椎名作品二次創作小説投稿広場


GSルーキー極楽大作戦

偶然求むる二人の乙女


投稿者名:ときな
投稿日時:04/11/19

「はっ!」

 銀光一閃、プールに棲みついていた悪霊は男の手に振られた剣により霧散する。

「もういないようですね」

 そしてその男の後ろには朝の学校の中、普通のよりも遥かに高そうで輝きすら放っている見鬼くん(正式名称ウルトラ見鬼くん)に反応が無いことを確認している女性。

「やれやれ。夜中に東京から引っ張ってこられて相手はザコばかりか」
「そう言わないでください。何しろ場合によっては……」

 女性がそう言いかけたところで男はわかっている、というように手を上げる。

 そこへ一人の警官が小走りでやって来る。

「ここで除霊を行ったという学生達を連れてきました」
「ありがとう、今から会いに行くから案内してくれ」

 その男、西条輝彦は先ほどまでの不満そうな顔を即座に引っ込め、その警官にねぎらうような笑みを浮かべてそう言うと、手にした抜き身の霊剣『ジャスティス』を鞘に収めてその警官に続いて歩き出した。





「……なるほど。しかしそちらも怪我人が無くて一安心です」
「ええ、優秀な奴らが揃ってたんで。しかし廃校ならともかく普通まだ現役の学校にこんな風に攻撃的な妖怪や霊が複数出てくるなんてのは無いはずですが」
「ええ、ですから我々オカルトGメンが来たのです」

 朝の校庭でひたすら真面目に会話する男二人。一方はスーツを着込んだどことなく余裕を見せるような表情をしている男、西条輝彦。もう一方はいつもの通りの着物を来た、目つきの鋭い男、鬼道政樹。
 二人とも長髪美形とタイプは似通っているのだが如何せん顔つきの違いが育ちの違いを如実に表している。

 と、そんなことはどうでもよく、二人から少し離れたところには暇そうにしている横島忠夫の他何人かが仲良くあくびをかみ殺している。時刻は未だ七時半を少々過ぎたところ。彼らの宿からここまで車で二十分ということを考えればこれは無理も無い。しかしそんな彼らと違い、きびきびと仕事をこなす西条、鬼道他Gメンの職員など。やはり大人は違うということなのだろうか。


「さて、朝からわざわざ呼び出してしまってすまない。だがこういうことはできるだけ早い方がいいからね。わかってほしい」

 鬼道との話が終わり、さわやかな顔で横島達へと話しかける西条。絶対わざとやっていそうな顔だが何故かこの男がやると様になる。きっと慣れてるからだろう。

「とりあえず昨夜、君達が学校に入ってからのことを教えて欲しい」






 西条輝彦、横島忠夫、前世との仲の悪さをほぼそのまま引き継いだこの二人は何の因縁か彼らの居住地から遠く離れたこの大阪の地でも出会っていた。
 ちなみに二人が会ったとき、

「まったく…第一発見者高校の除霊委員たちと聞いていたがまさか君達だったとは……」

 とマジで嘆いた西条。もしかしたらこれは横島と縁が切れないということを示唆しているのかもしれないが、勿論彼にそんなことを思いつけるはずもなかった。


 とりあえず今は立ち直り、一人のGメンとして横島たちから事情聴取を行っている。

「なるほど僕らが退治したのも含めてこの学校にいたのは計十二匹か…犠牲者が出る前に君達がここで見回りをしたおかげで発見できた。不幸中の幸いだったかな」

 一通り話を終えた後、西条は渋い顔をしつつ目の前の中学校を見上げる。
 ちなみにこの中にはメゾピアノは入っていない。その辺の浮幽霊と同格扱いされたためでだ。
 印象には残るくせにつくづく物の数に入らない奴である。 


「この学校で犠牲者はまだでていなかったんですか?」
「ああ、多分まだ棲みついたばかりだったんだろうね。それで何かする前に君達が来て返り討ちにあったみたいだ。
霊力の弱い一般人ならともかく、八人もの霊能者が彼らの棲み処に足を踏み入れたんだ。それに反応して一斉に動き出したんだろう」

 ピートの質問に西条は己の推測を混ぜて答える。

「でも、いくら学校に霊的存在が集まりやすいとはいえこんなに凶暴な霊や妖怪がいるなんて普通はないはずですよ」
「そーなのか?」

 ピートの言葉に横島は少々驚いた声を出した。学校は霊的存在が集まりやすい場所と聞いていたからてっきりああいう危ない奴らがいてもおかしくないと思っていたのだ。
 そんな横島に補足するように夏子が説明する。

「ほら、昨日ウチらの学校でもテケテケ出たやろ。普通はあんなんみたいに放置していても迷惑になっても害は無いもんばっかなはずやねん」
「ああ、そもそも学校に棲み憑く霊や妖怪には人を驚かしたり迷惑をかけたりするものはいても人を傷つけたりするようなのは滅多に居ない」

 彼女の言葉に西条も頷き続ける。

「そんなのはいても一匹、そして一箇所。今回のようにそんなやつが一つの学校に何匹何箇所とでるようなことはないんだ」
「じゃあ何で…」
「そこから先は僕らオカルトGメンの仕事だ。学生は学生らしく帰りなさい」

