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BACK TO THE PAST!

其の参


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/10/28


※色々変えちゃったんで先に後書きを読んだ方がいいかも・・・


「・・・・・そんなことが」
ヨコシマは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「情けないよなぁ・・・」
タータは自嘲気味な笑顔を浮かべる。

ヨコシマはしばらく苦虫を噛み潰しっぱなしだった。が、
「怪物をぶっ殺そうって人はいなかったのか?」
と、質問を吐き出した。

「・・・・いたさ」
「いたのか」
いるとは思っていなかったらしくヨコシマは少し驚いた。

「・・・俺の両親さ。おかげで死んじまったけどね」

「・・・・」魔神の目が見開かれる。

タータは手にした鶏肉を皿に戻すと、まるでそこに何かがあるかのように天井を見つめた。
いや、もしかしたらその瞬間はヨコシマと目を合わせたくなかっただけかもしれない。
「父ちゃんと母ちゃんは偉大な人だった」

「・・・・」

「いつも人より進んだ考えを持っていたんだ」

「・・・・」

「それゆえ・・・村中から大反発を買った挙句、怪物退治に失敗しちまったのさ」
「悪い事を聞いたな」
ヨコシマはとてもすまなそうな顔をしたが、
タータはハハッと笑って見せた。
「いや、お互い様さ。それに父ちゃんと母ちゃんだっておかしな伝説を信じていたせいで死んだのかもしれないし・・・」
「伝説?」
ヨコシマは少し興味を持ったように聞き返した。
「ああ、この村に残る伝説なんだけど。・・・と言っても誰も信じちゃいねぇぜ?

たしか・・・・

村に狂気と魔物がはびこる時、風穴を持つ者村に訪れる。

風穴の者、魔物を討たんと空を翔けるが力及ばず。

勇気ある若者村から立ち上がり、魔物を食い止めんと武器を取る。

光の洞窟は昼のごとく明るく輝き、勇気ある若者と風穴の者を導く。

光の洞窟は勇気を試す洞窟。
若者四度勇気と知恵を試される。

一度目は軽く知恵比べ。
黒い翼に付いて行け。
二度目は少し腕試し。
飢えた野獣が待っている。
三度目はやや早足で。
巨大な殺し屋が追ってくる。

四度目でやっと、
魔物を討つ弓を神より授かる。

風穴の者、若者に全てを託す。

若者魔物討たんと矢を放つが・・・・・・当るかどうかは腕次第。


・・・ってかんじ。
うん臭いけど一応光の洞窟っていうのは村の近くにあるんだよね。
光ってないけど・・・。

父さんと母さんはこの『魔物』は精霊獣に違いないと考えて、『風穴の者』無しで光の洞窟に行ったんだ。それで帰ってこなかった」
タータは長い説明を終え、ふうと息を吐いた。


ヨコシマはそれを聞いて、しばらく考え込むかのようにうつむいていたが、唐突に顔を上げた。
「『風穴の者』って・・・スケベで詐欺師で、風穴から妖怪とかをゴーッと吸い込む法師だったりするか?」
「なんだって?」
「いや、こっちの話・・」
「そう・・・」



   ・・・・・。







しばらくの間無言の時間があたりを支配する・・・

「ま、どう考えても嘘っぱちだとは思うなぁ・・・」
彼は、けけけと笑い飛ばしたが、
「それはどうかな?」
ヨコシマは、不適に笑っていた。

「どうかって・・・どう考えても嘘じゃん」
タータは言う。しかし、
「でもよう、伝説ってのは多かれ少なかれ必ずと言ってもいいほどその元になる何かがあるんだ。
・・・それによく考えてみろ、ここはこんなにも霊的に安定しているんだ。
その伝説に匹敵する『何か』がある可能性は十分にある」
魔神はニヤニヤ笑ってそう言い、先ほどからずっと咥えていた骨の端っこをバリバリと噛み砕いて飲み込んだ。
タータはふぅん、と鼻を鳴らしながら、そんなヨコシマの様子をずっと見つめていた。

