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BACK TO THE PAST!

魔神、その晩年


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/12/15

十年間。

それが悪魔ヨコシマが世界に存在していた期間で、そしてこの話はその晩年、

つまりヨコシマ登場九年目の話だ。



ここは某国の一角・・・。始まりはそんなところの夜遅くに起きた。


「ウーロン茶あるか?」
「・・・・・・・へい」

むわっとしたタバコとアルコール臭に支配された空間。
いわゆる、社会の裏側の連中が集まるようなバーのカウンター席で、なにやら黒いマントにしわくちゃの顔、という怪しさの老人が、マスターの胡散臭そうな目線に負けず、いけしゃあしゃあとウーロン茶を注文した。

「・・・やけに注目を浴びとるのう。やはり酒を頼むべきだったか・・・」
それが無くても彼は店中の注目を集めていた。

いや、性格には彼ではなく、彼の連れの女性こそが注目の的であった。
その女性はこんなバーには似合わない、いや一流のホテルのバーにだってめったにいないような美人で、いやおうなしに野郎どもの目線を釘付けにしているのだった。

「よう、お嬢さん。そんなジジイといるよりも俺といい事しようぜ?」
ミスターろくでなしのチャンピオンになれそうな男が、ついに彼女の肩に手をかけた。

「止めときな坊や。その女は気が強いからのう」

老人はその男を見もせずに、出されたウーロン茶を飲み始める。

「てめ・・・・いだだだだだ!!!」
挑発に乗っかった男は老人に向かって腕を上げたが、何と先ほどの女性に信じられないほどの力で腕を捕まれ、悲鳴をあげた。
「こ、この野郎・・・」
女性の腕を振り解いた男は完全に怒って女性めがけて殴りかかる。そして周りにいた二三人の喧嘩好きも便乗して立ち上がった。

「どう・しますか?」
女性は、相変らず済ました顔でウーロン茶を飲んでいる老人に指示をあおいだ。

「ちょっとばかし懲らしめてやれマリア。」
「イエス・ドクターカオス」




ばきっどかっ!

ぎゃー!

たーんたーんたーん、どぱぱぱぱぱ、ずきゅーん、どーん!

たすけてー!




まさに天誅いや、地獄絵図の光景が繰り広げられ、やがて静かになる。

「マスター。バーボンあるか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へい」
何事も無かったのかのように酒を注文する老人に、マスターは文句を言おうか言うまいかかなり迷ったが、とりあえず従う事にした。
店の修理代を考えると頭が痛かった。

いい仕事を終えた女性、いや性格には女性どころか人間ですらないマリアは、カオスの隣の席に戻り、ちょこんと清楚に座りなおした。

しかし、そんな彼女の肩に、懲りずに手を乗せる男がいた。
そんな彼に対し、懲りねぇヤツだなぁおい?とばかりに問答無用の文字どおり鉄拳を浴びせるマリア。

しかし、

ぱぁん

その拳は乾いた音を立てて受け止められてしまう。

「ほぉ?やっと来たか小僧」

そう、姿かたちは偽装していても、にやりと笑ってマリアのコンクリートも粉砕するこぶしをバンダナつきの左手で受け止めているのは、紛れも無いヨコシマだった。
いや、この瞬間。この空間でならば、ヨコシマでなく、横島か。

「よう、久しぶりだなカオス、マリア」
横島はそう言いながらウォッカを注文し、飲み始める。
「はい・久しぶり・二ヶ月と十三日と六時間時間二十八分ぶり」
「さすがマリア。正確だな・・・」
答えるついでに、ぐいっとのみ干す。
「マスター、もう一杯頼むよ」
「小僧・・・そんなペースだと・・・」
「そう言うなよ。こんな状態になってからは世界中のアルコール類を飲むのが唯一の楽しみでさ・・・」
カオスは釈然としない顔をしていたがやがて顔を引き締める。
「そうそう・・・前から言っとった例の話の事だが・・・」
ピクッと横島の、グラスを持つ手がピクリと震えた。
「場所を変えるか・・・確か近くに隠れ家があるって言ってたよな」
「うむ。さて、行くぞマリア」
「イエス・ドクターカオス」
カオスはマリアを連れ立って店から出てゆく。
「わりいなマスター。釣は修理代にでもしてくれ」
横島は店の惨状(家具の破損、血痕、弾痕)を一瞥してそう言うと、札束をカウンターにおき、店を出て行った。

