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横島異説冒険奇譚

吸血鬼


投稿者名:touka
投稿日時:04/ 9/ 3

 タイガーの善戦をもってして汗一つ掻かず悠然とたたずむ斉天大聖。
それに対峙するはいつもの彼らしくない自信に満ち溢れた、否力に溢れた姿のピエトロ・ブラドー。
質量をもって襲ってくるかのような猿神の重圧のなかでも平然と立ち、睨みつける彼の姿は彼がこの世でもっとも旧い吸血鬼の末裔である事を物語っている。
 が、視線は猿神に向いているのに注意は背中越しに横島の方を向いているような気がするのは何故なのか?
 横島の脳裏にふと、『背後からの一撃』という素晴らしい天啓が電撃のように駆け巡る。
「・・・・・・いくぞっ!!」
 長考の末結論を出した横島が足を踏み出すのとピートが駆け出すのは同時だった。
「ちっ!しくじったか・・・・・」
「横島?」
悔しそうな表情で舌打ちする横島の横で訝しげに彼を見る雪之丞。
 真実は彼の中、誰にも知れ渡る事は無い・・・・

 一方、目の前の脅威とは別に背後から迫っていた殺意から間一髪で難を逃れたピートは真っ直ぐに、、物凄い速度で猿神へと駆けていく。
『確かに人間離れしたスピードよ!!だが甘い!!』
 尋常ならざる速度なれど、そこは百戦錬磨の猿王、轟々と唸りを上げながら拳撃はピートを打ち抜く。
 文字通り腹を打ち抜かれたピートはしかし、驚愕の表情を浮かべるでもなくにやりと笑うとその身がグズグズと崩れだした。
『これはっ!!』
「そうだっ!!僕はヴァンパイア・ハーフ。この身を霧にしてしまえばありとあらゆる物理攻撃は効かなくなる!!
そして、あの空間で霊力の練り方を学んだ今ではこういうこともできる!!」
 グズグズに溶けたピートの身体は離れた地点で集まり再び人の形を作る。
だが、そこにいたのはいつものピートではなかった。
 紅、である。
いくらピートがイタリア人でも瞳の色は紅くは無い。
 夜の支配者、不死王のみが持つ事を許された紅瞳。
「体内で霊力を増幅すればハーフである僕でも不死王として覚醒できる!!この力があれば・・・・・できるっ!!」
 なにが?とは誰も言わない。
何故なら彼の瞳は真っ直ぐに横島を射抜いていたのだから。
彼の周囲から人の影が消える。
「ああっ!!見捨てんじゃねぇ雪之丞!!」
「なに言ってんだ。望まれてこその幸せだろうが!!」
「男に望まれとーなああああい!!」
 賑やかな外野とは裏腹に事の原因であるピートは落ち着いたままだ。
冷ややかな炎、といえばいいのだろうか。
一見矛盾するともいえるこの言葉は実に今の彼を表している。
 彼は今冷たく燃えているのだ!!
「いくぞ!!ザ・スヌープ・ドッグ!!」
 そう叫ぶなり彼の身体は再びグズグズと溶け出す。
しかし、今度は溶ける先からどんどんと実体化していった。
だがそれは元の人の形ではない。
完全に実体化がすんだ今、現れたのは三つ首の黒い犬。
地獄の番犬であるケルベロスにも似た一匹の野獣がそこにいた。
『うぬぅ・・・・まさか使役獣に化けるとは・・・・・』
 実体を持ったそれは猿神とまではいかないまでも猿神の体躯のおよそ半分ほどもある。
もとのやや細身のピートの身体ではおよそ賄えない質量であった。
 そしてここで再び彼女の出番となる。
「説明しましょう!!ピートさんは自分でおっしゃったようにヴァンパイア・ハーフです。
そして多くのヴァンパイアは自らの体内、もしくは血液内に使役獣を飼っています。
ここまではよろしいですね?」
 はい先生!!と元気よく返事する横島は脳内で『角の女教師・・・・タイトスカート・・・・ああっ!!辛抱たまらん!!」と考えがいつの間にか口に出て一撃の元沈黙。
 一方雪之丞といえば・・・・・「り、凛々しい・・・・ママに似てる・・・・」と小竜姫でもどう反応していいのか困るリアクションを取り彼岸の彼方へと旅立っていた。
どうしようもない変態たちである。
「さ、さてタイガーさん!!ヴァンパイアは多くが使役獣を使いますが、残念な事にハーフであるピートさんはそのようなことはできません。
ですがチャクラを廻し、霊力が増幅されることで彼は不死王と同じポテンシャルまで引き上げることに成功しました。
 そして自分の体を霧状にした上でそこに自らの霊力を上乗せ、あの姿に再構築したのです!!」
「はぁ〜、すごいんジャーピートさん・・・・そういえば、今回の修行の成果はワッシもピートさんも具現化するのばっかりジャケンノー?」
「よく気づきましたタイガーさん!!頑張る生徒には先生から御褒美をあげます!!はい、飴」
 中々に鋭い指摘をかますタイガーに小竜姫は満足いくものを覚え何処から出したのか小さな飴玉を手渡す。
 すっかり気分は切れる女教師だ。
「ど、どうもですジャー・・・・あ、これ小梅ちゃんジャー・・・・」
「いいですか?元来斉天大聖老師は中国において天地開闢の折、花果山の頂にある大岩が霊気を帯び変化したといわれています。一説には月の光を浴びたバナナムーげふんげふん。失礼しました。
 いいですか?石の精、つまり石は大地よりいずる物、そして金の気を内包する物でもあります。そして、伝説では孫悟空、つまり斉天大聖老師を描いた絵には必ずといっていいほど虎の腰巻が描かれています。なぜだかわかりますか?」
「ワッシのご先祖様だったとか・・・・・?いえすいませんですジャー!!」
 間違った答えを言ってしまったタイガーの喉先には鏡の如く磨きこまれた神剣が添えられる。
恐るべき飴と鞭。飴と鞭の落差が激しい気もするがそんなこと小竜姫は気にしない。
「バカなことを言わないでください。
いいですか?虎とはそのまま寅、東北東を意味し金を意味します。
 また、老師の瞳は本体となった時ピートさんと同じような紅色となります。
紅色、つまり赤とは中華陰陽五行思想において火を意味し、火は破壊、金は収束、土は膨張を意味します。
また火は壊すもの、金は形作るものであり、土は育むものです。
 今回あなた方は霊力を体内で『膨張』させ、『破壊』力を増した上でそれを『収束』させる修行を行ってきました。
 これは人間界で『育』まれる修行としては最高峰に位置するんですよ。
だからあなた方が修めた物を発揮しようとすれば自然とこの火、土、金に即した物となるんです。
お分かりいただけましたか?」
「わかりましたんジャー」

