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もしもねがいがかなうなら

一章 洋館と珍道中と(1)


投稿者名:さらすぱ
投稿日時:04/11/20

もしもねがいがかなうなら

一章  洋館と珍道中と(1)

 漆黒と月明かりに包まれた洋館の廊下を一人の少女が走り続けていた。
見かけ中学生か高校生くらいに年齢だろうか。豊かな漆黒の黒髪を肩の辺りでバッサリと切り落とし、多少袖の長いYシャツと真新しい感じのGパンとゆう姿が活動的なイメージを与えている。肩から下げたショルダーバックを見るに動き回るのにはどうか?とも思うが、元気に走り回る彼女を見るに余計な心配だという思いにいたる。

 彼女の数メートル先にゆらりと影がうごめく。

「ひぇ〜 ココお化けがいっぱい〜」

なんとも情けない声を出しながらもショルダーバックからお札を取り出し、次にくるだろう来襲に備えた。邪霊は彼女に気づいたようで奇声を上げながら襲いかかってくる。

「ガァー!」

「えい!」

 邪霊がほぼ一直線に突っ込んでくるのを横に移動してかわし、右足を軸にしてくるりと振り返りお札を邪霊に叩き付けた。にぶく光る閃光とともに邪霊は消えうせる。
 彼女は荒い息ハァーと吐き出し頬に両手をパン!と叩きつけ、また暗闇に向かって走り続ける。



長い廊下の一番奥ひときは立派な両開きの扉。彼女は今ここにいる。針金らしき物をどこからともなく取り出し、ドアノブのところをかちゃかちゃとやっている。

「うっしし。これでわたしもキャッツOイ〜」

ずいぶんと気楽な犯罪者宣言である。へんてこな歌を歌いながらかちゃやっていると「ガチャ」とゆう音が聞こえてきた。
 
「おっじゃましま〜す」

そして彼女は、上機嫌で中に入っていった。


 ドアを開けたその先はまるで学校の図書室のようだった。部屋の壁側には本棚がびっしりと並び、さらに本棚には本がびっしりと埋まっていた。 ただ部屋の中央部はガランとしていて何もない。それが部屋の面積の大部分を占めている。そしてその先には教卓(きょうたく)があり、教卓の上に一人の女性が腰掛けていた。

「あらあら、ずいぶんとかわいい不法侵入者ねえー」

 スレンダーな体を赤い皮製のボディコンスーツに身を包み、足をクロスさせどこか挑発的な視線で彼女を見つめている。その視線は男だったら勘違いしそうな艶美(えんび)な視線に見えるが、女から見てその視線はヘビがこれから獲物を丸呑みにする・・・つまりぞっとする視線だった。
 彼女がビビリながらもその女の様子を見てみると下から、足は真っ白でまるで陶器のよう。・・・・・うん、キレイね。  ウエストはほっそりとしてステキ・・・。  胸はとってもビックサイズ。私と比べると・・・(涙)。  あれ、でも背中から生えているコウモリの羽みたいなものは・・・・・ずいぶんと大きな肩甲骨ね。  そして顔はキレイ・・・でも頭から生えている二本の角みたいなものは・・・・・大きなタンコブね(涙)。

「あらあら、どうしちゃたのかしら、じっと見つめちゃったりして。 ひょっとして危ない趣味〜」

 女は眼を大きく見開き手のひらを口の辺りにもって行き嘲る(あざける)ようにつぶやいた。  
彼女は女の挑発に乗らないように注意しながら、女に見えないようにこっそりと特別なお札を用意する。 そのお札は破摩札とは違いすべて梵字で書かれており、何か特別な物のようだ。
 女はゆっくりと、彼女を警戒するように又は挑発するように教卓から降りる。

