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横島異説冒険奇譚

漢、と書いておとこと読め、の巻き


投稿者名:touka
投稿日時:04/10/31


 これまでタイガー、そしてピートが死力を出しつくしても膝一つつかせる事すらできなかった武神斉天大聖。
 今それに対峙するのは伊達雪之丞。
幼い頃に母を亡くして以来、紆余曲折を経て今、なんとか一端のGSとして生きている彼。
 そして、もうすぐ結婚しそうな彼。
「絶対阻止してやる・・・」
 地獄のそこから聞こえてくるような怨念の篭った声すらも届かぬ彼の立ち姿は威風堂々と素晴らしく、一時のあの白龍寺の頃の捻くれた影は微塵もない。
「雪之丞、一体どんな術を手に入れたんでしょうかね?」
「そうじゃノー・・・・・ワッシもピートさんも元々の術をもっと強くしたジャケー多分伊達さんも同じだと思うんジャー」
 お互いボロボロのピートとタイガーは修行場の端にて座り込み、視線を雪之丞たちから逸らさぬまま会話を続ける。
 視線を動かす気力すら果てているのも理由の一つだが、もう一つ彼らの横で一つの黒い生命の輝きを見せる男のせいでもあった。
「くっくっくっくっ・・・・・雪之丞テメェ散々昔は裏稼業やらモグリやらに手を染めといて俺より早く人生の幸せを掴めると思うなよ・・・・・まず手始めに・・・・ブツブツブツ・・・」
「あわわわ・・・・これはまた・・・・」
「藁人形より怖いんジャー・・・・」
 振り向かなくても分かる実体すら持ちそうな瘴気にガクガクブルブルと震える二人。
すでに二人?は意中の人を見つけている以上、彼に味方はいなかった。

 なにやら黒々したオーラに包まれている外野に対してこちらはいたって落ち着いていた。
こちらがどちらかといえばそれは斉天大聖と対峙している雪之丞である。
「俺はなぁ、これでも結構横島の野郎を買ってんだ。」
 突然、一人話し始める雪之丞。
「GS試験の時からあいつはただモンじゃねぇってわかってたし。
香港の原始風水盤の時もなんだかんだであいつは頑張ってたよ。
 だから、アシュタロスの野郎との戦いの時も美神の旦那とこいつが合体したなら何とかなると思ってた。
 だがな、それでも身近で助けてやれなかったのは今でも忘れねぇ・・・・
あの時、あの時もしも空を飛べたなら・・・・・・・・・・ってな。
 だから俺は願ったのさ、空を!!空を飛べる力をってな!!」
 言うなり雪之丞は魔装術を発動、その身を滑らかな外装が取り巻いていく。
『ふむ、何を言うかと思えば。だがその姿、何も変わっておらんじゃないか』
「甘く見るなよ猿のお師匠!!俺の真の姿はこっからだぜ!!
ザ・オフスプリング!!」
 雪之丞がそう叫ぶと魔装術の外装の各所がゴキゴキと音を立てて変形していく。
両肘、脹脛、背中に二対のノズルのような物が形成されまるで亡者の嘆きのような音を立てる。
「へっへっへ・・・・・俺の体内で圧縮した霊力をこっから噴出せば俺でも空が飛べる!!」
 言うなり大地を蹴って突進する雪之丞。
同時に身体の各所から低い唸り声を上げ霊気が吐き出されていく。
長い年月を経た洞穴から漏れ聞こえる風のようなその唸りは聞くものに畏怖を抱かせるには十分であり、ピートとタイガーは無意識に耳へと手をやっていた。
「雄雄嗚雄乎!!」
 雄叫びと共に雪之丞の拳が斉天大聖へと吸い込まれていく。
しかし、それは途中で野太い腕に受け止められる。
「へっ!わかってたよぉ!!一筋縄じゃいかねぇ事ぐらいなぁ!!オラオラオラオラオラオラ!!」
 雄叫びと共に繰り出される無数の拳撃。
それは肘から勢い良く噴出す霊風の助力もあって威力は申し分ないものであった。
 次々と打出される拳にさしもの斉天大聖も後退る。
『くっ!・・・中々やりおるわい・・・・だが!!折角の拳打も当たらなければどうって事ないわい!!』
 息継ぎの瞬間、その巨体に似つかわしくない俊敏な動きで距離を取る斉天大聖。
完全に雪之丞の制空権内から脱し、且つ自らの得物の射程距離という絶妙の間合いを取ると、得意げににやりと笑う。
 だが、後手に回ったはずの雪之丞は不敵にも斉天大聖と同じく笑って見せた。
「はっ!甘いぜ猿の師匠!!俺の今回の目的はなぁ!!遠距離攻撃なんだよぉ!!
喰らえっ!!スプリンター!!」
 雪之丞が気合を込めると斉天大聖に向けた掌から一筋の霊力が勢いよく向かっていく。
『むっ!!』
 咄嗟の判断で防御した斉天大聖であったが、驚いた事に防いだ部分の体毛が焦げていた。
「どうだ!!あの世界で学んだ技の応用だ。
限界まで圧縮してあるから結構効くだろう!?」

