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WORLD〜ワールド〜

第二十話 迫る絶望、目覚めぬ希望(1)


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/11/30

「斉天大聖の気配が消えてもう大分経ちますね……」

「そやな……何かあったんやろか」

 そこは奇妙な空間だった。
 そこには光以外に何もない。
 その光はどこかに光源があるのか、それともそこに居る二つの存在そのものから発せられているのか判別できない。
 そんな中に悠然と腰掛けている二つの影。
 あまりに周りの光が強すぎて、二人の顔は確認できない。
 ただ、そのあまりに強大なオーラ、圧倒的な存在感ははっきりと確認できる。
 神界の最高指導者。
 魔界の最高指導者。
 その二人が向かい合って話し合っていた。

「まさか……死んでしまった………?」

「それはないやろ? あいつを殺せるような存在なんてこの世におらんでしょ。本人は隠しとるつもりやったかしらんけど、あいつの力はわしらすら軽々と凌駕しとったからな。考えられへんわ」

「いえ、それはわかりませんよ?」

「なんで?」

「かつて一度、彼は命を落としたことがあります。まあ、その時の彼の力は今と比べるとかなり落ちるのですが、それでも私たちを上回っていました。その時にワケを尋ねても彼は答えようとはしなかった。何故か? 考えられるのは一つ。武神のプライドが邪魔したのですよ。つまり、彼はその時ただ死んだのではなく『殺された』。今回もまた、そうなのかもしれません。もしかすると、同じ相手にね」

「確かに…あいつを殺せるような力の持ち主がそうほいほいおるわけがないからな。そう考えるのが自然やけど………『究極の魔体』くらいやで? あいつに対抗できるのは」

 そんな魔界の最高指導者の言葉に、神界の最高指導者は頭を抱えた。

「あれほどの物を造れるのはアシュタロスくらいでしょうし……本人に聞くのが一番手っ取り早いのですが…」

「あかんやろな。今アシュタロスとその一派がいなくなったことで神魔のパワーバランスは著しく傾いとる。今回斉天大聖がいなくなったことで逆にバランスがとれてしまうんや。
復活は…せんやろ」

 それきり二人は口をつぐんだ。
 しばし、無言の時間が流れる。
 神界の最高指導者は、ひとつため息をつくと、上空、遥か彼方まで続く光の空を見上げた。

「何かが………起こっているようですね」

「そやな………」

 神界の最高指導者の言葉に、魔界の最高指導者は重々しく頷いた。
 それきり、部屋には再び沈黙だけがあった。











 妙神山。
 美神たちはかつて美神、横島、雪之丞などが修行を行った修行場、その銭湯を模したような場所に移動していた。
 修行場のほうが神気が高く、傷の直りが早いという判断からである。
 小竜姫はそこに移動してから、しばらく呆然としていたかと思うと突然立ち上がった。

「く…よくも鬼門達を…! 横島さん達を!!」

「落ち着きなさい小竜姫!!!!」

 出て行こうとした小竜姫の肩を掴み、美神は小竜姫を押しとどめた。
 小竜姫は美神を振り向き、怒鳴った。

「離しなさい! 美神さん!!」

「もし鬼門たちをやったのがパレンツだったとしたらむざむざ出て行っても殺されるだけでしょ! 頭冷やしなさい!!」

「冷やせるわけがないでしょう!! 家族ともいうべき鬼門たちを殺され! かけがえのない友である横島さん、雪之丞さんをこんなにも傷つけた!! いいから…離しなさい!!」

 小竜姫は美神を振り払おうと踠く。
 しかし、鬼のごとき膂力に振り回されても美神は手を離さなかった。

「老師でも勝てなかったやつにアンタが勝てるわけないでしょッ!!!!」

 小竜姫の動きがピタリと止まった。
 美神は続ける。

「わかってるんでしょう? 横島クンや雪之丞がこれほど傷ついて、老師の姿はない。そして今、この妙神山にパレンツは現れた………老師は、もう……」

 そこから先は続けなかった。
 小竜姫は顔を伏せたまま動かない。
 美神は小竜姫の肩を掴んでいた手の力を緩めた。

「だから…」

 美神が言いかけたその時に、小竜姫は顔を上げた。
 その顔は、涙に濡れていた。

「だからこそ!! 今私は征くのです!! 老師が…あの老師がただでやられるなんてことがありますかッ!!!!」

 今度こそ止める間もなく、修行場を飛び出すと小竜姫は走り去っていった。

「小竜姫ッ!!!!」

 美神の声にも振り向かない。
 あっという間に小竜姫の姿は見えなくなった。

「バカ………!」

 美神は拳を握り締めて立ち尽くした。
 その肩は、震えていた。

「令子ちゃん………」

 かけられた言葉に振り向く。
 そこには西条が立っていた。

「そろそろ教えてくれないか? 今一体何が起きているのか……僕達は『何』と戦わなくてはならないのか………もう、いいだろう?」

「でも………」

「話してしまいなさい、令子」

 言いよどむ美神に、美智恵はやさしく声をかける。

「もう、今この場にいる者は深く今回の件に関わってしまっている。真実をしっていようがいまいが、もう関係ないわ」

「うん………」

 美神は弱々しく頷くと、意を決してことの顛末を語り始めた。
 皆、食い入るように美神の話を聞いていた。











 小竜姫の目の前には、男。
 長い黒髪をもつ端正な顔立ちをした、男。
 しかし、その端正な顔は血で染まっていた。
 それは人のものと同じ、赤い血だった。

(間違いない…! この男が、パレンツ!!)

