椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

涙光る時


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/12/18

「う・・・・・・っ!ここは・・・」


ヨコシマは、二度目になるその言葉を吐き出した。


彼が目を覚まし、辺りを見回すと、なにやらえらく古風な日本の民家のような場所の座敷で、布団の中に寝ているということが解った。

それが理解不能できょろきょろしていると、突然隣の部屋(たぶん台所)から


どん!ガラガラガラ!ガチャーン!!


と、破壊的な音が聞こえ、その直後に若い女性が飛び出してくる。それも割烹着を着て、片手にはお玉だ。
「目を覚まされたでござるか!?」

それに驚いたヨコシマはパッと飛び起きようとして、
「ぐおぉ・・・」
全身に走った激痛に苦悶の表情を浮かべた。
霊力の中枢機能が全く動かない。どうやら霊力がすっからかんのようだ。
「大丈夫でござるか!?まだ動かない方がいいでござるよ」
女性は彼にかけより、心配そうに寝かしつける。

「シロ・・・おまえ、シロなのか?」
ヨコシマは布団の中からいまだに現実を受け入れられないような目を、女性に向けた。
女性は、魅入られるような笑顔で「はい」と答える。

「いや、そんなはずは無い。シロは俺の記憶を失ったはずだ。そしてその術は俺の文珠でしか解けねぇ!」
彼は声を荒くし、また起き上がろうとして激痛に襲われる。
「だ、大丈夫でござるか?」
女性はまたもや大変取り乱したように、心配そうな顔をする。
「それじゃぁ今から説明するでござるよ・・・この九年間の事を」

女性は、長い長い話を始めた。






九年前、世界を忘却の光が包み込んだ。

人間界でその存在を知るものはいない。

何故ならその光の正体はヨコシマが全地球に仕掛けまくった『忘』の文珠を連鎖発動させ、地球上の全ての記憶から、「横島忠夫」というモノを完全に消滅させようとした時の物だからだ。

それは、これから魔神へと堕ちようとする横島が、自分を知るものに迷惑をかけまいとして行なった行為だった。

これによって地球上から「横島忠夫」は消滅したかのように見えた。
しかし、多少ながら例外がいたのだ。

例をあげればドクターカオス、マリア、そして・・・犬塚シロ。

ドクターカオス、マリアに何故忘却術が効かなかったのか?
詳細は省くが、彼らはずっと前からこうなる事になるかもしれない、と予測していたのでかなり前から予防策を立てていため、何とか防ぐ事が出来た。

では、犬塚シロは?


話は横島が暗殺されかけ、パピリオ、美神までもが巻き込まれ、いつものGSチームが横島を匿い、潜伏していた時まで遡る。(良くわかんないと思うので、BTP第一部最終回SP!〜さらば極楽のモノたちよ〜を再読するのをオススメします)



横島は、美神、パピリオを一度に失った悲しみで我を忘れ、暴れまわった挙句、おキヌにまで怪我をさせそうになる。
そしてその光景を見ていたシロは彼を見て恐怖した・・・。

「先生は・・・拙者の知っている先生は仲間を傷つけようとするはずが無いでござる!!」

彼女はダッと駆け出し、隠れ家から飛び出していった。











走った、走った。

かつて師と呼んだ人と共に翔け抜けた道を通り過ぎ、野を越え山を越え。

何も考えられなくなるまで・・・。

すべてを、忘れるまで。



「はぁっ・・・はぁっ・・・」
自分でもわからないほど長く、がむしゃらに走りつづけた彼女もやがて息が切れ。その場にうつぶせに倒れる。

そしてその肩が小さく震えだした。

泣いているようだ・・・。



ひとしきり泣いた後、ふと顔を上げて辺りを見回し、あることに気が付いた。

「拙者の村の・・・近くでござる」





・・・村へ・・・家に帰ろう・・・。



シロは、とぼとぼとその方向へと歩き出した。






「どうしたのだ、シロは・・・」
「さぁ、いくら聞いても答えてくれんのだ」

人狼の隠れ里。
二人の人狼の男が困ったような顔をして相談をしていた。

その原因は一人の少女である。

あれほど元気で、活発であった犬塚シロが、帰ってきたと思ったら、自分の小屋に閉じこもったきり、いくら呼んでも返事すらしないのだ。


「まったく・・・どうしたものか・・・」
男たちが頭を悩ませていた・・・その時。







バリバリバリバリバリバリ!!!!