 即席の生徒教師が講義をしている横ではピートが激戦を繰り広げている。
観客はいないが本人はそんなことを気にする暇も無かった。
『ほっほ、攻撃する部位を実体化、攻撃を受ける部分だけ瞬間的に霧化か。なかなか考えたの。
だが、まだ詰が甘い!!』
 そう言うと猿神は突如虚空から得意の長物、如意棒を出現させるとさらにそれを巨大化させた。
先端の面積だけで大きくなったピートの体ほどもあるそれを易々と振り回す猿神。
 ぶんぶんと具合を確かめるように振っていたそれを今度は物凄い勢いでピートに向かって突き出した。
「くっ!!攻撃範囲が広い!!だが体躯全部を霧化させればっ!?」
 グズリとその身の全てを霧化させたピートの体を如意棒はすり抜けるはずであった。
しかし、ピートが霧化した瞬間猿神は勝利を確信した笑みを浮かべ、気合一閃。
足元の地面が陥没するほどの力と霊力を込めた。
 物理的なら易々と通り抜けるはずだった一撃はしかし、霊力を伴った霊的な一撃となり霧化したピートを何の抵抗も無く弾き飛ばす。
 声を上げることもできず吹き飛ばされたピートは壁にあたり気絶した。
それに伴いその身も人のものへと戻る。
『ふむ、発想自体は悪くなかったがまだ体全体に行き渡らせる霊力の量、及び姿を変えた際の体の動かし方や全体か個かの攻撃への咄嗟の判断がまだまだ甘い。精進せい!!』
「あ、ありがとうございま・・す・・・」
 ピートリタイア。
あまりにも強大な力量の差であったが彼なりの収穫はあったのだろう。
気を失ったその顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
『ほっほっほ・・・・お主等若いモンが成長していく様を見るのはほんに楽しいのう!!その小僧、まぁ若くは無いんだったな、もそっちの小僧もまだまだ伸びるぞい。
ほい、次次!!』
「次は俺だぜ猿のお師匠」
 そう言って進み出たのは彼岸からいつの間にか帰ってきていた雪之丞。
コキコキと指を鳴らす彼の瞳にはギラギラと情熱の炎が熱く燃えている!!
『ほっほっほ・・・・お主か雪之丞。
本来お主の魔装術はその形で一旦完成しておる。そこからいかに自分なりに変化を加えたか。
見せて貰うぞい!!』
「当たり前だ!!ママに貰ったこの命、燃え尽きるまで強くなるぜ!!そして・・・・・
そして・・・・・かおりとの間にママ似の娘を儲けるんだぁ!!!」
 うぉおおおおお!!と気合十分な雪之丞。
だがそれを暗い情念の篭った瞳で見ているものが一人。
「やっぱりあいつ弓さんとの結婚考えてやがったんだな・・・・・・・・・・・あとで殺す。
俺らの中で幸せな奴は等しく不幸になって貰う!!」
 なんだかヤバ気な事をブツブツと呟く横島の横では、タイガーがワッシもですカイノー!!と激しく汗を掻いていた。
 タイガー・寅吉、最近いつもポケットに小さな箱を忍ばせているのは誰にも言ってない秘密である。


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