 用事は終わりと言わんばかりに彼らに帰るよう指示する。
 その態度に何人かが不満そうな顔をするが言えることが思いつかずそのまま立ち去っていく。




「よろしかったのですか?」
「彼らは学生だ。そうそう頼るわけにはいかないだろ。それに折角の学校行事で楽しんでるんだ。邪魔しちゃ悪いだろ」
 
 横島らがその場から立ち去った後、Gメンの女性がそう問うが西条は手にした書類から目を離さず、前半は事務的に、後半は大人としての気遣いを見せて言う。

「…とは言え、場合によっては頼らざるを得ないかもしれないけどね」

 そして書類を読み終わり僅かに不服そうな感情を混ぜた声でそう言うと、携帯電話を取り出してGS協会の番号をプッシュする。数コールの後、愛想の良い受付の声が聞こえた。

「ICPO超常犯罪課の西条というものですが……」

 大阪方面での一般GSの協力を得るために協会に電話をかけている西条を見ながら、女性は先ほどまで西条が見ていた書類に自分も目を通す。



『学校、神社などの霊的集積場所にて害のある悪霊、妖怪がひきつけられるパターン

 1:悪意ある霊能者により呼び寄せられた、または追い込まれた場合

 2:何らかの強力な霊的存在が妖怪や悪霊を率いている場合

 3:強力な妖怪、悪霊の封印が解けかかっており、その際漏れ出た瘴気によって引き寄せられた場合

 いずれの場合にしても慎重な捜査を行うべきであろう』











 さてここから場所は離れ、時は少し進む。



 東京 成田空港


「うわ−」
「はー」

 空港のロビーにてガラス越しに見る巨大な翼を持つ、これまた鉄の塊――つまり飛行機を見て金髪、銀髪の少女二人はいつぞや初めて海を見たときのように口をぽかんと開けて感嘆の声をあげる。


 多くの国から人々が来訪するこの場所では彼女らの髪の色も珍しくない。むしろいつも見ている日本人とは明らかに違う容姿の人々に彼女らの方が空港に来たときからずっと珍しがっていたくらいだ。
 そして彼女らの今の興味は丁度離陸していく飛行機に釘付けになっていた。

「あんなでっかいのが空を飛ぶんだ」
「拙者も実物は初めて見たでござるよ」

 重量何トンになるのかも想像がつかないような巨体が大空へと飛んでいく様に思わず目を奪われる二人。

「ほら、二人とも。いつまでもぼーっとしてないで早く来なさい」

 すでに空の彼方に見えなくなった飛行機を未だ見つめている彼女らの意識を現実に引き戻したのは一人の女性の言葉だった。
 二人の振り返った先にいたのは彼女らの飼い主、もとい保護者……じゃなくて日本最高のGS美神令子。

「いやー、拙者飛行機に乗るのは初めてなもので」
「ねえねえ、私達、あれに乗るのよね!」

 言ってることは違えど二人とも、初めての経験に心弾ませている様ははっきりとわかる。美神はそんなお子様な二人にため息を一つつくと投げやりに言う。

「そーよ。だから早く来なさい、乗り遅れちゃうわよ」
「なっ、それはいかんでござる。タマモ、急ぐでござるよ」
「うるさいわね、あんたに言われなくてもすぐに動くわよ」

 特に急かす意図は無かったのだが二人ともそれを聞くと言い合いながら早足でその場を後にする。その様子は欲しいものを待ちかねてる子供そのものだ。

「やれやれ、この分じゃ機内でもあいつら、はしゃぎそうね」
「二人とも、飛行機乗るのは初めてですからね。私もわかりますよ」

 後の二人のことを思い描いて少々だれ気味な美神にくすくすと笑いながらおキヌが自分が幽霊だったころに初めて乗った飛行機ときのことを思い出してフォローする。あのころは飛行機に乗って外国へ行くということはよくわからないなかったがそれでも初めて乗る飛行機に幽霊ながらも心が弾み、はしゃいだものだった。


 そのまま搭乗ゲートへ向かおうとしたとき、彼女らの耳に効きなれた口喧嘩が聞こえてきた。

「馬鹿犬、あんたが急かすからよ」
「拙者が言わずとも自分で動くといったのはどこのどいつでござるか!」
「あんたが急がなきゃ私もこんな馬鹿なことしなかったわよ」

 そちらに目をやればいつもどおり口喧嘩をしているシロとタマモ。金と銀の見事なコントラストを持つ少女のコンビが辺りの視線などお構いなしに言い合っている。

「二人ともまたケンカして、いったいどうしたの?」

 おキヌが止めに入ってそう聞くと言いづらいことなのか二人とも目をそらしてあー、うーなどと言いよどむ。
 ただそれでは埒があかないと悟ったのかシロがおずおずながらも口を開いた。

