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BACK TO THE PAST!

其の五


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/12/ 7

「向こうに何かいるな・・・」
ヨコシマが扉に手を触れながら言った。さらにバイザーを何度か操作し始め、
「熱反応が扉周囲だけでおよそ20・・・厄介、と言うより面倒だ。一気に駆け抜けるぞ?」
と続ける。
「お、おい。ちょっと待ってくれ。まだ心の準備が・・・」
タータはもちろんながらあたふたと狼狽している。
「ん、そうか。・・・・そうだ、ついでに武器も持っておけ」
ヨコシマは両手を合わせ、徐々にその間を広げていった。

ヴン・・・

黒い塊のような球体が手の平の間に現れ、気づけば怪奇音と共にナタのような武器が彼の手の中に納まる。

「使えるか?」
「ああ。たぶん・・・。でもどうやったんだ?今のは」
「魔族には簡単なんだ・・・」


「さて、行くぞ?」
タータも大分落ち着き、ヨコシマも体制が整った所で彼がそう言い、石の扉を押し始めた。
タータは緊張した趣でその様子を眺める。
半ば扉が開き、もう後戻りが出来ない頃、ヨコシマは思い出したように言う。
「あ、そういや言っておくけど。今の俺はほとんど霊力使えないから期待すんなよ?」
「はぁ!?何で!」
「知らん。さっき空から落ちたとき以来すこぶる調子が悪いんだ」
「早く言えよ!それより扉閉めろ!!つーか今霊力つかってなかったか?!」
「・・・答えてやりたいがもう遅いみたいだな」
そう、もうすでに扉は開かれ、その向こうから大量の、キメラを始めとする魔法生物の群れが、一斉に二人の方を振り返っていた。
「走れ!」
「わ、解った!!」
「よし・・・つーわけでてめえらは邪魔だ!!」

バキ!ドゴ!!  

ギャオン!!  ギャイン!!

ヨコシマが前方にいた数体の怪物を殴り飛ばして道を切り開く。
二人はその道を全力で駆け抜けた。

走る走る走る。そして邪魔者がいれば殴り飛ばす。

びっしりと隙間無くうごめく猛獣の間を突っ切るのは、とても心臓に悪い。
タータは飛びそうな意識でうっすらとそんなことを考えていた。

相変らず、ぼやっとした頼りない壁の光のみが光源で、視界も酷く悪く何度も転びそうになった。
それでも何とか二人は走りつづけた。

そんな猛進劇がしばらく続いた。

「・・・ん?来なくなった」
ヨコシマのすぐ後に、武器をやたらめったらに振り回しながら、必死になってついてきたタータはふと、
いつの間にか怪物たちがついてこないことに気がついた。
「ひょっとして、出口が近いのか?」
淡い期待をかける。
そんな彼にヨコシマがボソリと現実を伝えてやった。

「・・・半分ぐらい正解って所だな」

確かにすぐそこに出口らしき扉が見えた。
しかしその前には扉をふさぐように巨大な毛むくじゃらの獣が道をふさいでいたのだ。
他の怪物が来ないのはこいつを恐れているかららしい。

しかもそれだけでは無い。

扉のすぐ横の不思議な魔方陣からは次々と、クシャクシャに丸まったような魔法生物たちの子供が続々と湧いて出ていたのだ。
そして彼らは何がどうなっているかも知るすべも無く、扉の前の怪物に捕食されていた。と言うか遊び半分で齧られ、息絶えている。
この中で運良く生き延びたモノが先ほどの怪物たちの集団だろう。

「つまりは・・・このデカブツを絶好のレストランから追い出さないと俺たちは先に勧めないって事だ」
と、流石のヨコシマも、あまり乗り気のしない声でそう言った。









獣はいつもと何ら変わらない日々に飽き飽きしながら、暇そうに魔物の子を、大きな前足で叩き潰し、暇を潰していた。

今日も何も無い一日だ。明日も明後日もずっと何も無いだろう。

彼はそんな事を考えながら、さほど興味無さそうに、少し大きめのキメラの幼生いたぶる手を再開させた。

しかし、彼の視界に、今まで見た事も無い生き物一匹が写った。みれば見るほど美味そうだった。
彼の目が見開かれる。

くっくっく・・・今日は何て素晴らしい日なんだ!

そして、訳すとしたら、そんな内容になるであろう咆哮を上げ、重い腰を動かした。






・・・なのでぎこちなく武器を構えるタータは思いっきり腰が引けた。

「こ・・・こわい・・・」






オオオオオオンン!!

