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もしもねがいがかなうなら

一章 洋館と珍道中と(3)


投稿者名:さらすぱ
投稿日時:04/11/20

        もしもねがいがかなうなら

一章 洋館と珍道中と(3)


 住宅街の中で開けた一角にある公園。公園というよりは中庭とったほうが正確だろうか。
あまり広くないスペースの真ん中には噴水があり、噴水からは水が勢いよく噴出している。
噴水から引き出される水が陽光を反射して虹を作っており、夏の午後ののんびりとした雰囲気を演出している。その、公園に二組のコンビが対峙していた・・・。

「こんな所で出会うだなんて奇遇ね。」

「何が奇遇だ。さっきから俺たちの後をつけまわしてたじゃねーか」

「ほらあれよ!! たまたまあんたのマヌケ面(まぬけづら)見かけたじゃない。懐かしくてね。だだ、あんたたちとの関係があれだったじゃない?声かけづらくてね・・・。ほんと懐かしいわあなたのマヌケ面・・・ホッ、ホッ、ホッ・・・」

「うっせい!この顔は生まれつきじゃー。オカマにとやかく言われたくねーぞ!!」

「ひっどい!!オカマを差別する気!うっ、うっ、うっ〜。体は男でも心は女なのに〜・・・横島なんか知らない。フン!」

「そんなに女がいいなら文珠で美少女にしてやろうか?俺も萌えられるしな。はっ!まてよ。いくら美少女といっても元はコレ。コレに萌えたらオレはオカマに萌えた男として一生重い十字架を背負って生きていかねばならぬ・・・。だが、コレといっても美少女・・・。
いや、しかし!・・・、だが、しかし!・・・。ああー!オレはいったいどうすればいいんだー!!」

 “なんだこの会話は?・・・”美紗はどう突っ込めばいいのかと戸惑った。しかし、この会話はあまりにも怪しすぎる。“もしかしたら何かの作戦かな〜”っと思い一応口を出さずにいた。しかし、どこにも空気の読めないやつというのは存在する。

「おい!あんまり調子に乗ってんじゃねーぞ。おまえが怪しげな動きしてんのはわかってんだ。お前の裏に誰がいるんだ?美神令子か?六道家か?それとも、オカルトGメンか?」

二人組み小さいほうの陰念が因縁をつけるように話しかける。

「何いってるか忠ちゃんわかんなーい」

「カー!!てめーが日本にある俺たちの基地に忍び込んだのは分かっているんだよ!てめーはアホだから分かんねーだろーが、その後お前らは俺たちの仲間につけられてたんだよ。馬鹿!アホ!ぎゃははー!」

横島がニヤリと笑うのを見て、勘九郎は頭を抱えたくなった・・・。陰念が横島に言ったこととは・・・

1・あの怪しげな洋館は私たちの施設です。

2・あの後私たちは貴方たちを尾行していました。

3・私たちはオカルトGメンにばれるとまずいような後ろぐらいことをしています。

 “馬鹿はお前よー!!”勘九郎は陰念をどつきたい衝動を必死に我慢した。今、陰念を戦闘不能にしてしまうのはまずい。一人では逃げるのが十八番の横島に完全に逃げられてしまう。横島に尾行の事実を知られた以上、もう横島を尾行するのは無理だろう。どうしてもこの場で抑える必要がある。それにはこの馬鹿の力が必要である。いまいましいことに。そもそも、この馬鹿が口を滑らせなければこんな苦労しなくてもよかったのだが・・・。

「さっきからなれなれしく話しかけてくるけどお前誰よ?普通、初対面の相手には名前を名乗るのが礼儀だぞ」

「ギァハッハッー!!顔だけでなく脳みそまでいかれやがったか。GS(ゴーストスイーパー)試験でお前とあたっているんだよ!そんなことも忘れちまったか!ゲラゲラ」

「はぁ?GS試験て・・・。たしか、カオスだろ、あの色っぽい忍者のねーちゃんだろ、あと雪之丞じゃねーか。ホレ見ろ。お前なんて出てきてねーじゃないか」

「おい!ちょっとまて、ほんとに忘れてんじゃないだろうな。ほら、居ただろ、魔装術で散々お前を苦しめたやつが・・・」

「はぁ?魔装術?あんとき魔装術使えたのって勘九郎と雪之丞だけだろ。お前使えたのかよ。」

「うっ、いや、使えたというか・・・。ちゃんとは使えないが使えたというか・・・ゴニョゴニョ・・・」

「な!ほら、やっぱりお前はあの時いなかったんだよ。なぞが解けてすっきりしただろ。と、ゆうわけで“はじめまして”ぺこり」

「うっせい!!オレはあの時いたんだ!ウキャァ!!」

 陰念は地団駄を踏んで悔しがる。横島はもう我慢できないといった風に噴出した。

「ギャッ、ハッ、ハッ、ハッ!!お前のことは覚えているよ。あれだろ、まだ霊能力に目覚めたばかりの俺におちょくりまくられた挙句、壮大な自爆をかまして俺にGS免許をくれた陰念だろう。おぼえているよ。大恩人だかんな〜」

