美紗がゴミ溜め中から立ち上がった。
“なんだ?霊格がさっきと全然違うぞ”
陰念の左頬に嫌な汗が流れ落ちる。
確かさっきまではどうにでも出来る“オモチャ”みたいな存在たったはずだが・・・・・・・・。
魔装術を纏(まと)ってまで圧倒してくる霊気にたじろいでいた。
“なんだー?あの背後の女は”
美紗の後ろに鳥帽子をかぶり平安時代の服を着た髪の長い女が立っていた・・・・・・。
女は陰念と眼が合うと“すぅー”霧の様に消えてしまった。
“幻覚か?”
だが、どうでもいい・・・・・・・・。
そろそろ魔装術が限界に近づいてきた。
雪之丞や勘九郎と違い陰念の魔装術は精練されてない。霊力を無駄に消費しやすくあまり長時間活動出来ないのだ。
“ここは一気に決めてやるぜ”
拳を腰にとどめ気を練り一気に解き放った・・・・・・・・・。
「いくぜ!小娘。 ゴールデン、ブラッティー、リーサル陰念パンチ!!」
1,05%増しの凶悪な攻撃が美紗を襲う・・・・・・・。
美紗がゴミ溜めの中から立ち上がった。
体が軽い・・・・・・ まるで羽が生えているようだ・・・・・・。
美紗が胸元を見る・・・・・・・。
・・・・・・・・飛行石はない・・・・・・・。
つまりは実力というわけだ。
そういえば体中から力が湧き出してくる様な気がする・・・・・・。
陰念のほうを見ると彼が大声を上げている。
「いくぜ!小娘。 ゴールデン、ブラッディー、リーサル陰念パンチ!!」
「見える!」
ザッ!
陰念の放ってくるパンチを後ろに飛んでかわした。
「ゴールデン、ブラッディー、リーサル陰念パンチ・・・・・・ 略してゴブリンパンチですか〜。やりますね〜」
「てめ〜!クソガキ!!変な略し方すんじゃねーよ」
怒りをあらわにし再び頭部を真っ赤にして蒸気を噴出す陰念。
「食らいやがれ! 陰念マシンガンパンチ」
雷撃の様なパンチ(陰念主観)が美紗を襲う。
ザッ、ザッ、ヒュッ
美紗は軽快なステップで次々とかわす・・・・・。
「マシンガンパンチは止めましょうよ〜 格好良くないですよ・・・・・。 あっ、個人的には流星拳とか百裂拳とかが好きです」
陰念はダメだしを食らった・・・・・・・。
「小娘がぁぁぁぁ!! ふざけんな!!」
陰念がまた切れた・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・「コノッ! コノッ! コノコノッ! この野郎!! 当たりやがれ!」
陰念は必死に攻撃をするが美紗は余裕の表情で次々と攻撃をかわす。
さっきまでとは何故か動きが違う。陰念の攻撃が今ははっきりと見える。
「にょっほっほっ、オニさんこちら〜」
美紗は調子に乗っている・・・・・・・・・・。
しかし、古今東西調子に乗った愚か者には哀れな末路が待っている・・・・・・・・・。
ツルッ
何故か美紗の足元にバナナの皮があった・・・・・・・・・・・。
「なにおー! たぁー!!」
たたらを踏むも何とか持ちこたえようとする。
「小娘がぁー!! 喰らえ!!」
再び凶悪な陰念のパンチが美紗を襲う・・・・・・・。
美紗は素早く破魔札を目の前にかざし爆発させる・・・・・・・。
パァーーン
爆発によって陰念が弾き飛ばされる。
あれ? こんなに火力(霊力)つよかったっけ?
見ると陰念が仰向けでモガモガもがいている。
ゴブリン魔装術は仰向けに弱いようだ。海がめと共通の弱点である。
チャンスは今しかない!!
右手の謎の札が美紗の意識に痛いほど自己主張してくる・・・・・・。
美紗はお札を構えた。 お札の知識が自然に美紗の中に入ってくる・・・・・・・。
「赤よ 絢爛たる 赤よ。 全てを燃やし邪悪を消し去る赤よ・・・・・・・・・」
右手の札にうっすらと文字が浮かぶ・・・・・・。
「此処に現れ炎となれ!! 業火豪放(ごうかごうほう)!」
―――――――『雷』――――――――
あれ?
ピシャーーーー!!
強烈な雷光が陰念を襲う。
「ぎゃー!!」
陰念の悲鳴が響き渡る。
そして数秒後陰念は動きを止めた・・・・・・・。
おかしい 確か炎が出るはずだったのに・・・・・・・
美紗が小首をかしげた。その先には陰念がいて体をピクピク震わせている
どうやら生きているようだ。案外しぶとい・・・・・・・。
「まぁ〜、いいか〜」
美紗は新しい力を手に入れたことを喜ぶように
“ぴょんぴょん“
と跳びはね、小走りに出口に向かった・・・・・・・・・。
勘九郎が魔装術に身を包む。
「覚悟はいいかしら。横島?」
「いいわけあるかー!!