ビースト(仮名)は歓喜の叫びを上げ、牙を剥き出し、獲物向かって飛び出した。

丸太のような腕が風を斬り、タータめがけて振り下ろされる。

が、

「はっ!」

突如岩陰から飛び出した新手、ヨコシマに思いっきりカウンターを貰い、10mほど吹っ飛ばされた。

「・・・・パワーだけの馬鹿だったみたいだな」
ヨコシマはふっ飛ばされてピクリとも動かない哀れなビーストを眺め、安心というか、失望も混ざったようにそう言った。

(いや、アレだけパワーがあるんなら馬鹿でも十分だけど思うんだけど・・・)
タータはそう思ったが、口に出すのは止めておいた。
とにかく、この人(?)は凄いんだ。と言う事にしておく。

「急ごう、皆が待ってるぜ?」
ヨコシマは一足先に出口の扉を開け、タータを促した。







「次は・・・殺し屋が追って来るんだったよな」
ヨコシマは後ろを警戒しつつ、タータに問い掛ける。
「うん。でもなかなか来ないね」
「そうだな」

二人が今歩いている場所は、かなり急なスロープになっており、入り口のように薄暗く、所々に何らかの生き物が蠢いていたり、黒っぽい水が溜まって、いかにも恐ろしげな状況を作り出している。
なので、いつ殺し屋が物陰から襲い掛かってきても不思議では無い。しかし、洞窟は沈黙を保ったままで、むしろ逆に殺し屋が出てこないことの緊張感の方が殺し屋への恐怖を打ち破り始めていた。


そんな時、

・・・・カチッ。

「やばい・・・・なんか踏んだ」

ヨコシマが奇妙な出っ張りを踏みつけ、いかにもと言う音が鳴り響いた。

                          ごごごごご。

「なんか来るね」

                    ごごごごご。

「もしかしたらさっきのビーストみたいな奴かもしれない。武器構えていろよ?」

             ごごごごごご。

「わかった。でも・・・・・この音なんか生き物っぽくないよ?」
「俺もそう思う・・・・。やっぱこのパターンはアレなのか・・・・?」

ごごごごごごごごごごご!!!

そう、ヨコシマの予想通りアレだった。

通路ぴったりの大きさの大岩が今まで下ってきたスロープを爆走してきたのだ。

「逃げるぞ!」
ヨコシマがそう言うないなや、二人は一斉に走り出した。

しかし視界も悪い、足元も悪い、そもそも疲れきった足腰では分が悪い。
悪いの三拍子がそろってタータはすぐに遅れ始めた。

「ちっ・・・」
それを見たヨコシマは舌打ちすると、突然彼を小脇に抱えて走り始める。
「す・・・すま・・・ん」
息が切れて途切れ途切れの声で彼はヨコシマに礼を言った。
「気にすんなって」
ヨコシマは全く乱れていない口調でかすかに笑いかけた。

コイツやっぱ人間じゃないや。

タータは本日何度目かわからないがそう思った。


「何だか、懐かしいな・・・・」
「何が?」
タータは彼を抱えて走りながらも、かすかな笑みを浮かべるヨコシマに疑問を覚える。
「いや、昔の事をちょっとな。10年ぐらい前には・・・」

その直後、ヨコシマが横道を発見し、ついにタータは、ヨコシマがどんな事を考えていたのか知るチャンスを失った。

「飛び込むぞ!」
ヨコシマはそう言ったが、はっきり言って身構える暇などない。

「いだっ!」
タータは途中で放り出され、尻餅をつく。
「大丈夫か?」
ヨコシマはスタリと人間離れしたバランス感覚で着地し、彼を助け起こした。
「いたた・・・大丈夫だよ。それと・・・」
タータはヨコシマの後ろに目をやる。
「・・・ゴールに着いたみたいだね」




そこには四度目の石の扉が、正体不明の不気味な光を放って辺りを照らしていた。
今までの雰囲気とはまるで異質なその雰囲気は、なにやら悪魔じみた魔力を感じさせられて、
タータは何となくつばを飲んだ。






「神より授かる・・・か。神様ってのはちょっと前からあんまり好きじゃないんだよな」
ヨコシマはそう言いながら一思案して、さっそく扉を開けてみた。
「さて、神族でも出るか?それともまた仕掛けか?」
彼は好戦的な声でそう言うと、タータを後ろに従えながら部屋へと入っていく。
(そんなに神族が嫌いなのかな。いや、悪魔だしあたりまえなのか?)
タータはそんなことを考えながら彼の後ろをついて部屋に入った。

そこは、割と広いホールになっていた。
そして壁からは見たことも無い鉱石が飛び出し、その中で七色の光がきらきらと揺らめいている。
そして中央には、「何かと思えば、なんとも石頭の神様だな〜・・・」
神族をモチーフにした石像が立っていて、その手には黒光りする不思議な矢が乗っかっていた。

「こいつを持ってかえりゃいいんだな」
「あ、ああ。そうだと思う」
ヨコシマはタータに確認を取り、黒い矢をかすめ取るようにいただいた。
「わりぃな神様。頂いていくぜ?」
彼は面白く無さそうにそう言うと、石像に背を向ける。
本当に神様が嫌いなようだ。



