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横島異説冒険奇譚

日常


投稿者名:touka
投稿日時:04/ 8/29

 アシュタロスとの戦いは人々に強烈な傷跡と、それと同じくらいのGSへの関心をもたらした。
連日に渡るマスコミによる過熱報道。それは今まではあまり知られることのなかった心霊事件が数多く取り上げられ、また訳知り顔の識者がだらだらと解説を述べた。
日本GS業界でも実力、知識共に足る美神美知恵、そして唐巣神父の弟子コンビは連日の放送にゲストとして出演、この間違った識者達と熱い答弁を繰り返し、GSはては妖怪怪異魑魅魍魎天使悪魔などの遍く心霊現象についての誤解を解くのに必死である。
 こうして世間が平安以来再び心霊業界に注目しだした頃、今回の顛末に最も貢献した影の功労者。そして、もっとも傷ついた男、横島忠夫は、

「はぁ・・・・」

 呆けていた。
 
 夕焼け小焼けで日が暮れる。
俗に言う逢魔が時である。
事務所の窓から除く赤い夕日を横島は何をするでもなくただぼうっと見ていた。
そんな様子を黙って見つめる美神。

(どうしたのかしら横島のやつ。ここんところずっとあの調子だわ)
美神は思う。
 夕焼け、横島という男の中で閃光のように瞬き、そして強烈な残像を残した女性を連想させる。
それは小さな痛みとなって彼女の胸を襲う。
言いようのない、甘く、切ない痛み。
 美神は手元の書類雑務を進めるのを忘れ、知らぬうちに胸に手をやっていた。そうすれば痛みが引くとでもいうように。
 同じ頃、物憂げな瞳で横島を見ている女性がもう一人いた。
(横島さん、やっぱりルシオラさんのこと・・・・)
 おキヌは憂う。
彼の悲しみを癒せぬ自分の不甲斐無さと、またここまでして彼に想われる彼女への嫉妬。
艶のある黒髪が顔にかかるのも忘れ、彼女はじっと横島を見続けた。
「先生、何見てるでござる?」
 そんな横島に気軽に話しかける少女、人狼族の娘であるシロは師と仰ぐ横島の見慣れぬ様相に声をかけてきた。
「ああ、シロか。ちょっと、夕日を、な」
その言葉は胸をえぐる。
 普段の彼に似つかわしくない、落ち着いた優しげな眼差しでシロの頭をくしゃりと撫でる。
「えへへ・・・・先生くすぐったいでござるよ。で、夕日なんて見てなに考えてたでござる?今日の晩御飯はステーキでござるよ!!」
 考えときて食事に直結する弟子に苦笑しながら、横島はそうだなぁと視線を夕焼けにやった。
 ごくり、誰かののどがなる音がした。
何を考えていたのか?
 聞きたくて聞けない。禁忌に触れることを恐れた女性たちがもっとも求めてやまないこと。
それが彼本人の口から聞ける!!
「ああ・・・・・・・・・・・・・・・実はルシオラのことをな。」
「るしおら?でござるか。」
 ずきり、と美神たちの胸に一層痛みが疼いた。
ルシオラ、彼の心を支配する女性の名。それが自分で無い事に彼女らの心は涙を流す。

「ルシオラを・・・・・・・・・・










生んでくれるのはやっぱり美神さんかなぁ!?そうすりゃあのチチ!!シリ!!フトモモ!!
ちょっと貧相だったルシオラもバンッ!!キュッ!!バンッ!!で大満足(俺が!!)
それともそれとも、ここは清楚なおキヌちゃん!?濡れ束の黒髪の艶やかさが大和撫子の魅力!!
眷属の蛍との相性も抜群!!これまた乱れた着物なんか着ちゃったりして・・・・・
いや、ここはやっぱり小竜姫様との禁断の愛の末にっつーのもありかな!!
すらりと伸びる足はミニスカに映える!!頭の角ももしつけばチャームポイント率高し!!
ちょっと今時じゃないけれど、ちょっとずれてるけれどそれもまた魅力!!
ああっ!!たまんねーーーーーーーっ!!
ってことで美神さーん!!目くるめく愛の巣へようこふべらっ!!」

「結局おまえの考えてたことはそれかぁーーーーーーーーー!!」
「ああっ!!なんか初期のノリ?なんか初期のノリーーーーーっ!!」
「死んで来ーーーーい!!」

 ああっ、横島先生っ!!
血みどろで窓から飛んでいく横島をシロは涙と共に見送る。
 先生、不甲斐無い弟子を許してくだされ。
ぐしっと涙を飲んで、師の旅立ちを見送るシロの背中にタマモのバッカじゃないの?という一言があたって跳ねた。




「ったく!あの馬鹿は懲りずに阿呆な事ばっか考えて!すこしはしんぱじゃなくて・・・ゴニョゴニョ・・・仕事とって来いっつーのよ!」
 なぜか赤面しつつもブツブツと文句をつぶやく。
が、内心では未だに自分の身体?に興味を示す横島の反応に安心してもいた。
 書類を再開したその横では縦線を背負ったおキヌが「不潔不潔不潔」とエンドレスリピートしている。
戻ってくるのは時間がかかりそうだ。
いつもどおりの日々、美神除霊事務所は概ね平和だった。



