椎名作品二次創作小説投稿広場


悲しみの代価

思慮そして目論見


投稿者名:朱音
投稿日時:04/12/11


彼女は目の前にいる人物とは一度も対峙したことはない。
ただ間接的に知っている。
自分と同じく『彼』の支配下にある。

桜色の長く真っ直ぐな髪に映える巫女衣装。
長い睫から覗く土色の瞳。
小ぶりながらも膨らんだ乳房と円やかな腰。
彼女は実に美しい。

対峙しているものも又、美しかった。

少年と青年の間で成長の止まった身体。
艶やかな肩口まで伸びた亜鉛色の髪。
幼い顔立ちを惹きたてる縦に開いた瞳孔を持つ藍色の瞳。



与えられた命と使命。

自分自身の存在意義。

良く似ている。

「はじめまして。ナイトメアリー」

「・・・ああ」

それは共有しているモノの所為なのか、それとも『枝』という存在を感受した所為なのか。
それでも自分達は良く似ている。

「主からの伝言をお伝えします」

びくりとナイトメアリーの肩が震える。

彼女からの伝言を聞いたナイトメアリーは震えた。

その顔は赤く色付き恍惚としている。
『主』からの伝言はナイトメアリーの全身に染み渡り、性感帯全てを刺激するように流れて彼を支配した。粟立つ肌の感覚に甘い疼きを呼び起こす。

支配された事により彼には疑問は無い。
考えるという行動すらも煩わしい。
ただあの人に全てを捧げ奉仕する、それだけが存在の全てだった。


ナイトメアリーが立ち去った後には、小さな桜の芽が出ていた。

場所は先日横島が除霊のサポートを依頼された、土地神のいたビル跡。
本来ならばそんなものは存在することは出来ない。
出来るはずも無いのだ、いずれこの場所には新たなビルが建てられる。
だが『それ』は唯の芽ではない。
人々が『それ』を感じることも、触れることも、ましては見ることも出来ないだろう。

『それ』は今まで確かにそこにあったが、主に与えられた使命のうち一つを終えてしまったのだ。
必然的に次の使命へと移行しようとしている。
それは明確な意思をもったまま大地に溶け込む。

いつか訪れるその日のために・・・






シロはいたって上機嫌である。

お腹一杯に美味しい物を食べて。
暖かい布団で眠り。
ついでに今までの美神に対する愚痴を聞いてもらい。
今は簡単な稽古までつけてもらっている。

「荒いな・・・・・シロ。霊波刀を出すとき、力んでないか?」

右腕に続くように出ている霊波刀は、お世辞にも刀と呼べるものではなかった。
飛沫を上げているように荒々しいそれに、溜息を一つ落す。

「はいでござる!こぅずばーって感じで・・・駄目でござるか?」

いかに元気が取り得のシロでも、溜息を聞いたのでは不安にもなってくる。
だが、横島は微笑む。
そんな事は無いと、だが・・・・

「名は体を表し、体は名を表す。だが、お前は何だ?・・・狼だ。
成らば問う。お前の武器は何だ?
何故剣にこだわる、霊力に形はなく自在の物なのに、何故剣を選ぶ。
ならばお前の牙と爪な何の為に存在する?」