お前、魔装術なんか使って俺をどうする気だよ・・・・・・・」
「どうもしないわよ。ただあなたに誤解を解いてもらうだけなんだから」
「ウソやーーー!! 絶対ウソや!
大人はそう言ってだますんや」
みぐるしい・・・・・・・・。勘九郎はあまりに見苦しい敵の狼狽振りを見かねる様に
ちょっと斜め下を見つめため息交じりで言った。
「あんたの持っている情報さえ教えてくれたら別に何も・・・・・・あら?」
そこには何もない空間が・・・・・・・・・・・・・・。
「横島――――!! あんた逃げたわねー!!」
さすが逃げるには定評がある横島である。
「はぁ、はぁ、 ここまで来ればあのオカマ野郎も追って来ねーだろう」
なにが“どうもしない”だ。
そう言って捕まえた相手を“どうもしない”事など人類史上今まであっただろうか・・・・・。
思わず捕まってしまった後の事を想像する横島。
・・・・・・・・・・・・・思考中・・・・・・・・・・・・・・・・
「ヒィー! 嫌やー 絶対嫌やー!!」
自分の想像した事を涙を流しながら打ち消そうとする。
ガタ!
「ぜぇ、ぜぇ、 見つけたわよ 横島。」
勘九郎は魔装術を纏ったまま追いかけていたようだ。
「いい加減にしなさいよ!話がちっとも進まないでしょ!」
どうやら覚悟を決めないといけないようである。
「へっ、覚悟はいいか? 勘九郎」
キリッ とした表情の横島。眼もキラキラ輝いている・・・・・・・・。
「いいからかかって来なさいよ。 横島」
横島の表情を胡散臭そうに見ている勘九郎
横島は左手にサイキックソーサーを作り出し勘九郎に向かって投げつけた。
サイキックソーサーは真っ直ぐ勘九郎を目指し、その少し手前で落下して大爆発を起こした・・・・・。
くっ、“目くらまし”
だがこの程度は計算済みだ。
勘九郎は身を低くしてどこから攻撃が来てもいいように身構えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
攻撃が来ない。
まさか逃げたとか?
さすがにこの期に及んでそれはないだろう。
でも、横島だし・・・・・・・。
やがて爆煙がおさまるとそこには何もない空間が・・・・・・・・・・・・・・。
「横島――――!! また逃げたわね――――!!」
勘九郎の絶叫が響き渡る。
「って、あら?」
横島のいた少し先にまるで“眼に見えない壁”に全身をぶつけた様な
格好をして立ち尽くす横島がいた・・・・・・・。
「なじぇ・・・ こんな所に・・・・・・・・ 見えない壁が・・・・・・」
全身をプルプルと震わせながら当然の疑問を口にする横島。
「さあ? あんたらの言うところの“キーやんのおぼしめし”ってやつじゃないの?」
「そんな“おぼしめし”ってあるかー!!」
横島の絶叫が響き渡る。
・・・・・・・・・・・・横島戦闘強制参加である。
魔装術に身を包んだ勘九郎が慎重に歩みを進めた。
敵は霊力源が煩悩などというわけの分からない物を力の根源とし
“反則の女神”美神令子を師事とし
文珠などというわけの分からない反則霊具使いこなす相手だ
警戒してしすぎるという事はない・・・・・・・。
横島が突如ダッシュしてきて距離を縮めようとする。
勘九郎は牽制のために霊波砲を撃った。
横島はスピードを落さず左右の手にサイキックソーサーを作り出し左手の
サイキックソーサーで霊波砲をはじき右手のサイキックソーサーを勘九郎めがけて投げつけた。
投げつけられたサイキックソーサーを勘九郎はそのまま受ける気はない。
サイキックソーサーを余裕を持ってかわし攻撃に移ろうとしたところで・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・目の前に横島の顔があった。
「食らいやがれ! オカマ野郎!!」
右手に張り付かせたサイキックソーサーで勘九郎を殴りつけた。
「ホゲェーーーー!!」
吹き飛び地に伏せる勘九郎。
おかしい・・・・・・。
確か横島は右手のサイキックソーサーは投げて手元には残ってないはずである。
それなのに右手に張り付かせて殴ってきた。
今は考え事をしている時ではない!
まだダメージの残るその体に鞭打って起き上がった。
見ると横島もサイキックソーサーを精製し終わった所だ。
「ちょっと!横島。 顔は女の命なのよ!跡が残ったらどーしてくれるのよ!!」
横島は答えない・・・・・・・・・・・。
よく聞くと小さな声で
「男は嫌だ・男は嫌だ、男は嫌だ・・・・・・・・・・・・・」
「ムキー! 失礼しちゃうわね。あたしは女よ!!」
二人の高霊能力者が再び激突する・・・・・・・・・・・。
ガシッ! ガッ! ガッ! ガシッ!
身を削るようにして激しく攻めあう二人。
おかげでサイキックソーサーの謎が解った。
横島は二つのサイキックソーサーを拳に、肘に、膝に、体中の各所に
移動させて攻撃と防御に使用している。
霊力を多く消費する魔装術に対する最も効率のいい戦い方と言えた。
しかし疑問に思うこともある。あれほど勘九郎を忌み嫌っていた横島が
勘九郎と息も触れ合うくらいに接近して戦おうとするだろうか?
