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横島異説冒険奇譚


投稿者名:touka
投稿日時:04/ 8/29

「妙神山で修行?」
「そうなんだ美神の旦那。俺は今日からこいつと一緒に妙神山に行ってくる」
「無理っすよね美神さん」
 三者三様。
翌日横島と雪之丞は事の次第を伝えるために事務所へとやってきた。
ついてすぐに雪之丞は美神へと直談判し冒頭の場面へと相成ったのである。
「いいわよ」
「へ?いいのか?」
 あっさりと下された許可に思わず雪之丞も聞き返してしまう。
だが、行った本人の美神は平然と行ってきていいというもう一度言った。
「大体あんな事件があった後じゃどの妖怪も悪さなんてしないわよ。
事実、ここ三ヶ月の除霊件数なんてホント微々たるもんだし。
 ま、修行して使えるようになるならうちとしても便利だしいいわよ」
「ほ、ホントにいいんですか美神さん?」
「本当よ。ただし、修行期間中の給料は支給されないからね。そこんとこよろしく」
「結局あんた金払いたくないだけかい!?」
 美神らしい許可の理由に思わず突っ込んでしまう雪之丞と横島。
「あたりまえでしょうが!ただでさえ収入が減ってるのにあんたの給料払わなきゃいけないしおまけに無料飯たかりにくるし!!」
「し、しぃましぇん・・・・」
横島は美神の迫力に気おされ、思わず謝る横島。すこし、いやかなり情けない。
「ま、まぁ。旦那も抑えてくれよ。じゃ、こいつ連れてっていいんだな?」
 事がすんなりと運んだ雪之丞はホクホク顔で荷物を背負う。
じゃ、先行ってるぜと事務所を出て行ってしまう。
「いいわよ。横島、使えるようになるまで帰ってくるんじゃないわよ!!」
「そんなーーー!俺めっちゃ使えるやないですかぁ!!アシュタロスとの時も俺がいたから勝てたようなもんやないかーー!ちくしょーーっ!!
せめてもの礼にそのチチ揉ませてーーーーーっ!!」
「ぐだぐだ言ってないでさっさと逝って来いバカヨコシマぁ!!」
 ああっ!という悲鳴と共に再び窓ガラスをぶち破って落下していく横島。
「お、もう下に来てたのか。なんだお前も行く気満々だな」
「おまえの目は腐ってるのか?早いとこ起こしてくれ。頭がコンクリに埋まって抜けだせんのだ」
 よいしょとコンクリから抜け出させてもらうと、横島はぱぱっと埃を払い立ち上がった。
目指すは妙神山。
 無理やりとはいえ一度行くと決めたからには絶対強くなる。
内なる決意を秘めて横島は一歩を踏み出し、

「ワッシも連れてって欲しいケンノー!!」

 横からの衝撃で今度はブロック塀にめり込んだ。



「すまんですジャー横島さん。」
 目の前で巨躯を矮小に縮めながら謝る男、タイガー寅吉に横島はあふれ出る殺意を隠そうともせず言った。
「で、一体どうしてお前は俺らの話を知ってるんだ?あん?」
「そ、それはですノー。実はワッシ横島さんたちがどこに行くのか知らないんですケン。」
「殴るのと蹴るの、選ばせてやるぞ?」
「お、落ち着いてくださいノー横島さん。実はワッシは・・・除霊中に失敗してエミしゃんに追い出されたんですケー。しばらく寝床に困っとるんジャー。それで」
「目の前に俺らがどっか行こうとしてたんで着いていきたいとこういうわけだなタイガー」
 未だに殺気を隠そうとしない横島の変わりに雪之丞が話をまとめる。
その顔はいつにない笑顔だ。
(こいつなんか企んでやがるな)
 横島はいつにない雪之丞の笑顔に警戒を強める。
「なぁ、タイガー。実は俺らは妙神山に行くんだが一緒にどうだ?三人で一緒にひとつデカイ山当てようぜ」
 キラリと光る八重歯が爽やかに、雪之丞はタイガーの肩に手を置いた。
魂胆見え見えである。
 が、それがわからないタイガーはエミに冷たくされたところに救いの手が差し伸べられ、
「伊達さん・・・・ワッシは、ワッシはぁあああ!!」
「ええい!!抱きつくなぁ!!とにかく一緒に妙神山に行くぞ!!」
「わかりましたケン」
 雪之丞の計画に加担した。
「そう言うのは四人でやるものじゃないんですか?」
 盛り上がるタイガーと雪之丞を冷めた目で見る横島の背後から透き通った声が響く。
驚いて振り向いたその先には、イタリアのヴァンパイア・ハーフ、ピエトロ・ブラドーが立っていた。
その姿は学生服に鞄と生活臭あふれている。
「ピート!?」
「おはようございます横島さん。雪之丞、その話僕も乗せてもらえないか?」
 突然現れ参加を申し出たピートに流石の雪之丞も対応しきれない。
ちょっとテンパリ気味の雪之丞に変わって今度は横島が場を仕切った。
「登場がいきなりすぎるぞピート。っつーかいつからいたんだ?」
「やだなぁ、横島さん。ここは僕の通学路ですよ。それに往来のど真ん中であんな大声出してたら誰だって気づきますよ。」
 そう言ってピートは朗らかに笑った。
近くを通った女学生がそれをみて頬を赤く染める。
横島はそれを視界の端で捕らえてしまい。歯を食いしばりながらもなんとか声を出した。
「そ、そうか・・・・確かにこんな道のど真ん中で騒いでりゃ気づくよな。
でもなピート、唐巣神父の教会は学校挟んで反対側だぞ?」