表情は変化していないが、何故か彼の心はゆらゆらと揺れていた。




「ところで、一つ聞きたいんだが・・・」
ヨコシマは口調を変えた。
「何?」
「タータ・・・・お前は精霊龍をどうしたい?」
「そりゃぁ・・・・」
いきなりのビッグな質問にタータは口篭もる。
「あ、いや。やっぱいいや」
ヨコシマはパタパタと手を振って、もういいを示した。

しかしその瞳は・・・・周りの闇や全身の黒よりも恐ろしいほど漆黒に光っていた。


二人はしばらく伝説に関して意見を交換していたが、やがては夜もふけ、まぶたも重くなってきた。

「そろそろ寝るか・・・何処で寝る?」
タータが言い、
「いや、立ったままでも十分だ」
ヨコシマが返す。
「そうか」
タータは突っ込みたかったがあえて止めた。
「じゃあ火を消すよ?」

火がかき消され、あたりを暗闇が支配する。
タータは横になりながらヨコシマの方を見たが、黒ずくめのその姿はほとんど目視できなかった。




・・・・・しばらくして

「明日、お前が目覚める前に発つ」
暗闇で声がした。
「・・・そう」


「いろいろ世話になったな・・・」
「お互い様よ」




「さよならだ」
「うん。さよなら」











外は三日月だった。




月明かりのみが光源の暗い真夜中のジャングル。緑色の木々や色とりどりの花も闇に紛れ、まるで何処かへ行ってしまったかのように見当たらない。

時折ウォォォオオオンと、何かの吼えるような音の響き、名も知れぬ蟲たちの出す音が唯一、確かにそこに命が存在する事を示している。


そんな中、その漆黒の夜空に紛れ、黒い塊がシュッと風を切って飛び立った。

そう、ヤツは魔神。ヨコシマだ。


彼はしばらくジャングルの上をを旋回し、何かを探すかのように感覚を研ぎ澄ませていた。そして目的の場所を見つけ、ふわりと降り立つ。

「・・・ちょっとばかし置き土産でもしていくか」

魔神は目の前の穴に飛び込んだ。





グォォオオオオオオオオオンン・・・・ンン

「な、何だ?」
タータは地鳴りのような咆哮で目を覚ました。

護身用に『魔神の弓』を引っつかみ、慌てて家を出て、音が聞こえた方向へと急ぐと、もうそこには黒山の人だかりが出来ていた。
「い、いったい・・・?」

彼が訳もわからず困惑していると、
「伝説じゃよ」
突然目の前に「妖怪!?・・・・じゃなくてババ様!!!!」
「・・・・妖怪か。いい度胸じゃなタータ。まあ今はそれよりもアレじゃ。見ていろ」
ババ様は渋い顔をした後そう言い、ここからは見えない森の向こうを指差した。

オロロロロロ・・・・・!!

そして低い唸り声と共に夜空へとうねりつつ舞い上がったのは、なんと銀色に光るうろこで月明かりをはねかえす精霊龍だった。

「精霊龍?!なんで地上に・・・」
タータはますます訳がわからない顔をした。

ババ様はニターッと気味の悪い笑みを浮かべて、
「だから伝説じゃよ伝説。

ついに・・・『風穴の者』が現れたのじゃ」
と言った。・・・・・その時の顔はさながら妖怪だった。
タータは思わずあとずさった。

だが、近くにいた村人はそんなプラス思考など持ってはいなかった。
目玉が飛びださんという勢いで目をかっ開き、大声で叫ぶ。
「『風穴の者』?あそこにいるのはそんなもんじゃない!!

例の悪魔だぞ!!!」と。


一方空中ではヨコシマと精霊龍が星の瞬く空をバックに死闘を繰り広げていた。
「喰らえ!」
ヨコシマの手からドーンと巨大な霊波砲が発射され、精霊龍の20mはある
巨体が吹き飛ぶ。