「先生!!あれは一体どういうことなんジャー?」
「説明しましょう!!」
 説明大好き!な小竜姫はタイガーの質問に嬉々として答える。
いつの間にかけたのか細い黒淵のメガネまでかけている。
黒いところまで逝きかけた横島もその珍しい小竜姫の出で立ちに帰ってくる始末だ。
「雪之丞さんが使った技は単純な霊波砲です」
「そんな!!だって老師の体毛を焦がしてましたよ!?」
 単純なってあんなの凄過ぎですよ、と驚くピートに小竜姫はまだ先がありますとピートを黙らせる。もちろん実力行使で。
「いいですか?霊波砲というのは体内で圧縮した霊力を撃ちだすというものですがその際気をつけなければならない事があります。
 一つ、チャクラを廻し霊圧をあげるのに時間をかけ過ぎない事。
あまりにも時間をかけすぎるとそれは敵にとって付け入る隙になってしまいます」
 そういえばエミしゃんの霊体撃滅波はすっごい時間がかかりますノー、とタイガーは納得する。
「二つ、チャクラを廻すといっても霊力全てを霊的中枢回路に流せる人間はそうはいません。
 多くの場合は体にある点穴と呼ばれる箇所から漏れていきます。
これが多くの霊的疲労の原因となります。
 しかし、雪之丞さんの場合身体の表面は魔装術で覆われています。
そしてその魔装術は元々は雪之丞さんの霊力、点穴から漏れてもまた魔装術に吸収され無駄にはなりません。
 また、魔装術で防御が格段に向上しているため少しぐらいなら霊圧をあげる時間を稼げます。
まさしく、魔装術は霊波砲との相性抜群という事です!!」

「俺はよ、いっつも思ってたんだ。なんで俺の霊波砲は弱いのか?ってな。
GS試験の時俺は横島を殺すつもりで撃ったんだ。
 だが結果は殺すどころか左腕一本消せなかった。
俺は悩んだよ。もしかして霊波砲の才能無いんじゃないか?ってな。
 だから今までこの魔装術、身体資本でやってきたんだからな」
「ほ〜う・・・・あいつ俺の事殺す気だったのかぁ・・・・・・そりゃあやばいなぁ・・・・・えへ・・えへっへっへっへっへ・・・・」
 予想外の雪之丞の告白に再び黒くなる横島。
流石に友人対決は避けたいピートとタイガーはといえば、
「まずい!!横島さんの精神防御力が0に近い!!なんとか明るい話題を提供しないと・・・・」
「そうは言っても・・・・・ここには横島さんの好きなボディコンはいないんジャげぶぅ!!」
「誰がボディコンじゃないですってぇ!?・・・・・」
「れでぃーに向かって失礼でちゅ!!」
 なんとか横島の気を惹く者?を探していたタイガーだったが目当ての『物』が無く意気消沈、のはずが横合いから飛び出てきた二人の女史によって強制的に修行場の端へと移送。
「ああっ!!こういうのは横島さんの役ジャぎゃああああああああああああああああ!!」
 雪之丞が放った霊波砲、スプリンターが斉天大聖に当たってあがる爆炎よりもタイガーの周りで起こっている方が大きいのは何故だろう・・・・・
 ピートは、僕は何も見てない聞いてない、と呟きながら目の前の光景に背を向ける。
人は忘れる事で生きていける生物なのだから。それはもちろん半ヴァンパイアもそうである。
 事が終わった後、そこにあったのは元タイガーであったなにか。
思わずモザイク補正がかかるその光景にヴァンパイア・ハーフのピートといえど吐き気を催さざるを得ない。
 流石に死んではいないだろう彼は。
だが、彼の横にひっそりと元は新円であったはずの何かは今はひしゃげ、まるで針金と区別する事が困難なまでにその形を変えていた。
 後日その事に気づいたタイガーが部屋で首吊りを敢行しようとしたのはまったくの余談である。
だが、その現場に居合わせた魔里に事情を知られトントン拍子に結婚までこぎつけたのはさらに余談であり、その事をいまこの肉塊もどきは知る由もなかった。