横島だったら少しでも勘九郎と離れようと霊波刀で牽制しながら
戦うのではないだろうか?
想像してもらいたい・・・・・・・・・・・・・・・・。
いくら剣が接近戦用の武器とはいえ懐に入られれば弱い。横島の霊波刀をかいくぐり
懐に入り込む勘九郎。そっと横島を包み込むように抱きしめる勘九郎・・・・・・・・・・・・。
「嫌やーーーーーーーーーーー!! そんなの嫌やーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
横島の霊力が急激に上昇する。
彼の霊力の源は煩悩だけではなかったようだ。
横島の猛ラッシュが勘九郎を襲う。
拳、膝、肘、頭突き、蹴り、蹴り、蹴り、アッパー、頭突き、肘、膝、拳、・・・・・・・・・・・・・・。
「フゴッ!グゲッ!ゲブェ!ゴフッ!ハガッ!ガシュ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
横島の攻撃を捌ききれない勘九郎は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボロボロになって崩れ落ちた。
数分後 やっと精神の安定を取り戻した横島が戦いの帰趨(きすう)を振り返っていた・・・・・・・・。
「ふうー 近年まれに見る最悪の敵だったぜ」
まったく俺を恐怖のどん底に叩き落すとは敵ながら天晴れなやつだ。
出来ることならもう二度とよみがえらない様に入念に祈っておこう・・・・・・・・・・。
横島が両手を合わせて黙祷するとそれに合わせるかのように黒い邪気のような
霊気があふれ出してきた。
「へ?」
霊気の流れをさかのぼって見るといつの間にか立ち上がって
こちらを見つめている勘九郎にたどり着いた。
「あたしの回復を祈ってくれるなんて横島
あんたいいとこあるんじゃないの?」
「ひぇー! こいつ あんな怪我してんの一瞬で直りやがったぜ。
しかも魔族形態、ほんとこいつ人間かよー!」
自分のことを棚にあげて勘九郎のことをあげつらう横島。
「あんただけには言われたくないわよー!!」
ごもっともな話である・・・・・・・・・・・・・・。
この作品を読んでみて”あれ?原作のメンバーは?”とか”ストーリーが見えてこない”とか思われるかもしれませんが実は一章は”もしもねがいがかなうなら”のプロローグ的役割なのです。本来一章の洋館編がプロローグとして用意した設定なのですが本編に入るまでに美紗にある程度成長してもらわないとこれから出てくる強力な敵に立ち向かうことが出来ないですし主人公の横島と美紗を読者の皆様に馴染んで頂くため(強力な個性を持つレギュラー陣にかき消されないため)にプロローグではなく一章としての長さの話にしました。それと最初は公開する予定ではなかった謎(秘密など)をある程度公開して興味を持ってもらうねらいなんかもあります。ちなみに勘九郎と陰念は一章限定出場予定です。
二章に”もしもねがいがかなうなら”の世界設定の説明。 レギュラーメンバーの近況。 そして横島君が事務所を出す辺りまでの話の予定です。
三章に本編に当たる話をやりたいと思っています。
PS:”見えない壁”には突っ込まないでください。作者にはあれが限界です。横島君を本気で逃げ回らせたら丸一話分使っても捕まえられないかもしれない・・・・ (さらすぱ)
オリキャラにありがちな作者の自己陶酔的な面も今のところ感じられませんし。
展開もコミカル路線としては上滑りしている部分も見受けられますが、概ねよろしいかと。
後書きで述べている構成も、構成そのものはよく考えられていて大変よろしいと思います。
ただし、後書き――つまり本文以外の部分でそういう「言い訳」を行うのはやはり見苦しいですね。
>PS:”見えない壁”には突っ込まないでください。
とありますが、拒否します。読者に甘えてはいけません。
“見えない壁”を出すこと自体は結構ですが、作品内でのつじつまは合わせるべきです。「何故かバナナの皮が」も同様ですね。
「見えない壁」も「バナナの皮」も、ギャグシーンなら特に説明など必要ありません。要するに、シリアスなはずのシーンで無理に「ギャグシーンのギャグ」を入れようとするからちぐはぐになるんです。
シリアスなシーンにギャグを入れるなとは言いませんが、ギャグシーンのギャグと同列に扱ってはいけません。
それから文体ですが、一人称形式と三人称形式が入り乱れているのはまずいですね。特にまずいのは「作者の一人称」で語られている部分があること。
作品内に「作者の感情・思考」が直接描写されることがあってはなりません。
それらはすべて、登場するキャラクターを介して表現されるものです。
どうしてもそれをやりたいなら、擬似的にでも作者の代替となるキャラクターを登場させたほうがマシです。有名なところでは「後世の歴史家」とか。
以上、いろいろ文句はつけましたが、期待していますのでがんばってください。 (はくはく)
私はこういうの結構好きですよ!
頑張ってください〜! (曽根村)
サブいって事さ? (MAGIふぁ)