ルォォオオオオオオオ・・・・

精霊龍は苦しげな声を上げて浮力を失い、ドズンと落下して黒い木々を押し倒した。

「お前に恨みは無いが・・・あばよ」
そしてヨコシマの手の平にカッと発光する、あやしい光弾が現れ、発射され・・・


「やめろ!殺すな!!」
「撃つな悪魔ぁぁぁ!!!」
「精霊龍様を守れ!!」


・・・たものの、突如精霊龍の前に何人もの村人が立ちふさがった。

「・・っ!?」
ヨコシマは一直線に飛んで行く光弾を何とかコントロールし、村人達から逸らせる。

「撃ち落せ!!」
「悪魔を殺せ!!」

さらに村人達はあろう事かヨコシマに向かって矢やら石やらナイフやら、手当たり次第に飛ばして攻撃をはじめた。

「くそっ、脳みそ腐ってんのか!?」
ヨコシマは悪態を尽き、時折飛来してくる危険物(ナイフ、矢じり、トイレの便座)を防ぎながら一旦上昇する。

打つ手を無くし、半ば途方に暮れて空を漂っているヨコシマ。





だが唐突に、彼は体の中で、すーっと冷たい物が湧き出すような感覚にとらわれた。




とたんに霊力が全く感じられなくなる。

「・・・っ、またか・・・何だよコレ・・・・」

魔神の体は力を失い、地面めがけて落下していった。










村人達は、それを見て狂喜した。



「な、何だ?急に落っこちちゃったぞ!」
それを遠くから見ていたタータは訳もわかるはずもなく、狼狽した。
それを見てババ様は一言。
「予言じゃ。風穴の者、魔物を討たんと空を翔けるが力及ばず。じゃ」
「はぁ、そうですか・・・・っていけない!!」
タータは飛び上がり、ヨコシマが落下した方角へと走り出した。

幸いにもタータがそこへたどり着いた時、まだ誰も到着していなかった。
「おい、ヨコシマ!大丈夫かよ」
彼がゆすり起こすとヨコシマはひゅうひゅうとなる喉を押さえて「・・・ああ」と小さく答えた。タータは安心そうに溜め息をついた。
「どうしたんだよ急に落ちちゃってさ・・・」
「・・・・さあ・・・わから・・ん」
「とにかくどこかに隠れないと・・・」
タータはヨコシマに肩を貸して立ち上がらせようとした。だがヨコシマは身をよじってその手から逃れようとする。
「よ・・せ!巻き添えを食う・・・ぞ!」
「で、でもほおって置いたらみんながお前を八つ裂きにするよ!!」

二人がもめていたその時、ついに狂気に囚われた哀れな村人達が、その場へと到着した。

「よし!でかしたぞタータ。そのまま捕まえておけよ!」
先頭のリーダーっぽい男がマサカリ片手に二人へと歩み寄る。すると
「や、やめろ!来るな!!」
タータが彼の前に立ちふさがった。
「何だよタータ。そこをどけ」
男はそう言うがタータはその気配すら見せない。
「おいタータ・・・お前・・・」
男は眉をひそめた。

その時男の後方で、誰かが声を潜めて言った。
「なぁ、そういえばコイツの両親って・・・」
「あ、精霊龍様を殺そうとした!!」
「じゃあこいつも・・・」

それを聞いたタータはゆっくりとヨコシマ特製の弓を構えた。
「アホ!何で・・・逃げない!!」
ヨコシマが怒鳴る。

男はいよいよタータに武器を向けた。
「お前・・・悪魔とグルだったんだな!」
タータは答えなかった。
まっすぐな目で男を見つめる。
「頼む。どっか行ってくれよ・・・・俺みんなを撃ちたくないよ」

「くのやろ・・・・もろとも死ね!誰か!矢を放て!!」
男が唸るようにそう言うと、他の数人の男たちがわたわたと弓を構える。

もちろんその矢じりは、タータ達に向けられていた。



そして、最初の一本が放たれて、さっきの男の汚ない尻に突き刺さった。



「ぎゃぉお!!!!・・・・・・てめえら何処狙ってやがるう!!!!」
男はケツを押さえて飛び上がり、自分の後ろで弓を構えていた男たちを睨みつける。

男たちは慌てて顔を前で手を横にふった。

俺じゃない!俺じゃない!

