ふらふらと目の前に出てきた男。
信じられないといった顔をしながらつぶやいたのが、隣にいる先輩の名前だった。
つい今までストーカーについて話していた彼女らが、こいつがそうだと結論付けても誰にも責められまい。
彼女らにストーカーの知り合いなどいない。
先入観しか持たない人間がそう思えてしまうほど、男の様子は尋常でなかった。
「最近よく下着が盗まれるのよ。ストーカーがいるんじゃないかしら」
目の前にきたら叩きのめしてやるわと先輩は笑っていた。
先輩に毒されたのだろう。そんな性犯罪者は自分が罰をあたえてやる。そう思っていたところで出てきた怪しい中年。
だから
「おねぇさまに近づくんじゃないわよ!この変態!」
ぶん、と音が鳴るくらいの勢いでかばんを振りぬいた。男から見れば突然の奇襲だっただろう。
かばんをぶつけられた男は、傍から見れば気持ちいいくらい吹っ飛んでいった。そのまま二人して、げしげしと蹴りつける。
「ストーカー親父なんてほっといて早く行きましょう♪」
「中高生は駆除したと思ったら、今度は中年か…」
警察を呼ばないのはせめてもの情けというものだった。先輩の美貌ならこんなのが湧いてきても不思議は無い。
しかるべき制裁を与えたことに満足した二人は、ゴミ箱に頭を突っ込んだ男を一顧だにせず、立ち去った。
誰もいなくなってから、ようやく男が動き出した。
深刻な表情をして男はつぶやく。
「どういうことだ?」
設定が正しければ、自分は199●年に来ているはずだ。
事前の予想では、事務所かアパートに出てくるはずだった。しかし気づけば見知らぬ山中。
場所が間違っているだけなら良い。些細な問題だ。そう考えていられたのも最初だけ。
山から街に降りて新聞を購入した。日付を確認して一人頷く。よし、時間の設定は間違っていない。
安心したところで、男の目に仲良く歩く女子高生の姿が映った。
そんなばかな、そう思い声をかけて見ればいきなりしばかれる。
だが若い時分の彼女だとそれでわかった。自分は以前にも女子高生だった彼女らにしばかれたことがある。
しかしだ、彼女はこのときすでに若くして事務所を構え、自分もそこで働いていたはずなのだ。
未来はいくつもあるが、過去はひとつしかないはずだった。
何故かと、男が考え出した答えはこうだ。ここは自分がいた世界とは異なる時間軸なのだと。
本来ならありえない世界。何が原因で迷い込んだのか判らないが、急いで元の時間軸に戻らなければならない。
漠然とした不安があった。なにか取り返しのつかないことがこの身に起こったのではないか。
この時間移動には妻の命がかかっていた。
時間を遡って過去に介入するしか助ける手段はない。
それを聞いたときから迷いなんて無かった。
なんとしてでも妻を助ける。そう決意していた。
焦るな。そう自分に言い聞かせる。原因がはっきりしないまま移動することは避ける。
こういったとき、ただ繰り返したのでは二の舞を踏むだろう。
時間移動能力者ではない自分は道具に頼るしかないのだ。それも回数は限られている。
術式に不備は無かった。だとしたら何だ。義母からのアドバイスを思い出す。
時間の地図を描ける能力と、目的の世界をイメージすること。それと必要なエネルギー。
この三つが備わっていれば、時間移動は成功するらしい。
そしてこの中で何よりもイメージが大事なのだと彼女は言った。
自分が生きてきた時間に行くのだから地図に関しては問題が無い。エネルギーも理論上では十分だった。
だとしたら義母のアドバイスどおり、イメージの齟齬があったのだろう。
ならば思い出せ。
人気の無いところに移動し、周囲に結界を張った。十年前の記憶を手繰り寄せながら、再び術式を組上げる。
男から滝のように流れる汗。見るからに疲労も激しい。
男にとっても一日にこれほど霊力を使うことは、そうあることではなかった。慣れない力の使用は体にも負担が大きい。
本来なら数日かけて体調を整えるべきだった。
それをすぐにやるのはただの勘に過ぎない。だが霊能力者のそれは一般人と違い、予知能力の一種でもある。
その勘が告げるのだ。すぐに帰らなければやばい、と。