「うう、死んでしまう・・・・・」
その頃、美神によって殴り飛ばされた横島は事務所から少し離れた道路でその眩しくも儚い命の華を散らそうとしていた。
「ああ、ルシオラやっと逢えたね。ん、どうしてそんなに眩しい光を両手に纏ってらっしゃるのですか・・・・?」
 辿り着いた彼岸で再び逢えたのは愛しの君。
彼女は輝く笑顔でこう言った。
「貧乳で悪かったわね!!!」
「ぎゃーーーっ!!撃たないでぇ!!堪忍やぁ、ワイは想った事を正直にぎゃーーーー!!!」

「大丈夫か横島?」
「ぎゃー!スレンダーな君も好きー!・・・・うう・・・なんだ?雪之丞じゃねーか」
 そこには吊目の小柄な男、伊達雪之丞がいつものコートスタイルで立っていた。
「相変わらずタフな男だな横島。それでこそ俺のライバルだ」
「うるせーこのバトルマニア。俺をお前みたいな変態と一緒にするな。で、どうしたんだよこんなところで?」
「ん、いやそれはお前の家で話そう。ちょうどお前に用があったんだ」
「素直に飯をたかりにきたと言え」
「う、うるさい!!いいからいくぞほら」
 コンクリートに咲く一輪の赤い花は小柄な男に摘み取られ去っていく。後にはただ名残である花びら(血)が残されるのみ。


「で、いったい何の用だ?あと言っとくがそれが最後のカップ麺だぞ?」
「なにっ!?もうこれで最後なのか。いや、まぁそれはいいんだが。
 横島、お前一緒に事務所立ち上げないか?」
 ことりと手に持っているカップ麺をちゃぶ台の上に置くと雪之丞は真剣な眼差しで横島を睨みつけた。
「おい、ナルトほっぺたにくっついてるぞ。」
「だぁっ!!はぐらかすんじゃねぇ。勿体無い勿体無い・・・」
「いってる事とやってる事がぜんぜん違うじゃねぇか」
もぐもぐとナルトを食べながら雪之丞は尚も言い募ろうとする。
 だが、横島はそれを手で押しとどめ、飲み込むまで待ってあげる事にした。
「んで、なんで急にそんな事言い出したんだよ?大体お前弓ちゃんちに婿入りするんじゃねぇのかよ?あそこんち弓ちゃん一人娘だろ?」
 横島はめきめきと頭をもたげる殺意を押し殺しながらそう言った。
そうだよな、そういえばコイツ彼女いるのになんでいつもいつも俺んちで飯食ってんだろ?

 殺るか?

 横島の富の偏りに対する殺意を敏感に感じ取った雪之丞は冷や汗を掻きつつ話を続けた。
「そ、そのな・・・・実はこの前・・・」
 先日、弓かおりは雪之丞に親に紹介したいと告げた。
幼くして両親を亡くし、孤独を纏って生きてきた雪之丞はそれが何を意味するかもわからずに弓に押し切られ同意。
 むざむざと自ら罠へと飛び込んだのである。
 そして当日、いやに大きな寺の門を叩いた雪之丞は『へへへ、道場破りか。血が騒ぐぜ』という間違った考えに辿り着く前に、めかし込んだ弓に誘われ奥まった畳敷きの部屋へと通されたのだ。
「そこでな、かおりのやついきなり『私たち結婚します!!』とか言いやがってな。
むこうの親父さんぶちぎれて弓式水晶観音術発動しちゃってな、俺に。
 幸いさ、ほら俺の魔装術と水晶観音って似たようなもんだろ?勝手はわかってるから何とか相手はできたんだよ。
 そしたらかおりの奴、『お父様と互角以上に戦えるというのが条件でしたわね。これでどうです?』って言うんだよ。
 でも親父さん納得できないらしくて『かおりは唯のGS如きにやりやせん!欲しければ一国一城の主にでもなってから来い!!』って言われたんだって聞けよ人の話!!」
「うるせぇ!!誰が人の惚気話タダで聞くんだよ!!聞いて欲しけりゃ金よこせ金!!」
 何のことは無い。恋人の父親に認められたくての事なのだ。
当然ロンリーウルフの横島に共感すべきところなど見つからない。
「大体お前弓ちゃんと結婚するのか?」
「う・・・い、いや!唯俺は馬鹿にされたのが気に食わないだけだ!事務所立ち上げて見返してやるだけだぜ!」
「けっ!」
 はいはいと言ったところだろう。そんな事をすれば結果的に弓と結婚する事になるのだ。
口ではなんと言っても本音では、といったところか。
「わりぃが他を当たってくれ。独立するのも魅力的だがそうなると必然的に美神さんの敵!
考えただけでも見ろ!!こめかみから血が・・・・・」
 言いながらこめかみに引き金を引くジェスチャーをする横島。
聖痕かよと突っ込む雪之丞。
 だが、すぐに当初の目的を思い出し説得にかかる。
「待て!!確かに美神の旦那を敵に回すのはまずい。でも考えてもみろ。こうでもしないとお前一生旦那のところでアルバイトだぞ?」
「それでもお前より稼いどるわ!!大体なんでおめぇ弓ちゃんていうか、か・・・・かのじょぉ!!がいるのに俺んち来て飯たかるんだコラ?あん?」
「そ、それはだな・・」
 どうにも旗色が悪い。
しかしそこは流石元某蛇女の弟子である。すばやく状況を判断すると他方向からのアプローチに打って出た。
「よし!わかった。その話は別としてまだお前に付き合って貰いたい事がある。」
 全然打って出ていない。
「なんだよ?飯ならもうねーぞ。」
「飯じゃない!
実は、妙神山に一緒にいかねぇか?」
「は?」


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