俺ってつくづく弱いよな…立場が。
流されるままに逃げ回って、気がつけば簀巻きにされて転がされて…。
俺の意見はすべて却下。
誕生日の主役から、一転して景品扱い………。
……悪い、話しててくじけそうになった。
でも、男って皆そうなんだよな…。
*
「ホーッホッホッホーッ!! こういう勝負なら、私に有利なワケ!! 伊達に闇市とかに通じてないワケ!!」
「エミちゃん、ちょっと待って〜! 私〜、オークション苦手なのに〜!」
高笑いを上げながら、値段も吊り上げていくのはエミさんだ。
さすが、百戦錬磨のつわもの…駆け引きが上手い。
冥子ちゃんもえらい金額をぽんぽん出してるけど…。
「ど、どうしよう、貧ちゃ〜ん…!」
小鳩ちゃんは知っての通り貧乏だ。
俺でさえ同情を禁じえないほどの貧乏だ。
福の神がいるのに、何故か以前と変わらず貧乏のままだ。
「くっそ〜…美神はんめ! ワシらが貧乏なの知っとって、こんな企画立てよってからに〜!」
貧乏神改め福の神は、福の神からは到底出てきそうにない台詞を吐いていた。
「…きっと、私みたいに貧乏な子は、欲しいものなんか手に入らない運命なのね…。」
「諦めたらアカンで、小鳩ッ!! 貧乏かてきっと幸せはある! 幸せを掴むんは金やない、小鳩自身や!!」
「だって、だって…ッ!!」
「泣いたらアカン!! 泣くな〜、小鳩ォ〜!!」
…………。
仕方ない、少しフォローしてやるか。
「あ、あの〜…美神さん?」
「さあ、他には!! 他は…って、なによ?」
「小鳩ちゃんたちみたいな一般人には、このルールは厳しいんじゃないかと…。」
視界の端で、俺の言葉が聞こえたのだろう小鳩ちゃんがこくこくと頷いている。
「あら、何もお金じゃなくてもいいのよ? それならそれで、支払えるものは他にもあるでしょ?」
「ま、まさか…!!」
俺の脳裏を駆け巡るいかがわしい妄想。
さすがに、その全てを語るわけにはいかないので、ここでは割愛させてもらう。
「って、人の人格を貶めるような妄想はやめんかーッ!!」
「ああっ、心を読まれたッ!? …って、違うんですか?」
「違うわよ!! 他にもあるでしょ!? さっきのシロやタマモみたいに交換条件とか、他には労働力とか!!」
そのとき、視界の片隅で小鳩ちゃんの目が光った気がした。
「…こ、小鳩…?」
「貧ちゃん…辛くても、くじけちゃダメよ…。」
不吉なことを呟いて、小鳩ちゃんは決意を秘めた表情で叫んだ。
「一年間、貧ちゃんを美神さんのもとに奉仕させます!!」
「こ、小鳩ォォォーッ!?」
いきなり身売りされた貧が、驚愕に目も口も大きく開く。
開いた口が塞がらないってのはあーゆー事を言うんだろうな。
かくいう俺も、金魚みたいに口をパクパクさせるしか出来ない。
「でもねー…貧乏神に奉仕されても…。」
「大丈夫です!! 一応、こんなんでも福の神ですし!」
こんなん呼ばわりされた貧が、ショックのあまり石になってる…。
「んー…そうね。エミとかを貧乏にしたりすれば面白そうだし…オッケー! その提案、受けましょ。」
「あ、ありがとうございます!!」
って受けるんですか、美神さん!?
いやいや、小鳩ちゃんも喜んでないで!! 貧が灰になっていく!
