椎名作品二次創作小説投稿広場


GSルーキー極楽大作戦

夜の学校、見回りの始まり


投稿者名:ときな
投稿日時:04/10/16

 日が沈み、月や星がその姿を現す時間帯
 現在草木も眠る丑三つ時



……などではなく午後九時前、辺りの民家の窓からは明かりが漏れ、歩行者も珍しくない、ごくごく普通の夜の時間帯である。

 しかしそんな普通な時間帯であっても夜の学校というものは不気味な雰囲気を持っていた。
 それは大阪にある一つの中学校、大阪の除霊委員の面々も知らぬ学校、そこに横島達除霊委員は集まっていた。
 目的は単純にして明快、除霊と言われれば思いつくのはまさに夜、そして学校の委員ならば当然その場所は学校となる。かなり強引な理屈だがそういう理由で彼らは交流会のレクリエーションとして夜の学校の見回りをやることとなっていた。ちなぜ夏子達も知らぬ学校なのかは知っている場所ならレクリエーションにならないからだそうで。

 ちなみにここまでの交通手段は車である。運転したのは鬼道と銀一のマネージャー(台詞も描写も全然ないけどきちんといます。それでその彼は車の中で留守番、出番なんぞありません、期待しないで下さい)。


 さて、話題を戻して学校の校庭。そこに佇む九人の人影、鬼道や銀一はその服装は昼間と変わらぬが横島達は学生服から普段着に着替えている。彼らも夜中まで学生服でいるのは嫌だったようだ。
 彼らがやることはただの見回り、実質肝試しともいえるがそんなものに必要なものなど鬼道の持つ懐中電灯くらいだ。
 よって二人の例外を除いて全員が手ぶらだった。

 一人は当然愛子である。机妖怪である彼女は基本的に本体の机から離れられない。そんなわけだから移動の際は必ず机を持って移動する。それは今もまた然り。
 そしてもう一人は夏子だった。肩にかけているのはバッグの類ではなく、竹刀袋のような細長い紫色の布製袋。ただその中身は竹刀ではないだろう。外からその袋を見る限り、その大きさは明らかに竹刀よりも長く、幅も広い。夏子がいつの間にか車に積んでいたそれを持ってきたときには誰も気にしなかったが学校に入る前になってようやく気になった銀一が尋ねる。

「なあ夏子、それ何や?」
「ん? ああ、これのこと」

 夏子は銀一の質問に答える代わりに袋の紐を解いてその中身を見せた。

「これは弓か?」
「琴とかに見えるか?」

 袋の中から現れたのは銀一の言うとおり、昔日本で使われていた木製の弓だった。

「なんでこんなもん持ってきたんや?」

 銀一がそう質問すると夏子は流れるような動作で一旦顔を伏せ、そしてすぐに顔を上げ、決意に満ちた表情を見せる。

「ウチ思うんや。この後の予定はこの学校の見回りで今日の予定は終わる。そして明日は午前中は自由時間、午後からは寺の見学。そして夕方にはもうこの交流会は終わり。横島達も東京に帰る」

 夏子が語る予定に銀一は相槌を打つ。銀一もそのように聞いている。そして夏子は強い意志を秘めた表情を作り、続けて語る。

「はっきり言うとこのままやとウチの出番がまるでないねん!!」

 銀一含めて全員がコケるが夏子はすっぱり無視する。

「折角霊能あんのにこのままやと自分の能力欠片も示せんと終わってまう。盾志摩も横島との喧嘩で自分の能力しっかり出しとるのに……このままいくとウチ、影が薄いのか薄くないのかよくわからんキャラになってしまいそうで……」

 そこでわずかに悲しそうな顔をする夏子。仮にも銀一の初恋の人なのでその仕草だけ見れば健康なる男子、ときめいても良さそうだが台詞の内容がそれを許さない。何だかぎりぎりな発言に微妙な表情をしている銀一には気づかず夏子は一気にまくし立てる。

「せやから何か起こってもいいように除霊道具持って来てん。むしろ起こってほしいんやけど…まあ何も起こらんでもとりあえず弓持ってくるだけでもアピールできるし」

 結構危険なその発言、別に声を潜めていたわけではないので全員に聞こえているが彼女は頓着する様子は無いし横島達もつっこまない。そしてその発言を聞いて、一人だけうんうんと涙を流しながら共感する大男がいた。
 出番のない者には非常に重要な内容らしい。


