椎名作品二次創作小説投稿広場


WORLD〜ワールド〜

第十四話 狂想曲(1)


投稿者名:堂旬
投稿日時:04/ 9/23

「『武』は彼の者を断つための『剣』なり」

 横島がそう高らかに謳い上げると、辺りの景色はどこまでも続く荒野から一変して見覚えのあるものへと変わった。
 横島が今までいたのは斉天大聖老師がパレンツの目を欺くために造った修行場であり、そこは現世から完全に独立した異空間となっている。
 その修行場と妙神山とを行き来するためには、先ほど横島が謳い上げた『キーワード』が必要になる。
 かつて斉天大聖がパレンツのみならぬ全ての目から逃れるためにとった処置である。

「『彼の者』っていうのはやっぱパレンツのことだよな〜。老師はそんなにパレンツを滅したいのかね………まあいいや。今はそれよりメシだメシ」

 修行場から妙神山へと復帰した横島はまず空腹を満たすために小竜姫の姿を探すことにした。
 しかし、元々の霊感がハンパなくズバ抜けている上に、重ねた修行でそれはさらに高まっている。
 そんな彼が今、妙神山で起きている異変に気付かないわけがなかった。

「なんだこのいやな感じ……何が起きてんだ?」

 横島は少々足を速め、美神やおキヌ、シロやタマモと合流しようとした(横島は西条をはじめとするメンバーがここ妙神山に集結していることを知らない)。
 だがその足は道の向こうから現れた人影を目に入れた時点で止まってしまう。
 その人影―――『彼女』はゆっくりと横島の傍まで歩み寄ってきた。

「………久しぶり」

 そう話を切り出した横島に、『彼女』もまた「久しぶり」と返した。

「元気……か?」

 少々探るような言い方でもって横島は『彼女』に問いかける。
 それに対する『彼女』の答えは「うん」という簡潔なものだった。
 そのまましばらく会話は止まってしまう。

「え〜……あ〜〜………」

 横島は何を話そうかと必死に頭を回転させていた。
 そのまま徒然と近況を報告する。
 『彼女』はそれを黙って聞いていた。
 それからしばらく『彼女』は一切口を開かなくなってしまった。
 さらに横島は困ってしまう。

「あ〜〜、え〜〜〜っと……そうだ! パピリオにはもう会ったのか? あいつ寂しがってたからな。顔出してやると喜ぶぞ!!」

 『パピリオ』という言葉に『彼女』はびくりと肩を震わせた。
 ようやく見せてくれた反応だったが、横島はその反応を怪訝に思い、『彼女』へと問いかけた。

「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

 その問いに『彼女』は「大丈夫」とだけ答えた。
 横島はその反応に不満ながらもそれ以上追及するのをやめる。
 『彼女』に背を向け、再び歩き出そうとした。
 背中越しに声をかける。

「とりあえずパピリオを探そうぜ。まだ会ってないんだろ? あいつ、なんか用事があって神界に行ってるらしいんだけど、そろそろ戻ってるんじゃないか?」

 そのまま横島が歩き始めようとした時、『彼女』はこれまでと違い、今度ははっきりと横島に声をかけた。

「ヨコシマ………」

「うん?」

「ごめん………」

 彼女の言葉を横島は背中を向けたまま聞いていた。
 『あの時』のことを言っているんだな。
 横島はそう判断した。

「いや…そんなのお前が気にすることじゃないよ。それに…『お互い様』だしな」

 だから、そう答えた。
 だが、違ったのだ。
 『彼女』が謝罪したのは『過去の過ち』のことではなく。
 『これから』の―――――

「だからさ、謝る必要なんてないんだよ。それにどちらかといえばそれは俺のセリフだし―――――」

 本当に。
 本当に何気なく。
 横島は『彼女』の方を振り返った。













 それが彼の命を救った。













 『彼女』の一撃が横島の頬を掠めた。
 皮膚が裂け、血が滴り落ちる。
 『彼女』が振りぬいた拳を、横島は驚愕と、それ以上の混乱を顔に浮かべて見つめていた。
 もし横島が『たまたま』振り向かなかったら、『彼女』の拳は容赦なく横島の後頭部を打ち砕いていただろう。

「どうして………?」

 横島の問いにも『彼女』は答えない。
 その顔はぞっとするほどの無表情で。
 『彼女』は再び拳を振るった。
 それは再び横島の、先ほどとは逆の頬を裂く。
 横島は、そのさすがの反射神経で全てかわしてはいるものの、常人ならば反応もできず頭を粉々にされている。
 それほどまでに『彼女』の一撃は容赦なく、本気だった。
 そんな『彼女』に対し横島は―――――――――







「どうして………どうしてなんだよ……………!」









 どうすることもできず―――――――

















「なんでなんだ!! ベスパぁ!!!!!!」












 『彼女』の名を叫ぶしかなかった。




 時は少し遡る。
 魔界に一人の男が降り立った。
 長い黒髪を持つ、美しい男だ。
 その周囲には自分の存在を隠すための結界を張りめぐらせている。
 男の前には一人の『女』の姿があった。
 至近距離のため、女は男の張った結界の内側に位置している。
 つまり、女には男の姿が認識されている。

「アンタ何者だ? 一体私に何の用?」

 突然目の前に現れた男に対し、警戒しながらも彼女は声をかける。
 そして男は女に『能力』を見せ、もう何度目かになるこの問いかけを―――――
 禁断の果実を―――――――――
 女に投げかけるのだ。





「ベスパ………君の最も愛しき者に、もう一度会いたくはないかい?」
















「アンタを殺せば、アシュ様は復活することができるんだ! 魂の牢獄から解き放たれて!!」

「やめろ! やめてくれ、ベスパ!! 俺はお前と戦いたくなんかない!!!」

 かつて最も愛した者の妹。
 ベスパを攻撃することなど横島にできるわけがない。
 横島は繰り出されるベスパの攻撃を避け、叫び続けることしかできなかった。


 そんな横島の胸中に芽生えるは、混乱。
 困惑。
 悲哀。
 ―――――絶望。


 叫ぶ。叫ぶ。
 そうすることしかできないから。
 横島は、叫ぶ。


 笑う。笑う。
 そんな横島の様子を見て。可笑しくてしょうがなくて。
 パレンツは―――――笑う。


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