「じゃあ誰だってんだ!!!」
マジ切れ中の男が吼えた。

この男の村における権力は中々のものだったらしく、他の男たちがモジモジとたじろぐだけではっきりと反論しない。

「くっ・・・・お前だな!!」
皆のはっきりしない態度にイライラしていた男は一番近くのひょろっとした男に因縁をつける。
その男は慌てて否定する「俺じゃないっす!!」
「嘘をつくな!おまえじゃなけりゃ誰だ!!」

男がほとんど当て付けで怒鳴りまくっている時、その声は突然そこら中に響き渡った。

「・・・・・俺だよ・・・・!・・・・」

どさくさに紛れてこっそり逃げようとしていたヨコシマ、タータ。村人達は、声が聞こえてきた方向、つまり近くの木の上に目を向けた。

木の茂みの中には、黒く影ってよく見えない顔の中でぎらぎらと目を輝かす何者かが薄く笑っていた。

男が怒鳴る「誰だ!」
「さあな」
そいつは短く答えると、サルのように木を滑り降り、ぎゃあぎゃあ叫ぶ男を含め、あっという間に二三人を手に持つ棍棒で殴り倒した。

突然の襲撃者に村人達が動揺しているすきに、背後から近づいた新手によって、あっという間に村人軍団は全滅し、気絶して地面にひれ伏した。


「お、お前・・・・イアン達じゃないか!なにやってんだ?!」
タータは弓を下げ、目を丸くする。彼らはイアンとA君とB君だったのだ。
イアンはとてつもなく不機嫌そうな表情で二人を見つめた。
「・・・リィは今年で12だ。おそらく次の生贄になる。俺はそれが気に食わなくてね」
「!・・・そ、そう言えばそうか。」
続いてイアンは動揺しているタータを一瞥し、「にしても・・・」と続けながらヨコシマに向かってガンをたれた。
「ざまぁねぇな。魔神。お前それでも例の悪魔か?」
「悪かったね」
大分落ち着いてきた魔神はこちらも不機嫌そうに答えた。

タータがいまいち現状を読み込めずにいるうちに、気絶した村人の上を乗り越えて、ババ様がやって来た。
「うむ。『風穴の者』の悪魔も無事だ。役者はそろったようだな・・・」
「ババ様、どういうことか教えてくださいよ!」
タータはババ様に質問する。
「だから何度も言っておるじゃろう。伝説じゃ」
「はぁ・・・」

「おいおい、俺に風穴なんてねぇぞ?」
ヨコシマが木に寄りかかりながら立ち上がり、最もな意見を出した。
「じゃあソレはなんじゃ?」
ババ様はヨコシマの胸のあたり、いつの間にか血の滲んでいる所を容赦なく突付く。
「うぐっ!!何を・・・・」
先ほど無理をしていたせいで、ちょうど傷口が開いて激痛が走っている所をさらに突付かれ、更なる痛みに文句を言うヨコシマだったが、一瞬ふと思案した顔になると、何故か上着を脱ぎ始めた。

「げっ!?」
A君とB君ががヨコシマの上半身を見てうめく。


彼の肌は本当に傷だらけだった。
いや、コレが傷跡と言えるだろうか?大怪我をして皮が破れ肉が裂け、また繋がった時特有の肉の盛り上がりが所狭しと隣接し、むしろ傷の無いところを探す方が難しい。傷跡一言ではとても表現できないほど凄まじいものであった。
そして極めつけは胸の傷だ。深くえぐれたその傷口はかさぶたが醜く覆っており、しかも今はじわじわと血がにじんでいる。
そしてぽっかりと窪んだその傷はまるで・・・

「風穴か・・・そう言えばそうだったよな」
タータが呟いた。

ババ様が意図呼吸置いてから、突然タータの弓をもぎ取った。
不意を疲れたタータが不満を告げる前にババ様はその弓を、何とイアンに手渡してしまう。
「・・・・ふん、わるかねぇな」
イアンは軽く弦を引っ張り、調子を確かめる。ババ様はそんなイアンに
「さぁ、行け。魔物を食い止めるのじゃ」

イアンはやはり不機嫌なままババ様に一礼すると、心なしか緊張したような顔で暗いジャングルへと飛び込んでいった。
「おい。行くぞ!」
「おう!」
A君とB君も彼に続く。











・・・・その時には、いくら察しの悪いタータでも、もう事態が飲み込めていた。













 そうか・・・・









 伝説の『勇気ある若者』は・・・イアンだったんだ。


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