 小竜姫は殺気を込めて目の前の男を睨む。
 男の体は、本当に傷ついていた。
 血に濡れているのは顔面だけではない。
 全身いたるところから出血しており、衣服もあらゆるところが赤く染まっている。
 足取りもおぼつかなく、ふらふらしていた。
 老師の命の閃光は、深く深くパレンツにダメージを与えていたのだ。

「我が名は斉天大聖が一番弟子、小竜姫!! パレンツっ! 老師の仇、とらせてもらう!!」

 名乗りを上げながら、小竜姫の脳裏に老師の姿がよみがえる。
 この妙神山で寝食を共にするようになってから数千年。
 その強さに憧れ、ただひたすらにその境地を目指した。
 自分を鍛え上げ、ここまでの強さになれたのは老師の教えがあればこそ。
 時にはそのあまりに神離れした軽い言動、ゲームにはまり込む猿そのものの姿を見て呆れたこともあったけど―――――



 尊敬していた。
 慕っていた。
 ―――――まるで、父親のように。



「パレンツっ!! 覚悟ッ!!!!」

 叫ぶと同時に自分の出せる最高の術、超加速に入る。
 自分以外の時の流れが緩慢になった世界で、小竜姫はパレンツに突進した。

「――――煩わしい」

 小竜姫は、確かに聞いた。
 本来、届くはずのないパレンツの声を。
 パレンツの手のひらに不気味な光が収束していた。













 美神は、全てを話し終えた。
 皆の反応は、ない。
 全員が、絶句していた。
 そんな中、西条は大きく息を吐くと、口を開いた。

「やれやれ…まさかそんな大きな話だとはね。『創始者』か……まるで悪い夢のようだよ」

 そう言って、ニヒルに笑う。
 この男のなんというか、タフさはもはや称賛に値するものであろう。
 そんな西条を押しのけて、エミが美神に詰め寄った。

「じょーーだんじゃないワケよッ!! アンタ何とんでもないことに人を巻き込んでくれちゃってるワケ!? 私にはなんの関係もないじゃない!!!!」

「それは…完全に私の判断ミスよ。ごめんなさい………」

 素直に頭を下げる美神を見て、逆にエミは狼狽する。
 汗をたらしながら周りを見渡し、焦りながら言った。

「な…なによ! なんでそんな素直に……これじゃなんか私のほうが悪者じゃない!!!」

 慌てふためくエミの様子を見て、皆もようやくいつもの調子を取り戻した。
 皆の顔に笑みが浮かんでいる。
 ベスパと、パピリオですら。

「ひどいですよ、エミさん」

「エミちゃ〜ん。お友達は助け合うものよ〜〜〜?」

「だから違うっつってんじゃないの!!!!」

 笑いながらのピートの非難に、目をきらきらさせての冥子の言葉に、エミは顔を真っ赤にして否定する。ちなみに雪之丞の治療は式神によって続けられている。
 もちろん、エミのさっきの一言が本心ではないことなど、皆わかっている。
 エミはただ、美神を奮い立たせようとしただけなのだ。
 美神は、そんな皆の様子を見てようやく笑みを取り戻した。

「でも実際これからどうするんじゃ? 最年長者として言わせてもらうがそんなモン勝ちよーがないぞ?」

 鼻をほじりながらカオスがのんびりと口を挟む。
 まあ、このじいさんは千年も生きているからもう思い残すこともないのかもしれない。

「うるっさいわね! そんなこと言ってる暇あったらその頭ん中の腐れプリンちょっとは働かせなさいよ!!!!」

「ぬおッ!? この儂の天才的脳みそをプリン呼ばわりじゃと!? おのれこの木炭娘っ!!!」

「なぁんですってーーーーー!!?!??」

「はいはい、もういいかな? 僕の考えを言わせてもらうよ」

 カオスとエミの醜い言い争いは西条の言葉で終了となった。
 皆が西条に注目する。

「さて、今回の件だけど……打つ手がまったくないわけじゃない」

「本当ッ!? 西条さん!」

 西条の言葉に美神の顔が輝く。
 魔鈴は話し出す西条を眩しそうに見つめていた。

「そう、それは………」

 皆がごくりと唾を飲む。

「逃げることさ」

 皆が盛大にずっこけた。
 美神が西条にうがーっ!ってな感じでつっかかった。

「ちょっと西条さん! ふざけてるの!?」

「僕は大真面目さ」

 もの凄い剣幕の美神を西条はさらりとながす。

「話を聞く限りじゃドクター・カオスの言うとおりさ。僕達に打つ手なんてなにもない。なにしろ斉天大聖ですら敗れてしまったというのだろう? 僕達が勝てる可能性なんて万に一つ、なんてものじゃない。絶望的さ。たったひとつの希望を除いては、ね」