「ま、まあとりあえず今から説明を始めるで」

 まとめ役の責任感からか一番最初に沈黙を破った鬼道が声をあげて注意を自分に向けさせる。

「見ての通りこの学校は三階建てや。そういうわけやから三組に分かれて一階ずつ見回ってもらう。
組分けは、まず一階がタイガー、愛子、盾志摩や。二階はピート、綾見、そんでボク。最後に三階は横島、近畿、河合。一通り見回ったらここに戻ってくる。何か質問は?」

 ……………

 質問が無いのを確認して鬼道はそれぞれの組に一つずつ懐中電灯を渡す。

「それじゃ、出発や」

 三人三組による夜の学校の見回りが始まった。





――三階


「何かすごく不毛なことをしてる気がするな」
「何がや?」

 歩く先の廊下を照らしている横島の不満そうな声に銀一が訊き返すする。

「いやだってこんな見回りしてもほとんど意味無いだろ。しかも学生なのに委員の仕事で夜中まで駆り出されて」
「ええやん。こんなことやらされるの交流会くらいやって。横島かて今までやったことないやろ」
「当たり前だ、こんなこと普段やらされてたまるか!」
「あ、そういえば横島ってあの美神除霊事務所で働いてんのやろ。日本トップのGSの話、聞かせてーな」

 怒る横島を無視して夏子は美神の話をせがんでくる。やはり同じ女性にしてGSとして最高の実力を誇る美神は彼女にとっても憧れの対象らしい。横島は何となく怒りの勢いを削がれながらも考える。

 美神についていろいろ思い浮かべるが何を話せばいいのか迷う。とりあえず非常識なところは言わないで表そうとする……その説明を思い浮かべてなんだか味気ない感じがした。
 別に非常識な所が美神の全てというわけではないのだが、彼女が持つ型にはまらない考え方と非常識な行動力、これを無くして美神は語れない気がするのだが……時々犯罪気味な方向へと走ることがあるこれをどう話せばいいか。

「俺も除霊現場を見せてもらったことがあるんやけどすっごい綺麗、いや華麗な除霊やったで」

 横島がどう説明するか悩んでいると見て取った銀一がとりあえず自分の意見を述べてみる。深く考えて出した言葉よりも自分の感想から始めて会話を作っていく方が良いと思ったからだ。
 そして思ったとおり横島はそれに対して反応する。

「いや、銀ちゃん。それ前半だけじゃねーか。後半のあの人の行動忘れたのか!?」

 とりあえず銀一の評価は不満だったらしい。口を尖らせて反論をする。

「えー、何があったん? 聞かせてな」

 興味を持ったらしい夏子は二人に説明を求めてくる。横島としてはあまり思い出したくないことなのだがそれを知ってか知らずか銀一がそのときの事を面白そうに話し出す。
 横島は面白くなさそうだが止める様子も見せずに黙って廊下を歩く。

 そして話を聞き終えた夏子は感心したように一言。


「銀ちゃんモテんねんなー」
「いや、感想はそっちの方かいなっ!」
「あはははは、冗談や。横島は信頼されとんねんな」

 たしかに自分でもそれなりの信頼関係はあると思うがそう素直に言われると多少照れくさくなる。
 とりあえず照れ隠しに何かしゃべろうとする。

「でもなー、美神さんて結構厳しくてな……!?」
「なんや!?」

 会話の途中でいきなり歩みを止めた夏子と横島につられて銀一もその足を止めた。二人の顔からは先
ほどまでの気楽さが無くなっている。

「…どうしたんや?」

 銀一がそう尋ねた次の瞬間、

「!!!」

霊感のない銀一にも校舎内の空気が変わったのを感じた。







――二階


「なあピート」
「なんですか、鬼道先生」

 二階に上がって間も無くしてから鬼道はピートに話しかけた。

「横島やけどな、昼間の盾志摩との喧嘩、まるで本気や無かったな」
「ええっ、あれで本気じゃなかったんですか?」

 一緒に歩いている優希が驚いた声を出したがピートはそれについては同感だった。

 確かに盾志摩の剣術は見事なものだった。一見翼を使ったトリッキーな動きだけのものに見えるがその実、剣術としても優秀なものだった。そもそも鬼道によると盾志摩家は代々続いてきた霊能者の家柄らしい。ならその能力に応じた技術が練磨されていてもおかしくはない。おそらくはあの年代ではかなり突出した実力であろうことは一度GS試験に出たピートにはよくわかる。