 沈黙。

「や、やだなぁ横島さん。そんな事どうでもいいじゃないですか。ただあなたの傍に僕がいる。それでいいじゃないですか。ね?」
「いや、言ってる意味がまったくわからん。っていうかさり気に寄ってくるな」
「そ、そういう趣味だったのかピート・・・・」
 そういえば浮いた噂が無いなと雪之丞少し距離をとる。対象は横島とはいえなにか感じ取ったのだろう。
「そうだったんですカイノー・・・」
 ワッシは魔里しゃん一筋ですケンとタイガーはわけのわからない事を言った。
「な、何言ってるんだよ二人とも、やだなー。ねぇ、横島さん」
「そ、そうだよな・・・は、ははは・・・」
「ははははは・・・」
 すわカミングアウトか!?という事態が訪れるもピートが無理やり話を納めたのでとりあえず納得する三人。
 あたりには乾いた笑い声だけが木霊し、表面上は和やかであったが横島を含め三人は新たなピートの認識に動揺を隠しきれなかった。


「ところでなんでピートは妙神山に行きたいんだ?」
 ガタンゴトンと揺れる電車の中、ローカル線特有のボックス席で横島はなんとはなしに聞いてみた。
なかなかにチャレンジャーである。
「それがですね、最近除霊件数が減ってるじゃないですか。必然的に教会の収入も減ってるんです。
一応この前の事件後にGS協会から報奨金のようなものが出たのでしばらくの間は平気なんですが、流石に二人分も賄うとなると十分とはいえないんです。
それで、しばらくの間僕は外に出て神父の負担を減らそうと思って・・・」
 なんだかどっかで聞いたような話だ。
雪之丞はミカンを器用にむきながらそう思った。
 貧乏。
横島、雪之丞、そしてタイガーにとっても関係の無い話ではない。
四人は無言で拳をぶつけ合い新たに結束を固めるのであった。
「伊達さんの事情は聞きましたケン。でもなんで横島さんは妙神山に行くんですカイノー?」
 売店で買ったミカンもそこを尽きた頃、だがまだまだ妙神山のある駅には程遠い。
タイガーはふと、気になった事を質問してみた。
「ああ、それはな。俺、霊力が落ちてるんだ。」


 話は前日の夜へと遡る。
「なんで俺が妙神山に行かなきゃなんないんだよ。そりゃ、パピリオや小竜姫様には会いたいけど」
「いや、お前はそれを抜きにしても行きたい筈だ。気づいてるんだろお前も、自分の霊力が落ちてるって事に」
 にやりと雪之丞は横島を指差した。
横島はその指摘に顔を歪めるとああそうだよ、と頷く。
「確かに、俺の霊力はアシュタロスと戦ったときに比べれば落ちてるよ。
原因はわかんないんだ。文殊も最近じゃ週に二三個作れればいい方だしな。」
 そういうと横島はハンズ・オブ・グローリーを右掌に具現化する。
だがそれも弱弱しく、頼りない。
「除霊中も集中しないと維持できないんだ。煩悩が足りないのかと思って美神さんの覗きも増やしたけど増えたのは生傷だけだったし・・・・・」
「ちょうどいいじゃねぇか。妙神山でまたあの修行して鍛えなおそうぜ。
俺も魔装術じゃ一対多数の時にどうしても不利になっちまうんでな。なにか新しい技でも編み出そうと思ってたんだ。」
 結局、その後えんえんと続く説得に眠気を優先させた横島は首を縦に振ってしまったのだ。
そして今に至る。
 事情を聞いたタイガーとピートも横島の変調について考えてくれたが、結局めぼしい案も出せずに電車は目的の駅へと到着した。


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