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白き狼と不思議な世界

3. 親子と絆


投稿者名:朔
投稿日時:04/10/16



 俺…横島忠夫と、人狼の犬塚シロは、いつの間にか「見知らぬ過去」へと迷い込んでしまっていた。
 訳もわからず、帰る方法もわからず、途方にくれていた俺達だった。
 しかし、横島の提案からとりあえずはこの世界にいる事を決めたのだった…───。

 …横島の提案には、「失ってしまった彼女」を取り戻す目的も含まれている。
 それは、ここが「過去の世界」であるならば、必然的に「ルシオラ」が出てくる可能性も高いからと考えたからだった。
 そうすれば、もう一度、横島には彼女を助けるチャンスがあるのだ。
 心の何処かで嬉しがっている自分がいる事を横島は感じていた。

 でも、俺の隣にいる人狼の少女には、まだその事を言っていない。
 …「ルシオラを救うため過去に戻りたがっていた自分」…
 その想いが、文珠を発動させてしまったのかもしれない。
 横島は、ここまで連れて来てしまったのに「どうしてそうなったのか」をシロには説明出来ずにいた。
 「文珠の力」で来た事は説明済みだ、でも…「文珠が発動した理由」については話していない。


(…俺って卑怯な奴だよな…。)
 
 と、横島は思った。

 それと同時に、いつか、必ず心の整理が出来たら話そう。
 横島はそう心に決めていた。














 第三話 「 親子と絆 」 













 横島とシロは、まず住居から探す事にした。
 「妙神山」に行ってお世話になる事も考えたのだが…。

「か、金が無い…。」

 そうだった、自分達は何も持ってきていないのだった。
 横島が辛うじて持っていた財布の中身も、これから先の生活で期待出来そうに無い金額だった。

 それに、まず美神さんに会う前に足場を固めておくのがいいだろう。
 そう思って、まず家や働く所を探す事にしたのだった。

 だが…───。

「先生、何かアテはあるのでござるか…?」
「……何も無い。」
「ど、どうすればいいんでござろう…?」
「………ど、どうしようか……?」

 焦っているのはシロだけではない、自分も同じだった。

(ちくしょう、このまま何も無ければ……最悪野宿か?
 しかも飯を買う金も無いじゃないか…! という事は……野垂れ死にコースにほぼ決定…?
 い、嫌じゃっ! いきなり死亡ENDでオチがつくのは嫌じゃーっ!)

 横島は、考えられうる最悪のパターンが頭にいくつも浮かんできては焦っていた。













 ………















 ───…横島とシロは公園で野宿を続けていた。
 流石に健康的にも環境的にも状況は悪く、横島は病気を患ってしまっていた。
 

『ゴホッゴホッ』
『先生、大丈夫でござるか…?
 ほら、さっきそこのゴミ箱から漁ってきた残飯でござるよ。
 これを食べて元気を出すでござる。』

『ううっ、シロ…、お前には済まない事をしたなあ。
 俺のせいでこんなひもじい生活をお前にまで…。』
『拙者は気にしてないでござるよ…。
 それに、拙者は横島先生さえいればそれで…。』

『シ、シロ…。』
『横島先生…。』


 2人の顔が近づく…と、その時!

 がさがさっ


『あ、こんな所にいたのか、シロ君。
 さあ、僕と一緒に行こうじゃないか。』


 茂みの向こうから顔をのぞかせたのは、何故かここにいるはずの無い西条輝彦の姿だった。


『シ、シロ…? これは一体どういう事で…?』
『先生…拙者、限界だったのでござる…。
 本当に申し訳ないでござる、ごめんなさい…。』

 涙を流して謝るシロ。
 その肩を西条が抱く。

『ハッハッハ、横島君。
 シロ君は我がオカGが引き取る事になったのだよ。
 勿論、タダでは無い…、僕の妻になるという条件付きでね!』

 がーん、と擬音が聞こえそうなくらい横島はショックな顔をした。

『な、なんだと…西条! テメェそういう趣味が… ゴホッ! ゴホッ!』
『みんな貧乏が悪いのでござるよ…。
 さようなら先生…。』
『それじゃ、元気でね! 横島君!
 ハッハッハッハ…。』