 しかし横島の実力はさらにその遥か上だ。実際に横島の強さを見てはいないが美神に勝ったというのも聞いた。もちろんピートはその話を疑って無い。しかし同時にその横島が盾志摩相手に苦戦していたのにも疑問は無かった。横島の動きは確かに強烈にして迅速だった。だがその動きは一つ一つが優れていても流れが無い。一通り行動が終われば僅かに隙が出来るので能力で上回っていても畳み掛けられず、相手はなんとか凌げてしまう。
 つまりは横島は未だ自分の動きを洗練させておらず、その戦い方に荒いところが見えるのだ。

 だがそれももう一つの理由に比べれば小さなこと。横島には横島の戦い方がある。流れを作るとかそれ以前の問題があった。

「盾志摩はともかく横島はあんまり真剣やなかったみたいやしなぁ」

 ピートの考えを読んだかのように鬼道が言う。
 それが一番の原因だとピートも鬼道も思っていた。
 横島は強気で攻め込もうとしていなかった。表面上でこそ張り倒すと息巻いていたが二人には横島が真剣に戦っているようには見えなかった。あの様子では多分本人は気付いてないだろう。
 ピートが見た横島のあの動きなら盾志摩の攻撃を掻い潜って一撃を入れるチャンスは幾度もあった。
しかし横島はそれをせず、あくまで安全な状況からしか攻撃を仕掛けなかった。そしてそんな形で仕掛けた攻撃なら実力差があっても防ぐことは不可能ではない。
 いくら能力が上を行っていても、やる気があっても、自分の能力をきちんと生かせる戦い方をしなければ差は埋まってしまう。

「そうなんですか? 横島君もけっこう本気のように見えましたけど」
「んー、そやな」

 優希の質問にうまく答えられる表現を探しているのだろうか鬼道は少し黙り込むがすぐに口を開いた。

「例えば授業で問題を解けてと言われたて解く時とテストで問題を解く時だと集中力が違うよな」
「んー、そうですね」
「戦いでもそうや、集中力次第で大きく変わることがある。集中で霊力以外でもけっこう変わるからな」

 霊力のほかに集中力で大きく左右される戦いで最も重要なもの、見切りと動きだ。高い集中力を以って戦いに望めば自らの能力をフル回転させ、小さな隙すら見つけ、自分の能力を十二分に発揮する動きが出来る。そしてその動きを以ってすれば小さな隙も十分なものとなる。

 しかし集中力が中途半端ならその隙自体を見つけられないし動き自体も精彩さに欠けてしまう。
 鬼道は日頃六道女学院で生徒の霊的格闘を見ている。未熟な生徒が多いその場所では集中力の高低で彼女らの実力が意外なほど変動することを彼は見ている。昼間の横島がまさにその典型だった。動きは良いのだがその動きには活力が感じられなかった。体が動くままに戦っているという感じだ。

 横島のあれは戦いではない、ただの喧嘩だ。横島の怒りはその辺りのチンピラが無意味に上げる咆哮のようなもの。そんなものは本気でもなんでもない。

 鬼道はそう思っていた。
 しかし盾志摩は違う。幼いころからきちんとした教育を与えられてきたためだろう、あんなしょうもない理由でもしっかり集中力を保っていたことは動きを見ればわかった。そこだけ見れば横島はまだまだと言えよう。
 年齢の割りに破格の実力を持ちながらそれを引き出しきれてない。だがそれでいいと鬼道は思う。早すぎる成長は多くのものを置き去りにする。厳しい鍛錬を積んだ過去、それを振り返れば思う、楽しくは無かった。しかし無駄では無かったと、無ければ良かったなどとは思わない。多くの経験が自分の形になる。そして今の自分を否定する気など彼には無い。
 だから未だ未熟であることも良いことだと思う。未熟であることは経験というものに大きな意味を与え向上心につながる。自分が受け持つ生徒たちの中にも未熟とわかってるゆえに努力し、その才を伸ばすものがいるからわかる。そしてその努力はその人の中に積み上げられていくだろう。

