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BACK TO THE PAST!

如何わしい語り部の物語


投稿者名:核砂糖
投稿日時:04/10/22


獣か何かが唸るような滝の音。
巨大な大森林の奥地。


巨大な滝のある崖のすぐそばで、壮絶な戦いの終止符が打たれようとしていた。

ずしゃ、ずばっ・・・!

彼は、自らの右胸に敵の腕が貫通するのを感じながらも、相手の心臓(だと思うよ)を握りつぶす感覚をしっかりと感じた。

「・・・・・見事なり」

敵はそう呟いてからくずくずと崩れ去っていく。

「・・・そいつはどうも・・・・・・・・・ごふ!・・・ごほ、かはっ・・・」
彼は赤というよりはドス黒い血の塊を吐き出すと膝を突く。
「も・・・文珠!」
右手に霊力を集中し、治療用の文珠を作ろうとするが、何故か霊力が集中できなくて霧散してしまう。

それどころかスッと体中から力が抜けて、霊力すらも全く感じられなくなってしまった。

「・・・な!?・・・・やべぇな・・・」
そのままふらりふらりと後ろによろめく。

が、急に足元の感覚がなくなった。

「おいおい、勘弁してくれ・・・・」

彼は足を踏み外し、滝壷へと落下していった。



ぎゃーーーー!

情けない悲鳴はさながら悪役だった。








さてこれは、とある少数民族に伝わる伝説の話さ。

聞きたい?なら聞かせよう。





はじまりはじまり。




木々はうっそうと生い茂り、名も知らぬ草花が一面に生えていた。

遠くから聞こえる音は風か?それとも獣の声だろうか?


ジャングルの奥地。そこにとある少年がいた。
後ろで束ねた眺めの黒髪、皮の腰巻、浅黒い肌、黒い目が特徴的だ。

弓矢を担ぎ、きょろきょろとあたりを見回している。どうやら狩をしている現地住民のようだった。

唐突に、彼の動きが止まった。何か見つけたらしい。
ゆっくりと弓矢が構えられ、

矢が放たれた。

ヒュッ


ぎゃーすぎゃーす!    バサバサバサバサ・・・・

「・・・逃げられた」

少年はがっくりとうなだれた。
狩はまだ初心者で、腕は良いとはいえないらしい。

「魔法生物でもしとめれば認めてもらえるのに・・・」
少年はぶつぶつとそんな事を呟きながら、ガサガサと茂みを分け入っていった。

ちなみに魔法生物と言うのは古来の魔法使いなどが作り出した物が勝手に野生化、繁殖したものだ。
皆さんはもし見つけたら刺激せずにGSに駆除してもらいましょう。

「あ〜あ、日も暮れてきたな。今日はあきらめて帰るか・・・」
彼はさも残念そうに元来た方向を戻り始めた。






へへへ、セリフの物まね上手いだろう?



・・・わかったわかった、ふざけないで続けるよ。





彼はこう見えても彼の村で言う成人式を迎えている。
後は一人ででかい獲物をしとめれば一人前の大人として認めてもらえるのだった。

しかしこれがなかなかどうしてうまくいかないのだ。
しかもはっきり言って彼の狩の腕は平均以下。

このままではヤバイ

と、最近頭を悩ませている。

「今日も収穫はゼロか・・・またイアンのやつに馬鹿にされるな」
イアンという者は彼の村の住民の一人で一つ年上の男さ。

性格はあまりいいとはいえないが、狩の腕はよくて、成人式からわずか二日で大きなキメラを仕留めたほどだった。
仲間とつるんで、できの悪いこの少年をいびるのが好きという、ろくでも無い男でもあるのが難点だったな。

「そもそもこの弓矢が悪いんだよ」
と彼は自分の腕を棚に上げて物に当たり始めたが、その弓矢を作ったのは自分だということを思い出しますます落ち込んだ。

「あ〜あ、どうしようもねぇな〜」
そんなとりとめもない事を呟きながら、さらさらと水の流れる音に耳を傾ける。

それは村へと繋がる川の音で、彼の村が近いことを彼に教えてくれた。
このまま川を下って一キロも歩けばいとしの我が家である。

少年は弓矢を担ぎながら機嫌よさそうに川岸を歩いていた。
川辺の少し湿った空気が顔をなでるのが心地よい。

すると、上流のほうから、どんぶらこーどんぶらこーと





人が流れてきました。








「・・・・・・た、たいへんだ!!」
少年は一瞬固まった後、すぐさま救助活動を開始した。

弓の先っぽでその人の服を引っ掛けて岸辺に引き寄せる。
「どっこいしょ・・・」
何とか自分ひとりで引っ張りあげることに成功し、急いで脈を取る。

その体は冷え切って氷のように冷たかったが、その人の脈はしっかりと命の鼓動を刻んでいた。
「よかった・・・」

少年は一安心したところでその人を観察し始める。

顔つきから判断するとこの人は男性のようだだった。
そして全身傷だらけ。猛獣か何かに襲われでもしたのだろうか?

