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横島異説冒険奇譚


投稿者名:touka
投稿日時:04/ 9/ 3

 横島さん、横島さん。
どこかで誰かが呼んでいる。
朧にかすむ彼方からの声を聞きながら横島の意識はゆるゆると浮上する。
まるでぬるい湯船の中のように暖かいでもない、かといって寒くもない不思議な空間を彼の精神はゆるゆると上昇していった。
 ああ、と彼は思う。
きっと自分を呼んでいるのはあの魅力的な一人の女性なのだと。
 頑固で真面目。だがかわいい面もあるあの愛らしい一人の女性だと。
彼は知らず知らずのうちに口元に優しげな笑みを浮かべ、そして、




「おきてください横島さん!!」
「なんで俺の看病がおまえなんだピイイイトオオオオオ!!!」
「ごはぁ!!!」
 世界は彼が思ったよりも甘くは無い。妙神山管理人にしてこの御山での実務担当でもある彼女がほいほいと横島個人に付き合って看病する謂れなどない!!
「納得できん!!やり直しを要求する!!」
「ひたた・・・・酷いですよ横島さん。それに僕はピートじゃなくてジークですよ!!」
「同じじゃあ!!俺にとっててめぇらの顔の違いなんて・・・・・美形のドチクショー!!」
 カコーンカコーンと何処から出したのか藁人形に木槌で釘を打ち込む横島。
超空間での修行の成果だろうか、後ろで実際にジークは胸を押さえて悶えている。
「くっ!!ハートにビンビンくる!?」
「下手な言い回しはやめんかぁ!!」
 ここにいては危ない!!むしろドツボに嵌る!!
少しは発達した霊感の囁きによって素早く戦術的撤退を図る横島。
あとにはピクピクと痙攣するジークだけが残された。



