。しかし、その思いは彼女の雇い主で師匠とも言える美神にも負けていないと思っている。
 だからこそ、横島に気付いてもらえたのが純粋に嬉しかった。

「…ほ、ほら、横島が変なコトを言うから、おキヌちゃんが困ってるじゃない」
「あ、いや、その俺の勘違いなら、気にしないでよ、おキヌちゃん。ごめんね、何かおかしなこと言って…」

 おキヌが黙り込んでしまったので、横島とタマモは何か気に障ったのではないかと、必死にフォローに入る。

「大体、この煩悩魔人に、おキヌちゃんの繊細な心が理解できるわけないのにね〜」
「(むっ)…まぁ、油揚げに釣られるような浅はかな狐ごときに、おキヌちゃんの本当の気持ちは分からんかもしれないけどな」
「(ぴきっ)ふ、ふ〜んだ、横島なんて文殊がなければ、ただの『変態貧乏学生』じゃない」
「(ぴしっ)ほ、ほお〜、そういうタマモだって、狐火と幻術がなけりゃ、ただの『戦闘力のないシロ』じゃねーかよ」
「「…」」 

 お互いにらみ合う、タマモと横島。完全におキヌは置いてけぼりである。

「もう、二人ともっ!!」

 そのおキヌの叫びで、二人は『ビクッ』と体を震わせる。さすがのおキヌも、我慢の限界のようだった。

「私の悩みは、どうでもいいんですかっ、横島さん!!」
「い、いえ、そういうわけでは…」
「タマモちゃんも、私の前で横島さんといちゃついて楽しい?それで、私に勝ったつもりなの?」
「そ、そんなつもりは…」
「じゃあ、静かに私の話を聞きなさーいっ!!」
「「はいっ!」」

 微妙に重大発言をしたおキヌではあったが、本人を含め、それに気付く余裕はまったくなかった…。

(おキヌちゃんを、怒らせるのは絶対やめよう)

 そう心に決めた、横島とタマモだった…。















「横島さん、私の特技って何だと思います?」
 ようやく冷静さを取り戻したおキヌが、おもむろに聞く。

「えっ、おキヌちゃんの特技…?そうだなぁ、幽体離脱とネクロマンサーの笛と…料理?」
「何で、最初の二つと料理が同系列なのよ、バカ横島。ヒーリングに決まってるでしょ?」
「むぅ…」
「タマモちゃん、そんな言い方しないの」
「は〜い…」
「で、その特技がどうしたの?」
「実は、私の特技が弱点だって、鬼道先生に言われたんです…」

 そう、おキヌの悩みとは、鬼道から指摘された自分の弱点のことだった。

『氷室、お前は一人で戦える力をつけな、アカン。今持っている能力が、ある意味非凡なもんやから、仕方ないんかもしれんけど…。逆に、それが弱点になることあるんやからな』

 そのことは自分でも薄々気付いていたので、おキヌは何も言い返せなかった。
 美神を始め、彼女の周りのGSたちは、一人でも十分な戦闘能力を持っている。それにくらべ、自分は誰かに守ってもらわないと戦えない…。
 それが、おキヌのコンプレックスにもなっていた。

「何か、私って駄目だなぁ〜、とか考えてたんです」 
「おキヌちゃん…」

 うつむくおキヌに、タマモが話しかける。

「あのね、美神さんたちを基準にするから駄目なのよ。あの人たちは、特殊なの」
「そうだよ。なんせ、あの戦闘力と金に対する執念は半端じゃないからなぁ」
「…特殊中の特殊が偉そうに、何言ってんのよ」
「うるさいっ。…でも、おキヌちゃんは、今のままでもいいんじゃないかな?美神さんも、おキヌちゃん一人に仕事させることはないだろうし」
「そうね。それに、おキヌちゃんの笛があれば、悪霊ぐらい、ぺっぺのぺーだしね」
「なんだよそれ…」
「ん?何か、除霊された時の音」
「しねぇーよ、そんなの」
「あぁ、きっとおバカさんには聞こえない音なのね」

 横島は、無言のままタマモの両頬をつねり上げる。

「い、いひゃいっ!」

 負けじとタマモも、横島の両頬をつねる。

「ぐぬぬぬっ!」
「うにゅにゅにゅ〜っ!」

 緊張感が加速し、しばらく硬直状態が続く。
 我慢比べになってきていたが、ほぼ同時に手を離す。

「痛いやないかーっ」
「私だって、痛かったわよっ」
「あの…横島さん」
「ん?」

 横島は、赤くなった頬をさすりながら振り向く。

「…何か、タマモちゃんと妙に仲良くないですか?」
「は?」
「タマモちゃんも、そんなに横島さんに懐いてた?」
「え?」

 おキヌの表情は笑顔のままだったが、決して笑えない雰囲気が漂っている。
 あまりの恐怖に

(ち、ちょっと、横島。なんとかしなさいよっ!)
(えっ、お、俺が!?)

 と、アイコンタクトで責任をなすりつけ合う、横島とタマモ。
 壮絶なアイ・バトルの末、横島がタマモの眼力に負けた…。
 
「…あっ、そうだ、おキヌちゃんは、弱点を克服したいの?」

 起死回生の話題変更。横島は、この作戦に全てを賭けた。

「…はい。きっとこのままじゃ、駄目だから…」
「えっ?」

 どうやら作戦は成功だったようだが、おキヌの表情は優れない。

(どうしたんだろ、おキヌちゃん…)

 横島の心配は、おキヌの言葉によって消えることになる。


「私は、強くならなきゃいけないんです」
「強くなって、どうするの?」

 タマモは、素直な疑問をおキヌにぶつけた。

「私…」
「「…」」

 覚悟を決めたような表情のおキヌ。それの雰囲気に気圧されている、横島たち。
 永遠のような瞬間…。時間すれば数秒だったかもしれない。
 ゆっくりと、おキヌの口が開かれ…







 
「私、一流のゴーストスイーパーになりたいんですっ!!」








 その瞬間、事務所の中は完全な沈黙状態になっていた。
 突然の告白に、横島はもちろん、常に冷静なタマモですらも、頭の中が真っ白になっている。

 そんな二人の様子を見て

「あ、あれっ、二人とも、どーしたんですかっ!?」

 と、オロオロするおキヌであった。


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