椎名作品二次創作小説投稿広場


BACK TO THE PAST!

魔神を超える者


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/12/16






ガキィンッ!!





神速、まさに神のごとき速さというにふさわしい互いの霊波刀の初太刀が衝突し、乾いた音が響き渡る。

「・・・お前、やるな!」
鎧武者の神業的な霊波刀さばきがヨコシマに襲い掛かり、はたから見れば圧倒的に鎧武者の優勢に見える。
しかし、その全てはヨコシマのハンドオブグローリーに軽くいなされているのだった。

「今度はこっちから行くぜ」
一旦空へと舞い上がり、距離を取ったヨコシマはハンドオブグローリー振りかぶると、触手のように変形させ、鎧武者へと叩きつける。
しかし相手もなかなかやり手で、何とか霊波刀でその攻撃を防いだ。しかし、
「甘い甘い」
ハンドオブグローリーの半ばから新しい霊波刀が生え、鎧武者の霊波刀が届かないような位置から襲い掛かる。
あわや鎧武者が貫かれようとした時、


キン!

「へぇ」
鎧武者はハンドオブグローリーをもう片方の手で展開したサイキックソーサーで受け止めた。先ほどから地面近くを浮遊しているままのヨコシマは、感嘆したような声を出す。

サイキックソーサーとは霊力集中技の最も単純で割と強力な基本技であるが、強力である分扱いが難しいのだ。はっきり言って実戦向きでは無い。
例えばいつかの横島のように全身の霊力を一点集中するぐらいならプロならたいていできる。しかし、全身にある程度の霊力を残しながらサイキックソーサーを作るのはとても難しいのだ。
なので、それを可能にする訓練をつむくらいなら道具を使ったり、他の技をたくさん覚えた方が良い。

したがって横島はこのように霊波刀とサイキックソーサー両方を使っているような者は見たことは無かった。
・・・・自分を除けば、の話であるが。

「・・・まだまだでござる」
鎧武者が霊波刀の霊力を高めてゆく、すると・・・
「ハンドオブグローリー?」
何と鎧武者の霊波刀はハンドオブグローリーに変化した。
「はぁっ!」
そして気合と共に切りかかるかと思えば、

地面に突き立てる。

そしてその意図に気づいたヨコシマが、すんでの所で飛びのいた地点から地面を吹き飛ばしながら、その切っ先が突き出てきた。

割と驚愕しながらその光景を見ていたヨコシマの顔がさらに驚愕に変わる。
先ほど鎧武者が展開していたサイキックソーサーが、超スピードでこちらめがけて飛来していたのだ。

「くっ・・・」
慌ててこちらもサイキックソーサーを展開し、直撃を回避するが思わず地面まで落下してしまう。しかし、

「サイキック・クレイモア!!」
「なっ!?」
そこにはすでに鎧武者によって巨大なサイキックソーサーが展開されていて、ヨコシマが着地した直後に大爆発を起こした。

だが、ヨコシマもだてに世界を脅かす悪魔をやっていない。ギリギリのところで『盾』文珠が間に合い、ノーダメージで危機を脱したかの様に見えた。

「はっ、はっ・・・・何で俺が使ってた技を・・・何もんだあいつ・・・・・ぅう!?」
鎧武者はそうなるのを予測していたのだ。連続攻撃を続けて受け止めたヨコシマの、一瞬の隙を突いて彼の懐に飛び込んでゆく。

「サイキック・・・・インパクト!!」

ドッゴォォォオ!!

爆発をまともに受けたヨコシマは吹き飛び、地面をガリガリ削りながら滑走する。

「ぐぁ・・・・ててて。痛ぇじゃねか・・・」
しかしこの程度でやられるヨコシマでは無く、たいしたダメージも無さそうに立ち上がった。
「ふ〜ん。だてに九年も俺の追っかけやってなかったって事か」
ヨコシマの霊気が徐々に高まってゆく。
「こりゃちょっとばかし本気を出さないといけないな」

彼のハンドオブグローリーがめきめきと成長し、形状は今までの一・五倍ほどの大きさ、色は魔族らしく漆黒のモノへと変化する。

鎧武者は来るべき攻撃に、今度は腰の刀を抜き放つ。

そしてヨコシマは単体同期を使わないで使用できる最強の奥義の一つ、超加速を発動させた。

「怪我しても知らねぇぞ!!」
超加速はある意味反則技のようなものだ。使いこなすのは難しいが、もし使えれば例えどんな相手でも、相手が超加速に入れなければ瞬殺できる。

そして扱えるものは三界合わせても数えるほどしかいない。まさに裏技で、ヨコシマ向きの技である。

なので、この時ヨコシマは完全に勝利を確信していた。

「そうは・・・いかぬ!!!」

ガッ・・・キィィィィイイイイインン!!!!

鎧武者はその必殺の一撃を、手にした刀で受け止めたのだ。

「てめぇ、超加速まで使えるのか!?」
敵とはいえ、ここまで自分の技を真似されると、思わず感心してしまう。
自分が技を習得する際にした血のにじむような努力を思い出せばなおさらだ。

戦いは超加速同士の戦いに移行した。

「どうした。受けるばかりじゃ俺には勝てんぞ」
まだ息も切れていないヨコシマが、雪崩のような斬撃を放ちながら余裕しゃくしゃくで言った。
「このままじゃ、へばるのはそっちだぜ?ほら、受けきれなくなってきた」
戦闘でテンションがあがり、だんだんと魔族モードに入りつつあるヨコシマはおちょくるように喋りまくる。

「せ、拙者は・・・」
受けてばかりの鎧武者に、少しずつ動きが出始めた。
「むっ・・・」
ヨコシマの霊波刀を刀で弾くと距離を取り、一旦刃を収めて居合の構えを取る。
「拙者はっ!負けるわけにはいかんのでござる!!」


一貫!