「ちょっと待ったァーッ!!」
異議を唱えたのは、当然と言うか何と言うか、エミさんだった。
「なに不穏当なこと口走ってるワケ!? そんなこと、させるワケないでしょーがッ!!」
「あらそー。なら、もっと頑張りなさいね〜♪」
美神さん…あんた楽しんでますね、心の底から。
「グググッ…!! なら…こっちはタイガーを奉公に出すワケ!!」
「エミさんッ!?」
不意打ちで名前を持ち出され、タイガーがうろたえる。
「タイガーの能力の恐ろしさはあんたもよく知ってるワケ! それを二年間無料奉仕!! これでどう!?」
「ふむ…。」
美神さん、なに心動かされてるんですか!?
タイガー…お前もこれから、俺と同じ目にあうことになるのか。
「待ってくださいよ、エミさん! そりゃ、あんまりタイガーが可哀想じゃないか!!」
「真理しゃん!!」
真理ちゃんの援護で、救われたように表情を輝かせるタイガー。
……同情してやって損した。
「あーら、タイガーはうちのスタッフなワケ。つまりはうちの備品。どう扱おうが私の勝手なワケ。」
「な…ッ!? タイガーはあんたのモノじゃないだろ!? タイガーは…タイガーはアタシのモノだ!!」
「真理しゃん…!」
感動的ですねー。
勝手にやってろって感じやねー!
別に羨ましく…あるもんか、チクショー!!
「ほほう…いい度胸なワケ。で、あんたのモノだから、なんなワケ?」
「だから……アタシがタイガーを担保にする!!」
「真理しゃァァーんッ!?」
…すまん、タイガー。一瞬でもお前を妬んでしまった。
哀れすぎる…。
「ちょっと!! タイガーはうちのスタッフでもあるワケ!! 優先権はこっちにあるはずでしょ!?」
「スタッフだから何だってんだ!! タイガーはアタシのモノだって言ってるだろ!?」
エミさん、真理ちゃん…。
タイガーの所有権を巡って言い争ってるけど、当の本人えらい落ち込んでるぞ。
雪之丞のヤツが優しく肩叩いてるけど……このとき俺も雪之丞も、この後さらに起こる悲劇は予想していなかったんだ。
「…雪之丞。あなたも他人事ではありませんわよ?」
「へ!?」
弓さんの一言に、その表情がひきつる雪之丞。
「美神おねーさま! 私は雪之丞を担保にいたしますわ!!」
「ゆゆゆ、弓ィィッ!? てめぇ、何トチ狂ってやがるんだ!?」
「おだまりなさい! おねーさまの下に仕えることが出来るのよ!? 少しは有難がったらどうなら!!」
「無理ゆーなァァァッ!!」
うん。無理だろうな。
万年、美神さんの下で働いてる俺が言おう。
あの人は鬼じゃ。そして、鬼の下で働くのは辛すぎる。
「この仕事、常に人手不足と聞いていますし、でしたら雪之丞でも人手になるかと。」
「そうねー…。それに雪之丞の力なら、充分役に立ってくれそうだし、なかなかいい話かも…。」
「冗談じゃねぇ!! 俺はいかねぇからな!!」
断固拒否の姿勢は、とても立派だぞ雪之丞。
しかし、その二人を相手にどこまで持つかなー…。
「…雪之丞。あなたに拒否権はなくってよ。」
「何のことだよ?」
「もし拒否するのなら、今後我が家は一切、あなたに仕事を斡旋しません。」
「んなッ!? そりゃねーだろ!? 俺みたいなヤツに仕事をまわすとこなんざ、そうそうねーんだぞ!?」
「なら…いいですわね?」
「な……。」
…早かったな。堕ちるの。
タイガーと二人して『ドナドナ』を歌うな。せつなくなる…。
「…じゃあ〜私も〜、まーくん賭ける〜〜。」
「って冥子はん!? いきなり何を!?」
冥子ちゃんの突飛な行動はいつものことだが、今回のこれはどういう思考回路で判断したのだろう。
どうせわけのわからん理由だろうが、やられる方は一大事。
必死に鬼道が説得する。
「何でや、冥子はん!? あんたなら正攻法でも充分やろ!? わざわざ僕を賭ける理由なんて…!!」
「え〜。でも〜、エミちゃんも〜やってるし〜。」
「そッ…そんな理由…!?」
予想以上にくだらん理由だったな。
鬼道の身体にふつふつと怒気が漲っていくのがわかる。
その気持ちも、わかる。
「冥子はん、あんたな〜! そんな理由で人の人生を…!!」
「だって〜これって〜、大好きな人を賭けたほうが〜いいんでしょ〜?」
「……は?」
「だから〜私も〜、まーくんを〜賭ける〜♪」
「え…? えぇっ、いや、それって…! あ、あれっ?」
にこにこと笑う冥子ちゃんを前に、真っ赤になりながら混乱する鬼道。
今度は俺の身体にふつふつと怒気が漲っていくのがわかる。
その気持ちも、わかるだろ?
