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悲しみの代価

無題


投稿者名:朱音
投稿日時:04/ 9/ 5

あの後、なぜ霊波刀を使えるのか。
修行をつけて欲しいとかぶりついてきたシロを宥め、事務所の近くにまで送った。

家に帰った横島は起こった事を三人に伝える。

「犬神シロ?でございますか?犬塚ではなく」
「犬塚家の大本が犬神家で、犬塚家の生まれだが霊波刀を扱えるから本家の養子に入ったそうだ。
つまりシロは本家の跡取り娘で犬神の巫女。
なんでも修行のために里から下りA級GSの助手をしているそうだ」

事実、犬塚家は頻繁に人界に出没し何人かは人間と婚姻している。
その反面本家である犬神家は神事を執り行い、跡取りのみ人界に下ろし修行をさせている。

「どうやら代わりらしいな、シロは」
「代わり・・・忠夫の?」
答えが意外だったのか、カノエが声を上げる。

「そうだ、『俺』はまだ美神さんに会っていない。『俺』がやっていた助手をシロがやっている。
おそらく、生まれたのは最近だが成長が著しく早いのだろう。
犬塚から犬神へ養子に入ったのも、美神さんの所へ送る理由にするためだろう」

予想の範囲から出ることは無い。

「このぶんですと、今度は誰が早く生まれるか検討が付きませんな」

「誰も予測など出来ないさ。・・・もしかしたら時期が早まるかもしれない」

早い時期に生まれるもの、生まれず存在しないもの。
どれほどの人々、否。生あるものたちの変化。

クスクスと楽しそうに横島は笑う。

彼が笑うことは純粋に嬉しいが、ツバキは不意に疑問を口にした。

「一度『外』から見ては如何です?」

「そのつもりはない。予測が付かないというのも、心地よい」

主である横島がそう言うのだから、それ以上何も聴こうとは思わない。

「俺は・・・俺は忠夫がそれでいいのならば、全て従う」
誓いでも確認でもなく、カノエはただそう言った。


世界は育つ。
驚くほどに早い速度で。





「これより第二次試験一組目を開始します。
ゼッケンの番号ごとに行いますので、今後はアナウンスに従ってください」

岩場をくりぬいたような場所に、アナウンスが響く。

横島のゼッケンには24の数字が入っている。
全体は307。
この中から先ず半数強が篩い落とされる。
そして残った中の人員が実技で二回勝てば晴れてGS資格を有することとなる。
実に「楽」なものである。
そう、楽なのだ。

それほどに今、霊能力者不足が続いているのだ。

人は人でしか有り得ない、故に人外の力に弱い。
人で無くなった『霊』という存在と対峙するのだ、勿論のこと死人もでる。

質より量の時代に入っている。

いかに質の良い霊能力者であっても、一日で十数件の依頼を請け負うことは出来ない。

だが、一人に付き一つという割合になれば、一日十数件の依頼でも行うことができるのだ。

しかも質の良い霊能力者は『保存・保護・繁殖』される。
実に悪循環である。

その悪循環に比例するように、悪霊も増えているのだ。

今日本は憎悪の渦に埋もれている。


難なく第一次審査を突破した横島は、第二次審査・実技を受けるため軽くウォーミングアップしている。

「やれやれ、この場にもしツバキが居れば『主がわざわざ戦うなど』と言いそうですな」
笑いを含んだ言葉に、横島は軽く息を吐き出す。

「本来なら、お前も連れて来たくはなかったがな」

混じり物もいるものの、種族としては人間しか居ない以上横島が負ける事は万に一つも有はしない。

それは魔族であれ神族であれ同等の事であるが。
彼らが心配しているのは、彼自身の力が彼の器を傷つけないかという一点のみだ。

「さて、行こうか」




評議委員会はある決断をしようとしていた。
彼らの前には一枚の報告書がある。

「第一回戦三十七秒。第二回戦二十一秒。まさに秒殺ですな」
骨と皮のような老人が言う。

「問題はそこではない。そんな逸材が何故、
一度として我々の『目』なり『耳』に届いていなかったのか。だよ」

「その通り。秒殺など過去実力のかけ離れた者どうしでは有ったこと、
けれども彼らにはそれなりの師と評判が付いていましたわ」

「それに秒殺の相手だが。一回戦では私の家から株分けされた家の嫡男。
実践でもそれなりの成果をすでに上げている」

「二回戦の相手。アレはわたくしの指南を受けておりましたの。
勿論わたくしの跡取りとして、ですわ」

「では、良いかな?」

正式に『横島忠夫』はB級GSライセンスを取得した。

じつに呆気ないほどに。
 




身体が戦慄く。

何故?

気付いたからだ。
自分を呼ぶ声を求めるほどに、自分の力のキャパシティーが上がっていく。
それが必然のように。

ああ、声の主に早く会いたい。
会って、その足元に額ずきたい。
この耳でじかに声を聞けば、どれほどの快感が自分の中を駆け巡るのだろう。

予想の付かぬ喜びに、ナイトメアリーは疼いた。
日に日に強くなる声。
そう。自分を『駒』として必要とする声。

なんと甘美なものか。
自分は捨て駒として必要とされている!

「早く、早く見つけなきゃ。失望させてしまう。
捨て駒にすらしてもらえないかもしれない」

それだけは有ってはならない。
捨て駒として使われる、それが自身の存在価値なのだから。

魂を支配されたナイトメアリーは声の主を求めて再び羽ばたいた。


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