椎名作品二次創作小説投稿広場


図書館にて

二人乗りで向かった先は。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:04/ 9/ 3

その年は観測史上歴史的な猛暑に見舞われていた。
夏を喜ぶはずの虫ですら参ったとうだ。
「まだ午前中だってのにアチいな」
クーラーの無い横島の自宅、朝早いうちならまだ外にいた方がましといったところか。
「チャリの整備も終わったし、そろそろ来るかな?」
今日はシロの散歩を約束した日である。
命がけの散歩になるのはもう覚悟を決めている。ならせめて涼をとりつつ整備をと、
言う所か。
「そろそろ来るころだが」
アスファルトが熱で景色がゆれている、其処に人影が見えてきた。
シロがこちらに向かってはきているのだが。
「せんせー、おはよーでござるぅー」
「シロか?どうしたんだよ、元気ないな」
やや前傾姿勢でだらんと両手を垂らした状態で、暑さを調節するためか、舌を出している。
「うぅ、そうで御座る。この酷暑には流石に参ったで御座る」
なら、来なければいいのに、と思うところだが、そこは女の子である、としておこう。
「散歩は、キャンセルで御座るよぉ」
力なく日陰に座り込むが、体感温度はあまり変わらない。
せめて風でも吹けばであるが、風どころか、今の所は遠くに入道雲が一つ見えるだけだ。
「だな。確かに暑いよ。ここ最近」
横島もシロの隣に座り込んだ。
「せんせーはちゃんと眠れてるで御座るかぁ?」
「なんとかな、シロはどうなんだ?」
「拙者は駄目で御座る」
「クーラーついてるだろ?」
「屋根裏のは古いタイプで御座るゆえ、温度調節が難しくて付けられないで御座る」
隣のタマモはすやすやと寝息をたててられるようだ。
温泉地帯の出身ゆえか、暑さにはかなりの耐性があるようだ。
ひかえ、シロは山奥の出身、どちらかといえば寒さの方が強い。
「クーラー付けると、タマモが『クーラー病になるじゃない!』って怒るで御座る」
「そうか、最近の妖怪も大変なんだな」
「で御座るぅ、ふぅ」
通例なら、
隣に横島がいるとあれば、体をくっつけたりしようものだが、この暑さだ。
何も触れたくないと思うのは当然である。
「せめて、雨でも降ってくれればいいので御座るがなぁ」
「だな。天気予報だと、今日は大雨の可能性があるっていってたけど」
「間違いで御座ろう?遠くに雲があるだけで御座るぞ」
「・・・・だな」
まるで絵の具を塗りたくったほどの蒼が広がっているだけだ。
「せんせー、拙者どっかクーラーの効いたと所に行きたいで御座るぅ」
それは横島も賛成だが、
「だけどな。よーく考えろよシロ、俺たちの有り金で何処いける?」
喫茶店なんぞ贅沢は出来ない。ゲームセンターは二人ともあまり好きでない。
あの特有の騒音が苦手なのである。
「学校も閉まってるしな」
「レストランも当然駄目で御座るしなぁ」
はぁ、と二人とも今の身を嘆いたため息が出た。
太陽の活動が更に活発化する。
「せんせー」
「あー、なんだシロ?」
「このままいても暑いだけで御座る、コンビニで立ち読みに行くのはどうで御座ろうか?」
「立ち読みかぁ・・ん、待てよ、シロそれだ!」
何かを思い出したのか、ぽんと手をたたいた横島。
「どうしたで御座るかー、せんせー」
力なく受け答えるシロ。
「おう、いいところを思い出した、ついてこいよ、シロ」
「涼しいところで御座るか?」
「おぅ、クーラーのがんがん効いた場所だぜ」
そうして、ひらりと自転車にのって漕ごうとする。
何時もなら喜んで後ろから走るシロであるが、
「せんせー、後ろにのっていいで御座るか?」
「え?あぁ、いいぜ」
成る程、この暑さで走るのは自殺行為だ。
「乗れるか?そう、そっちに体重かけて」
「け、結構難しいモンで御座るな」
「こらっ、片方に体重かけるな」
やや手間取ってはいるが、シロの運動神経は抜群である、数秒で上手に後ろに乗れる。
「しゃ、いくぞ」
スピードとは、
自分で出す分には大丈夫なのだが、人任せとなると結構怖いものである。
「せ、せんせー、速度を落としてくだされー」
「駄目駄目、これ以上落とすと漕げねぇよ」
「うぎゃー!」
「大声出すな!でももっとしがみ付いていいぞ」
「・・・せんせいのスケベ」
「うっせ!」
と、にやけた顔をシロに見せると、
「せんせー、前見てくだされーー!!」
背中越しにぎゅっと、横島の胴をつかんだ。
「判った判った。すぐつくからな、もう少しだ。
「あそこを曲がった先だ」
「ひっ!」
右折、左折時、重心が偏るたびに可愛い悲鳴が漏れていた。
そして、速度が遅くなり。
「さ、ついたぞ、ここだ」
二人の目の前にあるのは、5階建ての古いビル。
「よーやくついたで御座るか。えっとここは・・としょかん、で御座るか?」
「そ!ここならお金はかからないし、クーラーも効いてるからな」
「成る程!」
ぽんと手を叩いたシロであった。
「あん?ちょっと雲が多くなってきたな」
何気なしに空をみた横島が気がついた。
「雨になったりしてな」
「降って欲しいで御座るよ」
そんな会話をしつつ建物に入っていた。
横島はこれでカンは良い。
大きな雲が東京上空へめがけてやってきたいたのだ。


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