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横島異説冒険奇譚

脱出


投稿者名:touka
投稿日時:04/ 9/ 2

「はぁ・・・・・」
 ポカポカと暖かい陽光が降り注ぐテラスで横島たち五人は気だるげに遅い昼食を摂っていた。
「ここに入って何日目だっけ?」
「ちょうど今日で二ヶ月ですね」
 何気ない横島の質問にも律儀に答えるジーク。
その手に持つ大皿には四季折々の果物がすべて盛り付けられている。
「二ヶ月って言ったら確か、向こうじゃまだ一秒も経ってないんだよな。」
 もそもそとグリーンピースを皿の端に除けつつ雪之丞は言った。
グリーンピースは嫌いらしい。
 前回の経験があるため二ヶ月でも六ヶ月でもそれほど焦りはしないが流石にずっとここにいるのは辛過ぎる。
「ワッシらは初体験じゃからわからんのじゃがホントに時間の流れが違うんですかイノー?」
「まぁ、こればっかりは経験してみないとわかんないぜ。なぁ、横島」
「ああ、そやなー・・・・はぁ・・・・・・」
 ダルそうに雪之丞に合いの手を入れるとごろりと横になり、雲ひとつ無い空に目を向ける。
「どうしたんですか横島さん、食べてすぐ寝ると牛になりますよ?」
 おまえイタリア人なのに良く知ってるな、と横島は苦笑する。
ここに着たばかりのときは何かと奇行、発言が目立ったピートだが二ヶ月共同生活を送るうちに落ち着いたらしい。
 再燃しない事を切に祈る横島である。
「なんかやる気がないんだよなぁ・・・・」
誰ともなしに呟く横島。
その発言にすかさず雪之丞は食って掛かる。
「どうしたんだよ横島?」
「どうしたかだと!?雪之丞お前つらくないのか!?
もう二ヶ月も女体を拝んでないんだぞ!!
 ああっ!!チチ!!シリ!!フトモモ!!
く、苦しい!!ほ、発作が・・・持病の癪があああああ!!」
  ドッタンバッタンのた打ち回る横島にみんなからの痛い視線が降り注ぐ中、一人の少女が彼の隣に立つ。
「なんだそんなのすぐ解決でちゅよ。ここに立派なれでぃーがいるじゃありまちぇんか」
 そう言ったのは際どいラインでスカートを摘むパピリオ。
横島の転がる位置からではギリギリだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お、俺はノーマルだぁ!!
ああっ!!でもちょっぴり疼くこの心に刺さる楔はナニ!?
違うっ!!俺は断じて○リコンでは無いっ!!
でもっ!!ああっ、この角度からでは見えてしま・・鎮まれ!!鎮まれ息子よ!!
ああもうナニが現実で何処までが夢なのかわからない!!
それはつまりあいつが俺で俺があいつで・・・・・」
 全部現実ですよ、と流石のピートもツッコム。
より激しくブレイクダンスもどきを踊りながら器用に皿を股間に打ちつける横島を視界に入れないように雪之丞は話を仕切りなおした。
「ところでよ、思ったんだが今のままじゃあここから出るのは無理なんじゃねぇのか?」
 箸を加えたまま唐突に語りだす雪之丞。
その横ではピートが舐り箸は行儀悪いですよと諌めている。本当にジャパナイズされたイタリア人である。
「今のままってどういうことジャー雪之丞さん」
「だからよ。おまえら霊力放出するときどんな風にしてる?」
「どうってこう・・・・タイミングを合わせて全力放出ですが・・・・」
「ワッシも同じジャー」
「えっ!?」
 当たり前といった風に言う二人にジークは驚愕と呆れの混じった声を上げる。
「皆さん今までただ霊力を垂れ流してただけなんですか!?」
「やっぱな。一緒にやってて思ったんだがジーク一人だけ霊力、いやこの場合は魔力か、そいつの膨れ方が半端じゃないんだ。で、何かあるのかと思って考えてたんだが・・・・・
ジーク、お前魔力をどんな風にして放出してるんだ?」
 三白眼で急にまじめな事を言い出した雪之丞に横島たち三人は慌てて彼の額に手をやった。
「だぁ!!熱はねぇっつうの!!」
 やはり弓さんに会ってないから・・・・
 禁断症状ですかいノー・・・・
 グリーンピースの所為じゃないか?・・・・
ひそひそと額をくっつけあって相談する三人。
「てめぇら・・・・・・まぁ、いいや。
それでジーク。どうなんだよ?」
「えっとですね。一旦魔力を引き出して体の中、霊的中枢回路に沿ってぐるぐると回すんです。
で、徐々に出力を上げていってその回路に上乗せさせて、タイミングよく放つんです。
これがいわゆるチャクラを回す、っていう奴なんですが・・・・・
知らなかったんですか?」
「全然」
「ワッシも」
「僕も」
「聞いたことならあるがな」
 師匠が師匠な横島、タイガー、元々モグリの雪之丞はともかく何故ピートまでもが霊的中枢回路についての操作を知らないのか?
それは偏に彼の師匠、唐巣神父の法脈にあった。
 元来、己が霊力ではなく、大地に溢れる精霊の力を借りて除霊を行うキリスト教は自己の霊力を鍛えるよりも敬虔な信仰を蓄える事に主眼を置いている。
 異端と破門されても信仰厚い神父が業界でも上位の実力を持つのはこのためである。
おのずとピートの修行も信仰心を養う事が多くなる。
 霊力操作が下手なのは仕方のない事であった。
「僕からすれば皆さんよくそれでやってこれましたね・・・・」
 驚き半分呆れ半分といった感じでつぶやくジーク。
自己の魔力が全てである彼ら魔族にとって霊的中枢回路に関する所作は基本中の基本であった。
 元々の魔力の量が成長しない彼らにとっていかに効率よく魔力を引き出すかは死活問題である
「まぁ、俺はほら煩悩で生きてるから。それにやってきたといってもタイガーなんかGS試験落ちてるし」
「うわああああん!!それは言わない約束ジャー横島さん!!!」
「僕は神父のお手伝いばかりでしたし・・・・」
「そこんとこはおめぇ気合だよ!!」
 馬鹿なのかすごいのか判断に苦しむなー。
ジークは口にこそ出さないものの小さくため息をついた。
もしかしたら自分はこの二ヶ月間を棒に振っていたのかもしれない。
そんな思いさえ去来する。
「はぁ・・・・とりあえず師匠殿の結界を破る事は当分置いといて各自のチャクラの廻し方について暫く練習しましょう」
「それより俺は二ヶ月経つのに未だ『アレ』をクリアできない猿も猿だと思うんだが・・・・」
 そう言ってコントローラーを足蹴にしている猿神を指差す横島の意見は丁寧に黙殺された。
「ふ〜ん・・・・ま、そんな事しても無駄でちゅ。アタチとちてはここの暮らしはのんびりしてて極楽でちゅ!!修行もしなくていいし、口煩い小竜姫もいまちぇんしね」
 シャクシャクと林檎を食みながら気持ちよさそうにシェスタを楽しむパピリオ。
この空間を一番満喫しているのは彼女といっていいだろう。