 そして、一瞬の出来事。 女の黒羽がぶれる。  彼女が横へ跳ぶ。 彼女の髪が数本切り刻まれる。 顔の横に来る衝撃にヒヤリとしながらも、隠し持っていたお札を構える。

「陰陽五行。 冷札強化!」

 呪文を唱えお札を投げつけた。 予想してない彼女の反撃に女は動けないでいる。 お札はまっすぐ女に向かって飛んで行き、ぶつかる瞬間、女を巨大な氷が包み込む。
 ・・・そして、部屋の中は静けさに包まれた。

 彼女は、ふぅーと息を吐き出した。 さすがに本家の蔵にしまってあった古文書を元に作った札だけのことはある。 まさかココまで強力とは・・・。
 彼女が上機嫌でお宝を探しに行こうと足を一歩前に出したところで、“ピシッ!”とゆう音がした。 頬を引きつらせながらも巨大な氷を見ると、さらに“ピシッ! ピシッ!”音がして、氷全体にひびが張りめぐっている。 そして”パリン!“とゆう音が響き渡り、巨大な氷はばらばらに砕け散った。

「ふう、なかなかやるわね。さすがの私も今のは堪えたわ!」

 よく見ると足元が多少おぼつかない。しかも、女が放っていた重苦しい霊圧が和らいだ気がした。 しかし、何かいやな気がする。何かはわからないが・・・。

「あなた、名前はなんと言うの?」

「へ? ゆっ、雪風美紗」

 何を言っているのだろうかこの女性(このおんな)は? 今、殺し合いをしているというのに・・・。  すごくいやな気がする・・・と、彼女の霊感がいっている。

「この翼魔シルムーアに、ここまでダメージを与えるとは! ただの小娘かと思ったらなかなかやるじゃないの。 雪風美紗! この私があなたを全力で切り刻んでやるわ!!」

 ひぃ〜、ただの小娘なんですぅ〜!! という心の声を、のどのところで押さえ込んだ。彼女の実力は、駆け出しのゴーストスイーパー程度でしかない。切り札のお札は、古文書に書かれている内容を解読して、やっと作り出した一枚なのだ。後はそこいらのゴーストスイーパーが、低級霊を処分するのに使っている程度のものしか持ち合わせがない。しかし、何を勘違いしたかシルムーアは美紗を好敵手と認めてしまったようだ。


切り裂いてやる! 宣言をしたもの、シルムーアはさっきの一撃を警戒してかなかなか攻撃に打って出ようとはしなかった。
張り詰めた空気の中、美沙は、相手の様子を観察した。 体の姿勢はまったく隙がなく武術の素人である美紗には、とてもじゃないけど打って出られそうにない。 視線も武術の有段者のように鋭い。でもどこか楽しそう・・・。 口は楽しそうににやついている。

ひっ! バトルジャンキー!! ・・・美紗の頭の中に特殊なキーワードが浮かんできた。たしか、バトルジャンキーとは戦闘が好きで好きでたまらない、美紗のような人間はなるべく関わってはいけない人達。自分が不利になればなるほど燃え上がる奇特な人達。
 今の様な緊迫した状態はバトルジャンキーの人にとっては滋養だったはず。 なんてこった! 美紗は敵の前だというにもかかわらず、ざめざめと涙を流した。


 シルムーアは久しぶりの好敵手に胸を躍らせていた。すぐに殺してしまうのはもったいない。じわりじわりと攻め立てて、自分の弱さに絶望させて殺すのが望ましい。想像するだけで頬が緩む。
 しかし、変だ。自分の好敵手はさっきから隙だらけなのだ。ひょっとすると”誘い“か?と、警戒しているところに、今度はざめざめと泣き出したのだ。
”からかわれている“と思ったシルムーアはもう一度、翼による一撃を繰り出そうと背中に力を込めた・・・。



ばたん! と、シルムーアの斜め後ろから音が聞こえてきた。シルムーアも、美紗もさっきまでの緊迫した状態も忘れ、音のした方向に釘付けになる。


音の原因は、GパンにGジャン、頭に赤いバンダナをまいた青年が、おき楽そうな顔をして、奥の部屋出てくる音だった。シルムーアと美沙は、それまでの関係を忘れ、お互いの顔を見つめ合った・・・。