 そう言って2人は何処かへ行ってしまった。

『ま、待て! 待ってくれシロ! … ゴホゴホッ!
 い、いかん、心臓が…ううっ!』

 ばたっ













 ………
















「───…い、 嫌だ───っ!! 死ぬのは嫌だ────っ!!!」
「あああっ! 先生っ! 落ち着いて! 落ち着いて下さいでござるよーっ!」


 涙を流してじたばたする横島を、同じく泣いているシロが止めていた。
 はたから見ると異常な光景である。

「……ハッ、ゆ、夢か…良かった。」
「…いや、先生は寝てないでござるよ。」

 そう言われて横島が周りを見ると、かなりの人が自分達を注目していた。
 また妄想で我を忘れてしまったらしい。
 恥ずかしくなり、一刻も早くここから立去ろうとした。




 …





「──あら…?」

 その時、後ろから誰かに呼ばれたような気がして横島は振り向いた。

「…え?」


 そこには、またしてもここにいるはずの無い人間。

 
 ───…横島の母、横島百合子が立っていた。

 横島は、一瞬まだ自分の妄想が続いているのかと思った。
 だが、シロも気になったのか彼女をじっと見ている。
 彼女のほうも、何か考えた様子をして横島のほうをずっと見ていた。

「お、お袋…?」
「えっ…?」

 とりあえず呼びかけてみる、この人が自分の母であるならば横島の事を知っていてもおかしくないはずだ。
 しかし、一瞬横島の言葉にキョトンとした感じの彼女は、すぐに元に戻った。

「何? 新手の詐欺の手口かい?」
「え、い、いや、そういうわけじゃ…。」

 ──…くいくい、と横島のシャツをシロが引っ張り耳打ちする。

「(先生、このお方は誰でござるか?)」
「(…えっと、俺の母さん…のはずなんだけど…。)」
「(えっ、先生のお母様でござるか!?)」

「ちょっと、何コソコソしてるんだい?」

 急に相談事をはじめられて怪しんだのか、百合子がこちらを睨んで話しかけてくる。

「い、いえ…何でも…。 ただ、俺の母さん…に似てる気がしたので…。」

 似てるも何も、本人そのものであった。
 と同時に、横島が考えていた事が思い当たった。

(やはり、この世界の俺は存在していないのか…?)


「ふーん…? 生憎私には子供なんていないんだけどね。」

 百合子の言葉に、横島の考えはますます確信を得て行く。

「あ、じゃやっぱり間違いだったという事で…。」

 そう言ってシロを引っ張り、横島はこの場を離れようとした、しかし──…。

「こらっ、待ちなさい!」

 …百合子に呼び止められた。

「は、はい…何でせう?」

 横島としては、早くこの場から離れたかった。
 それは、百合子が自分の事を知らないという悲しみもあったし。
 何より知らない顔をされてこれ以上自分の母とは向き合えそうもなかった。

「ふーん……。」

 百合子が、横島の全身を上から下まで見回す。

「あの…?」

 横島には、百合子の行動が理解できずにいた。
 やがて満足したのか、横島の目を見ながら百合子はこう言った。

「ちょっと付き合ってもらいたいんだけど、いいかしら?」

 …え? どういう事だろう。
 この世界の俺と彼女には何の接点も無いはずなのだ。



 ───…もしかして…?





「それはつまり愛の告白ッ!? いやん、俺ってば毒蛇に喰われる可哀想な少年!? 優しくお願いしますッ!!」

 と、百合子めがけてダイブを仕掛ける。


 バキッ!

「誰が毒蛇だいっ! …それに思いっっっ切り違うっ!!」

 殴られた、軽いスキンシップのつもりだったのに…。


「(先生、全然軽くないでござるよ…。)」

 俺の思考がそんなにわかりやすかったのか、シロが小声で突っ込んできた。
 いつの間に読心術を覚えたんだろう。

「…とにかく、話があるからちょっと来てもらうよ。」


 そう言うと百合子は横島とシロの腕を掴み、移動を開始した…───。












 ………











 ──…10分後、いい香りのする喫茶店の中に横島とシロ、そして百合子はいた。

「それで、何の話でしょう…?」

 おそるおそる横島が尋ねる。

「金なら無いんですけど…。」
「誰があんたに金を払えと言ったんだい…。」

 呆れたような顔で百合子は言った。

「実は…さっき見た時、私もあなたが他人とは思えなくてね。
 …なんていうか、懐かしいって感じがしたもので…。」

 横島は驚いた、全く接点が無くても、何処か縁が繋がっている所があるのだろうか。

「あなた達…名前、なんていうの?」
「拙者は、犬塚シロでござるっ!」

 百合子の問いにシロが嬉しそうに答える。
 …何故?

(これが先生のお母様でござるか…、この世界では何故か違うようでござるが…。
 それでもしっかり挨拶しておくべきでござるなっ!
 何故なら、もしかしたら将来は拙者の「お義母様」に…。
 くぅーん、拙者達はまだそんな関係では…!)

