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もしもねがいがかなうなら

一章 洋館と珍道中と(4)


投稿者名:さらすぱ
投稿日時:04/11/20

    もしもねがいがかなうなら

          一章 洋館と珍道中と(4)


無骨なコンクリート製の建物の中の無骨なコンクリート製の通路を、白衣を着た青年と白衣を着た少女が肩を並べて歩いていた。頭にバンダナを巻いた青年と、身長が青年の肩までしかなく童顔な少女はとてもこの施設の人間とは思えない。何人かこの施設の人間とすれ違ったが彼らは何食わぬ顔をして堂々と歩いていた。

「しかし文珠って便利ですね〜」

美紗は感心する。文珠の文字は『誤』と『認』、文珠の効果によってすれ違う人は彼らを研究者と“誤認”してしまうわけだ。また、先にセキリュティールームに忍び込んでこっそりと『了』と『承』を忍ばせていた。これで、彼らは施設のどこへでも自由に出入りできる。

「ほんと、文珠って何でもできるんですね〜。そうだ!わたしのために“美少年”を出してください。いえ、わたしは控えめな女なので“ジャニーズ系”でいいですよ。え、へ、へ、へ」

 なにが“ジャニーズ系”だ・・・。横島は呆れながらも文珠に対する基本的な知識を教えた。

「文珠ってのは俺の霊力を凝縮した物なんだけど、力の方向性を自由に調整できるんだ。例えば、明かりが欲しければ『明』でいいし、眼くらましみたいな強い光りが欲しい場合は『閃』なんかでいい。漢字を込める事によって方向性を決定するんだ。」

「あれ、だったらさっきは『誤』と『了』だけでいいのでは?」

「その事なんだけど、複数の文字を組み合わせることによって効果が強力になったり、効果の時間が増えたり、使用できる効果の選択が増えたりするんだよ」

「だったら出来るじゃないですか“美少年”。三文字ですよ」


「文珠ってのは文字が増えるごとに調整が爆発的に難しくなるんだ。三文字ってのは結構きついんだぜ。それと、出来ることと出来ないことがある。人間を作るのは結構難しい・・・。まず、失敗するだろう。それに、もし成功しても文珠にたまった霊力が尽きれば消えてしまうんだぜ。虚しいじゃないか・・・」

「うっ、確かに虚しいですね・・・。わかりました!“美少年”は諦めます。しかしなにか別の“わたしの煩悩”を満足させるアイディアを考えておきますので、その時はよろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げる美紗。 “まだ諦めてなかったのかよ”心の中でツッコミを入れる横島。じつは、美紗には内緒だが以前に“美少女”で試したことがある。一応“美少女”が出てきたが、動かないは、喋らないは、息はしてないはで、女性は好きだが意外とノーマルな横島は引きまくった。もし、人に見つかったら間違いなく犯罪者扱いだろう・・・。当時の部屋で、ガクガク、オロオロしていた所に、朝の散歩に連れて行ってもらおうと部屋に訪れた人狼少女に見つかり、事務所の連中をも巻き込んで大騒動になったのを、遠くの景色を眺めるようにして思い出していた。


 横島たちがスキだらけでだらだらと歩いていると、背後から太い腕が伸びてきて美紗の襟首を掴んで後へグィっと引っ張った。「グェッ!」美紗はカエルの潰れたような声を上げる。驚いた横島が振り返ると“背の小さな金髪の不良”陰念が立っていた。陰念は近くにあったダスシュートに美紗の首根っこを押さえたまま叩き込んだ。「きゃああ!!」美紗は悲鳴を上げながら落ちていく。横島が舌打ちしつつ近づこうとすると、行く手を勘九郎が飛び出してきてふさいだ。横島が行く手をふさがれているうちに陰念は横島の方を振り向いて“ニヤリ”と笑い自分もダスシュートに飛び込んだ・・・。

「おい、大丈夫なんだろうな?」

横島はジト眼で勘九郎に話しかけた。

「なにがよ?」

 余裕の表情で勘九郎が答える。

「陰念だよ。あいつ最後に“ニヤリ”って笑って降りていったんだぜ!まさか、あいつロリコンじゃねーだろうな?」

「さあーね、あたしは知らないわよ。別に陰念がロリコンだろうとそうじゃなかろうと、あたしたちには関係ないでしょ。だいたいあの小娘はあんたにとってお荷物以外の何者でもないでしょう?」