 そして、一週間後。
「へへ、やってやるぜ・・・・・」
「準備万端です」
「ワッシもやるケンノー!!」
「うぇーい・・・・」
「・・・・・」
 ヤル気満々の雪之丞たち三人とまったくやる気の無い横島。
そして訝しげな表情で彼を見つめるジークたちはケッチャコ・・・・決着をつけるべく猿神の部屋の前に集結していた。
 別に場所なんてどこでもいいんだけどね。
「じゃあ、各自チャクラに霊力を流し込んでください!!タイミングは・・・・そうですね、最近影が薄い横島さんお願いします!!」
「うっさいわジーク!!俺かて好きで影が薄いんとちゃうど!!設定の・・・設定のつごへぶっ!!」
 台詞を最後まで言う事ができずジークの裏拳で地に沈む横島。
「黙ってください!!○禁ワードは世界の修正力が作用します!!」
「コスモプロセッサかよ!?」
「いいから早くしろこっちの準備はそろそろできるんだぞ!!」
「わぁ〜ったよ!!・・・・・・3・・・2・・・・1・・・今だ!!」
「うぉおおおおおおおお!!」
「ワッシは本物の虎になるんジャー!!」
「主よ!!」
「まだ見ぬねーちゃああああん!!!」
 口にする言葉に差異はあれど、五人の気持ち、こっからでてぇ〜〜、という思いが一つになった時純粋な力の塊となった彼らの霊力、魔力が圧縮、爆発する。
 ミシリ、とどこかで軋む音がした。



 凝縮された霊力が暴風を巻き起こす。
一旦歪みが生じてからはあとは加速度的に軋み、歪み、亀裂は増え、そこからは現実世界の情景が漏れ見える。
『やれやれ、随分と時間がかかったワイ』
「その声は!!」
「斉天大聖老師!?」
 背後から聞こえた声に驚いて振り向くとそこには今までの狂気ではなく理知的な光を瞳にたたえた猿神、斉天大聖が鎮座していた。
『集中せい!!今おぬしらはこの空間において過負荷がかけられた状態でチャクラを廻しておる。油断すると霊力を根こそぎ持っていかれるぞ!!』
 確かに集中を乱したと単にまるで粘性の液体の中にいるかのような感触が彼らを襲った。
しかし、そこは外に出たいの一心で歯を食いしばり体勢を立て直す。
 全員の気力、霊力がそこを尽きようとしたそのとき、バツン!!とまるでテレビのスイッチを切ったような音と共に彼らは現実へと帰っていた。
「あら、今回は随分と早かったんですね」
 暢気に微笑む小竜姫を視界の端に捉えつつ横島たちの意識はそこで途絶えた。


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