 一方、危うく自らの命どころか未来の幸福さえも脅かされていた雪之丞サイドでは、 
「だがな、今回の修行で霊圧ってのを学んだからなぁ!!これで俺の霊波砲の威力も上がるってモンだ!!ああっ!!俺はまだ強く、カッコよくなれる!かおりーーーーーーっ!!待ってろよーーーーっ!!」
 ここでママと叫ばないのを成長と呼んで言いのだろうか。
ピートは軽い頭痛を覚えつつ、何故僕の周りの人はこう変わっているんだろう、とため息をついた。
ものすごい巨大な棚を心に持つ男である。


「遠距離攻撃を覚えた俺に死角は無し!!オラオラァ!!いくぜぇ!!!」
 霊波砲の連射は止まる所を知らず、あの斉天大聖を徐々に、徐々にだが押し始めていた。
『むぅ・・・魔装術をこれほどまでに使いこなすとは・・・・予想外の成長じゃな。眼福眼福・・・・だが、まだ甘い!!』
 轟という凄まじい唸りと共に如意金棒を振り回すと今度は逆に雪之丞の背後に回りこむ斉天大聖。
『死角無しとはいえその直線的な攻撃では背後に回られては迎撃しづらかろう!!どうじゃ!!』
「甘ぇ!!」
 雪之丞は肩越しに見える斉天大聖に向かって肘打ちを繰り出す。しかし、それは長く野太い腕に隔たれた距離を越え、斉天大聖に当たる事はかなわない。
『ほっほ!この距離で肉弾戦はお主の身の丈では不可!!血迷うたか雪之丞ぉっ!!』
 余裕綽々の斉天大聖の顔はしかし、次の瞬間驚愕に染め上げられる。
受け止めたはずの雪之丞の肘先から行く筋もの光線が放たれ、大多数が叩き落とされる物の数本は斉天大聖の顔面へと直撃した。
『ぐぅっ!!やりおるわ!!』
運良く瞳に直撃したそれに涙を流しながら一旦離れる斉天大聖。
「へっ!手から出せるなら肘から出せるのも道理!!読みが甘いぜお師匠!!」
 うまくいって嬉しい楽しい雪之丞。だがしかし駄菓子菓子、次の瞬間ロケットのような速度で叩き飛ばされていた。
『ふん、なら霊波砲のさらに射程外から叩き落せばいいわい。ほい、一丁』
 巨大化した如意金棒をいとも容易く振り回すとそのままドシンと地面に打ち据える。
まるで某ゴジラのバッティングの如く小気味良く飛ばされる雪之丞、既に意識を手放していた。
『まぁ、攻撃力では及第点かのぉ、むらがあるのが玉に瑕じゃが・・・今後は体内で廻すチャクラの量の増大が課題、かのう・・・まぁ、おぬしは一番あの中で完成されておる。無用に急くべからず、、じゃ』
 と、有難い斉天大聖の説教も今の雪之丞の耳には入らない。修行場の結界にまるでつぶされたゴキブリのようにへばり付きながら己との力量の差に呻く雪之丞であった。
『さて、殿といこうかのう・・・・・』
 今の今まで三人連続で相手にしたとは到底思えぬ、つまりダメージほとんどゼロ!な斉天大聖が首をコキコキ言わせつつ最後の相手、われ等が主人公横島忠夫を振り向いた。
 が、そこに彼はいなかった。
「消えた!?」
 捕捉も予測もつかせず気息も捉えられぬほどに加速したのか?その脚力たるやまさに驥足。
義足でも穿いてるんじゃなかろうかなどという馬鹿な考えも浮かばぬほど呆気に取られた一同(斉天大聖含む)を残し、横島は忽然と姿を消した。蛇足ではあるが彼らの足元にはわからぬほうに一言「探さないでください」の文字が地面にカリカリと書かれていた。探すも何もあまりの小ささに見えづらい事山の如し。姑息、である。


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