この場にほかの霊能力者がいれば、その術が規格外であることに気づいただろう。
あまりにも強大な霊力は結界の外に漏れはじめていた。男は苦悶の表情をしながら術を制御する。
術が起動するのと同時に、発生した光が周囲を昼に変えた。
そして、練り上げられた霊力は霧散した。
光が収まった場所には、変わらず男の姿があった。
「ははっ…はははははははははははははははははっはっ………………」
失敗したわけではない。無論、自分が解いたわけでもない。何らかの力が介入した結果、術が解かれた。
こんなことができる存在をたった一つだけ、彼は知っていた。
上位種たる神族、魔族にだってできやしないことは経験からわかる。
おそらくは介入してきたのは『世界』だ。一度起動した術があんな形で破られることはない。あれは拒否されたのだ。
しかし、入ってこれたのに出ることは適わないなんてありえない。
そんなことがあるわけが無い。
そう思い、何度も何度も繰り返し、霊力を使い果たしたところで男の動きは止まった。
男にもようやくその事実が理解できた。
傍から見れば気がふれたように見えるだろう。腹の底から嗤いだした。
この世界から出られないなら、妻を助けられない。その最期を看取ることもかなわない。
彼女は最期まで、自分が帰ってくることを疑わないだろう。それが判っているから彼は嗤うしかなった。
男の哄笑を聞くものは誰もいない。ただ夜の闇に吸い込まれるばかりだった。
この場へは初投稿となるのですが、読んでいただいた感想はどんなものでしょうか?
私の小説は一話ずつ独立して読めるようにしてあります。
第二話はまだ推敲が済んでいませんので、この場の反応を見て一部の手直しを行う予定です。
投稿の頻度も何ヶ月かに一度という牛の歩みですが、最後まで書き上げる気はあります。
この作品は特定の誰かを優遇する、または冷遇するものではありません。
そう思って書いているのですが話の都合上、痛い設定や悲しい展開になることもあるかと思います。
他の作者と同じような設定、盗作だと思われた方は指摘してください。
確認したうえで対応をとらせていただきます。
それでは感想をお待ちしています。 (ちゅうじ)
さて、これからどう動くのか楽しみだ。 (名無し@)
そのへんを次に考慮してくれると、
うれしいです。
ネタはおもろい!
拍手! (トンプソン)
状況は読めました。この状態に対する説明も充分です。
ただ、話の進行が少ないので説明に終始している印象が強いかなと思います。
この先の話で評価は変わりますが、この段階ではとても
>一話ずつ独立して読めるようにしてあります。
には頷けません。(まあ、タイトル通りといえばそれまでですが)おっさんが迷子になった、困ったで終わってしまってますので…
文章としては良いものを感じますし、ネタとしても先が楽しみです。
第2話をお待ちしております。
あと、蛇足ですが
>他の作者と同じような設定、盗作だと思われた方は指摘してください。
はかえっていらぬ嫌疑を生みます。
参考にされた何かがあるとか、原型もしくは試作をいずこかで発表されているのならその旨を解説すべきですし、そうでないならドンと構えていていいと思います。
>確認したうえで対応をとらせていただきます。
はむしろ当然ですし、改めて言うことでもないでしょう。
悪意のもとで曲解すると
「ぢつはある作品のパクリです。でもわからないだろう、わかったら騒いでくれ」
といってるようにも見えますよ?
少なくとも私は本作品に類似した作品は見た事がありませんし、仮にエヴァやナデシコ(時間遡行ネタが多いと言う事で引用しました)といった別ネタでのSSにおいて話のきっかけや(時間遡行した)目的が同じ作品があったとしても「GS」でなら当然異なる展開になるでしょうから、「○○さんの△■を参考にしました」といっておけばそれほど問題ではないでしょう。
(もちろんこの場合○○さんに事前に話しをして許諾を得ておかなければいけませんし、あくまで参考にしたという前提での話ですが)
なんだか蛇足の方が長くなりましたが、ちょっと考えてみて下さい。 (pppp)