マスターは尊敬の眼差しでその背中を見送った。




「ここじゃ」
と、カオスに案内されたのはとある廃ビルの地下一階。
きちんと妨害念波や、各種のジャミング呪術がかかっているので、まあ隠れ家としては合格ラインの場所だった。
横島達は申し訳程度に設置されているソファーに腰をおろす。
「で、例の話っていうのは?もう一度詳しく話してくれよ」
「そうじゃの・・・簡単に言えば、
お前さんは・・・このままだと世界崩壊の引き金になる。

お前の魔族化は世界に影響を及ぼす。上の存在がお前を消そうとするのも納得できよう・・・。

しかしな、自体はそんな小さなものではなく神と悪魔との関係が悪化につながっているんじゃ。神族側の言い分としてはヨコシマは魔族の手先で、デタントを崩壊させるために世界を荒らしまわっている・・・と言う内容じゃ。
どう考えても取って付けたような理由じゃが、神族にも反デタント派は多いから、ひょっとするとハルマゲドンの先制攻撃の理由には十分じゃ。しかも反デタントの魔族もそれを煽っている」
「・・・」
「だからわしはお前さんに言いたいんじゃ。もう目立つような事は止めろ。

・・・そもそもお前さんやる事が派手すぎるんじゃ。しかも大抵災害地でスーパーマンまがいの事しておるし。
おかげでお前さんの事を悪者扱いしたい者どもは困りきっておるようだぞ?

このままでは近いうちに必ずデタント派か、それともお前を悪人に仕立てようとしている者どもに殺されるぞ。
しばらく身を隠せ。それがわしの言いたい事じゃ」

「・・・・解った」
横島は静かに頷いた。しかし彼の顔を見たカオスは疲れたような顔をして。
「・・・・ウソじゃな。わしがさっき言った連中を懲らしめようとしているのが目に見えとるわ」

はぁ、と溜め息を尽き、先ほどから部屋の奥に消えていたマリアが持ってきたスーツケースを横島に手渡す。
「ほれ、今回の物資だ。大事に使うんじゃぞ」
「まいどどーも」
横島は代わりに幾つかの文珠をカオスに渡す。

いつもの光景だった。9年前、横島が悪魔ヨコシマになった時から、この二人はたびたび密会し、文珠と物資を交換していたのだ。

「んじゃ俺はこの辺で帰らせてもらうとするか」
横島はスーツケースを持ち、出口に向かう。
カオスは立ち上がらずにその背中へ声を投げかけた。
「坊主・・・本当に奴らに喧嘩を売る気か?わしてしてはできれば止めてほしい」
「よく言うぜ。俺にこんな事言えばこうなる事は解ってただろうによ」
彼は答え、また出口へと足を進める。と、

「横島・さん」
「ん?何だマリア」
突然マリアが横島の前に立ちふさがり、







抱きついた。




「うわっ!ちょ・・・マリア!」
横島は思いっきり狼狽した。

「よーしマリア。そのまま押さえとれ」
次の瞬間。すべるように接近してきたカオスに、何かを注射される。
「あっ!カオス、てめ・・・・ぇ・・・」

注射された薬が何物であるかは不明だが、魔神と恐れられた横島でも、ものの2秒かそこらで意識がなくなってしまった。
通常の人間に注射しようものなら即死モノだろう・・・。

「さて、オペを始めるぞ」
カオスはそう言って白衣を着込み、手術の準備何ぞを始める。

そしてふと、いつまでも横島にひしと抱きついているマリアに気がついた。

「・・・マリア。もう放していいんじゃぞ」



「・・・」
マリアは横島に抱きついたままだ。




「マリア。小僧を放さんか」



「・・・アッチョンブリケ」
「何言っとんじゃお前は・・・」













美神さんが見える・・・・・


パピリオが見える・・・・・


ルシオラが見える・・・・・

俺は彼女らに走り寄っていくのだが、寸前で消えてしまう。

そして血のような赤。


赤赤赤赤赤・・・。



彼女たちが死んだのは誰のせいでもない・・・・。
俺を殺そうとした奴のせいでもないし、それどころか俺のせいですらない。

彼女たちは自ら進んで命をなげうった。俺のために。



誰も恨めない。


自虐すら出来ない。


しいて言うなら運命か?


こんな悲しさが他にあろうか?