繰り出された斬撃は、幾筋にも分かれ、ヨコシマを襲った。

「何っ・・こいつは妖刀八房!?・・・いや斬撃がもっと多い!!」
ヨコシマは全部で十発の斬撃を一つ一つハンドオブグローリーで防ぎながら言った。

「この刀の名は妖刀十牙房。かつて犬飼ポチが持ち出し、そして折れた八房を、ドクターカオス殿とわが村中の刀鍛冶が鍛えなおした八房を越える妖刀でござる」
鎧武者はそう言うと再び刀を納め、居合抜きの構えを取った。

「ほぉ。魔族じゃない。神族でもない。しかしその辺のあやかしにしては強すぎると思っていたら・・・そうか、人狼か」
言われてみれば、わずかに覗く鎧の隙間からはフサフサした体毛が見え隠れしている。おそらく獣人モードなのだろう。



人狼―――そう言えば昔よくシロと散歩行ったなぁ・・・

ヨコシマは一瞬過去の思い出に思いをはせる。
しかし、もう彼女はヨコシマの事など覚えていないのだ。



他でもない自分が・・・彼女から記憶を奪ったのだから。



そして彼は過去の思い出を振り払うと、目の前の現実に向き合った。

「・・・それならあんまり手を抜く必要は無いか」
ヨコシマの目つきが、フッと本気モードへと移行する。






次の一撃で、少なくともどちらかに致命傷が入る・・・



向かい合う二人の脳裏に自然とそんな確信がよぎった。








「だぁっ!!!」
わずかに早く、気合と共に放たれた鎧武者の斬撃達がヨコシマへと迫る。
出遅れたように見えるヨコシマにはもはや全てを霊波刀で防ぐには遅すぎた。

勝った・・・

鎧武者の口から思わずそんな言葉が漏れそうになる。

しかし、人狼の桁外れの視力でヨコシマの霊波刀に輝く何かに気づいた時、その希望は打ちのめされた。
そう、ヨコシマの必殺技にして世界最強ともいえる技・・・文珠だ。
込められた文字は・・・


『妖』『刀』『百』『房』

「そんな馬鹿な・・・」

鎧武者の、わずかに覗く目が驚きに開かれる。

だが、ヨコシマには・・・常識など通じないのだ。

鎧武者はブォン、と大気を揺るがすように振るわれた文珠付きハンドオブグローリーから放たれた、相殺した分を除いても計90発の刃の嵐に巻き込まれていった。

ズザザザザザザザザザザ・・・・!!!!!

「うわぁぁああああっ!!!」



やがて、その常識を逸脱したむちゃくちゃな攻撃が終わった後、もはや鎧などほとんど吹き飛ばされた、獣人形態の人狼が、ドサリと崩れ落ちた。そしてエネルギー消費の大きい獣人形態も解除される。

「・・・やりすぎたか?」
魔族モード全開で、やや手加減を忘れつつあったヨコシマはふと正気に戻った。

そして情報が聞き出せなくなったら困る、とばかりに『治癒』の双文珠を取り出すと、倒れた人狼に駆け寄って行く。

「おい、大丈夫・・・」
「こないで下され!!!!」


ヒュン、と刃がヨコシマに向けて突き出される。

「おっと・・・」
だもんでヨコシマは足を止めた。


「この・・・・九、年間・・・・」
ザン、と地面に刀を突き立て、それにすがりつくようにして立ち上がろうとする人狼。

「・・・この九年間、ずっと貴殿を目指し、敬い、そして並ぶために、全てをなげうって来たでござる・・・・」

がくがくと笑う膝ゆえに、何度も再び崩れ落ちそうになっても気力だけで立ち上がる。

「やっと・・・やっとここまで追いついたのでござる・・・。

みすみすやられるわけには行かないのでござるよ・・・。横島先生っ!!」

「っ?!」

そのとたん、辛抱強く最後まで人狼の顔に張り付いていた面が剥がれ落ち、その素顔があらわになる。
数年前とは見違えるほど成長し、精錬された、美しい顔。しかしその顔に残る面影は紛れも無く・・・

「シ・・・・ロ・・・・?」


「行くでござる!!」

あまりの驚きに、一瞬動きが止まった隙を突き、人狼の女性が大地を蹴った。
直後その姿が掻き消える。超加速だ。

「くっ・・・」
ワンテンポ遅れて超加速状態に入る横島。しかし、それだけの遅れをとってもまだ人狼との距離は、その攻撃に対応するに十分の広さがあった。だが、

「見ていてくだされ・・・先生!これが拙者の・・・・この九年間の努力の集大成でござるよ!!!」



キィィィィィィィン!!



人狼の手の平に尋常でない霊気の塊が集中する!



「まさか・・・・おまえ・・・・・・・文珠を!!!!!」



人狼はヨコシマの問いに、文珠の発動で答えた。

『倍』『速』

「ウォォォォオオオオオオオオオ!!!!!」


人狼の体は激しく発光し、そして三世界最凶とまでもうたわれた魔神にすら見えない太刀筋がきらめいた。


















全てが終わった後、何一つ動かない一瞬が訪れ・・・・


魔神は音も無く倒れた。











そして人狼、いや、昔とは比べ物にならないほど成長し、外見も中身も大きくなった横島の一番弟子、犬塚シロは、彼に近寄り、その体を強く強く抱きしめる。


「もう・・・逃がさないでござるよ」


まるで惑星衝突でも起こったかのようにえぐれた大地の中心で、そう言いながらボロボロのいとしの人を抱き、泣き笑いの表情を浮かべるのは・・・さながら天使か、それとも悪魔か。


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