 ぱたぱたぱた

 何故か悶えた表情をして尻尾を振る嬉しそうなシロがいる。
 横島には、いまいちその理由が掴めなかった。

「あなたは?」

 今度は横島に尋ねてくる、正直どう答えていいものか横島は迷った。

「…忠夫。」
「苗字は?」

「………、横島。 横島忠夫…です。」
「ふむ、苗字まで同じとはね…。」

 やはりここにいるのは自分の母なのか。
 遠い世界に来てはじめて知り合いに会って、嬉しいのか悲しいのか。
 複雑な気分だった。

「私は、横島百合子…。
 今はちょっと用事があって日本に来ていたんだけどね。
 普段はナルニアって国でうちの旦那と生活してるの。」

 頼んでいたコーヒーが来て、百合子はそれを飲みながら話し始めた。
 ちなみに横島は一番安い水。
 シロは肉…を頼もうとして横島に睨まれ、同じく水にした。

「うちはね、もう十数年も前に結婚したんだけど、結局子供が出来なかったのよ…。
 旦那は気にするなって言ってくれるんだけどね、どうしても子供がいたら、って思っちゃって…。
 それでなのかな、何故かあなたを見たら自分の子供みたいな感じになったのよ。
 想像していた息子像に何処か似ているからなのかしら…。」

「おっ…。」


 ───…俺は実は、違う世界のあんたの子供なんだよ。

(言えないよな、そんな事。
 第一信じてもらえるかどうかもわからんし…。)

 言いかけた言葉を飲み込む。
 ここで全てを話してどうなるって訳でもない。

「あなた達、親は?」

 今度は百合子はそう尋ねてくる。

「(先生、どうするでござるか…?)」

 シロが小声で相談してくる。

「(うーん、実はこの世界では、俺達…「いなかった」ものになってるんだと思うんだ。
  つまり、「誰とも接点が無い」って事なんだよな…。)」
「(そんな…。)」
「(とりあえず、ここは俺に話をあわせておいてくれ、いいか?)」
「(了解でござるっ!)」


「こらこら、また内緒話かい?」

 苦笑する百合子を見て、慌てて横島が話し始める。

「あ、はい… 親っすけど、いません。」
「拙者もでござる。」

 百合子はちょっと驚いた様子でもう一度尋ねる。

「…いない?」
「はい…ちょっと理由があるんですけど…。
 すんません、それは言えません。
 とにかく…いないんです。」

 横島が悲しそうな表情になるのを見て、百合子はこれ以上追求するのを止めた。
 そして、今度は何か考え込む表情を見せる。

 …暫く、何もしない時が流れた。



 …




「あ、あの…?」

 その静寂に耐えられなくなったのか、切り出したのは横島だった。

「あ、ごめんね、ちょっと考え事をしてたのよ。
 ……それで、提案があるんだけどいい?」

 百合子が、横島のほうを見ながら言う。

「何でしょう?」









「あなた…私の養子にならない?」





 ………







 時が止まった、というのはこういう事を言うのだろうか。


「えっ…?」

 暫く横島の思考はフリーズして何も考えられなかった。

「いやねぇ、やっぱりあなたを見てるとどうも息子のような気がしてならないのよ。
 …そっちさえよければ、すぐにでも手続きをするけど…どう?」

「あ、いや、そりゃ願ったり叶ったりで、とても有難いっスけど…。」
「勿論嫌なら断ったっていいんだよ。
 でも、私は何かあなたと只ならぬ縁を感じてね。 ……ダメかしら?」

 こう言われては、断るわけにもいかなかった。

「……よろしくお願いします。」
「そう! よかった…、断られたらどうしようって思ってたんだよ。」

「あ、いえ… その、おっ…おかっ…お母さ…。」

「やだね、最初みたいに「お袋」でいいよ。
 よろしくね、「忠夫」」

「お、お袋…!」

 横島は感激した。
 まさかこういう展開になるなどとは、全く考えもしなかった。

「あ、でも親父…、いや、父親の意見は…?」
「あんなもの、どうとでもなるよ!
 私はもう決めたからね、あのヤドロクが文句を言おうと、認めるまでシバき倒してやるね!」

 豪快に笑う母を見て、横島は

(こういう所は少しも変わってないな…。)