 ……もっともその本人がやる気を出さなければどうにもならないのだが。


(ま、その辺はボクの仕事や無いしな)

 とりあえずあそこまで成長したのなら自分でどうにかするだろう、そう思って鬼道は横島についてのことはきっぱり忘れることにした。彼には他にも面倒を見なければならない生徒が大勢いるのだから
……その全てが女子高生というのは羨ましすぎることだが。





 ピートは鬼道の言葉を聞いて自分のことについても考えていた。今まで深く考えたことは無かったがGS試験の雪之丞との試合の時、ピートは自分をフル回転させる感覚を初めて持ったと思う。
 吸血鬼の力を使う決心とか体に刻まれた本能というものではない。今までまともに使ったこともない力が問題なく戦闘という極限の状況の中で使いこなせた。それは高い集中力の産物だったのではなかろうか。今思えばそれまでの戦いも修行もただ黙々と形をこなしているだけだったような気がする。

 自分を使い切る、そんな感覚をあのとき初めて感じたのだと今ようやくピートは理解した。そしてそれがどれほどの意味を持つのかも。

 そこまで考えてピートはあの状況では横島にそんなものは要求できないと思った。
 そもそも横島の嫉妬という感情は表向きのものに過ぎないとピートは思っている。自分が友達を続けているのがその証拠だ。だがそれが横島にとって自然な行動と見えるのは彼の魂に根ざした性質、煩悩、女好きという所から生まれる二次的な感情だからで別に彼自身が嫉妬深いわけではない。だから横島が嫉妬で、それもあの場合、女性は全然絡んでなかったのに本当の意味で真剣になれるわけが無いのだ

 そこまで考えてピートは

「ムラのある人だなぁ」

などという感想を苦笑と共にもらしてしまう。


 横島忠夫、GS美神の中でも割とまともなこの二人を以ってしてもいい評価は得られないらしい。







「でもそんな状態でも互角ってのは横島くんて強いんだね」
「は?」

 優希は素直な感想を述べたつもりだったが鬼道の反応に戸惑った。
 自分は何か変なことを言っただろうか?、もしかして鬼道の話を全然違う形に解釈してたのでは?、
という思考が沸いてくるがその答えが出る前に鬼道が納得したように手をぽん、と打つ。

「ああそうか、ぱっと見やとわからんかもしれんなぁ」

 何か一人で納得している鬼道の言っていることがピートもわからなかったのでとりあえず聞いてみる。

「どういうことですか?」
「どんなに防御に優れていても限界は在るもんや。特にあんな高出力の霊波刀の攻撃を何度も防いでるんや。あれ、最後の一撃食らうまでは無傷やったけど実際もうボロボロやったで。あれ以上攻撃受けてたら翼も式神やからな、傷だらけになって式神からの霊的負荷で気絶しとったやろな」
「じゃあ最後の一撃で傷がついたのは…」
「単純に耐久力に限界がきたんや。その証拠に影の中に戻してたやろ」

 傷が付いたのは横島がしっかり捕らえたのとそれまでの攻撃の蓄積の成果。限界の来たあの翼ではもう一撃食らっていればきれいに切り裂かれていたことだろう。そのことを同じ式神使いである鬼道は正確に見破っていた。


「でもその割には元気いっぱいで口喧嘩してたよね」

 べつに疑うわけではないがそんな状態だったのにあんな態度を続けてたのでどうも納得いかないところがある。

「まだ式神は三鬼残ってるしな。まぁ実力差に気付いてたのにああまで啖呵きれる根性は褒めてもええな」

 鬼道の言葉に笑いながら歩を進める中、優希は何かに気づいたように足を止めた。
 それに一瞬遅れてピートと鬼道も足を止める。

「これは……」
「あれですね」
「夏子の期待がかなった?」

 三者のそれぞれの反応の後、校内に悪意ある霊気が浸透した。




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