 部屋の中をピンと張り詰めた・・・そう、ゴムを思いっきり引っ張り、今にも千切れそうな緊迫した雰囲気が覆っていた。妖艶な翼と角を持つ魔物と、闊達(かったつ)な感じの、符術(ふじゅつ)を使いこなす少女が、命を賭けて戦っていた。

 その雰囲気を壊す存在、一人の青年が現れたのだった。どこか、古ぶれた感じのするGパンにGジャン。真新しい緋色のバンダナ。すさんだ生活をお過ごしですか?と、聞きたくなるようなボサボサの髪。それだけならちょっとアウトローを気取れるだろうが、元はそれほど悪くはないと、思われる間抜けな表情がすべてを台無しにしていた。
青年が出てきた部屋は、教卓の斜め後ろ。ちょうど本棚の陰に隠れて美沙から見えない位置にあった。青年は目の前であんぐりと口をあけている二人に気づかないのか、部屋から物色してきたであろう分厚い本を両手で掲げちょっとイッちゃた感じの表情で、足をバタバタさせながら、不思議な“喜びのダンス”をおどった。

二人はアストロン(体が鉄の塊になる呪文・・・術が効いている間は一切の攻撃が効かない。しかしこちらからも攻撃ができない)にかかった!!
しかし、考えてみると目の前数メートル見入る人物に気がつかないわけはない・・・これは明らかな挑発か? シルムーアのこめかみが、ピクリと動く。

「あ、あんた、どうやって出てきたのさ。そこの部屋は、封印がかけてあるんだよ!普通は侵入することも、出てくることもできないんだよ!」

いち早く硬直から解けたシルムーアが、理不尽なことに耐えられないのか大声を上げる。

「へ?」

 青年はさも「今気がつきました」と言う表情をして驚愕したように眼を大きく見開き一メートルほど跳び上がり、あたりを確認するように顔をブルブルと左右に振り回した。そして視線を二人に固定し、へんてこなポーズのまま固まってしまった。

「あたしは、どうやって奥の部屋から出てきたのか聞いているんだよ!」

 カルシュームが足りてない魔物だなー・・・。 怒鳴り声を上げるシルムーアを見て、美紗はボーっとしながらそんなことを考えていた。よく見ると肩のあたりがブルブルと震えている。 完全に足りてないよ。今度、骨でも持ってきてあげよう・・・。シルムーアが聞けば間違いなく切れそうなことを考えていた。

 青年はシルムーア怒声にビクッと反応し、“驚きのポーズ”をして、そのままの姿勢でバタン!と後ろに倒れこんだ。美紗は青年のリアクションにちょっとびっくりしたが、彼の行動を注意深く見守った。後ろに倒れこんだ青年の眼は大きく見開き、口は耳まで裂けているのでは?と、疑いたくなるように横に広がっていた。顔全体の表情はすごく怖いものでも見たかのように恐怖にゆがんでいる。そしてその姿勢のままピクリとも動かず、まるで死んでいるかのようであった。もちろん、こんなに簡単に死んでしまうはずがなく明らかに“死んだふり”だ。そのリアルティーある“死んだふり”を見て美紗は素直にすばらしいと思ったが、シルムーアは別の感想を抱いた様だった。

「殺してやる・・・」

 馬鹿にされることをとことん嫌うらしいシルムーアは、青年の“死んだふり”がよほど気に入らなかったようだ。眼を吊り上げ、唇をわずかにピクピクと震わせている。両手の指の爪をナイフのように尖らせ、文字どおりその肉体を切り裂くため足音も荒くドスドスと青年に向かって一直線に向かっていく。
ヒェ〜 こいつはやばいよう〜  しかし、美紗にはけん制する程度しかできない。万が一、シルムーアの怒りがこっちに向かって来たらたまったものではない。美紗は事態の行方を静観することに決めた・・・・・・・