 と、少し嬉しく、大半これからが心配だった。






 …






「…よかったでござるな、先生!」

 話を黙って聞いていたシロが、目に涙を浮かべながら話しかけてくる。
 
「ああ、シロ。ありがとう。」

 そんな俺達の様子を見て、百合子は、あ、そういえば。
 と、シロのほうを向いて問いかけた。

「気になったんだけど、あなた達ってどういう関係?
 まさか…兄妹って…ワケでも無いわよねえ。」

 百合子は、ふさふさしているシロの尻尾などを見ながらそう言った。

「拙者と先生は師匠と弟子の関係なのでござるよっ!
 それはもう、海よりも深く山よりも高い絆が…。」
「おい、いつの間にそんな事になったんだ…。」

 横島は多少オーバーなシロをなだめつつも、自分達がある事をきっかけで師弟関係になった事を百合子に教えた。

「ふーん…、シロちゃん…だったわよね、それ、お尻につけてるの?」

 どうやら、百合子はシロの尻尾をアクセサリーか何かだと思っているようだ。

「違うでござるっ! 拙者は、人狼でござるよ!
 だからこの尻尾は、自然に生えているものなのでござる。」

 正直に答えるシロを横島は止めようかと思ったが、ここで隠してもどうにもならないと思って、それを止めた。

「人狼…?」

 聞き慣れない言葉に不審がる百合子、そこに横島が説明を付け加える。

「お袋、実はシロは…人間じゃないんだ。
 といっても、半分は犬で半分は人みたいなもんなんだが…。」
「拙者は狼でござるっ!」

 そこはしっかりと突っ込みをいれてくるシロ。

「へぇー…、凄いのね。」

 イマイチ理解出来ていないのか、よくわからないコメントをする百合子。
 横島は、「これは実際に見せたほうがいいな」と思った。

「じゃ、ちょっと証拠を見せるから外に出ないか?」

 そう提案する横島、3人とも既に飲み物のコップは空になっていた。











 ………











 
 喫茶店の裏路地へと移動した横島達。
 薄暗い路地の向こう、大通りに面した道路から光が漏れてくる。

「シロ、首飾りをとってみろ。」
「はいでござる!」

 言われた通り、精霊石の首飾りを取るシロ。
 彼女は、それがないと昼間は人間の姿を保てないでいる。

 間もなく、シロが人間の姿から犬「わんっわんっ!」 …狼の姿に変わる。

 全身白い毛に、頭の一部分に赤いメッシュが入ったシロ。

 百合子は、それを見て驚きを隠せないでいた…。





 …





「…か、可愛いっ!!」
「………は?」

 そう叫んだ百合子は、シロを抱き上げた。

「思ったより狼って小さいのねぇ…。 ああ、なんて可愛いのっ!」

 目がキラキラしている百合子は、「チワワに魅入られた某親父」の如くシロを撫でていた。
 いや、何か感じてる事がずれてると思うのですが…。

「くぅーん…。」

 シロが気持ちよさげに悶える。










 …









 やがて、満足したのか、百合子はシロに首飾りを付ける様に言った。
 そして元に戻ったシロに…。

「決めたわ、あなたも私の養子になりなさい。」

 そう告げた。









 ………












「…………はい?」


 俺の母親は、何か時を止める某スタンドでも持っているのだろうか。





「「ええぇぇぇえぇ──────っ!?」」

 人気の無い裏路地に、俺とシロの絶叫が響いた。

「な、なんでさっきと違ってそんなに驚くの…?」

 百合子が逆に不思議がる。

(だ、だってそうだろ… シロが、俺の妹になる…?)
(せ、拙者が…先生の妹……そ、それもいいかも…。)

 2人とも、目の前の状況に、ただパ二くっていた。

「人種とか、人間じゃないとか、そういう事じゃないわ。
 私は、シロちゃんが気に入ったの。
 シロちゃんも親がいないんでしょ…? だったら、どうかな?」

 シロの手を取り、説得するように話しかける百合子。
 ただ慌てていた俺は、シロの目に宿る決意の意思に気付けないでいた。

「………わかりました、「母上殿」! よろしくお願いしますでござるよっ!」
「はいっ、よろしくね! シロちゃん!」









 ………







「…な、なんですとぉぉぉ───っ!?」

 今度は、俺だけが叫んでいた。

 にこにこ、と手を握り合うシロと百合子を見て、横島はこの後の展開が全く予想出来なかった。
 横島がこの後立ち直るのに、たっぷり10分を要したのは言うまでも無いだろう…。


 
 ──…こうして、「横島忠夫」と、「横島シロ」として、2人は百合子の養子となった。
    …横島は、これからの生活の事を考えると不安ばかりが残ったという……───


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