「おう起きたのか横島。さっさとこっちに来いよ」
ほうほうの体で逃げ出した横島はいつの間にか修行場へと足を踏み入れていた。
「じゃっ!」
「待て待て待て待て!!どこ行くんだよ。お前も修行の成果試してみてぇだろ?
サルのお師匠さんがよ。相手してくれてんだ。今始まったとこだぜ。
最初はタイガーだ」
 くいと指差した向こうには修行着姿のタイガーと本気モードの猿神がいた。
「タイガー寅吉!!お主の修行の成果とくと見せて貰うぞ!!」
 瞬間、タイガーの今までいた場所を鬼門の胴体ほどもありそうな腕が薙ぐ。
タイガーはなんとかそれを避けるといよいよ精神を集中させていく。
「虎ジャー・・・ワッシは虎になるんジャー・・・・アイズ・オブ・タイガー!!!」
 ピキャーンとタイガーの体躯から凄まじい光が迸る。
あまりの眩しさに思わず横島たちは目を瞑ってしまう。それはもちろん斉天大聖も。
「くっ!・・・・爆心地の映像は!?」
「電波障害により目標確認まで今しばらくお待ちください!!」
 このような状況には比較的慣れている横島たちは慌てるでもなく、打てば響くっていいなぁ、と訳のわからない事を言いながら様子を見ていた。
「爆心地にエネルギー反応!!」
「いやもういいだろ横島。それにしてもタイガー・・・版権使用料はなかなか高いぞ・・・・ってなにぃ!?」
 ようやく視界が回復してきた雪之丞たちの目に飛び込んできたもの、それはあたりにうっそうと茂るジャングルとそこを埋め尽くす数々の妖怪たちであった。
「すげぇ!!タイガーのやつここまで幻術を使いこなせるようになったのか!?」
ヴァイパー、死津喪比女などかつての大敵がゴロゴロと群れを成している。
「でもよぉ、いくら幻術で相手を惑わすったってこれなら自分の分身出した方が効率よくねぇか?確かにあいつならあの妖怪の中にいても違和感無いが・・・・・」
「どっせーい!!」
 ひときわデカイ掛け声と共にタイガーは地を蹴り、斉天大聖へと向かっていく。
「あの馬鹿!!自分が隠れなかったら意味が無いだろう!!」
いくら大量の妖怪と共に突進するとはいえ姿を消していなければ容易に発見され迎撃されてしまうだろう。
 にやりと獰猛な笑みを浮かべながら待ち構える猿神も同じ事を考えたようだ。
正確に猿神の拳はタイガーを捉え、一気に打ち抜こうとする、が!!
「ワッシを今までと同じと思わんで欲しいんジャー!!」
 にやりと笑ったタイガーの目の前にはいつかのあのゴーレムがまるで小山のように聳え立っており。
腰を落とし踏ん張る事でなんと猿神の拳撃を受け止めたのである。
「なっ!!あれは幻術のはずだろ!?なんで実体なんか持ってるんだ!?」
「違いますよ」
 驚愕の横島たちの後ろから現れたのは小竜姫。
コンマ何秒の世界でそれを感知した横島は久しぶりのルパンダイヴを敢行しようと鼻息荒く地面を蹴ろうとして、鼻先に神剣を突きつけられた。
「今回はそれは無しですよ。横島さん、話が拗れるので。
で、ですね。厳密に言えばもうタイガーさんのあれは幻術ではありません」
「どういうことだい竜の大将?」
 うずうずとまるで子供がおもちゃを与えられたかのような表情で小竜姫に尋ねる雪之丞。
友の成長がうれしいのか、はたまた倒し甲斐のあるライバルが増えたことに歓喜しているのか。
おそらくは後者であろう。
「元来タイガーさんが使うような幻術とは自らの霊力を薄く広く当たりに拡散させ、霊力を光学的に用いて対象に幻覚を呼び起こさせます。
 この場合対象には目から入る視覚的情報のみが混乱しますから種がばれればどうって事ありません。
逆にサブリミナル効果を用いて相手の意識に働きかけるような幻術もありますけどね。」
 横島の脳裏にかつて六道女学院の模擬戦闘で見た光景がよみがえった。
たしかその中に相手に擬似ハワイにいると思い込ませる術者の娘がいたはずだ。
「しかし、超加速空間において修行したタイガーさんは広範囲に自分の霊力を薄くせずに広める事に成功したのです。
 そして個々のイメージを霊力によって補強、いうなれば雪之丞さんの魔装術に近いものがあります、して実体を持たせる事に成功したんだと思います。
 だからほら、この葉っぱ触れるでしょう?」
 ホントだ、と驚き近くにある木々に触っている雪之丞たちの視界の端ではいまや十数体の魑魅魍魎と共に全方向から猿神を攻撃するタイガーがいた。
「どうじゃ!!ワッシは確かに戦闘能力は低い、ジャガ小さな蟻でもたくさん集まれば象をも倒す!!塵も積もれば山となるンジャー!!」
 たしかに個々の攻撃力は小さく、決定的な打撃は与えていない。
だが、その物量でおすセコさと幻術、いやもはや召還といっても過言ではないその妖怪たちを盾に攻撃するタイガーはなかなか善戦していた。
「でもなぁ・・・・あいつ自分で言ってるように確かに攻撃力はあんまりないよなぁ・・・・」
 ふむ、と横島は顎に手をやりながら呟くように意見する。
否定的な口調とは反対にその瞳にはギラギラと燃える何かが存在していて、雪之丞はそれを横目で観察して得意げに笑った。
「おっ。タイガーの奴一旦退いたぞ。おまけに妖怪も全部引っ込めたな」
 一旦距離を取るタイガー。
複数の妖怪を実体を伴って出現させただけに呼吸は乱れ苦しそうである。
 だが、その瞳に宿る闘志だけはくすぶることなく燃え続けていた。
「・・はぁ・・・はぁ・・・・ですノー・・・・行きますジャー・・・ワッシの特大技!!ザ・サヴァイバー!!」
 うぉおおん、と虎の雄たけびよろしく気合を入れたタイガーの体から霊力が剥離し、形を成していく。
「あれはっ!!!」
「たしかシンダラ!!」
 そこには六道冥子御用達、すごいぞ強いぞ便利だぞがモットーの十二神将が一体シンダラがいた。
「馬鹿な!!ありゃあたしか六道家の秘術中の秘術!!召還なんてできるわけが・・・」
「召還ではありません。文字通りタイガーさんは『具現化』させたんですよ!!」
「六道さんの式神なら何度も見てるし・・・・それに・・・それに実力も体験済みなんジャー!!」
 タイガーの自分を追い詰めるような叫びに自らも覚えのある横島は溢れる涙を止める事ができない。
「はぐっ!!・・・そうだ、そうだよタイガー!!俺らはなんど冥子ちゃんの餌食?になってきた事かーーーーーー!!」
「式神の実力は自分のみで実証済みジャー!!六道さんとの地獄を生き抜いたワッシの実力得とみるんジャー!!どんどんいくケーノー!!」
 ほれほれとアジラ、アンチラ、サンチラと十二神将の中でも特に攻撃に特化した式神を具現化していくタイガー。
「一斉攻撃ジャー!!」
 式神を含めた複数の同時攻撃。
物凄い勢いで多方向猿神は攻撃を受け、爆煙をあげる。
すわ決着か!?と意気込んだ横島たちだったが、煙がはれてみると目を廻して気絶しているのはタイガーであった。
『ふむ、ちとイメージが足りておらんな。複数同時もいいじゃろう。だが今回のように一対一の場合は数で押すのではなく質のある一体を補助に廻した方が良い事もある。』
 そう言うと猿神はひょいとタイガーをつまみ修行場の端に座らせる。
どうやらタイガーは全気力を使い果たしたらしく立つことすら儘ならない。
『ま、人の身でそこまで具現化できればたいしたもんじゃろ。これからはお主は各々の実体の圧縮技術と想像力を養う事じゃな。
十二神将、すこし細部があやふやじゃったぞい』
「どうもありがとうございました・・・・ジャー・・・」
 礼を言うとグッタリと起き上がることもできないタイガーはここでリタイア。
次のものの番となる。
『さて、次の番は・・・・・』
「僕でお願いします老師」
 さてと、と探す老師の前に歩み出たのはここのところ、むしろ今回非常に影が薄いピートであった。
その瞳はいつもの彼らしくなくいやにヤル気に満ち溢れている。
 ぞわり、となぜか嫌な予感が横島の背中を駆け上がった。

「何故だ!?」


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