「まーくんは〜、私の大好きなお友達ですもの〜♪」
………あぁ?
「あ…お友、達…。は、ははッ…ま、ええか。」
「? ど〜したの〜?」
「何でもあらへんよ。」
そう言うと、くるっと美神さんのほうを向き直る鬼道。
その顔は、どこか清々しくて。
「美神はん…お願いします。」
両手を差し出すその姿は、犯罪者が自首するときのようでもあり。
お前はそれでいいのか、とか。
あんたやっぱり漢や、とか。
いろいろ言いたいことがあったりするんだけど、もうなんか涙しか出やしない。
俺は敬礼した。
縛られてたから、心の中で敬礼した。
雪之丞、タイガー、おまけに貧も敬礼していた。
みんな泣いていた。
もちろんBGMは、『ドナドナ』だった。
*
なあ、男って哀しいよな。
もちろん、これは今日起こった出来事の一幕に過ぎないさ。
とんでもないことは他にもあった。
でも、同じ男として身につまされたというか、とにかく胸が震えたんだ。
これが男の歌…ってやつなのかなぁ。
久しぶりすぎて、自分でも「こんな雰囲気だったかな〜」と不安です(笑)
ちょっと間隔開いてしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。
コメント、お待ちしてま〜す!! (詠夢)
もう涙で画面が見えないです!!そして鬼道の生き様に敬礼!! (MASAKI)
それにしてもGSの男は虚しすぎる、最早
人ではなく「物」になってるし。
これもクライマックスですね。残りがどう出るかも楽しみです
続きを待ってます。 (ミネルヴァ)
しかし、久々に見たら、漢たちの挽歌が聞こえる…(涙)
皆、美神の一人勝ちを許して良いのか!?頑張るんだぁ(他力本願w (R/Y)
涙が止まらないです。特にユッキ―と弓の会話が……
大体、弓といい魔理といい横島を競り落として何に使うのだろう? (TF)
さて、未だにオークションに発言のない面子はというと…
搦手からというか、曲者がまだまだ残っているかも。
厄珍に△打っとこうかしらん。 (参番手)
確かに冥子ちゃんは可愛いし、惚れた女のためにそこまで自己犠牲を貫けるのは充分尊敬に値しますが。
だが、しかし・・・・・・。 (s-cachi)
というか女の方々は当初の目的を逸脱してやしませんかねぇ?w
特に弓さんと魔理しゃん、たとえ横島に願いを叶えてもらっても、大好きな人と当分の間離れ離れになる可能性もw (純米酒)
セリ市場。
なるほど。 (トンプソン)
MASAKIさま:
そうッ! それが男!!
悲しさをその身に纏わせてこそ男!!