が、



ギィーー、カチャン。

矢の重みが石像の手から失われたことで、今まで水平だった石像の腕がゆっくりと跳ね上がったのだ。

そして固まるタータ、ヨコシマ達二人を尻目に、洞窟全体が揺るぎ始め、あちこちで落盤するような音が聞こえ始めた。




「くそったれ!これだから神様ぶった奴ってやつはキライなんだよ!!」



魔神はそうやって喚くがもう遅い。


その時ヨコシマとタータには、無表情の石像の神様がニヤニヤ笑っているように見えた。


天罰だよ。とでも言うかのように、






「逃げるぞ!」
一瞬悔しそうに歯軋りしていたヨコシマだったが、そこは伝説の魔神、とっとと無駄な感情は捨てて脱出をはじめる。

しかし、扉をくぐってしばらく行った所で通路が落盤で塞がって、通る事が出来なくなっていた。

「げっ!最悪!!」
タータが岩石に飛びついて動かそうとするが、びくともしない。
「くっ・・・いけるか?」
それを見たヨコシマは、岩塊に手をかざして目を閉じ、なけなしの霊力を集中させる。
「どいてろ・・・」
そしてタータが目の前からどいた事を確認すると、普段のヨコシマとは思えないような弱さの霊波砲(それでも並みのGSには勝る)を打ち出した。

ドン!・・・ガァァァアアアンン!

「ダメだな・・・」
確かに道をふさいでいた瓦礫は吹き飛んだが、その代わり新しい落盤が起き、また通路をふさいでしまう。
「それだけじゃないみたいだよ」
タータはさらにめきめきと亀裂が入りつづけている天井を見て青くなった。
このままでは脱出どころか、たちどころにあの世生きだ。
「だな・・・一旦さっきの部屋に戻ろう」

二人は先ほどの神様の石像の所まで帰ってきたが状況はあまり変わらなかった。

「ここも長くはもちそうも無い、こいつはいよいよやばくなってきたぞ」
「え〜!どうすんだよ!!」
「どうするっつってもなぁ・・・」
ヨコシマはバイザーの下に困った顔を浮かべるが、霊力の無い彼にはどうにも出来ない。
「せめて一個でも文珠ができれば・・・」
霊力を集中してみるが、もちろん全く足りない。

(せめてこいつだけでも・・・)

彼はそう念じながらありったけの力を搾り出そうとしたが、結果は同じだった。

「せっかく村を救えるってのに、ここで終わりなのかよ・・・」
タータが悔しそうにそう呟き、二人に絶望の兆しが見え始めた。
どうあっても助かる見込みはゼロに等しい。

そんな時だった。

―――――・・・え・・・

「・・・・ん、なんだって?」
ヨコシマは耳をそばだてた。

―――――上・・・

彼が声に従い頭上に目をやると、そこにはたった今の落盤で開いた直径1mほどのの穴が、ぽっかりと開いていた。
「ヨコシマ?何して・・・」
先ほどの声が聞こえなかったらしいタータは不思議がって彼のマントを引っ張った。
すると、

「後は頼んだぞ?」
「は?」

ヨコシマは突然タータの腕を掴み、天井の穴めがけて思い切り投げ上げる。
「どうおおあああああぁぁぁぁーーーー・・・・・!!!」
穴にすっぽりと吸い込まれていったタータの声は、フェードアウトして消えていった。

どうやら脱出に成功したらしい。
その直後、穴は崩れ落ち、破片がバラバラとヨコシマに降り注ぐ。



「・・・お前らの息子さん。いい人間に育ってるぜ?」
ヨコシマは無表情で降り注いだ破片を振り払いながらそう言った。

―――――ありがとう・・・

その目線の先ではやや透けて見える男女が静かに笑って


消えた。


しかしその間も洞窟の崩壊は続く。

「・・・全く、損な役買っちまったよな〜。・・・・・ますます昔を思い出しちまうじゃねえか」


彼がそう呟いてあぐらをかいた瞬間、洞窟全体が崩壊した。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!!





ぼしゅっ
「わっ!」

タータは長いトンネルを抜け、ボールのように地上に放り出された。
「いたた・・・」
そして直後鳴り響いた地響きで慌てて跳ね起き、自分が放り出された穴を覗き込む。
「おい!大丈夫か!ヨコシマ!!」

しかしぽっかりと開いた穴の奥からは不気味な地響きが聞こえるだけで、返事など無い。
どうやら途中で崩れてしまったようだ。

―――後は頼んだぞ?

彼が最後に言った言葉がタータの脳裏に蘇る。

「魔神は若者に全てを託す・・・か。クソッ!!」

ぎりりと歯を噛みしめ、両手に『矢』と魔神から貰ったナタをぎゅっと握り締めた。




遠くで爆音が聞こえる。イアンたちはまだしぶとく精霊龍と喧嘩しているようだ。


・・・・・。


「いいさ、やってやるよ。俺がやってやる!!」

タータは暗い森へ向かって走り出した。

その目にはもはや目的以外の怯えた光は映っていなく、まっすぐに前を向いていた。

洞窟での冒険が、彼を少しだけ強くしていた。


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