「うっせい!俺は将来美しい花になると分かっている蕾(つぼみ)をがりがりと食べられるのが嫌なだけだー!!」

「ふん!なによ、横島ったら。そんな正義の味方ぶった横島なんて嫌いよ!!」

「へぇ〜、だったら、どんな俺なら好きなんだ?」

「そうねぇ〜、ロープでがんじがらめにされて大声で泣き喚きながら、いろいろな秘密を告白してくれるようなステキな横島だったら好きになるかも」

「ぷっ、出来るのかよ? 言っとくけど俺は雪之丞より強いぜ〜。お前、以前に雪之丞にボロボロにされたんじゃなかったっけ?」

「くっ、出来るか出来ないかやってみなきゃわかんないわよ!!」

そう言うと勘九郎は霊力で剣を具現化した・・・。


 一方美紗の方はというと・・・。あの時、陰念に頭から投げ込まれてそのまま下まで落ちていった。一応斜めに滑り台を滑るように落下したのでそれほどの衝撃はなかったのだが、それども顔中ゴミだらけだ。 “こんな姿人に見られたら、もうお嫁に行けない”としょぼくれていると上空から「ケッケッケッ」という笑い声が聞こえてきた。このままここに居ると激突してしまうので美紗はあわてて飛びのいた。
 何かが落ちてきて“ぼふっ”と言う音とともに大量の煙を撒き散らした。美紗がゴホゴホとむせかえる。そして、煙が引くと楽しそうな顔をした陰念が現われた。

「さあ〜、悪ガキめ〜、お尻ペンペンの時間だぜ〜!!」

「ひぇ〜、いじめっこ〜!!」

「ガッハッハッ、ほんとうはじっくりといきたいが時間がなくてな! さっさときめてやるぜ!!」

 そう言うと陰念の体から黒い霧のようなものが噴出し、それが全身を覆い(おおい)、そして固まった。全身が鎧のようなものに覆われる・・・鎧の隙間から邪悪な霊気が溢れてきて周囲を圧迫する。

「ギャハハハハッ!! お前見たことあるか?コレが魔装術っていうんだぜ!三流にはめったにお眼かかれるもんじゃないからな〜。はっはっは」

 普段、超上級の二人に比べられるためどうしても陰念は三流に見られがちだが、何人もの候補の中で魔装術を使えたのは勘九郎と、雪之丞と、陰念だけだし、GSバスターとしての訓練もつんでいる。三流どころか二流が相手をするのもきついのだ。三流程度の実力しかない美紗には手に余る相手といえた。そして美紗は・・・

「ご、ご、ご・・・・」

「ごって何だよ。舐めてるとシメるぜテメー!」

美紗は下を向いて肩を震わせている。不審に思った陰念が聞いてみた。

「ゴブリンだ〜!!始めて見た。すごい!本当にいたんだ!」

「あれ?でもさっきは黒かった頭部が真っ赤に・・・。それに頭から湯気が・・・。そうか!!ボスゴブリンなんだ。だから頭部のカラーが違うんだ。あれ?でもボスなら他にもザコゴブリンが居るはずなんだけど・・・。そうか!!あんまり性格が悪くって仲間に見捨てられたんだ。だめですよ〜、群れの仲間を虐めちゃ・・・。あっ、心配しなくても大丈夫ですよ〜。わたしが、群れの仲間を説得するのを手伝ってあげますよ〜」

「てめー!くそガキがー!! 殺す!マジでぶっ殺す!!」

 眼に涙を浮かべて切れまくる陰念。美紗に向かって拳を振り下ろす。

「わっ!? 危ないじゃないですか。そんなに興奮しなくっても大丈夫ですよ〜。自慢ですけど若い頃は仲直し屋の美紗ちゃんと・・・ひぇっ!」

 陰念が切れて冷静な判断が出来ないとはいえ、陰念の攻撃を不器用な動きながらも次々とかわす美紗、以外と運動神経はいいようである。

「このっ、チョロチョロと!テメーは横島か!!」

「えっ!?やだ〜、横島さんと同じ動き?照れるじゃないですか〜。え、へ、へ、へ」

「褒めてんじゃねー!俺は貶(けなし)してんだー!!」

 横島は美紗にとっては凄いGSだが、陰念にとってはGS試験の時だだ運によって勝ち進んだだけで、本来自分がGS免許を取っていれば横島がした驚異的成長は自分がしたであろうと信じていた。そして、自分と横島の位置は逆転していたに違いない。あの頃は自分の方が実力的に上だったのだ・・・。現実に不満のある陰念は奇妙に横島観を狂わせていた。

 美紗はテレて動きを止めてしまった。そのチャンスを見逃すほど陰念は甘くはない。

「もらったぜ!クソガキ!!」

「ヒェッ。しまった!!」

 陰念の攻撃が美紗にHITした・・・・・。



霊気によって具現化された剣と霊気の塊の霊波刀。ふたりの高い霊力がぶつかり合い火花を散らし、その光が二人の顔を鮮明に照らしていた・・・。

「なかなやるじゃないの横島」

「そうか?俺はさっきからものたりないんだが・・・」

「はん!言ってるがいいわ」

そう言うと勘九郎は剣撃の速度を速めた。速い剣速のためにはっきりと見えない。しかし、横島は難なくそれを受け止めていた。

「う〜ん、速いがひねりが足りないな。素直な勘九郎なんて気持ち悪いだけだぞ・・・」

「うっさいわね!あんただってさっきからあたしの攻撃を受けるばっかりでぜんぜん攻められないでいるじゃないの!!」

「じゃ、こういうのはどうだ?」

「ゴフッ!!」

 勘九郎か前のめりに倒れ、両手を股間に持って行った状態でピクピクと震えだす・・・。
横島の左手が一瞬ぶれたと思ったら股間に強烈な衝撃がみまったのだ。倒れ伏す勘九郎の目の前をこれ見よがしにスルスルと縮んで行く“栄光の手”・・・。猛烈な痛みに耐えながら勘九郎は“こんな事に使うなんてちっとも『栄光の手』じゃないじゃないの〜!!”と思った。
 とにかく、敵の目の前で何時までも無様な格好を晒しているわけには行かない。痛みのために足がぶるぶると震えたが渾身の気力で立ち上がり、横島を睨(にらみ)みつける。
 勘九郎ににらまれた横島はビクッとして・・・・