「な、何事だ!?」

謎の大音響が鳴り響き、村中が大騒ぎになった。

突然の事に、家に引きこもっていたシロも飛び出してきた。
「何事でござるか!?」
「解らぬ。しかしどうやら結界が破れそうなのだ」
「結界が?」

人狼の隠れ里には、強力な結界が張ってある。
これによって何百年もの間、外界からの接触が絶たれていたのだ。

それが、破られようとしている・・・。

村中の人狼達は戦慄する。
だが、













「・・・・・・・・収まったな」
「・・・・・・・・案外、何も無かったな」
「・・・・・・・・なんだったのでござろうか?」
「解らぬ・・・」





しかし、真相は簡単なものではなかった。あの時村の結界を破ろうとしたのは横島の忘却術だったのだ。
しかし、人狼の村はおよそ人など住んでいなさそうな場所に存在していたので、横島は文珠の効果を薄めに設定していた。それゆえ、結界に弾かれ、村人には効かなかったのだ。










「・・・そしてその後、拙者は村を後にしたのでござる。しかし唖然としたでござるよ・・・。
誰に聞いても横島先生の事を知らないし、記録すら残っていなかった・・・。

でも拙者の技は間違いなく先生に教わったモノだったし、先生と一緒に修行した時間ははっきりと覚えていたでござる・・・。
だから周りの皆に馬鹿にされようとも拙者は先生を探しつづけたでござる。

そしたら今度はテレビに横島先生が映っていたのでござる。悪魔ヨコシマとして。

そしてその数日後、たまたまドクターカオス殿が文珠を持っているのを見つけ、問い詰めたのでござるよ。それで何とかヨコシマ先生の事を聞き出したのでござるが・・・」





「狼のお嬢ちゃん。今のお前さんに奴の居場所は教えられん」
「なぜでござるか!!」
「・・・奴は今、全てを敵に回して戦っている・・・。お嬢ちゃんなんかが入り込めば・・・ただの足手まといじゃ。それどころか奴の致命的な弱点となるだろう」

「そんな・・・拙者が足手まとい・・・」

「強くなれ、お嬢ちゃん。そして奴の隣に立つぐらいのレベルまでのし上がるんじゃ。
その時初めて、お前さんに、奴に会う資格が備わるだろう・・・」






「その日以来、拙者はがむしゃらに努力したでござる。先生に追いつくため、先生に会うために・・・」

九年間、いや、実際は妙神山の加速空間までも利用したために、感覚では何十年になるかもしれない修行・・・それは常人が見れば尊敬どころか恐怖まで感じるほどの凄まじさだった。

「でも・・・全然辛くはなかったでござるよ・・・他でもない先生に会うためでござったから。

それに・・・こうして遂に先生と同じ高みまで登りつめ、再開する事が出来たでござる」







そう言って、シロは・・・とびっきりの笑顔を見せた。


「じゃぁ・・・・お前は・・・・本当に俺の知ってるシロなのか?」
ヨコシマはかすかに震える手を、シロの頬に添える。
「はい。拙者は・・・あなたの一番弟子の犬塚シロでござる」
シロもその手の上に自分の手をそっと重ね、微笑む。

「俺なんかのために・・・こんな俺の隣に立つために・・・途方もない努力をしたって言うのかよ・・・」
「でもそれが拙者の望んだ事でござる」

「そこまでしてこの・・・血に汚れた俺のそばにいたいって言うのか・・・?」
「はい。例え何があろうとも、拙者は先生を信じるでござる」





・・・・・・。




ヨコシマはゆっくりと痛む体を起こし、シロの体を抱き寄せた。


こん、と小さな音を立て、シロの手からお玉が床に落ちる。





彼の消え去りそうな声に・・・涙が混じった。
「この・・・・・大・・・バカイヌめ・・・」
「狼でござるよ・・・」




「ばか・・・やろ・・・」
魔神の目から、涙が・・・あふれ出た。
九年間封印していた感情が・・・遂に溢れ出した。

異常なほど静かに感じる小屋の中に、小さな嗚咽が響く。

その声の主はもはや魔神などではなく・・・ただ一人の、孤独な男だ。


そしてシロも、彼の体に手を回し、恐る恐る抱きしめる。












「大好きでござるよ・・・横島先生」



いつの間にか子供のように眠ってしまったヨコシマのそばで、シロは静かにそう呟き、しばらくの間動かなかった。



そんな彼らのそばを、暖かな風が通り過ぎていった・・・。

季節は春。


思えばちらほらと桜が咲く頃だろうか?

































・・・という情景を双眼鏡で盗み見ていた出歯亀ーズの一人は、ニヤリと笑う。


「ふっ・・・・・小僧め、これには落ちたな。これで小僧も安全に暮らせるじゃろう」
老人が双眼鏡から目を外し、不気味に呟く。

「・・・・・・・・・・」

バキィッ!!

もう一人の出歯亀の女性は無言で双眼鏡を握りつぶした。

「な、なにやっとるんじゃ」
ジイさん、思わずビビる。

「ソーリー・でも・問題・ありません・望遠システム・他にもあります」
「いや・・・わしが言いたいのはそこじゃなくて・・・・・・やっぱりいいわ・・・」


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