「えーと…拙者たち、どこから飛行機に乗ればいいのでござるか?」

 そろそろと上目遣いに訊いて来るその質問に美神は頭痛を抑えるように額に手を置く。

「行き先知らないんだったら勝手に先行くんじゃないわよ」
「だからシロのせいよ!」
「何で拙者のせいでござるか!」
「あんたたち…」

 ふと横から聞こえてきた声。別に何の変哲も無いいつもの美神の声だがそんな声に二人は揃ってびくんと背筋を伸ばす。

「機内でもうるさいようだったら空から放っぽり出すからね」
「「はい」」

 別に凄みなどは全く利かせていないいつもと変わらぬ声と表情。しかし二人は思った。

 この人ならマジでやる、と。

 これが効いたのか機内で二人がはしゃぐことはあってもやかましく喧嘩することはなかった。



 彼女らが向かう先は―――――大阪








 ――そして到着




「大阪でござるー! 大阪でござるー!」
「大阪って空港ってとこにそっくりねー」
「…あんたたちねー」
「…………」

 飛行機から降りてはしゃぎまわるシロ、辺りを意外そうに見回すタマモ。そしてそんなどこかの誰かと同じ行動をする二人をあきれた顔で見ている美神となんともいえないような表情をしているおキヌ。

 横島とおキヌの成長した分はこの二人が補ってくれているようだ。







「今回の相手は動物霊の集団よ。ここは元々廃屋だったんだけどいつの間にかボス的な霊が棲みついちゃったみたいでそれに引かれて動物霊がうようよと集まってきたの。そこから考えると恐らくそのボスも動物霊よ」

 空港から移動して、彼女らが居るのは日本建築の屋敷のその門前。その屋敷の外観は何十年も前には立派だったであろうと思わせる風格の残滓が残っているがそこを考えなければ腐りかけたボロ屋敷で通る。
 ここが美神が説明している今回の仕事場である。


「横島君が居ない分、しっかりやんなさいよ」
「そういえば横島さんも今大阪に居るんですよね」

 美神の言葉におキヌがふと気付いたように声をあげる。

「えっ、じゃあ横島先生に会えるんでござるか!?」

 そして当然その言葉に反応したシロ。期待に満ちたように目が輝く。

「バカ言わないの。大阪って言っても広いんだからそんな偶然あるわけないでしょ」

 呆れたように言う美神。ごくごく一般的なことを言っただけなのだがシロはガーンと頭をハンマーで殴られたかのようによろめいた。よほどショックだったらしい。

「うう、そんな…」
「てゆーか一日会ってないだけでなんでそんなに落ち込むの」
「でも会えるなら会いたいですよね。何だかそんな偶然って素敵ですし」

 一方でそんな偶然はまずないと理解しているがちょっと期待しているおキヌ。
 その隣ではシロが鼻をひくつかせながら顔を動かしている。

「幻覚でござろうか…先生の匂いがするでござる」

 嗅覚までやばいらしい。大丈夫だろうか、と珍しく美神が本気で心配したが、それはタマモによって解決した。

「あ、ほんとだ。えらく薄いけど横島の匂いだわ」


 タマモはシロと同じように鼻をクンクンいわせながら驚きを顔に出している。

「え!?」
「ほんと?」
「よーし、会いにいくでござるー!!」

 人狼の人間離れした脚力でその場から即座にスタートダッシュを切ったシロ。その唐突さと初速はまず誰も反応できないかとおもわせるものだが

「待ちなさいって」
「ぐぇっ」

美神はあっさりとシロの襟首掴んで捕まえた。流石飼い主である。


「今わざわざ会いに行かなくてもあいつ、明日には事務所に来るでしょうが」

 全くもってまともな正論。しかしこの場に居る乙女二人には通用しなかった。

「「くーん」」
「そんな目しても……ってなにおキヌちゃんまで一緒になってるの!」

 人差し指咥えながら上目遣いで、エサをねだるような目で美神を見るおキヌとシロ。どうやらおキヌも会えるとわかれば会いたくなってしまったようだ。


 廃屋の前で(本人達はそうしているつもりはないのだが)にらみ合ってる女三人。道行く通行人が不審そうな目で見ながら彼女らのそばを通り過ぎていくが美神たちは気付かない。
 ちなみにタマモは暇な人のするベスト10に入る行為、アリの行列大行進の見学をしている。



「わかったわよ。この仕事が終わった後の行動は自由でいいわ」
「やったでござるー!」
「ありがとうございます」

 飛び上がらんばかりに喜び合う二人を見て美神はやれやれといった感じでため息をつくが今度はタマモがいないことに気付く。慌てて視線をめぐらすと彼女がいるところより十メートルほど離れたところでアリを見ているタマモがいた。

 いったい彼女らはどれだけの時間にらみ合ってたのだろうか?





 敷居を踏み越える。それが合図となったかのようにあたりから動物霊が出現する。その数は彼女らを取り囲み、逃げ場を後ろ以外に無くすほど。しかし彼女らは怯えない。むしろこの程度は予想の内だ。

 ただ予想外だったのは




「いざ、横島先生に会うために!」
「極楽へ行かせてあげます!」
「あんたたち、仕事だってこと忘れてるわね」

 二人ほどやたら張り切っている奴らが居ることだった。


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