赤赤赤赤赤赤・・・・。




そして・・・・目が覚める。



いつもの夢。

今日も目覚めは最悪だ。



「う・・・・・・っ!ここは・・・」
横島は目を覚ました。
気がつけばパイプで出来た簡易ベッドの上で、全裸の上にシーツを被せられただけの格好だった。しかも自分にかけた変装術や、変面術も解けている。
「目覚めたようじゃの」
彼の起床に気がついたカオスは、隣の部屋からのそのそとやって来た。
とたんに横島の脳裏に、気絶する寸前の記憶がよみがえり、当然の事ながら抗議を始めた。
「おいカオス!いきなり何しやがった!」
「それはだな・・・・・・・・・・・・・・・」
そこまで言って急にカオスは押し黙ってしまう。







「・・・ありゃ?なんじゃっけ?」
「ふざけんな!」

「はっはっは、ほんのジョークじゃよ」
そう言って笑うカオスだったが、本人以外にとってはとても笑えないジョークであった。
何しろこのボケ老人なら本気で忘れかねない・・・。

「さてお遊びはこれくらいにして本題にはいろうかの。まぁ今更文句言われてもどうしようもないが、勝手にお前さんの病気の治療をさせてもらった。」
「病気?特に自覚なんかは無いぞ」
「いや、あるはずじゃ。今までに何度か突然霊力が使えなくなったことがあるじゃろう?」
「ああ、それならここ二年に3回ぐらい・・・」
横島はとあるジャングルの中をぶらぶらしながら怪物と戦った時を初めてにして、何度か突然霊力が使えなくなった事を思い出した。
まあ始めの時意外は別段危険な事は無かったし、すぐに治るので別に気にはしていなかった。
「それがこの病気の初期症状じゃ」
「じゃあ進行するとどうなるんだ?」
「死ぬ」
「は?」
突然物騒な事を言われたために、いくら『死』というものに身近に接している彼でも唖然とする。

「お前さんの病気はな、まぁお前さんが初めてのような珍しい病で・・・そうだな単純に『接続不良魂病』とでも名づけようか。
ともかくその名の通り複数の魂で一つを形成するさいにできる、わずかな拒絶反応が大きくなる症状で、
お前のような複数の魂を無理にくっつけたような不安定な魂じゃぁいつかこうなるとは思っておった」
「それでも、もう治ったんだろ?」
「いや、魂のずれを人為的に少し修正してやったにすぎん。

そもそもお前さんが無理をしすぎるからいかんのじゃ。お前の最大霊力はせいぜい一万マイトないだろう?それなのにアシュタロス級の力を引き出しておる。きっとお前は個々の魂をそれぞれ『同期』させて無理やり力を引き出しておったろう。
そんな事をしていつまでも魂がもつわけがない。60wの電球に100wの電力を注ぎ込むようなもんじゃ」
「そうか・・・」
「まぁ言うだけ無駄かもしれんが、もう二度と単体同期は使わない事じゃ。

さて、お前さんのことだからもう手術後のダメージも回復する頃じゃろう。帰ってええ。
マリア、小僧の服を」
「イエス・ドクターカオス」

最初からそこにいたのか、それとも今来たのか、横島の背後から彼の衣類を持ったマリアが現れた。
「さて、わしは茶でも飲むか・・・」
それと同時にカオスは部屋を出て行った。

「ありがとうマリア。とりあえずそこに服を置いといてくれないか?着替えとくから」
横島はそう言ってベッドの端を指で示した、


が、

「ノー・横島さん・病気・マリア・着替え手伝います」

「・・・・・」










「あのさ、マリア。別にホラ、カオスも言ってただろう?俺ならもう大体回復したって。それに下着も着なきゃなんないし・・・」

「ノー・病み上がりの無理・ダメ・恥ずかしがらずに」





「あの・・・」
「ノー」
「・・・・」





「・・・・・・・・・・じゃあよろしく頼む」
「イエス・横島さん」



やはり、彼女の前ではいかに魔神でも所詮は横島という事か。






十分後、着替えを終えた横島はやけに疲れたような顔をしてカオスのいるリビングのような部屋へと現れた。
「カオス・・・・お前どういう教育(プログラミング)してんだよ・・・」
「さぁー?なにぶん昔の事じゃからのー。それにこいつ自身プログラム付け足しているようじゃし、もはやわしには理解不能じゃ」
無責任ジーさんは、いつものごとくさほど気にもかけずに答えた。