だが、一番の特徴は、全身黒ずくめでマントを着ているという点だ。しかも、なんと言ったか?確か・・・「さんぐらす」とか言う物のゴツイやつをつけていた。

へ?『ばいざー』っていうのか?
じゃあ次からはそう呼ぼう。・・・・って何処まで話したっけ・・・・


ああ、ここだ。



「変わった人だなぁ・・・」
少なくとも少年は今まで一度もこんな格好の人は見たことがなかった。






いや・・・まて、本当に見たことはないか?と、彼はおぼろげな記憶をほじくり返す。



前にどこかで見たような気がする・・・



あれは確か・・・・・・



少年の脳裏に、町まで買出しに行ったときの記憶がよみがえった。


『魔神、ヨコシマ。

全身黒尽くめ。殺人鬼。

見つけたら手を触れず、落ち着いて直ちに警察に知らせましょう。』



「うわわわっ!!」
少年はあわてて後ずさり、腰の辺りで手をぬぐった。

「あ、悪魔ヨコシマ!!」
少年はおびえきったような目線を男へと向ける。

「・・・・」
すると・・・・なんとヨコシマが起き上がったではないか。
びちゃり、と川の水と血の混じった液体が地面を叩く。
彼は弱りきった体ではあったが、その眼光だけは失われていなかった。

その目が、少年のほうを向いた。
もちろん少年は度肝を抜いたさ。

「ひ、ひぇぇぇぇええ!!!」
少年はぎこちない動作で弓を構える。
「く、来るな!来るんじゃねぇ!!」
彼は弓の存在を誇張しようとしてぶんぶん振り回すがヨコシマには何の反応も無い。
それどころかこちらに目を向けて歩み寄り始めた。その目に宿るは・・・殺気!
少年はたまったものじゃなかった。
「うわぁぁぁああ!!」
恐怖に任せてあてずっぽうに矢を放った。

偶然にも矢はヨコシマに向かって飛んだが、


バシッ!

彼の体に突き立つ前にかすみ取られてしまった。
「そ、そんな・・・」

そして・・・・ヨコシマはそれを投げ返した。

「うわぁぁ!!」
少年は思わず悲鳴を上げたが・・・・


グオォォォォオオオオオオオオオオ!!!!


それは恐ろしい断末魔にかき消された。
少年は後ろを振り向いた。すると背後には体中が燃え盛る炎で包まれた魔法生物、「日の輪熊」が倒れていた。

ただし、眉間に矢が刺さってすでに息絶えていたがね。


少年はあわててヨコシマの方へと振り返った。


「馬鹿野郎・・・敵が何処にいるかわからねぇ時は前よりも後ろに気をはるんだ・・・」
ヨコシマはそう言うと、ドサリとその場に崩れ落ちた。

突然現れた魔神、そして日の輪熊の死体。
あまりのことが一度に起きすぎて少年は狼狽した。




だが・・・一つだけ確実な事がある。


もしこの日の輪熊を持ち帰れば、もうイアンは俺を馬鹿になんかできない。
それどころか村中から称えられる・・・。

いや、まて。こんな大きな獲物を運んだらこの人を助けることなんかできないぞ?


少年はチラリと男に目を向けた。
男はうつぶせに倒れたままピクリとも動かない。


まてまて、何で俺は悪魔の心配なんかしてるんだ?
そもそも、こんな悪魔勝手にのたれ死んだ方が世界のためじゃないのか?


「・・・・・」


少年の額に汗粒が浮かんできた。

そして、少年は・・・。




−−−−−−−−





そこは、いろり型のようなものの火のみが光源の暗い、木で組んで作ったような民家だったらいしね。

そうだな・・・うん、文明人様が見たら「これは掃き溜めですか?」とでも問いたくなるような寝床に、なにやら黒い塊が寝かされていた。

その塊は人だった。

その人はピクリとうごめくと、唐突に、まるでバネ仕掛けのように立ち上がった。
胸の傷に手をやると、なにやら薬草のようなものが貼り付けられている。
何者かに手当てされたらしかった。
その効き目は抜群で、そいつの生命力も加担してか痛みも薄れていたそうだ。

「ここは・・・どこだ?」
彼は疑い深く辺りを見回していた。が、ぱっと身を翻して一方向に身構える。
「だれだ!」

「ど、怒鳴るなよ。恩人に向かって・・・」
彼のにらむ方向のカーテンのような布の裏からオドオドと少年が現れた。

「お前は・・・」
彼は目を細めて少年を見つめる。


「俺はマホイ村のタータ。いちおーよろしくな。魔神」
少年はまだオドオドしながら言ったんだとさ。






この少年。タータとはこのマホイ村の少年で、こう見えてもつい最近成人したばかりだと言う。
そして完全に男として認めてもらうために狩に出かけていたところ自分を発見したらしい、