「ぐっ、ぐぅ〜」

「お前よっぽど俺の記憶に残りたいようだな。ん〜、そうだ!美少女になってみる気はねーか?そしたら記憶に残る。絶対忘れねえ!“美少女”あれはいいものだぞ〜、ウ、ケ、ケ、ケ・・・」

と、いやらしく両手を前に突き出す横島、無垢な少女のように怯える(おびえる)陰念。
しかし、何かおかしいことに気づいた陰念は絶叫をした。

「てめー!!横島〜!オレをからかってんだろ!!」

 やっと気がついたのか・・・ いいかげん会話の流れで気がつきそうだが・・・プスプスと頭から蒸気を吹き上げている陰念を見ながら勘九郎は思った。しかし、このままではまずい。何とか会話の流れを変えなければ・・・ そう、横島と共通した会話といえば・・・

「ちょっと!雪之丞はどうなっているのよ。あれから、ぜんぜん連絡がないんだけど」

「あー、雪之丞?お前ら、雪之丞に付きまとっているのか?いい加減勘弁してやれよ。もうお前たちとは袂(たもと)を分かったんだから」

「そうじゃないわよ。雪之丞本人が言ったのよ“後で電話すっから”って。ところが待てども待てども連絡なんてぜんぜん来ないじゃない・・・きっと私のことなんてどうでもよくなったんだわ。キィー!くやしい!!」

「いや、それはお前と雪之丞との関係で、俺とは関係ないのでは・・・。うっ、そんな眼で俺を見るなよ・・・。わかったよ!今度雪之丞に会ったら連絡入れるように言っておくから・・・そんな恨めしげな眼で俺を見るんじゃねー!!」

「ほんと、横島のそういうやさしいとこ好きよ」

ニコニコ顔の勘九郎とは対照的に横島はどっと疲れた顔をしていた。

「それじゃー俺たち行くからな」

 横島は疲れた感じで片手を挙げた。美紗も真似て片手を挙げる。

「絶対連絡入れるように雪之丞に言っておいてね〜」

 勘九郎は上機嫌で手を大きく振っていた。そして、横島たちがクルリと振り向き歩き出すと表情を邪悪に変え・・・

「てっ、あんたたちを無事に帰すと思って?」

そう言い放ち霊波砲を放った・・・。


 横島と美紗は勘九郎が霊波砲を撃ってくるのを予測していたように左右に跳んだ・・・二人の間を霊波砲が通り過ぎていく・・・陰念がダッシュしてきて二人の間に入り込む・・・次に勘九郎がダッシュしてきてやはり二人の間に入り込んだ・・・自然に勘九郎と陰念が横島たちを分断した形になった・・・。

 分断された片方、美紗側には陰念がついた。力の関係上、こうなるのが妥当ではあるが・・・

「クックックッ、こいつでてめえを刻んでやるぜ。小娘だからって容赦してもらえると思うなよ」

陰念は手に霊波を集中してナイフのようにし、美紗に見せびらかした。

「ひぇ〜、ご勘弁を〜。わたしはただの霊脳弱者ですよ。強い方は強い方同士でどうぞ。わたしは隅(すみ)のほうで見学していますんで、首の骨が折れるなり、内臓が飛び出すなり、好きなだけやり合ってください」

「てめえもオレをバカにしているのか!!」

「ヒッ!めっそうもない!」

 もともと“いじめっ子”属性のある陰念は美紗の小動物ごとき怯えっぷりにひそかな快感を得ていた。ちょっとだけ息も荒めだ・・・。

 “あ〜あ、あんなガッチガチになっちゃって、あれじゃーどうしようもないなー”
いじめっ子にいじめられる美紗を見て横島は人事のように思った。

「どうするの?横島。ここは降参しといたほうがいいと思うけど?いくらあんたでもあの子をかばいながらあたし達の相手は無理だと思うけど。ホッホッホッ」

 あざけるように勘九郎が言う。“このオカマがぁー!!”と、激高しそうになったが、この程度で切れてしまうほど子供ではない。今はとにかくこの状態をいかに切り抜けるかだ。
 さっきから美紗のほうに近付こうとするのだが、勘九郎がうまく回り込んできてゆくてを遮る(さえぎる)ので、美紗と合流できずにいた。
“しゃーない、牽制(けんせい)だけでもしておくか・・・”
左手に霊気を集中してサイキックソーサーを作り出し、勘九郎に向かって投げつけた。
高度に霊力を凝縮し自分に向かってくるそれをまともにうけるほど勘九郎は馬鹿ではない。体を軽くひねりサイキックソーサーをかわすと霊力を集中して剣を具現化し、霊波刀を構え常識外のスピードで突っ込んでくる横島と切り結んだ。高い霊力を持つ二人の霊力がぶつかり合い火花を上げる。