「で、どうじゃ。調子は」
「ん〜、結構いいと思うぞ。良くわからんが」
「そう・・・か。ならば良かった。
そうそう、お前さんが寝とる間もちゃんとジャミング効かせておいといたから、その辺は心配せんでいいぞ」
「ありがとう・・・それじゃそろそろ行くわ」
「気をつけて・横島さん」
なにやら心なしか嬉しそうにしているマリアが彼を見送る。



「おお、そうじゃ忘れておった」
今まさに横島が文珠で『転移』しようとした時、カオスが突然立ち上がった。
「もし・・・・もしお前さんがお前を利用して平和を乱そうとした奴を知りたければ、富士の樹海に行く事だ。真相を知る者がいる」


横島は、一瞬考えたような顔をしてから、『転移』して消えた。











カオスは息を吐き出すと、どっかりと座り込む。
「さてと・・・・・・これで上手くいけば、小僧は助かる。全ては『奴』次第じゃな」
「・・・マリア・この作戦・あまり・気が乗りません」
「はっはっは。なんじゃマリア。『奴』に焼き餅か?」
「・・・・焼き餅?アイドンノー・解りません」
「はっはっはっは!こいつめ!!隠すな隠すな」


















「・・・で、言われてのこのこやって来てみたが・・・



広いぞ樹海!!」

カオスたちが謎の会話を繰り広げている時、横島は言われたままに富士の樹海へとたどり着き、その広さに驚愕していた。
何しろあたり一面うっそうと生い茂る木々で埋め尽くされ、とてもじゃないが人探しには向いていない。

「とりあえずうろうろしてみっか・・・」
何もしなければ始まらない。
横島は樹海の上空を旋回しながら(もはや浮遊術は文珠無しでできる)軽く捜索を始めた。ついでにルシオラバイザーのスイッチも入れ、センサーを切り替えながら辺りをうろうろ。

すると案外簡単に、いかにもという感じの空間のねじれを発見した。
すぐさまバイザーで分析してみる。


ピピッ・・・『異空間ゲート:(罠だったりして)』←バイザーの画面

「そんだけかよ」

『うん、そんだけ』

「・・・・」


そして彼は入ろうか入るまいか一瞬考えた後、異空間と飛び込んでいった。



異空間の中は、異空間、というよりはもともと何処かにあった空間を切り離して作ったような場所で、森、山、川、とやけに自然の恵みに恵まれていた。
リゾート施設を作れば繁盛するだろう。


そんな中、不自然に広がる平地の真ん中に、何者かが一人、直立不動で何かを待っていた。
身長は165cmとやや小柄だが、侍がつけるような紅色の鎧兜を着て、腰に刀を差している。
すらりと立つ物腰、そして振りまかれる気迫からは、ただならぬ実力を感じさせる。
ちなみに矢などから顔面を防御する、鬼の面のような防具までつけて完全装備しているために、そいつがどんな奴なのかは全く解らない。

だがそいつが何を待っているか・・・考えなくても解る。
横島はそいつの目の前に降り立ち、隠蔽(いんぺい)術を解いた。


「よう、お前がカオスが言っていた奴か」
鎧武者には突然横島が湧いて出たように見えたはずだが、そいつは動揺のかけらも見せない。
そして横島の問いに対し、こくりと頷く事で答える。

「それなら早速だが・・・」
聞かせてくれ、と続けようとした横島だが、一歩先に落ちていた小枝が三枚に下ろされたのを見て、口を閉じる。
鎧武者がいつの間にか刀を抜き放ち、目にもとまらぬ居合を放ったのだ。
「・・・・・・・・・9年間。貴殿を探しつづけたでござる」
鎧武者が面の下からフガフガと言う。
「へっ、なんだよ。悪質なストーカーか?九年間なんてずいぶんとしつこいヤツだな」

鎧武者は挑発に全く乗らず、刀ではなく霊波刀を出現させ、構える。


「・・・情報がほしけりゃ実力で聞いてみろ、という事か。

全く・・・カオスのおっさんは何考えてるんだよ。無理すんなとか言ってたくせによぉ」

横島は薄く笑うと、その絶大な魔力を解放した。



この時の横島はもうすでに横島ではなく、まぎれも無く悪魔ヨコシマであった。



「・・・参る」フガフガ
「かかってきな」


二人の間を一陣の風が吹き抜ける。

それは戦いの合図だった。


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