「たったひとつの希望?」

 魔鈴の言葉に西条は頷くと、おキヌ、シロ、タマモによって懸命のヒーリングが行われている横島に視線を向けた。

「それが、横島くんだ。パレンツに対抗できるのは横島くんしかいない。つまり、僕達にできることは横島くんの覚醒を待つこと。横島くんの覚醒まで、逃げ続けることだ」

 そう言って、西条は冥子のそばに近寄った。

「というわけで冥子くん、君の力が要る。メキラの能力を使ってテレポーテーションをするんだ」

 西条の言葉に冥子は困惑を浮かべる。

「でも〜メキラちゃんの能力は〜〜そんな遠くまでは行けないわ〜〜〜」

「近くでもいい。とにかく何度もテレポーテーションを繰り返すんだ。とにかく、横島くんが目覚めるまでの時間を………」

 その時大気が震えた。
 同時に、どこか遠くから爆音のような音が響く。

「小竜姫……!」

 美神は唇を噛み締めた。
 美しい顔は、悔しさと悲しさで歪んでしまっている。
 西条が皆に指示を出した。

「皆! 隣り合う者のどこか一部分を掴め! 全員がつながるようにするんだ!! 冥子くん、頼む! 時間がない!! 小竜姫様には悪いが、先にこの場を脱出するんだ!!!」

 迷っている時間など、ない。
 皆は西条の指示に従い、隣り合う者の服のすそや手などを掴んだ。
 冥子を中心に、円陣を組むような形になる。
 横島の体をおキヌが抱きかかえ、雪之丞の体はかおりによって抱きかかえられていた。
 その間もヒーリングは続けられている。

「さあ、冥子くん!!」

「メキラちゃん、お願い〜〜〜」

 西条の言葉に冥子は頷き、メキラを己の影から呼び出すと精神を集中し始めた。
 まず冥子の体を光が包み、その光が皆に伝わっていく。
 光は輝きを増し、ついには目も開けていられないほどの眩さに達し―――消えた。
 景色は何も変わらない。
 妙神山の修行場。

「冥子くん……?」

 西条は冥子に視線を向ける。
 冥子は首を横に振った。
 その目には涙が浮かんでいる。

「わからないの〜〜どうしてか〜〜〜テレポートできないの〜〜〜!」

 西条の顔から初めて余裕が消えた。
 絶望は、一歩一歩、確かに―――――









 ―――――――歩み寄る。




















「ここ………どこだ?」

 横島は奇妙な空間で目を覚ました。
 真っ暗闇だ。
 なんの光もない。
 そのはずなのに、自分の姿ははっきりと視認出来る。

「俺……どうなったんだっけ?」

 訳もわからず辺りを見渡し、歩き出す。
 地面も、あるような、ないような、奇妙な感覚だった。
 ただひたすらに歩いていると、やがて光が見えてきた。
 ほかに行く当てもないのでとりあえずその光に向かって歩き出す。

「なんだコレ?」

 たどり着いた先にあったのは、これまた奇妙な光の固まりだった。
 光が球体のような形となってふわふわと漂っている。
 ちょうどバスケットボールくらいの大きさだろうか。
 それはふわふわと横島の目の前に近づいてきた。

「………?」

 単純な好奇心、というか無意識に横島はその光に触れていた。
 途端に光は爆砕し、空間全てを満たしてゆく。

「わっ…ち……!」

 あまりの光の強さに思わず腕で顔を庇い、目をつぶる。
 しばらく横島はそのままで固まっていた。
 やがて、閉じたまぶた越しにも光がなくなったことが感じられる。

「な…なんだったんだ今の………」

 恐る恐る横島は目を開けた。
 そこに映ったのは、実に鮮やかな夕日だった。
 実に鮮やかな紅が眼下のビル群、町並みを染めている。
 この景色には、見覚えがある。
 横島は慌てて周りを見渡す。
 横島は、東京タワーの上に立っていた。

「そんな……なんで……?」

 わけもわからず混乱していてふと背後に気配を感じた。
 先ほどまでは誰もいなかったはずだ。
 横島はゆっくりと後ろを振り返った。
 夕日を背にして、彼女は立っていた。
 肩口で切りそろえられた美しい黒髪。
 スレンダーで整った体を包むのは、ちょっとコスプレ入ってるかもしれない、などとも思える奇抜な服装。
 優しい目。
 ちょっと困ったような、笑顔。
 目の前の風景が、涙で滲んだ。
 そこにいたのは、まぎれもなく。
 そう、まぎれもなく――――――

「―――ルシオラっ!!!!」

 今度は、偽者なんかじゃなかった。


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