ボコ!! “ホゲェ〜” 勘九郎の背後で陰念の悲鳴が響き渡る。驚いて勘九郎が振り向くと後頭部にサイキックソーサーをぶつけ、プスプスと煙を上げながら倒れ伏す陰念がいた。

「陰念!あんたね〜!そんな小娘相手なんだからすこしは横島のほうにも気を配りなさいよ!!」

あまりにも情けない相棒に対して勘九郎が非難の声を上げる。

「今だ!!サイキック!」

驚いて横島のほうを振り向く勘九郎。

「猫だまし!!」

「フギャ!!」

横島の両手から発する閃光によって眼をやかれ、地に伏す勘九郎。

「今だ!美紗ちゃん。ずらかるぞ!!」

「はい!」

 ど、ど、ど、ど、ど・・・・土煙を上げながら遠ざかる足音を耳にしながら勘九郎はつぶやいた。

「横島〜、絶対逃さないんだから〜・・・」



 観光地の豪華なホテルの一室で横島はいそいそと荷物をバックに詰めていた。一刻の猶予(ゆうよ)もならない。即刻このホテルを出て行くべきだ・・・。横島は、美紗にそう告げようとして振り返った。

「美紗ちゃん!? ってなにのんきに紅茶なんか飲んでんだ〜!」

「ほえ?紅茶?あっ、これは午後ティーですよ。“午後に紅茶を飲むこと”それは淑女(しゅくじょ)のたしなみってやつなんです」

 イスに腰掛けながらテーブルの上の紅茶を優雅にすする美紗。

「だ〜!!今はそんな時じゃないだろう!急いで荷物をまとめてこのホテルを出て行かないと勘九郎たちが・・・」

 言葉の途中で急に黙り込む横島。そして、あたりの気配を探り出し始めた。

「大丈夫ですよ〜。そのために別方向に逃げて、急いでこのホテルに戻ってきたんじゃないですか〜」

「それは念のため。もし、勘九郎たちにこのホテルが俺達の宿だと知られている場合やつらは・・・」

「やつらは?」

 オウム返しに美紗が聞く。その時、部屋の外がドタドタと急にあわただしくなった。

「急ぐのよ。陰念!横島たちは必ずこのホテルにいるはずよ〜!!」

 部屋の外で勘九郎の声が聞こえてくる。

「やつらは、必ずここに来る」

横島はため息混じりに言った。

「わっ、横島さん。どうしましょ!どうしましょ〜」

「今さら、あわたててもしょうがないよ。ここでやつらを迎え撃つしかないかな〜」

 慌てふためく美紗と、落ち着いている横島。
その時、“バタン”音がして、勘九郎たちが部屋に入ってきた。

「見つけたわよ。横島!!もう無逃さないんだから。ここが、あんたの年貢の納め時よ!!」

 横島は落ち着いて二人を見つめ、二人に向かって緑色の玉を放り投げた。
横島の投げる“緑色の玉”とは当然文珠であり、任意の文字をこめることによって様々な現象を引き起こす霊具である。そして、この距離では文珠を回避することもできず、その文字を見て対応するしかない。そして、その文字とは・・・
―――『閃』―――
“やられた!!”
文珠の効果であたりが真っ白になった世界で、勘九郎が唇をかみ締め両手で眼を覆いながら、閃光が収まるのをじっと待った。
やがて閃光が収まり、部屋も元どおりの姿を見せる。いや、一箇所だけ違う。部屋の窓が開いており、そこから風が入ってきてパタパタとさびしげにカーテンを揺らしていた。

「やられたわ!二回も同じような手を食らうなんて屈辱だわ。逃がさないわよー横島!!」

そう言って部屋を飛び出していった。

「待ってくださいよ〜。勘九郎の兄貴〜」

陰念も部屋を飛び出していく。

ボコッ!!「いつも、おねえさまって言えって言っているでしょ!」

荒めの足音が部屋から遠ざかっていく。


勘九郎たちが部屋を飛び出してから少しだけ間を空けて、ベッドの下からもぞもぞと横島と美沙が這い出してきた。

「ふ〜、どうやら行ったみたいですね〜」

「俺達も急いで場所を変えるぞ。急いで荷物をまとめてくれ」

「はい!」

今度は美紗も反対しなかった・・・。


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