椎名作品二次創作小説投稿広場


図書館にて

武士の常識


投稿者名:トンプソン
投稿日時:04/ 9/ 3

「にしても、せんせーと図書館というのは」
「ま、否定はしねぇよ。今はあんま利用しねぇけどな」
だが子供時代は夏休みの自由研究や課題図書などで利用しており、
「ミニ四区っておもちゃが流行ってな、とにかく車の資料とかを探して結構利用してたんだぜ」
「へぇ、以外で御座る」
「つっても、ここ数年は利用してなかったけどな」
何はともあれ、この涼しさといったらどうであろうか。
古い建物の空調なので、温度もかなり低くないと稼動しないのだ。
それだけ広いとも言える。
上階には外国書、専門書がおいてありその手の研究者も利用するほどの、大きな図書館なのである。
「ほら、あそこにゃ漫画コーナーもあるぞ、いってみるか?」
「はい、で御座る」
小学生らしき子供が数人、男女問わず黙々と自分の世界に没頭している。
「あ、あったまてっかてーか、があったで御座る」
「こっちには春日部の幼稚園児漫画があるで御座るぞ」
一通り見て回ってシロが手に取ったのは。
「へーお前それ読むのか?」
「左様。前におキヌ殿が『お勧めよ』と言ってたで御座る」
手にあるのはフランス革命前後の王宮一大叙事詩の古い漫画。
「せんせー、読んだことは?」
「うーん。小さいときアニメ版なら見た記憶がある程度だな、ま詠み終わったらストーリーを教えてくれよ」
「はいで御座る」
そしてシロは近くの椅子に座ってページを捲り始めた。
「・・・『一緒に見ようで御座る』は無かったか」
ちょっとがっかりした様子の横島であった。
図書館の漫画は流石に子供向けということで、どちらかといえば幼い頃読んだ漫画が、占めていた。
いくつかは興味を持てそうなのも無かったではい。
最初はシロの近くで漫画を読んでいたが、時間つぶしにしても今ひとつである。
「・・シロ、俺新聞コーナーにいるからな」
「はい、で御座る」
生返事が帰ってきたところをみると、シロはかなり没頭しているようだ。
既に四冊目に入っていた。
新聞コーナーも英語版、中国語版と取り揃えてあるが横島の目当ては、
「おー、これこれ」
某過激で、洒落の聞いた見出しで有名なスポーツ新聞である。
「ほー、球界再編は免れなさそうだな」
と、言葉を漏らしているが、何のことは無い。
見ているページは綺麗なおねーさんのあられもない姿のページである。
一通り見終わってから再度漫画コーナーへと足を運ぶと。
「おーい。シロ何か飲むか?」
流石にコーヒーに一杯は飲む程度の金銭ぐらいはある。
だが、
「れれ?シロいねぇじゃないか?」
更に子供が増えていたがシロがいない。
「なぁ、ここにいた、髪の長いおねーさん知らないか?」
たまたま目のあった女の子に聞いてみると。
「うん。おねーちゃんは漫画読み終わって上にいってみるって」
との返事。
「そっか、探検でもしてるのかな?、ありがとな」
「どーいたしまして、おにーちゃん」
まだオジさんとは言われる年齢で無いのがうらやましい作者である。
二階へと足を運ぶがいない、三階にもいない。
「あいつ、何処までいったんだ?」
更に上は専門書のフロアである。横島も一度だけ探検でいった程度だ。
専門書の階、外国書の階にもいない。
とうとう最上階にあたる古書専門フロアである。
研究者しか行かないであろうフロアであり実際利用者も日に20人いるかどうかであろうか。
「どこまで行ったんだ?あいつ」
逆に人が少ないのが幸いした。本に生える特有のカビのにおいが鼻の突くこの場所に。
「いたいた。・・?何か読んでるみてぇだな」
横島の眉が若干あがるのも当然といえるか。
いたずら心とでも言おうか、そっとシロに近づいて。
ぽんと、肩をを叩いて、
「何読んでるんだ?シロ」
叩かれた方は文字通り飛び上がって。
「うわっ!、せんせー」
慌てて尻尾の陰に今まで持っていた本を隠す。
「別に隠すこともねーじゃねーか。何読んでたんだ?」
「え、あーそので御座るな」
「つってもバレバレだけどな」
びっしり本の詰まった棚には現代人には古文の世界とも言える書物がずらり。
シロの持っていた本の穴の前後には。
「へー。シロ『源氏物語』なんか読んでたのか」
こくこくと、何故か顔を真っ赤にして首を振っている。
「読めるのか?」
興味を持ったわけではないが、源氏物語の一冊を手に取るが。
「うわ、こりゃよめねーわ」
まるでミミズののた打ち回った文字、いや横島にはこれが文字と認識できるだろうか。
現代人とて同様である。
ぺらぺらと捲ると、この本随所に綺麗な挿絵が入っている。
「この絵でも見てたのか?シロ」
だが、今度は首を横に振る仕草。驚くのは横島である。
「読めるのか?」
「日本語で御座るぞ?せんせーも読めるで御座ろう?」
「無茶いうなよ」
「ひらがなで御座るってば、ってせんせー本当に?」
「あたりめーじゃん。多分美神さんや、エミさんだって読めないよ」
こう聞くと逆に驚くのがシロである。
「へー、そうで御座ったか。いや拙者里にいる頃から源氏物語には興味があったで御座る」
そう、シロの里は昔ながらの風習を守る生活である。
教科書なでも、我々にとっては古文の世界である。
「すげぇな。こーゆーのが読めるなんて」
横島も最初はなんとか読んでやろうと挑戦してみたものの。
「駄目だ、全く判らん」
「そうで御座るか、でも源氏物語なら現代訳もあるで御座ろうが?」
「かもしれねーけどな。興味ねぇよ、で、シロは里で少しは読んでたの?」
すると。
「さ、里で源氏物語なんか読めないでござるよぉー」
そう否定されてしまった。
「あー、そうだな。だからここで読んでるのか。でさ、シロ」
「何で御座るかぁ?」
「源氏物語ってどーゆー内容なの?」
ここにきてシロがきょとんと目を丸くしてしまった。
「まったく、知らないで御座るのか?」
「あぁ、ここにあるのはな。古文って世界だよ、今の人間にとっては」
「じゃー、まったく内容はしらぬので御座るな?」
ここまで念を入れられると流石に頭にやや血が昇る。
「だからいってんじゃん、しらねーって」
「そ、そうで御座るか」
ほっとした様子のシロを見た横島である。その仕草で軽い怒りも収まってしまった。
「ま、いいよ」
源氏物語は、やや屈折した恋物語である。中にはきわどい描写だってあるのだ。
あまり健全ではない内容ともいえる。
つまりは。
「ほっ、えっちな小説を読んでいるとは気が付かれずに住んだで御座る」
なのである。あとは話題を変えるだけだ。
「あ、そういえば、古文って何で御座るか?」
「古文か?授業の一つでな、昔の文章の一部なんかを現代文にしたりする事さ」
シロなら百点取れそうな勉強だな、と付け足している。
「そうで御座るか。じゃせんせーも学校で何か読んでるので御座るか?」
横島、少し考え込んで。
「そうそう。思い出した、今は『平家物語』だ」
すると。
「なんと!平家物語で御座るか!」
何故か急に食らい付いてきた。
どうやらシロの学力は思っていた以上に高いのか。
珍しい事を例えで『槍が降る』というが。
偶然とはいえ、朝は蒼一色であった空が急に雨雲が東京上空を覆っていた。


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