情けない生き様にも華を! それが男!!(いいのか、それで)
スレイヤーさま:
互いに交わす敬礼は、涙なしには語れません。
敬礼、ありがとうございます。返礼!!/(TДT)
ミネルヴァさま:
今回、私の復帰戦につき、虚しさ三倍、虚しさ三倍にございます。
残りの人たちもはっちゃけさせます。
横島の回想シーンという事で、詰め込む形で笑わせます(笑)
R/Yさま:
そうなんです、2ヶ月ぶりなんですよ。本当にお待たせしました。
お詫びに、漢の生き様満開で……ありがた迷惑?(笑)
一人勝ちというか、横島を押さえているのが美神である以上、全ては彼女の掌…?
しかし、それでも諦めずにあがくのがGSキャラ!!
MAGIふぁさま:
男は基本的にバカなんですよ…。
そう…カッコいいほど、バカな生き物なんです…(遠い目で語る)
…情けないのはご愛嬌♪
TFさま:
私自身、あまりオークションを知らないので、路線がずれてしまうのは仕方ないですねー♪(ダメ作者)
まあ、面白ければいいと思いながら書いているので、大目に見てやってください。
弓と真理は…『ノリで。』とかいう可能性も。(そうだとしたら、さらに雪之丞たちが哀れ)
参番手さま:
有難うございますw
面と向かって(ネット越しだけど)言われると、かなり照れくさいですね。
嬉しいですがw
残りのメンバー、曲者だらけです(笑)
楽しみに待っててくださいね♪
s-cachiさま:
恋は盲目w
などと格言(?)では片付けられない感情のフシギ。
本当に彼はあれでいいのでしょうか? 自分で書いててなんですが。
それとも、負け犬根性が芯から染み付いてるんでしょうかね。横島みたいに…。
純米酒さま:
たぶん、忘れてると思います。きれいサッパリと。
目的というものはとかく見失いがちですし。
というか、そこまでなりふり構ってられないんじゃないでしょうか。
あの面子では、それも致し方ないかと…(汗)
トンプソンさま:
彼らは仔牛です(笑)
そして、何食わぬ顔で語ってる横島が、もっとも哀れな仔牛です。
ドナドナド〜ナ〜 ドォ〜ナァ〜♪(歌って誤魔化す)
ドッペルさま:
ひょっとしたら、もう一歩後かもしれませんね。(つまり犯罪)
まあ、神様もいるということで黙認。黙殺。
紅蓮さま:
彼の漢っぷりは、日増しに私の中で大きくなりつつあります。
そして、情けなさも比例して大きくなっております(笑) (詠夢)
特にこの場で、可哀想なのは鬼道さんですね。
それにしても美神さんは楽しんでいますねー (ノーフェイス)
最初、私は横島をかけたオークションは面白いと思ったんですが、彼氏を売る彼女たち、貧を売る小鳩ちゃんと?がつく行動のせいで素直に楽しめなくなってしまいました。
それにどうやれば、美神さんを納得させるのはできないんじゃないかと思い始めたからです。 (ライラ)
ノーフェイスさま:
女性キャラが強い世界ですからv
鬼道は原作での扱いが私の中に根強く残ってるみたいです(苦笑)
Junさま:
本当に…。
くじけないで、強く生きてくれることを祈ります(涙)
ライラさま:
確かに見返してみれば、ちょっとやりすぎた感があります。
私自身が男なので、「男は女に尽くし使われるもの」みたいな考えなのですが、どうもそれを強く出しすぎたみたいです。
小鳩ちゃんが貧を売るところは自分でも違和感が残ってたのですが…。
こういう点は、今後の自分の課題として気をつけます。
美神さんについては、もう少し先のことなので話せませんがあえて言うなら、彼女の中ですでに結論は出てます。(勘のいい方にはわかってしまうかもしれませんが)
ご指摘、ありがたく思います。
これからも精一杯勉強しながら投稿いたしますので、よろしくお願いします! (詠夢)
特に「ま〜くん」が・・・
しかし、担保ネタならワルキューレ&ジークもありそうな・・・
ただ、それをやってしまうと、小竜姫とのバランスが取れなくなってしまいますかね? (アル)