シロははっとした。
今までそんな事は考えてみたことも無かった。
霊波刀という名のままに義父上や義兄上達のもつ日本刀を模していた。

「君が助力を願ったという。太古の狼の女神は剣を持っていたかい?」

「いいえ・・・弓でござった」
そう、弓だ。
この身に降ろした時でさえ、彼女は自分の手に剣ではなく細身の弓を具現化していた。
それは彼女が得手としていたもの。

ならば自分の得手はなんだ?
自分は普段狼の姿でいた。
その時獲物を狩り、捕らえていたのは。
自分の牙と爪ではないか。

「拙者は・・・」
「考えることも勿論大切だ。だが、時にソレは自分の本質を偽る事もある」

その言葉はなぜかすんなりとシロの中に溶け込んだ。
理解したわけでもなかったのだけれど。
それでも「はい」とだけシロは答えた。

その後朝食を済ませ、横島は自分が学生であることを告げ家をでた。

変わりに送ると言ったのはツバキだった。


同時刻、美神GS事務所で美神令子は不愉快だった。

一夜たっても帰って来ないシロに対してではない。
シロの事は今現在の美神の頭には再生されていない。

では何に対して苛立っているのか、不可解なビル倒壊の事だ。

確かに自分の戦い方はお世辞にも静なモノではない。
しかし、いかに神通棍を使用していても霊力を完全に具現している訳ではない。
霊力とは同じように霊力を持たない相手には、いたって無意味なものだ。
それが無機物ならば尚更である。生きていれば多少なり霊気はある、無機物に対しては膨大な時間をかけねばならない。人為的にでなければ霊気が纏うことはない。例としてあげるならば九十九神(くつもがみ)があるが、それでも余程のことが無い限り百年越えが必要だ。
近代ビルにソレが生まれるわけが無い。
ならば何故、あのビルは倒壊した?
地震の多いこの国で設計され建築したビルが、鉄筋コンクリートと耐震構造の建物が何故あそこまで簡単に倒壊したのだ。
最上階だけが壊れるのならば解る、下が抜けたように崩れたのならば致し方ないと想うだろう。

そして代理人として現れた渡辺は何所に消えたのか。
もし、下敷きになったのならば依頼主が何かしら言ってくるはずだ。だが今現在銀行口座に入金はされたが、賠償請求は来ていない。

つまりは、自分は何かの隠れ蓑にされた可能性がある。

思い当たる節と言えば。

「横島忠夫・・・か」

そこで初めて美神はシロの存在を思い出した。

『美神所長。シロさんが戻られました』

部屋全体から聞こえた声、それによって一時美神の思考は中断された。

「解ったわ。人口幽霊一号」

とりあえず今はシロの報告を聞いてから改めて考える事にした。

・・・が、シロを向かえ入れるためにわざわざ出向いて見たのは、人とは思えない女だった。

人間ではありえない青緑色の腰まであるうねった髪、爬虫類を感じさせる金の瞳。

異質な存在。
良く似た存在を自分は昨日見ている。

    横島忠夫と一緒にいた青年

軽く会話をしてからその女は会釈をして帰っていった。
これがシロが今回初めて受けるGS試験の二日前の出来事である。

ただし、この試験も異例中の異例だった。
本来、GS試験の第一項目に「人であること」と決定付けられている。
その身に一滴でも人が混ざっていればソレは個性と呼ばれ、特殊能力とされるのだ。
だが、シロの場合完全に犬神の一族であるため試験は受けることが出来ないのだ。

では何故シロは・・・否シロとほんの数日前に美神につかまった妖狐タマモは試験を受けられるのか、それは特例措置をGS協会が出したからである。

先に断っておくが、美神が脅した訳ではない。
美神に脅されたからといってGS協会は動きはしない。
妙神山にすむ神竜の娘に頼まれたからといっても、そこまで便宜は図らない。

ならば何の為に?
どんな理由があって?

美神はシロが潜入できることに満足してしまった。
彼女は自分の欲望に忠実なために気付かない。

これは・・・彼らGS協会の謀。
人は人のまま神にはなれない。
だから彼らは考えた。

ならば・・・神に近い血を自分達の血筋に入れればいい。
血統書の付いた。
神に近い種族を。

そして二人は苗床に選ばれ。
子種は既に候補がいる。

悪質なまでに純粋な望みは、様々なものを巻き込む。


異質なほどに早く、目覚しいスピードで『芽』は育つ。
それ故に時は迫り、運命の時が動く。

出演者は未だ揃わぬままに舞台が始まる。

けたたましく開園のベルが鳴る。


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