椎名作品二次創作小説投稿広場


悲しみの代価

土地神(前編)


投稿者名:朱音
投稿日時:04/ 9/26

右手を軽く凪ぐ、それだけで眼前にいた集合霊は四散した。
「・・・今月に入って何件目だ」

うんざりとした顔で横島は呟いた。


GS試験後、受かったと学校に届けを出したら三度目の阿鼻叫喚が再現された。
そのときのドタバタはこの際、語らずに置いておこう。

問題は資格を取った後だ。
始めはGS協会から紹介されたものを軽くこなしていたのだが、
何所で耳に入ったのか自宅に依頼の電話が掛かって来たのだ。
断る理由も無かったために引き受けたのが悪かった。

その一軒を片付けたわずか二日後、電話のベルが鳴り響いている。
本来なら喜ぶべきであろう、しかしだ。

横島としてはそろそろ本腰を入れて肉体の改造を行いたかった。
よって自分の三人の下僕に任せる。
命令を嬉々として受け入れる三人。
結局は依頼は完璧にこなす、しかも道具は一切使わないため低料金。
で結局はさらに依頼は増える。

増える増える。

困り果てて、協会に相談した。
曰く「保持ランク以上の依頼以外は自己判断で受けてください」

最もな答えをありがとう。

しかし、聞きたい事はそういったことではなかった。

「なぜ協会までこちらに依頼を出す」

未だライセンスを取得して三ヶ月強のGSに、焼き芋を焼けそうなほどの依頼状を送りつけるとは。一体何を考えているのか。

よくよく考えて見れば、自分はまだ学生だった。
学業もあったりするのだ。

悩む横島の姿を見て、そろそろツバキの堪忍袋の緒が切れそうだった。

「ほう、これは・・・・主よ」
何かを見つけ、横島にその依頼書を渡す。

「・・・手助けか。しかも美神GS事務所の」
会うべきか、会わざるべきか。
横島は迷った。

今までわざわざ関わらずに来たのだ、ここで会って良いのだろうか?

だが、シロが居る。
彼女から今までどの程度の依頼をともにこなしてきたのか聞き出せば、どのくらいの速度の違いが出ているのかがわかる。

「受けよう。この依頼」






けたたましく山が崩れ落ちる。
何故そうなったのか。

簡単である。

横島とハヌマンの格闘の末だ。

「相変わらず底が感じられんのぉ」
嬉々としてそうもらしたハヌマンに、息が上がった状態で横島は笑う。

「はぁ・・・そう、言われると。はぁ・・困りますね・・ふぅタイムアウトです」
「なんじゃ、今日もか」

横島との格闘戦に早い段階で音を上げた小竜姫に代わり、
ハヌマンがじかに相手をするようになって早二ヶ月半。
その頃から早朝の修練のみになってしまった。
理由は至極簡単。

依頼が多すぎるのだ、勿論来たもの全てやっているわけではない。
そこそこ報酬の良いものや、面白そうなものを中心にやっている。
さすがにランクがBでは美神のような億の仕事は来ないが、千・二千の仕事は当たり前に出てくる。
ちょっとした一財産はあったりする。
今では銀行の上客だ。
余談だが税金の申告が面倒なので、専属の税理士も雇った。

「ああ、申し訳ない。私としても此方を優先したいのだが、
何しろ今日のは私が選んだのでね」

「珍しい。何時もは小奇麗なお穣ちゃんが決めてはおらなんだか?」
小奇麗なお穣ちゃんとはツバキのことだ。ハヌマンからすれば、大概の妖怪はお穣ちゃん程度にしか見えないのだろう。

「アレは今日のものには反対しましたよ。今日のは私とキロウがきめたので」
付いていくのはカノエなのだが。

「残念じゃな。まぁ仕方あるまい、せいぜい稼ぐことじゃな」
「はいはい、新作のゲームですね。しかし、小竜姫に叱られますよ?」
「その為のあの空間じゃ!」
そこは威張るところではない。

「では失礼する」

「おお、又明日」

軽く会釈して横島は消えた。





某オフィスビルに三人の人影が見えた。
一人は見事な金髪と抜群のプロポーションが眩しい、成熟した女性。
一人はなぜか尻尾が生えている少女。
一人は宙にふわふわと浮いている巫女姿の少女。
実に異様である。