「うっ、普通あれを受けたらしばらく立ち上がれないのに・・・ ひょっとしてお前・・・ 取っちゃったとか・・・ ひぇ!!擬似オカマの勘九郎が本物のオカマになりやがった・・・
怖い!本物のオカマは怖い・・・・・・・・・ 男はいやじゃー!! 勘九郎!お前、俺に近づくなよ!! 近付いたら舌噛んで死んでやるー!!」

 本来、横島が舌を噛んで死んでくれるのは願ったりかなったりの筈だが、どうも彼は何か誤解をしているようだ。“擬似オカマ”だとか“取っちゃた”だとか聞き捨てならない単語が飛び出してくる。今の状態にプライドを持っている勘九郎にとって変な噂をばら撒(ま)かれたら恥ずかしくって外を気軽に歩けなくなってしまう。ここは彼を誠意を持ってぶちのめし、誤解を解かねばならない。

「ふっ、横島。あんたが悪いんだからね。本気になったあたしを見せてあげるわ」

勘九郎が魔装術に身を包む。

「だから、俺は嫌だと言っているだろうが!!」

 涙目で横島が抗議した・・・・。



魔装術に身をかためた陰念の向かい数メートル先に美紗が立っている。彼女の右手には使い切った破魔札がプスプスと煙を上げている。彼女の持っているのが吸魔札でも退魔札でもなく破魔札であることが幸いした。破魔札は霊力の爆弾と同じで札に霊気を流し込む事によって札に蓄えられた霊力が指向性を持って爆発する。陰念の攻撃が決まる直前に美紗は破魔札を爆発させ、それと同時に後ろに飛んで魔装術の攻撃による力を逸らしたのだ。以外に彼女は器用なのかも知れない。

「チッ、意外とやるじゃねーか!」

「ゴブリンなんかには負けるわけにはいかないのです!」

「この!まだ言うか!!」

「ひぇ〜!!」

 陰念の右ストレートが美紗を襲う。美紗は頭を抱え込んでしゃがみ込んだ。右ストレートといっても陰念は魔装術に身を包んでいるのでまともに受ければよくて大怪我悪ければ即死である。
―――『盾』―――
 “カキーン”

「痛でー!!」

 美紗の目の前に六角形の半透明な盾が現れた。胸ポケットの中のから淡い緑色の光が漏(も)れている。横島がこっそりと文珠を胸ポケットに入れていたのだ。美紗は文珠の盾みて思わず勘違いしてしまった。

「ひょっとしてこれは“なん人にも侵されない心の壁”・・・・・・。わたしは三人め?」

 もし“なん人にも侵されない心の壁”なのなら自由に動かせるはずである。試しに動かしてみた・・・。
 ボコッ!

「痛でっ!!」

間違いない! 恐ろしい事に天は自分に二物を与えてしまったようだ・・・。本物と分かった以上やる事といえば・・・・・。
ボコッ! ボコッ! バコッ!!

「痛でっ、痛でっ、痛でー!! 痛てーんだよ!!」

「にょほっほっ〜、勇者様のゴブリン退治だ〜」

 攻守交替である。攻める美紗に逃げ惑う陰念。美紗は調子に乗っている・・・。しかし、古今東西調子に乗った愚か者は哀れな末路が待っている・・・。何発も陰念を殴りつけていると文珠に蓄えられていた霊力が尽きて『盾』が消えてしまった。

「あれ、なんで? ふんっ! やっ! たあー!! だめ、全然出来ないよ〜」

「ぎゃーはっ、はっ、はっ〜。文珠の効果が消えたようだな。おい、チビ!よくもやってくれたな〜。たっぷりと礼を返してやるぜ!!」

「いえ〜、お礼なんて結構ですよ〜。それよりも無事に・・・・ フゴッ!」

  陰念のパンチが決まった。一応、破魔札を使ったがタイミングがすこし遅かったようで、美紗はゴミ溜めに突っ込んだ。大量の煙が舞い上がる。

「痛、た、た、た。」

 陰念のパンチの衝撃で頭がグラグラする。上を見ると横島の幻影が“頑張れ!頑張れ!!”と励ましている。

「・・・・・・・わかっていますよ。 ・・・・お兄様・・・・・・・ でも、お兄様はまた、女の人を追いかけて・・・・・・・・・・
あれ? わたし、なに言っているんだろう〜?」

今は、混乱している場合ではない。悪いゴブリンと戦っているのだ。美紗は気力を振り絞って立ち上がった。

「あれ、これは何だろう?」

 美紗の右手には見慣れない赤いお札があった・・・・・・・・。


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