・・・シルムーアは、足音も荒く青年に向かっていく・・・  足音に気がついたのか青年がゆっくりと体を起こす・・・  青年が体を起こすのを見たシルムーアは足を速め、腕を振り上げる・・・  そして、二人が交差する・・・

あれ・・・  腕を振り下ろしたシルムーアの数歩先、背中互いに青年がたっている。青年の手首から先を、鈍く光る“光の剣”が覆っている。その“光の剣”を構えた状態で立っているのだ。 いつの間にか・・・
青年の後方で「ギャー!!」という断末魔が響き渡り、体を真っ二つにされたシルムーアからどす黒い血が噴出し、上半身と下半身が別々の方向に倒れた。そして、ドスンという音とともに体と血は霧のように消え去り、後には何もない空間だけが残った・・・


「キャー すごい〜!! あんな強い魔物を一瞬で! さっきの“死んだふり”も最高でした。 それと、その手の・・・霊波刀って言うのですか?初めて見ました!綺麗ですね〜」

美紗は一気にまくし立てた。青年の口もとはひきつっている・・・明らかに引いているようだ。美紗はかまわず続けた。

「な、名前。そう!名前。私の名前は雪風美紗って言います。お兄さんの名前はなんて言うのですか?」

「へっ オレ? オレの名前は横島忠夫。そ、それがどうしたのでしょうか?」

 明らかに嫌がっている。彼の霊感がろくでもない目に会いますよと言っている。

「横島忠夫・・・いい名前ですね〜。私の聞いたことのある名前でベストヒットですよ〜。
そういえば横島さんはプロのゴーストスイーパーなんですか?」

なにがベストヒットなのか・・・彼の的中率100%の不幸探知機が警笛を鳴らしている

「え、そうだよ。ただ、今のところわけあって休職ちゅうだけどね・・・あっそうだ!美紗ちゃんも何か探して此処に侵入したんじゃないのかい?」

「はっ、そうでした。ついつい話に夢中になってしまって。横島さん。そこで待っていてくださいね。絶対逃げ出したりしちゃ嫌ですよ」

 釘を刺されて横島は逃げるタイミングを失ってしまった。美紗はチョロチョロとネズミのように走り回り、目当てのものがあったようで数分後には横島の前に戻ってきた。
 美紗はこれが欲しかったんですよ〜。と横島の持っているのと似た本を取り出した。横島はペラペラと本のページをめくってみる

「フ〜ン。お札か。俺はお札の事は分からないけど、美紗ちゃんは札師か何かかい?」

「違いますよ。何だと思います。な〜んだと思います?」

  別に美紗が札師だろうが何だろうが横島には関係なかった。ただ自分でさえ厄介ごとを抱えているのに、他人の分までの面倒ごとを抱えるのは勘弁して欲しかった。

 横島が答えを躊躇していると、美紗はない胸をフフンとそらし声たからかに宣言した。

「私は陰陽師になりたいんです。平安時代に活躍したテレビなんかでやっているあれです。
お札を使い、式神を使い、印や呪を使いこなす・・・あれ?」

 横島がげんなりしていると目の前の少女はイッた感じでなんか演説のようなもの始めだした。チャンスは今しかない。こっそりと窓際に近づき、そーっと窓を開け、片足を窓際にかけ、「さらば明智君!」と言いながら大空に羽ばたこうとした所で首根っこを持ってグィっと後ろに引き戻された。

「げぼっ、げぼっ・・・ 何するんじゃー!!こんガギャー!」

 横島が怒鳴りながら振り返ると、そこには、目をウルウルと潤ませながら美紗が立っていた。

「よこしまさん〜 わたし〜 グズッ、 じしんがなくて・・・グズッ おいでがないで〜 グズッ」 

ウソくさい・・・横島は大きくため息をついた・・・。なぜこうも自分は、特徴ありまくる女性と縁があるのだろうか・・・・。
横島が人生の不条理について考えていると、美紗は純真な少女の笑みを浮かべてこう言った。

「横島さん。これからよろしく〜。 えへっ。」

横島は、天を仰いで涙を流した・・・。


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