そこに三人がさらに合流する。

一人はスーツを着込んだ四十代後半の男。
一人は赤いバンダナを付けた青年。
一人は黒色の青年。
この黒色の青年、どれくらい黒いかというと・・・全身だ。
髪は漆黒。瞳も漆黒。爪も漆黒。唯一の救いは肌が程よく焼けている(漆黒じゃないだけマシ)、ということぐらいの黒さだ。

「お待たせしました。美神GS事務所の方々ですね。わたくしこのビルのオーナーに雇われました代理人の渡辺と申します。でこちらが今回サポートに入ってくださる」
「横島忠夫です。よろしく」
「カノエだ」

「ふんっ。サポートなんて必要ないわよ。この美神令子様が引き受けたんだから」
「美っ美神さん。何言ってるんですかぁ!あっわたしおキヌっていいます」
「拙者は・・・・あっああああああああああ!!!」

急に発生したシロの奇声に鼓膜をやられたらしい美神と渡辺、それに反して平然と横島・カノエ・おキヌはシロを見つめている。

「っ何よいきなり!!」
いち早く復活した美神がシロを叱り付ける。
きゃんきゃんと一鳴きしてから、シロは横島を指差した。

「あの人でござるよ!あの公園で拙者を助けて下さった人でござる!!」

「ああ。久しぶりだね。確か『犬神シロ』だっけ?」
「・・・犬か・・・」
「狼でござる!!」
「一々突っ込むな喧しい」

「・・・・・カノエ」
「っ・・・」
横島の一言に納得出来ないながらも押し黙る。

「で早い話、このビルに寄生している集合霊を除霊すればいいのね」
「はい・・・・あまり壊さないでくださいね」

「・・・わっ解っているわよ」

何か身に覚えがあるらしい美神の姿を、横島は懐かしく思った。

「横島殿!今日こそっ」
「君は美神さんの助手なのだろ?すでに彼女は行ってしまったぞ」
「え゛?」

気付けばすでに美神は渡辺を連れてビル内部に入っている。

「わー待ってくだされー!」
さすが狼とでも言うのだろうか?
突風のごとく追いかけていく。

シロを見送ってから一息ついて、横島もビルへと入り込む。
「さて、行くか」
「ああ。で」

くつりとカノエは笑う。

「どっちに?」

カノエはすでに解っている。
自分の主が愚かではないことに。

「無論下だ」

美神はセオリー通りに上に上がっていくだろう。
彼女が今まで遭遇したビルに巣くったモノ達は上に集まっていたのだから。
史実、階が上がるほどに霊気は増している。

だが実体はそこには居ない、アレは尻尾だ。

巧みに霊力を分布させ、あたかも実体がそこにあるように見せかけている。

なぜ?

「酷いな、土地神が喰われている」

たいていの土地にはそこに複数の神が住み、悪鬼から土地を守りまた豊かに整えようとする。
だが、ここの土地には土地神が居ない・・・・・否、喰らいつくされている。

「悪臭がするが・・・・良いのか?実体を倒して」
「下で他の霊が来ぬようにしていたとでも言えばいい。我々はサポートが仕事だ」
「シロに付け入るのではないのか?」
「アレは聞かずとも喋る」

つらつらと喋っているうちに、横島たちは最下層までたどり着いた。
そこに根付いていたのは見るのも耐えられぬ醜悪な姿をした妖しだった。

「サポートが本体を倒して良いのか?」
「彼女が倒すアレが本体だったことにすればいい。我々は浮遊霊が集まらないようにしていた、とでもするさ」

一方、美神はといえば。

力技と高価な札時には人間(シロ含む)盾を使い自分ちゃっかりと余裕を残して最上階へと向かっていた。

「おきぬちゃん。お札何枚使った?」
「ええっと。五千円が二枚。一万円が七枚。十万円が一枚。五十万円が三枚。
三千万円が二枚です。あっあと吸引札が五枚ですね」
「出費がぁぁぁぁ。こんなことならあと五億上乗せしとけばよかったぁぁぁ!!」
7517万円分の札と吸引札に五億・・・・どう見積もっても三億は余裕で赤字計算である。


余談ではあるが、この時のシロの時給は無く衣食住の保障のみである。
金銭に縁がないためなのかは定かではないが、本人はなんとも思っていない。


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