ヨコシマは、そんな事をこれからの会話で聞くことが出来たんだ。

「大体話は読めた。だが一つ気になることがある」
ヨコシマは未だに警戒を取らないで少年を睨んでいる。
「なに?」
タータは流石に慣れたのかもう自然体であぐらを組んでいた。
「お前、俺が魔神ヨコシマであると知りながら・・・なぜ助けたんだ?」
「は?」
ヨコシマは真剣な眼差しだったが、タータは訳がわからないという顔をしていた。

「まずかったのか?」
「あたりまえだ!もしかしたら目を覚ました俺はこの村全体を焼き祓っていたかもしれねぇんだぞ!そういう噂を聞かなかったのか!!」
「いや、聞いてたけど・・・って言うか別にいいんじゃないか?現に焼き祓ってないじゃん」
「う・・・」
ヨコシマは釈然としない顔をした。

なぜってそう言われてみればそうとも言えるからさ。


「・・・理由を教えてくれないか?」
「何で?助かったんだから結果オーライじゃねぇの?」
「いや、人を助けるのに理由はいらん。って考えをもってるのならそれに越した事はないんでけどさ、前に俺を助けて油断させて殺そうとしてきたやつが一人や二人じゃないんだ。騙された所で俺は死なんが・・・いちおう、な」
タータは彼の話を聞いてウェっといやな顔をして、哀れみの目を向けた。

「お前って結構苦労してんだな・・・それよか理由か・・・まてよ?
お前覚えてないのか?」
タータがめを丸くするのに対し、魔神は首をかしげた。威厳なかけらもない。
「ほら、お前日の輪熊ぶっ殺してくれただろ?そのおかげで俺も死なずにすんだわけよ。つまりフィフティーフィフティー。恩人はお互い様。

それに死んだオヤジの口癖が『他人から見聞きした情報を信じるな。自分の目で見て判断しろ』だったからかなぁ・・・でも確かに始めは見捨てようと思ったぜ?」
タータは耳のあたりなどをぽりぽり書きながら言った。

言われて魔神はまたもや首をかしげてとぼけた声を出した。
「・・・そういえば何か熊みたいな奴をたおした記憶があるな・・・」
「おいおい・・・日の輪熊がちょっとした事なのかよ」
タータはまったく呆れ顔をしたんだとさ。

んで、なんだかコイツとは基準が会わねぇ・・・と、心の底で思ったそうだ。

だが一方ヨコシマの脳裏では、外見には全く出さずに冷静に立場を分析する彼がいた。
(・・・違和感がない。嘘を言っているわけでもないな。だが知らず知らずのうちに神魔族に利用されているってのもある・・・ここは一つ傷の回復を図りながら様子でも見るか)

「・・・・わかった。信じるよ」
ヨコシマはそう言うと、肩の力を抜いて戦闘体勢をといた。
タータはニヤッと笑って
「疑い深いヤツだな。いくら悪い噂があるとはいえ、始めから恩人様を騙す気なんてないよ。
そうだ、どうせこの家は俺しか住んでいないから何日か休んでいきなよ。・・・何もないけど」
ヨコシマはきょとんとした顔をする。
「いいのか?・・・それより誰もいないってのは・・・」
「ああ、親はちょっと前に死んだんだ。それ以来一人っきりでね。つーわけで例え悪魔でも家にに誰かがいるのが少し嬉しかったり・・・」
タータはへへへ、と少し寂しそうに笑っって言った。

そして彼は、さ〜て、飯でも分けて貰ってくるか。と言うとテントを出て行った。
ヨコシマは一瞬黙ったあと、出て行こうとする彼を呼び止めた。

「・・・そういや日の輪熊はどうしたんだ?それがあれば認めてもらえるし飯にもありつけるんだろ?」
タータは振り返り、
「ああ、アレ?置いてきた。だってあんな大きなもん持ってきたらあんたの事運べないだろ。一応あんたの手当てしてから戻ってみたけど他の動物に持ってかれちゃったよ」

タータは、と言う訳だ。と締めくくると出て行った。


タータが
あ〜あ、また飯を皆に分けてもらわなきゃいけないのか〜
などと憂鬱な事を考えながら足を運んでいると、

「お〜い」
両親が死んで以来、初めて、数年ぶりに聞く、家から聞こえる人(?)の声に呼び止められた。
「ありがとうよ。
それと俺のことはヨコシマでいいぜ?」
出口から魔神が顔を出していた。





今日は確かに損は多かった。だが、それでも、
タータはなんだか少し得をしたような気分になった。





だからタータは元気良く返したものさ。
「俺もタータでいいぜ!ヨコシマ!」


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